長編 #4923の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「え……何のために、そんな嘘」 それも自分から打ち明けて……。不思議がる純子に、相羽は続けた。 「話があるのは本当。――香村に会いたいんだ。つなぎを取ってほしい」 その言葉を聞いて、いささか戸惑いを覚えた純子。運転に割く注意が散漫に なってきたので、自転車を止め、降りた。当然、相羽も同様にする。 「私なんかに頼まなくても、おばさまに」 「だめだよ、無茶言うなよ。仕事に無関係なのに、そんなこと頼めない。香村 と個人的なつながりがあるのは君ぐらいだ」 「そう言われても……香村君と会ってどうする気?」 「話をする」 「そ、それなら、電話でどう? 番号教えるのは問題あるらしいから、私が掛 けて、途中であなたに代わる」 相羽は純子の台詞の途中で首を横に振った。 「直接会って話す方がいいと思う」 「……よっぽど大事なことなのね」 「――うん。大事」 相羽のきっぱりした物言いを耳にして、純子は息をついた。 (何だか知らないけれど、こうなったら結構頑固なところあるのよね、相羽君 てば。仕方ないわ) 純子は右頬をかきつつ、空を見やって考えを巡らせる。 「伝えてはみる。でも、会ってくれるかどうか分かんないよ。忙しい人だから、 いつになるかも見通し立たないし」 「できれば、純子ちゃんが今度あいつと会うときに、着いていきたいな」 「私はかまわないけれど……香村君が怒るかも」 香村の囁くような口調の台詞――付き合ってくれ――が頭の中できれいに再 生される。 (返事を引き延ばしたまま、相羽君を連れて行ったら、間違いなく機嫌悪くす るだろうなぁ) 相羽が理由を聞いてきた。答に窮する。 「純子ちゃんは、香村と会うことをどう考えているの?」 「どうって」 「……好きなのかい?」 相羽の声が低くなったようだった。だが、純子はさして気に留めず、調子を 変えないまま答える。 「え、まあね。ファンとして好きよ。でも、付き合う相手となったら考えてし まうわよね、やっぱり」 言ってから、相羽に微笑を送る。「ね、おかしいでしょ」と言った気持ちの 表れだった。 ところが相羽からの反応が鈍い。いや、言葉による反応が遅いだけで、表情 にははっきりと変化が出ている。片眉を少し上げ、眉間にしわを寄せ、口を開 き掛けていた。 「ど、どうしたの」 「僕はそこまで細かく聞いてないんだけど、そんな答が返るからには、まさか、 香村は君に告白した、とか?」 今度は純子の返事が遅れた。 相羽の勘のよさに驚くと同時に、言い当てられた恥ずかしさが顔に赤い色と なって表れる。 「――あはははっ」 ごまかしたい気持ちと、本当におかしい気持ちが相まって、笑ってしまった。 「やあねっ、ほんと、変なことに鋭いんだから」 「じゃあ、告白されたんだね」 「こ、告白とは違うわよ。あんなアイドルが私なんかに言うはずないでしょ。 ただ単に、付き合ってみてくれないかって聞かれただけ」 ゼンマイを巻きすぎたおもちゃがちょこまか動くのにも似て、一気に喋る純 子。早く終わらせたくてたまらない。 「ひょっとしたら冗談じゃないかな。ええ、きっとそうね。決まってる。香村 君、人をからかうの好きみたいだし」 「分かんないさ」 独り言のような調子で、相羽。見れば、片手で自転車をホールドしたまま、 もう片方の手で顔の下半分を覆っていた。両目は道端の一点を見つめる風に、 軽くにらみを利かせている。 「……相羽君。今日、様子が変だったのは、このことを気にしてたから?」 純子は思い切って尋ねた。自分が質問する側に回ることで恥ずかしさから逃 れられるという理由もないではないが、それ以上に知りたかったのだ、今日の 相羽がほとんど笑わなかったわけを。 相羽は、純子の質問を認識した途端、表情をやわらかくした。細くなりつつ あった目が見開かれ、口は「え?」という形に開かれたまま固まっている。 純子が同じ問い掛けを繰り返すと、相羽は唇を湿し、やっと喋り出した。 「そんな風に見えてたのか。参ったな」 「じゃ、じゃあ、私の気のせいなの?」 自転車のスタンドを立て、両手に拳を作って胸元に引き寄せると、純子は相 羽へ近付いた。 「ううん。気のせいじゃない。でも、原因は香村のこととは関係ない」 「だったら、何? よかったら教えて」 「――ありがとう、心配してくれて。嬉しいよ。ああっ、感動しちまいそう」 相羽は照れた風に笑い、鼻の頭をこすった。いくばくかの逡巡のあと、弱く 首を横に振る。 「だめだ、やっぱり言えない。自分の家のことだから」 「そうなの……分かったわ、我慢する」 きっぱりした口調で言い、唇をぐっと噛む純子。相羽が微笑した。 