長編 #4944の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「いやっほう〜〜。“大魔界”へようこそ〜〜」 ぱんぱんぱふぱふとにぎやかな音とともに、ぴょこたんと飛びでてきた少女がか わいらしく宣言しました。わたくしは思わず顔がやにさがってしまうのを、自覚し ないわけにはいきませんでした。 「この雑誌は“魔術師(メイガス)”に関する情報をみなさまにお届けする、ヴァー チャル・プレゼンス・マガジンだよ〜。それではまずは、目次をどうぞ!」 ロータス・ワンドと呼ばれる“魔術師”の杖を少女がふりまわすと、花火や紙テ ープがにぎやかに飛び交う背景がぱっと変化して、格子状にしきられた“目次”が にわかにクローズアップ。 ちなみに少女のファッションは水玉をあしらった山高帽に水玉マント、星模様の 上下に水玉の編み上げ靴、といった、目がちかちかしてきそうな派手さです。 「さあきみは、いったいどのページに興味があるのかな〜? 気に入ったページを クリックしよう〜!」 元気よく少女はいいながらぴょんぴょんと飛びはねます。とてもかわいらしいし ぐさでした。わたくしは自分の娘に対するような(娘をもったことはありませんが、 なにしろまだ若いですから)あたたかな気持ちになって、少女の一挙手一投足にみ とれておりました。ことわっておきますが、あくまでも“娘”です。だんじてわた くしはロリコンではありません。 「どうしたの? どのページにいきたいのかな〜? はやく選んでくれないと、あ たし怒ってきみのことぺんぺんぱふぱふしちゃうぞ〜」 いつまでもぽかんとしているばかりのわたくしに業を煮やしたように、仮想現実 内の少女は頬をぷくんとふくらませ、ロータス・ワンドでわたくしをぶつしぐさを してみせました。ぺんぺんぱふぱふされる、というのも悪くないような気もしまし たが、(仮想現実とはいえ)あまり少女を待たせるのも悪いかな、とか思ってわた くしは目次に視線を走らせました。 “驚異! これが魔術師の世界だ”だの“最近の魔術師情報”だの“明日を展く魔 術師インタビュー”だの“最新魔術師ファッションはこれだ!”だの、まったくな んの雑誌なんだかよくわからないキャプションがつぎつぎに目に飛びこんできまし たが、特にこれといった記事は見あたりません。 それでももともと、古物商のがらくたの山にうもれるようにしておかれていたこ のヴァーチャルマガジンを購入したのは、神聖銀河帝国で有名な“魔術師”という 存在に興味があったことよりもむしろ表紙の少女の愛らしさに魅かれた、といった ところが正直なところだったので、特に不満はありません。こうして少女が目の前 でぴょんぴょん飛びはねていてくれるだけで、わたくしの心は愛娘を前にした父親 のごとく、熱、いや、あたたかいものでいっぱいにみたされてしまうからです。あ の、しつこいようですが、あくまで娘を見まもる父親の心境ですから。 ともあれ、いつまでも目次の部分で足踏みしていてもしかたがないので“今が旬 の魔術師必須アイテム”の項に(仮想の)手をのばしてクリックしました。 ぱんぱかぱーん、と少女がかわいらしい肉声をあげるとともに場面ががらりと変 化し、視界周囲に無数の魔術師アイテムが出現。 「それではきみは、どのアイテムに興味があるのかな〜? くわしい情報を知りた いアイテムをクリックするのだあ!」 いって魔術師姿の少女は、何がおかしいのかふふっと声をだして短く笑ったので した。その笑顔と声のかわいらしいこと、もうわたくしは気が変になりそうです。 「んん、じゃ、じゃあ、これですか」 とわたくしは手近にある物体をクリック。 「おお〜〜、さっそく選んだのが、魔術師界でも激レアの、ラシネ・ブランドの占 い水晶! お客さん、お目が高い〜〜。ちゅ」 最後の“ちゅ”というのは、もちろん少女がわたくしに抱きついて頬にそのぷり ぷりしたくちびるをおしつけてきたときの疑音です。仮想現実の世界のできごとと はいえ、触感もある程度はありますし、わたくしはもう有頂天。 「こ、このアイテムは、いったい何ができるんだろう」 それでもひとりごと口調だったのは、むろんこれがあくまでも仮想現実にすぎな い、と自覚していたからですよ。この手の技術が確立して以来あとをたたないとい われる、埋没症候群のひとびとほどは、こういう世界には浸りきれませんからわた くしは。いや、ホントですよ。 ところが少女は、まるでわたくしのひとりごとがきこえたかのようにこう答えた んです。 「よくぞきいてくれました! このラシネ・ブランドの占い水晶はねえ、なんと! 未来が占えちゃうのだあ!」 