長編 #4887の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「おっ。サンキュー。でも仕上がるの、やけに遅かった気がするな」 「悪い悪い。ちょっとしたトラブル」 教室内で、焼き増しした写真のやり取りをしている相羽と唐沢達を遠くから 見つめながら、純子は改めてほっとしていた。 (うまく解決してよかった) 修学旅行の写真の一件は、相羽の母の知り合いを通じて、女性のプロカメラ マンに現像を頼むことができた。結果、問題の最後の一こまは現像されること なく、廃棄処分に。しかも、純子の見ている前で。 (思い出と言えば思い出なのよね。あれもちゃんと現像しておけばよかった、 なんてことになるかしら) 今さらながらそんなことを考えてみた純子だが、すぐに首を横に振った。少 なくとも現時点では、恥ずかしさの方が先に立つ。 「――純子ちゃん?」 呼ばれて顔を上げると、机の前に相羽が立っていた。 「頭痛でもするの? 頭振ったりして」 「ううん、何でもない。あ、写真ね」 「残り全部、君の分だよ」 と、手にした封筒ごとよこしてきた相羽。写真が下の方に固まっているとは いえ、意外と厚みがある。 「あ、ありがとう」 礼を述べながら、中を覗き込む。いつの間に撮ったのだろうと不思議に感じ られるカットが、いくつも垣間見えた。 「焼き増しをお願いしたときも思ったんだけれど、ほんと、こんなところよく 撮れたよね」 純子が摘み出した一葉は、こどもの国でのショット。あの、水を飛ばす遊具 の上で、バランスを崩した純子を相羽が支えているところだ。 「それは確か、勝馬にだったかな。カメラを渡して、適当にシャッター切って くれって頼んでたんだ」 「焼き増ししてもらって言うのも悪いんだけれど、よりによってこんなところ を写されるなんて」 「僕はよかったんだけどな」 「……それはそうでしょうとも」 純子は肩をすくめてみせた。 「人助けして、格好いい場面だもんね」 「……なるほど」 何故か、そんな風に感心する相羽だった。 プールサイドには三年生が揃い始めていた。空気は早くもはしゃぎ声に溢れ、 追いかけっこをして走り回る連中もいる。 (あれ?) 一目見た瞬間、どきりとしてしまった。組み合わせた両手を思わず胸元に引 き寄せ、相手をぼんやり凝視してしまう。 視線の先には、男子が数人。焦点を合わせたのは、その中の一人、相羽だ。 記憶にある相羽の様子と、今目の当たりにしている彼の様子が微妙に違うこ とに気付いた。 上半身裸の相羽を最後に見たのは約一年前になるが、そのときはほっそりし ていて、よく言えばスマート、悪く言うならまだ頼りない感じだった。 それが、今年初めての水泳の授業で見違えた。スマートなのは変わりがない が、全体的にがっしりした。腕に筋肉が付き、たくましくなった。肩幅も広く なったように見える。 (いつの間にか、あんな風になるものなのね……。腕なんか、前は唐沢君の方 が太かったのに) テニスをやってきたせいか、唐沢も腕のたくましさでは引けを取らない。し かし、全身を見れば相羽の方がより鍛え込んだ印象を醸し出している。 「――ん?」 視線を感じたのか、相羽が会話を途絶えさせた。 「どうかした?」 「え?」 目の前まで来ていた相羽達男子に、純子は目をぱちくりさせた。 「さっきからずっと見ていたような」 「あ、あはは。つい、見取れてしまって」 保健の授業で習ったことが頭をかすめる。どこか調子に乗っていたせいもあ った。その場の勢いで、相羽の胸板に手の平で触れた。 「――凄い凄い! いかにも頼もしい感じがしてる」 「涼原さん、あの……」 相羽は明らかに反応に困っていた。口は動くが、身体は固まったようになっ ている。その内、隣の唐沢がたまらなくなった風に半歩踏み出した。そして茶 化した口調で純子に言う。 