長編 #4875の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
純子が話す内に、また二つ三つと流れ星。二人は並んで見上げた。狭いスペ ースで、肩を引っ付けるようにして。 「これだけ流れてると、一つぐらい願い事を叶えてくれそうな気がするな。実 は、さっきから試してるんだ」 「何を願ってるの?」 「教えないよ」 「……何だか急にけちになったみたい」 不思議に感じて、相羽の横顔を見やる。相羽もこちらを見た。 「ただ、一つは叶えてもらったかもしれない」 「さっき頼んで、もう? 変なの」 「僕のことはいいでしょ。自分の願い事、言っておくといいよ。きっと叶えて もらえる」 相羽の物腰は穏やかだが、確信めいたものもにじんでいるよう。 (あはは、おかしいっ。占いは都合のいいことだけ信じるって言った人に、そ う勧められてもね。まあ、いいわ。折角だから) 純子は神妙な顔付きになって、両手を合わせた。 が、願い事を心で唱える最中、カーブに差し掛かったらしい。列車が大きく 揺らいだ。糸でつながっているみたいに、身体も傾く。 「あ、だめ」 お祈りの形にしていた手を解き、近くの壁に突こうとしたが間に合わない。 だが、相羽の腕も素早かった。右手は手すりをしっかり掴んでおり、左手全 てを使って純子を受け止める。 「――大丈夫? 気を付けないとね」 「う、うん。あ、ありがとう……って、あなたが願い事しとけって言うから」 照れ隠しもあって、反駁する純子だが、勢いはない。夜中なので、声も小さ かった。 ついでに相羽の方から何の応答もなく、幸か不幸か純子は照れ隠しをやめる ことができた。 相羽は自分の左手の平を見下ろしていた。何もないのに、あたかも大切な物 を持っているかのごとく、左手は柔らかに開かれている。 「ん? どうかした?」 「琥珀、ずっと持ってるんだね」 相羽の目元に微笑が差す。純子は対照的に何度も瞬きをした。 (そんな嬉しそうな顔をするのは何故?) 疑問が浮かんだものだから、返事が遅れた。相羽に名を呼ばれ、改めて答え る純子。 「ポケットの上から触ったわね」 「指先に触れた程度。最初、あめ玉でも入ってるのかと思ったよ。旅行に出る ときも持ってるんだ?」 「ええ。お守りだもの、ずっと身に着けてなくちゃ、意味ない」 「君にとっては流れ星より、琥珀の方が御利益ありそう?」 「あは、そうかもね」 弾みそうな声の調子を、敢えて押し殺した。眠くはならない、それどころか ますます目が冴えてきた感じだが、いい加減、寝台に戻った方がいい頃合いか もしれない。 「そろそろ戻らない? こんなとこ、万が一にも先生に見られたら……」 「ん……そうだね」 相羽はそう承知した割には、惜しそうに窓の外を見やった。 彼が動き出すまで、純子も星を見ながら待った。 ――『そばにいるだけで 37』おわり ※そして付け足し。 「疲れたぁ」 「死ぬぅ」 バスを降り、グラウンドに座り込むや、何人かが口々に訴える。 純子達の通う学校は細かいところでなかなかうるさくて、駅では解散せず、 きちんと学校に戻ってから解散式をやる手順を踏んだ。 「ほんとに死ぬわけじゃあるまいし」 相羽が何気ない調子で言った。聞きとがめたのは大谷。 「言われなくても分かってるってーの。いちいち揚げ足取るなあっ。ただでさ えしんどいってのに」 「あ、悪い」 簡単に謝った相羽だが、そのあとに付け足しがあった。 「でも、自分は『死ぬ』なんて軽々しく使いたくない。使わないって決めてる からな」 「……はあ」 大谷が戸惑いの息を漏らし、その横にいた清水と顔を見合わせた。 「変なこと言う奴だなあ?」 「はいはい、早く列んでくれ」 手振りを交えてごまかす風に、相羽。 校長先生がメガホンを構えたのは、整列が終わると同時ぐらいだった。 先生自身疲れが来ていたのか、それとも生徒のことを考えてくれたのか分か らないけれど、話は短時間で終わる。ただ、真っ直ぐ帰るように、気を付けて 帰るように、そして充分休養を取るようにとくどいほど注意された。 解散したあとは、皆、てんでばらばらに帰途に就く。と言うのも、親が迎え に来ている生徒がかなりいるからだ。 (いいな) 純子は歩きだ。富井や町田らを見送ってから、さすがにうらやましくなる。 