占えちゃうのだあ、といわれても、もともと占い水晶ってのはそういうものなん じゃないのかな、という感想が浮かばないでもなかったのですが、少女がいかにも うれしげに自慢げにそう宣言すると、何となく「おお、そうか」という感じになっ てしまうものです。 「そ、それじゃこれなんかはどうだろう」 クリックすると、 「わあ。今度はアグリッパ・メンテナンスの“魔法のランプ”! これは超高級品 だよ! なかなかいうことをききたがらない、気むずかしいエレメントでもこれを 使えばたちどころに忠実なきみのしもべ! どう? 魔術師って、とっても楽しそ うだと思わない?」 にこにこと笑いながら少女がききます。 もともと“魔術師”と呼ばれる超越的存在には、すくなからぬ興味がありました。 超能力者などとはまるで別種の存在ですし、たぶんにうさんくささはつきまとって いるものの、帝国圏内では確かにまちがいなくその不思議な実効をひろく認められ ているし、すべての魔術師をたばねているという“魔術師協会(アウグレス)”なる 組織はれっきとした政府公認組織です(もっとも歴史的には、神聖皇帝の帝国統治 にまっこうから対立したこともある反政府的組織であるのも事実なんですが)。種 々のエレメントを使い魔として使役し、たねのないところから火や灯をおこし、水 晶をのぞくだけで的中率の非常に高い未来を予見し、宇宙にひそむさまざまな超越 的存在と共存し、あるいはまっこうから対立することのできる不思議な存在。そん なものが現実にいると考えるだけでも、とても不思議な気分になれるものです。ま して、自分がその魔術師という存在になることができる、となるともう、考えるだ けでもわくわくしてしまいます。 もっとも、魔術師といっても素養が必要で、その素養がない者がなろうとしても なれるわけではない、ともききますし、なによりさまざまな制約が課せられて一般 人が想像するほど自由自在に神秘力をあつかえるわけでもない、という噂ももちろ んきいていましたから、本気で魔術師を目ざそうなどと考えたこともあまりないの ですが。 すると少女は「お?」と目をむき、そのくりくりとした瞳でわたくしを真正面か らのぞきこみながら歯を見せてにっこりと微笑んだのです。 「きみはもしかして、魔術師なんかに簡単になれるわけがない、と考えてるんじゃ ないのかな?」 図星をさされて、わたくしは正直ぎくりとしました。いくらリアルにできている とはいっても、これはあくまで仮想現実。わたくしの考えていることを雑誌内のガ イド役であるヴァーチャルプレゼンスの少女に読まれるなどということがあるわけ がありません。 それでも少女は、そんなわたくしの一瞬の驚愕や不安になど頓着するようすもな く、さきをつづけるのでした。 「ちっちっちっち。それはちがうんだぞう。ホントいうとね、確かに正規のルート で魔術師になるのはむつかしいの。でもね、このあたし、最強魔術師のラティファ ちゃんにかかると、これがとおってもかんたんに、魔術師になれちゃうのだあ」 にこにこと少女は宣言し、わたくしも安心しました。こんな愛くるしい姿をした 少女がぬけぬけと“最強魔術師”を自称するのだから平和なものです。やはり気の せいだったにちがいありません。だから、 「だから魔術師になりたい、と思ったら、あたしに頼めばすぐになれるんだよ? どう? きみは魔術師になって、あたしといっしょに楽しく冒険したいかな〜?」 にっこりと微笑みながら、少女がくりんとした目でわたくしを見つめたときも、 彼女といっしょにすごせるのは悪くないけど、しょせんフィクションのことだから なあ、と呑気に考えていたりもしたわけです。 すると少女はふたたび、ぷう、と頬をかわいらしくふくらませ、 「あたしのいうこと、まーだ信じてないのよね〜? ぷーんだ」 ぷい、とそっぽをむいて見せるのでした。 「う〜ん。それよりほかのページも見てみたいなあ」 と、わたくしのほうもつい本当に少女と話しているような気分になって、そうつ ぶやくと、 「それじゃもいちど、目次のページへカムパ〜ック!」 瞬時に少女はきげんをなおして、元気にそう叫んだのでした。 それからいくつかのページを少女とともにまわり、はつらつとした少女のしぐさ や言動をわたくしは満喫していたのですが、最後に“やっぱり魔術師になりたい! 必見のラティファ魔術師養成講座”なるページにたどりついたときに、ふたたび少 女はこういったのです。 「さあ、ようやくきみもこのページにたどりついたわけだねっ。えらいっ。ぱちぱ ちぱち〜。あたしはきみがここにくるのを一日千秋の思いで待ちわびていたのだぞ う。