長編 #4921の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「え? うわ」 唐沢の肩口辺りに命中。さらに弾んで派手に水しぶきが散って、町田にも被 害を及ぼす。二人とも泳ぐのをやめて顔を拭ったり、目をこすったりを始めた。 近くで見ていた勝馬が、「おおー、凄い凄い」と手を叩いて喜んでいた。 「どうだ、見たかっ。あははは」 両腕でガッツポーズをする純子に、井口と富井が近寄ってきた。 「ちょっと、純子。注目浴びちゃったよ。派手に暴れるから」 「暴れるだなんて」 そんなつもりはなかったのだが、周囲を見回すと確かに井口の言う通り、他 のお客――特に男性の視線を集めていると気付いた。 「や、やだ」 こそこそと二人の後ろに隠れるように回るが、それじゃあ間に合わないと分 かるや、今度は肩までプールに沈んだ。 「今さらやだも何もないでしょう」 「そうそう。結構大胆な水着着て、その上、足を振り回しておいて」 富井の言に、お腹を両腕で抱える純子。 今日は学校と違って、赤のセパレートタイプの物を着ている。水泳の授業中 の唐沢の言葉が頭に残っていたせいもあるし、市川を始めとするルークの面々 から、人目にさらしても恥ずかしくない体型を維持するには大胆な水着が効果 てき面と言われたのも、着てみた理由の一つ。 (ま、間違いなく、みんなに見られてるけど、これって、体型維持とは意味が 違うような) ようやく皆の注目から解放され、恥ずかしさも抜けてきた純子。立ち上がる と、相羽と目が合った。 「――いいキックだったね」 相羽の表情は、やはり作り笑いのように見えた。 「え、そ、そうかしら。相羽君に武道教えてもらって、磨きを掛けようかな、 なんて」 冗談めかして言ってみる純子。相羽に笑ってほしかった。 「そうだなあ、さっきのは武道よりもサッカー向きかな」 相羽の返答は、あるいはジョークだったのかもしれない。しかし、言った本 人の目元は緩んでいなかった。 「じゃあ、サッカー教えてもらおうっと」 純子は両手を広げ、ことさら明るく言った。相羽は曖昧な仕種でうなずき、 力なく笑った。 気になってたまらない。純子はせめて本物の笑顔を引き出そうと、プールか ら上がった。 (だいぶ恥ずかしいけれど……) そしてすぐ近くの相羽を見下ろしながら、彼に対し身体前面を斜めに向け、 両手をうなじにあてがう。足も前後させて、ポーズを取った。 「どう、相羽君?」 「……何が」 さすがに面食らったのか、鼻梁にしわを作る相羽。 純子はポーズを解くと、プールサイドに両手両膝をついた。 「私の水着のことよ。これ、覚えてない? 初めてロケに行ったときの」 「ああ」 唸るような声。 (あのときのことを思い出して、笑ってくれないかしら……) 純子の小さな期待は、残念ながら届かなかった。 相羽の表情に大きな変化はなく、淡々とした調子で言葉をつなぐ。 「そう言えば、行ったね。懐かしい。六月で暑かったのを覚えてる」 どこかおざなりな台詞。純子は冗談を言ってみた。 「二年も前のことなのに、水着、まだ充分着られるなんてね。私って、全然成 長してないのかな。あは」 「……そんなことないでしょ」 買い出しの役目を相羽、富井、井口、町田の四人に任せて、純子は唐沢や勝 馬と一緒に席を取った。折りよく、日陰にある八人掛けの席が空いていたので 素早く陣取る。 「ここ、涼しくて気持ちがいいや。おお、風も吹いてくる」 勝馬が言いながら、ビーチパラソルの柄をさする。少々、軋む音がした。 唐沢は空席にタオルを置いてから、腰を落ち着けた。そしてやはりパラソル に触れる。 「日差しがないんだから、これもなくていいのにな」 丸テーブルの真ん中にある傘は、確かに邪魔と言えなくない。 だけど、今の純子にはどうでもいいことだった。 