「いきなり触ってくるとは、こいつのこの身体によほど見惚れたな、お主?」 「あ」 純子の手がさっと引かれた。ようやく呪縛が解けた相羽。ただ、気の利いた 台詞は出て来なかった。 「びっくりした……」 「あ、あの、こんなことするつもりはなかったのよっ。物の弾みというか」 純子は熱っぽくなるほっぺたを両手で押さえ、拭った。そのまま顎の先辺り で両手の指先だけを合わせて、もじもじ。顔の向きは、見る間に下へ。プール サイドのコンクリートばかりが視界に入ってきた。 唐沢がまた口を挟む。 「すっずはらさんはひょっとして、筋肉むきむきが好みとか?」 「い、いいえっ」 顔を起こして左右に激しく振った。 恥ずかしさからまだ表情を赤くしているのは自分でも分かっていた。しかし、 唐沢の笑うさまを見て気分がほぐれてきた。 「そうか。なら、俺程度でもOKかな」 と、右腕に力こぶを作る唐沢。さらに言葉を重ねた。 「相羽のは武道系の付き方だよな」 「あ? ああ、そうだよ」 我を取り戻したように、相羽の物腰は途切れ途切れなところがあった。 「引き込みの力、着けようと思って、少しウェイトトレーニングめいたことや ってるからな」 「俺らの年齢で無理してたくさんの筋肉付けちまうと、色々まずいこともある んじゃないか?」 「もちろんそれは言われてるから、必要最小限にとどめてる」 「それがいい。筋肉の塊は涼原さんも好みじゃないと言ったことだし」 横目で見やってくる唐沢に、純子は再び顔を伏せがちにした。 (何でこんな真似しちゃったんだろ! ――でも、やっぱり男の子って感じ。 見る度に変化してる……女子もかしら? 自分では分からないけれど……) 純子がそんなことを考える間に、眼前の相羽はやっと普段のペースになった。 「そうだな。これだけ腕力あれば、遭難しても楽々助けられるだろ」 聞いた瞬間は理解できずにいた純子だが、はたと気付き、相羽を指差す。 「それって……林間学校のとき」 「正解。覚えてるもんだね」 相羽は嬉しそうに頬を緩めた。 「当ったり前でしょ。あんな経験、忘れたくても忘れられないわ」 舌の回転が速くなったのは、恥ずかしさをごまかすため。今し方の自分の振 る舞いだけで赤面していたのに、一年前の思い出が重なって、内心、焦りが頂 点に達していた。 が、それも限界が来そう。切り上げなければ。 「じゃ、じゃあね、そういうことで」 言い置いて、純子はそそくさと場を離れた。 難関をくぐり抜けたと思って一安心するのも束の間、授業が始まった後、自 由時間になってから富井達に捕まる。 「ねえねえ、始まる前、相羽君達と何してたの」 水の揺れに合わせてふわふわと片足立ちしながら、富井が聞いてきた。すぐ 隣には井口に町田もいる。 「何って言うほどじゃなくて……普通にお喋り」 「嘘だぁ、純ちゃん。相羽君にタッチしてたじゃなーい!」 「見てたの?」 ぶり返してきた恥ずかしさを飲み込みながら、富井に言う純子。 目撃していなかったらしい町田と井口は、何なに?と興味を露にした。二人 に対する説明は、富井が買って出たからややこしくなりかねない。 純子は急いで弁明に努めた。 「あれは、相羽君の体つきが前よりずっとたくましくなっていたから、ちょっ と触らせてもらったのよ。それだけなの」 口を動かしている最中に、顔がどんどん熱くなる。 (えーん。絶対変に思われる!) そう信じ込んで、自然と声も小さくなった。が、純子の予想は完全に外れ。 「そんなあ。それなら、私も触りたい!」 このときの富井の顔を絵に描くとしたら、目はハートマークに決まりだ。 「触るなんて想像しただけで、どきどきしてくるわぁ」 「気持ちは分かるけれど、声に出さない方が」 比較的冷静な井口が、横から富井の肩をちょんちょんとつつく。辺りを見回 しているのは、相羽に聞かれていないかどうか気になるに違いない。 幸い、相羽達は全く別の一角で、他の男子達と鬼ごっこか何かに興じている。 