井口と一緒に下校を始めた。 「お土産はほとんど宅配にしたからいいようなものの」 疲れた調子で言うのは井口。 純子も同様に疲れていた。昨夜の寝不足が今になって堪えてきた具合だ。 「久仁香は近いから、まだいいじゃない。私はその何倍も歩かないと。おかげ でスマートになっていいわ、なんてね」 「純子の場合、充分スマートだから洒落になんない」 「でも旅行中、よく食べたから太った気がする。体重計が恐いー」 喋っていると気が紛れて、距離が短く感じられる。じきに井口の家近くに差 し掛かり、純子は一人になってしまった。 当然、お喋りもなくなるわけで、これからの歩く長さを思うと気重になりそ う。 おまけに、風も心持ち強くなった気がする。ともすれば髪が視界を遮り、い ちいち手でかき分けなければいけない。 (早く帰って、着替えたい。それからお母さんに話して) 気晴らしに、鼻歌でも唱おうかしらと意識するともなしに考えたその矢先。 「純子ちゃん!」 相羽の声だ。後ろから呼ばれて、「はい?」と歩く勢いそのままに向き直る と、カメラを構える相羽の姿が見えた。 同時に、強まった風が膝元を吹き抜ける。 「あ」 相羽の唖然としたようなつぶやき。 純子は数拍遅れで、自分のスカートを上から押さえた。 「――きゃあ!」 両手の荷物が交錯して、乾いた音を立てる。中に割れ物は入っていなかった だろうか? でも、恥ずかしさが先に来て、その場にしゃがみ込んでしまった。 「え、と。大丈夫?」 どうすればいいのか困って、とにもかくにも近付いた――そんな感じの相羽。 「見、見たわね?」 しゃがんだまま、目だけを起こして見上げる純子。 「……うん。見えてしまったというか」 視線を逸らし気味の返事。 「写真はどうなったの? 撮っちゃったの?」 「う、うん。シャッター押したから、写ったと思う……」 「何で撮るのよ、ばかあ」 純子は再び完全にうつむいた。次の相羽の言葉が聞こえるまで、しばしの間 ができた。 「その……フィルムが一枚分余ってたから、使い切ろうとして。ちょうど君の 姿が見えて、声を掛けたんだけど」 「もう、タイミング悪い! ばかばか!」 風がやんだのを感じて、立ち上がった。文句を言っても仕方ないと分かって いるけれど、恥ずかしさが理屈に勝る。相羽の胸を両手でぽかぽか叩いた。 「ごめん、いきなり撮って。ちゃんと言えばよかった」 「……現像しないで」 「え」 「そのフィルム、現像しないでっ。見られたくないんだから」 「それは分かるけど、でも……他にもたくさん撮ってる。修学旅行の写真」 「……そうよね」 目を伏せ、思い直す。いや、最初から分かっていたことだ。 「みんなの分の写真もあるものね」 純子だって、富井達に頼まれたせいもあり、相羽の姿をたくさん写真に収め ている。もしもたった一枚のために全部を台無しにしろなんて言われたとした って、承知できるはずない。 「……これ、渡しとく」 相羽が純子の手にカメラを押し付けてきた。思わず見つめ返す純子。 「そんなことされても」 「いいから。とりあえず持ってて。知らない内に現像するなんて真似、絶対に できないように。あとで母さんに言ってみるから、何とかなるかもしれないよ」 「何とかなるかもって、どういうこと?」 「母さんの仕事、広告制作だろ。カメラマンの知り合いがいる。その内の誰か 一人に頼んで、そのフィルムの最後の一コマを除いて現像してもらおう」 「そんなことできる?」 「分からない。でも、聞いてみる値打ちはある。それに……現像するならフィ ルムを一本丸々しなくちゃいけないとしたって、女性カメラマンに頼むことが できる」 「……あっ。そうよね」 男性ではなく女性に。意図するところを理解した純子。 無論、性別だけでなく人柄も関わってくるだろう。それでも、女性の方がい いかもしれない。 「相羽君に任せる。フィルムも私に預けなくていいよ。信じてるから」 純子がカメラを返そうと、前に差し出すと、相羽は困った風に両腕を組んだ。 「……僕だって男なんだけどな。はは。信じてくれてありがとう」 ――『そばにいるだけで 37』の付け足し、おわり
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