「ねえ……相羽君の様子、おかしくない?」 気に掛かっていた点を、男子二人に尋ねてみる。女子には見えないことでも、 彼らなら分かるかもしれない。 唐沢と勝馬は一瞬口をつぐみ、互いに見合った。改めて純子に向き直ると、 勝馬が口を開く。 「おかしいってどういう風に?」 「今日のプール、あんまり楽しんでないみたい。どこがどうっていうのはない んだけれど……」 テーブルに両腕を置き、語尾を濁す純子。うまく言葉にならない。自分が感 じただけで、本当は何にもないのかもしれないという意識がブレーキを掛ける。 付け加えれば、唐沢達に先入観を与えたくなかったこともある。 「あいつだって人間だぜ」 唐沢がおどけ口調で言った。純子と勝馬の視線を引き付けておいて、言葉を 続ける。 「たとえば、そうだな、陽気でよくギャグを飛ばす男がいるとして、そいつが いっつも笑っているかというと、そんなわけないだろう。真面目に勉強するこ ともあれば、悩むことだってあるさ。単に気分が乗らないのかもしれないし、 眠たいだけってこともある。起き抜けでハイテンションにギャグを連発する方 が、どうかしてる」 「それは分かる。けど」 満足げな唐沢の様子を感じつつも、純子は右頬を指でかいた。 (今日の相羽君は、そういうのとも違う気がするの。本当に悩んで考え込んで いるような) しばらく逡巡した後、自分の感想を伝えることに踏み切った。 「何か悩んでいるとか、言ってなかった?」 「悩んでる……? 知らないな。勝馬は聞いてるか?」 「いいや。そういう深刻な話題が出た記憶自体、まるでないぞ」 二人とも首を振った。 当てが外れた純子は、それでも食い下がる。 「じゃ、じゃあさ、普段に比べて変だなって感じたことは? いつもはこんな 失敗しないのに……っていう風な」 「分かんねえ。無理だよ、涼原さん」 「ん?」 唐沢の少し変わった否定に、目をしばたたかせる純子。唐沢は饒舌になって 言った。 「学校があるときならともかく、夏休みに入ってからじゃあ、無理ってもんだ ぜ。毎日顔合わせてれば、あるときを境に、あれ? おかしいなってな具合に 気付くかもしれない。だけど、休みに入っちまうと結構難しい。俺が相羽と会 うの、今日で……四日振りぐらいだ」 「ちなみに俺は三日振り。でも何にも気付いてません」 言い添えるのは勝馬。 それに対してうんうんと首を縦に振った唐沢は、不意に相好を崩した。 「だいたい、俺が男のことをそんなに気にしてるかっつーの。注意力の九九、 九九パーセントは女の子に向けられてるのだ。女の子が悩んでたら、電光石火 で気が付く自信がある」 そして胸を張ると、周囲を見渡す唐沢。大方、女の子のチェックを始めたの だろう。勝馬が横合いで、「すげー自信。俺も見習いたい」と苦笑している。 純子は呆気に取られて見ていたが、やがてため息をついた。ひとまず相羽の 件をあきらめると、おかしくなってきて、くすくす笑ってしまう。 「何か笑えるようなこと、言ったかな?」 「あら。じゃあ、あのとき、どうして気付いてくれなかったのかしら? って 思って。私、悩んでたんだけどな」 「ええっ? 何と。いつの話?」 純子が冗談ぽく言うと、大げさに反応した唐沢だった。 そこへタイミングよく、相羽達買い出し組が戻って来る。にぎやかさが一気 に倍増した。 「お待たせ。買う順番間違った。かき氷、急いで食べて!」 町田が慌ただしく命令口調で言う。テーブルに置かれたかき氷を見ると確か にその通りで、こんもり盛り上がった氷の小山が崩れかかっている。これでは デザートと食事の順序を入れ替えなければならない。 (相羽君が着いていながら、珍しい失敗……。こういうのも、いつもの相羽君 ならきちんと計算して買うんだと思うんだけど、買い被り過ぎ?) いちごミルクを引き寄せ、ストローを兼ねたスプーンでさっくり崩しながら 思った。