「郁、そんなに興奮してないで。あんまり興奮するとよだれ出るよ」 町田の言い種に、富井は「よだれなんかでないもん!」と本気で否定した。 とりあえず救われた形の純子は、徐々に平静さを取り戻していった。 (必要以上に親しくならないって、約束したんだった。気を付けなくちゃ) そう考える内に、純子もまた自然に相羽の姿を探してしまう。そんな自分の 行動に気付き、内心慌てふためく。 (意識するから、目で追っちゃうのよね。普通にしないと。……私って、本当 に慣れてしまったのかなあ? 慣れたと言うより、相羽君がいると安心できる 気がする) それが当たり前だと信じている。 「すっずはっらさん」 水泳授業の中休み時間に入って、皆が休憩しているとき、唐沢が純子のそば に寄ってきた。 「隣、いいかい」 「うん。何?」 横たえていた身体を起こし、純子はバスタオルを肩に被り直した。相手の話 を待つ。 だが、唐沢はすぐには口を開かず、膝を胸に抱き寄せる風にしてしゃがむと、 純子の上半身辺りを見つめる。それからおもむろに言った。 「たまには違う水着も見たいな」 「やだ、何を言い出すかと思ったら」 無意識の内に、唐沢の二の腕辺りを指先で叩くように押す。大げさに転びそ うな素振りを見せた唐沢は、バランスを保とうと純子の手を掴んだ。 「――痛」 本当は口に出すほどのことではなかったのだが、予想していなかった力で握 りしめられ、思わず声に出してしまう。 「あっ、悪い。怪我しなかった?」 「うん。私の方こそ、押しちゃってごめん」 会話の間にも、唐沢は純子の手の甲をさすり、異状がないか見つめている。 次に、急にわざとらしい振る舞いになる。 「……ほっ。確かに何ともないみたいだ。いやはや、痣でもこしらえてしまっ たらどうしようかと。一中学生に支払える額ではないだろうからなあ、賠償金」 「ん?」 「モデルって、自分の顔や身体に保険かけるんじゃないのかな?」 「ああ、そういう意味なのね。私には縁遠い話だから、安心して」 純子が笑いかけると、唐沢の方は再び真面目な物腰に戻った。 「でも、売れてるじゃんか。あの口紅のとか服とか、広告でよく見かけるぜ」 「うーん……私の希望を言えば、スチールモデルじゃなくてね、ファッション ショーの舞台で人気出たら嬉しいな」 「ショー? 立ったことあるのかい?」 「二回だけ。どちらも子供服のだけれど、面白かったのよ。観ている人達の反 応がじかに伝わってきて、どう言えばいいか――震えるの。ぞくぞくする感じ」 「へえ。もう緊張なんてしないのか」 「違うの。緊張はしてる。それをコントロールできるようになってきて、楽し めるようになったのね、きっと」 「ふうん。モデルも凄いけど、あっちの方はどうなん? ドラマ出演」 純子は腕に力を込めて、上半身を完全に起こした。 (あわわ、唐沢君も知っていたの?) 急に思い知らされ、少なからず胸がどきどきしてくる。 「そのこと、誰かから聞いた?」 声を潜める純子に合わせ、唐沢もまた音量を絞った。 「いや、自分で気付いた。かわいい子が出てるなと思って観ていたら、どこか で見たことあるような気がして、よくよく見れば涼原さんじゃないですか」 おどけた調子で言われても、気恥ずかしいことに変わりはない。純子は恐る 恐る尋ねてみた。 「どう思った? 私の……演技」 「あ? あれだけできれば上出来じゃねえの? まあ、俺はそんなことよりも 君の姿に釘付けだったもんで、ドラマの方はあんまりまともに見てなかったん だよな、はははっ」 笑い声の部分だけ音量を高くした唐沢の横で、純子はがっくりうなだれた。 笑いが収まると、唐沢は三たび、真面目口調になった。 「やばい、もうすぐ休憩終わりだな。――涼原さん、香村綸と仲よくやってる のかい?」 ――つづく
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