ところで、このページをのぞいてみたということは、やっぱりきみも魔術師に なりたいって気持ちをとても強く抱いているはず! そうだよね? ってなことで、 実はここにたどりつくまでのあいだに、自動プログラムできみに魔術師の適正があ るかどうか判定していたことをお教えしま〜す」 性格占いみたいなものなのかな、とは思ったものの、かねてより少なからぬ興味 を抱いていた分野であることはまちがいありません。わたくしはこのとき初めて、 少女自身に対するよりも大きな興味を、この記事に見いだしたのでした。 「でね、でね。きみの魔術師適正なんだけどお」 ふむふむとわたくしが身をのりだすと、少女はなんともかわいらしい表情で、い たずらっぽくニ〜っと笑って、 「うふふん、知りたい? う〜ん、どっしよっかな〜。教えてあげよっかな〜。で もお、適正がないからってがっかりされるのも考えものだしい」 「じらさないで、はやく教えてくださいよ」 思わずわたくしも、少女に話しかけてしまいました。すると少女はまるでその声 がきこえでもしたかのように、にっこりと笑ったのです。 「ふむ、しかたない。それじゃあ教えてあげよう。ぱんぱかぱーん。きみの魔術師 適正はあ」 そしてなおもじらすように少女は、口をつぐんでいじわるな笑顔を浮かべながら わたくしを横目で見つめました。 ごくりとのどをならし、わたくしは夢中で言葉のつづきを待ちます。娯楽系の雑 誌の仮想企画とわかっていながら、かなり本気でのめりこんでいました。正直いっ て。 その本気が、いけなかったのかもしれません――ああ、いや、幸いしたのでしょ う。痛い、痛いったら、そんなことは考えていないから耳をひっぱるのはやめてく ださいマイスター。 おほん、ええ、とにかく。 つぎの瞬間、少女はにっこりと晴れやかに笑って両手をひろげ 「おめでとう〜〜〜〜、ぱちぱちぱち」 手をたたくしぐさを始めたのです。 「きみの適正はBプラス! 一流の大魔術師になるにはちょっときついけど、一流 の大魔術師の助手になるには申し分なし! きみこそ理想の助手なのだよ。一流の 大魔術師のわきについてその仕事をサポートすれば、その有名は未来永劫とどろき わたることまちがいなし! よかったね〜、おめでとう〜〜〜〜、ぱちぱちぱち」 ぴょんぴょんと飛びはねながら、いかにもうれしそうに手をぱちぱちと叩くので す。助手クラスときいてはあまりうれしくもないのですが、それでも適正があると いわれ、さらにはかわいらしい少女が本当にうれしそうに祝福してくれるのですか ら、正直申しまして、かなりいい気分になっていました。 生涯最後の幸福感とも知らずに。 ああ、いやいや、わたくしはいまとてつもなく幸福です。幸福ですから、だから その、そうやって使い魔をふところに飛びこませて乳首をひっぱらせるのはやめて くださいってば。痛い痛い痛い。 うっ、はあはあはあ。 いや。 つまり、こういうことです。 そのとき少女は、こう宣言したわけですよ。 「っと、いうことで! きみはめでたくこの! 一流の大魔術師! ラティファち ゃんの助手候補として! 選任されたわけですぅ〜。わーい、ぱちぱちぱち」 はあ、とわたくしはもちろんぽかんとしました。 まさかこんな簡単なことで魔術師になれるわけがない、と思いこんでもいました し。 なんかまるでわたくしと会話しているようにも思えてくるけど、願望の強さから くる錯覚だろうなあ、と。 錯覚じゃありませんでした。 「まーだわかんないの? う〜ん、困ったちゃんですねえ。そんなにぶいことでは、 あたしの助手としてはこれから、とおっても、苦労するかもよ〜」 そういって少女は――にんまりと笑ったのです。 そのときわたくしははじめて、いやな予感を覚えまし――痛い痛い痛い。いや冗 談です。冗談ですってば、マイスター。 ふう。そのつまり。 「あ、あのー。それはいったいどういうことで」 わたくしがそうききますと少女は、 「だーかーらー。きみは望みどおり」望みどおり、という言葉をやけに強調し、 「魔術師として、あたしの助手になる資格を得るための試験を受けることができる ことになったわけ。わかるう?」 ひとさし指をぴょんと立て、わたくしの鼻先につきつけました。 「あ、その、でも」と混乱したわたくしは、なんだかわけのわからないことをつぶ やきました。「魔術師になるには、アウグレスの認可とめんどうな手つづき、それ にきびしい“試練”を受けなければならない、ときいたのですが」 すると少女は得意げに胸をそらして、うふふんと笑ったのでした。
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