きらきら輝く透明の氷が黄色がかった白になり、そこへ赤が混じる。 思考にかまけて、手の動きが止まらない。 「もう、溶けてたのがそんなに気に入らないの」 井口に手の甲を叩かれて、気が付く。かき混ぜるのをやめて、急いでスプー ンを口に運ぶ。 「違う違う。こうして食べるのが好きなの、うん」 「純子ってそうだったっけ?」 「そ、そうよ」 笑ってごまかし、顔を隠すように容器を持ち上げ氷をかき込む。約五秒後、 こめかみが痛くなった。 「あいたた……」 容器を置いて、両手でこめかみを押さえる。 「ほら、急いで食べるから」 「――急いで食べるようにって言ったの、芙美よっ」 顔を伏せがちにしたまま、上目遣いで町田を見やる純子。ただし、台詞の方 は自分の振る舞いの不自然さを隠すための言い訳。 「案外せっかちなんだな。熱い物食べれば治るんじゃないか?」 と、唐沢が純子の前に押しやったのは、焼きそばの入ったパッケージ。紅し ょうがと青のりがたっぷり。 「ありがと。でも、もう少し」 と、純子がこめかみをもむ間に、みんなは食べ始めた。 純子もどうにか元通りになり、かき氷、焼きそばの順で手を着ける。他には 焼きおにぎりが一人一個ずつ。 (……相羽君の食べるスピードが遅い……と感じるのは、思い込み?) どうしても相羽の様子が気になってしまう。 漫然と眺めていれば、相羽の食べっぷりは普段と同じに見えたはず。しかし 実際は、大して口数が多くないにも関わらず、手を止めている時間が長い。た まに食べ物を口に運んでも、ゆっくりで、ときに小さな吐息を交えているため、 少量ずつの咀嚼になっている。 郁江や久仁香は気付いているのかしらと、観察を続ける純子。 が、その必要はなかった。 「聞いて聞いて。親戚のおねえさんがこの前うちに来たとき、いやににっこに こしてんのぉ。何かと思ったら、婚約者を連れて来てさあ」 だの、 「でね、お母さんたらハクのために服を作ってみたんだけど、ハクは全然気に 入らないらしくて」 だの、富井と井口のお喋りが声高に聞こえる。 二人とも自分の話したいことを喋るので精一杯らしくて、相羽の口数の少な さは結果的にむしろ好都合のように見受けられた。 「涼原さん、おにぎり残ってるよ」 勝馬が指差した皿には、焼きおにぎりが一個だけ残っていた。 「あ、ごめんなさい、やっぱりいらないわ。食べ過ぎるとだめだから」 「体重? これぐらい、全然問題ない量だと思うがなあ」 言って、純子のお腹付近をほんの一瞬、見やる勝馬。目線を戻すのが素早く て、かえって目立った。 「私も多分、大丈夫と思うんだけど、念のためにね。誰か食べて」 体重の話が出たせいか、女子はみんな遠慮した。唐沢と勝馬の二人が皿へ手 を伸ばす。 「相羽は?」 「いや。もう入らない」 「ふん。武道家がえらく小食だな」 相羽を置いて、じゃんけんする男子二人。一発で唐沢が勝った。 「あー、ちくしょっ。こういうのに弱いんだよな、自分て」 「んじゃ、いただきまーす……と。うーむ、涼原さんが一口かじったあとなら もっとよかったのだが」 手にしたおにぎりを眺めながら、真顔で言う。 「な、何言い出すのよ、唐沢君!」 純子が顔を赤くして抗議すると、不意に表情を崩した唐沢。 「冗談冗談。――ん、でも、格別にうまい気がする。気のせいかな」 「その通り、気のせい」 早く食えとばかり、テーブルの上の容器を種類別に重ね始めた町田。飲みさ しの缶ジュースだけが残った。 「ところでさあ、あれ観た?」 スペースの空いたテーブル上に両腕を伸ばしながら、井口が皆を見渡した。 純子は聞き返してから、ジュースを口元に運んだ。 「あれって?」 「あれよ、あれ。久住淳のテレビ」 ――つづく
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