「――あのさ、純子ちゃん」 「はい?」 「緑星を希望しているって本当なのかな」 「? ええ、そのつもりで頑張ってる」 質問の意図が分からない。首を傾げた純子は髪を手で直した。 「そっか……」 相羽はため息のようにそう言うと、自転車のスタンドを倒した。押し始める 相羽に、純子も着いていく。 「それがどうかしたの。相羽君も同じだよね」 「うん……そうなれればいいんだけど」 相羽は足取りを重くした。純子が追い付いたあとも、遅いままだ。 「何よー。そんなに私の成績じゃ不安?」 怒ったふりをしてみせる純子。相羽の言葉を、純子が合格できるか否かが問 題だという意味に受け取った。 相羽の返事を待たず、続けて言う。 「そりゃあね、あなたよりは下かもしれないけれど、努力してるのよ。お休み もらってから段々調子の波に乗ってきたんだから」 「純子ちゃん。もしもの話」 「もう少しで合格ラインに――え?」 相羽の声の低さに、純子は反応が遅れた。ハンドルを持った状態で首を傾げ、 横に並んだ相羽の顔を覗き込む。 相羽は不意に斜め前方に視線を向けた。空が暗くなり始めている。 「もしも、同じ学校に行けないとしたら、何て思うのかな……」 「どういうこと?」 聞き返す最中に、一つの事柄が閃く。 「あ、まさか、引っ越し? そんな」 対して相羽は緩く首を横に振る。よく見ていないと分からないほど、ささや かな仕種だった。 「もしもの話って言ったろ。原因は考えなくていいからさ」 「なぁんだ」 安心して、本当に「ほっ」と息をつく。落ち着いたところで、答えてみる。 「ん……やっぱり、一緒の学校に行きたい」 想像すると、自然に明るくなれる。 「不思議よね。六年生のとき会ったんだから、まだ四年よ。それなのに、ずっ と一緒だった気がする。今さらいなくなったら、変な感じがしてたまらないわ、 きっと」 「そっか」 相羽が嬉しそうな、困ったような、そんな表情を覗かせたように見えた。 純子は片手を振り上げ、急ぎ付け足す。この場の真面目すぎる空気に、苦手 なものを感じた。 「それに、第一、あんたが近くにいてくれなきゃ、おばさまからの連絡がもら えなくなるもんね! お仕事は効率よくこなさないとっ」 「僕は伝言板ですか」 はしゃいでしまった純子とは対照的に、相羽は冗談を言ったにしては冷静な 口調だ。最前の困った笑顔に比べると、表情も明かりを消してしぼんだ感があ る。 「あの、ご、ごめん、相羽君」 謝るために手を合わせようとするが、自転車が邪魔だ。 きょとんとして見つめ返してきた相羽に、早く真意を伝える。ちょっとども ってしまった。 「今の、冗談。そんなこと、思っていないから。笑わせたくて言ったの。相羽 君がそばにいてくれたら、とっても安心できる」 「……」 「ねえ、怒ったの? 怒ってる? 本当にごめんなさいっ。ちょっと調子に乗 ってしまって」 やや前屈みになって必死な口調になっていた。 相羽の表情が、元に戻る。 「怒ってなんかないよ」 「ほんとに? ごめんね、ふざけた答をして」 「ほんと、ほんと。伝言板だって大事な役目だし」 じわ――っと目が潤む純子。立ち止まった。 「やっぱり気にしてるんだっ」 「ち、違う違う!」 今度は相羽が慌てる番だ。自転車をまたも止めて、次に純子の自転車のスタ ンドを立ててやり、真剣な調子で言う。 「さっきのは、真面目にそう思ったんだ。モデルの仕事、大切だから……分か った?」 「……分かった」 こくりとうなずく純子に、相羽もやっと安堵できた。 純子は両方の目尻を手首の辺りでこすりながら、小さな笑い声を漏らした。 「一緒の高校、行こうね」 「……うん、行きたいね」 純子の希望に相羽はそう答えて、長い息をついた。そして空を仰ぎ見る。と、 相羽の口が丸く開かれる。 「あ」 「どうしたの」 つられて相羽の視線を追いかける。純子にも見えた。 流れ星だ。一杯の流れ星。 (そっか……ペルセウス座流星群) 魅せられ、手を胸の前で組み合わせる。 (勉強に追われて、すっかり忘れてた。星好き失格だわ) 「凄く、飛んでる」 相羽の感嘆に、純子は自然とうなずいた。 「――ようし」 あることを思い付き、両拳を握る。相羽が振り向くのに合わせ、微笑を浮か べた純子。 「お願いしよっ。相羽君とずっと一緒にいられますようにって。これだけ流れ 星が飛び交ってるんだから、絶対に叶えてもらえる」 「……名案だね」 相羽が静かに言った。その眼差しを純子から空へとゆっくり移す。 「僕もお祈りしておこうっと」 そのあとは声には出さず、心の中で唱えるのみ。 ――『そばにいるだけで 39』おわり
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