長編 #4673の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
6 一時間後、リエはガーディアックを見下ろす丘の上に立っていた。 ガーディアックの偵察任務を帯びて、ネイガーベンを出たときから、この計画 ----統合軍自身に案内をさせる----がリエの頭にあったわけではない。そもそも リエは、一人か、せいぜい二、三人で偵察を行うつもりだったのだが、ネイガー ベン都市評議会の委員たちは、最低6名の傭兵を同行させなければ、偵察任務そ のものを認めてくれなかった。リエの身の安全を口実にしていたが、何人かの委 員は明らかにリエが寝返ることを懸念していたから、傭兵たちがひそかにリエの 監視の命令を受けていたことは間違いない。 リエはワンマンアーミー志向ではなかったが、チームとしての訓練もできてい ないうえに反抗的な6人よりは、まだしも一人の方が確実に任務を遂行できる。 従って傭兵たちが、勝手な行動を取って戦闘に突入し、結果として一人になれた ことは、作戦上は失敗かもしれないが、リエとしては満足すべきことといえた。 実際、ガーディアックへの道は驚くほど簡単だった。撤退する部隊からは、数 名のチームが集団を離れて行動し、後方からの追撃を警戒していたものの、リエ が逃げもせずに、追跡している可能性は低いと見ているらしく、彼らの目を逃れ るのは容易だった。 ガーディアックに近づくと、リエは部隊の後を追うのをやめて、ゆっくり偵察 できる場所を探して、周辺を観察した。やがて村から1キロ弱の距離にある、小 さな丘を発見し、その頂上に登った。夜明けまではまだ時間があり、丘の上は闇 に包まれていたから、それと意識して注意深く見られない限り発見されることは ないだろうと思われた。戦術上の理屈から言えば、このような場所は、防御側が 何らかの形で確保しておくべきだが、そこまで手は回らなかったらしい。 リエは念のためにトラップや、対人地雷の存在を確認した後、草の上にうつ伏 せになると、望遠鏡を出して、ガーディアックの偵察を開始した。 40日ほど前に、統合軍不正規部隊が極秘作戦を遂行し、リエが望まぬ魔法の 力を得た村は、記憶にあるそれとは様相を一変させていた。変わり果てた故郷の 村を自由魔法使いパウレンや、医師のカダロルが見たら、怒りで蒼白になるにち がいない。特にカダロルは襲撃の晩の唯一の生存者である。 村は400メートル四方の正方形に整地され、金属製のフェンスに囲まれてい た。フェンスは外側にオーバーハングしている上に、鉄条網が張り巡らされてい る。さらに、数メートル間隔で、小型ライトが設置され、外周を隙間なく照らし ていた。 正方形の各コーナーには、高さ20メートルほどの監視塔が建っていて、兵士 が3人づつ配置されていた。強力なサーチライトの他に、数種類の火器が装備さ れ、矢による被害を防ぐための装甲に守られている。 「局地戦用防御陣地……か」リエはネイガーベンで調達した紙と、羽根で作った ペンを使ってガーディアックの全体図を記録した。「ネイガーベン侵攻の橋頭堡 だわ」 明らかに統合軍は、この侵攻計画の準備に長い時間をかけていたようだった。 火力ジェネレータ、水資源リサイクル設備、組立式二階建て兵舎、戦術物資集積 倉庫などが、整然と無駄なく配置されている。ジェネレータやリサイクル設備は サブが用意されているし、兵舎や倉庫もいくつかに分散している。 陣地の防衛もしっかり考えられていて、ざっと30カ所以上に前面180度を 掃射可能な銃座が設けられている。全てに兵士が配置されいるわけではないが、 警報が発せられれば数秒で射撃体制が取れるように訓練されているのだろう。 4カ所に設けられた車両集合エリアには、合計100両以上の戦闘車両が並ん でいた。長い砲身が特徴的なMBT(主戦闘車両)、4門の独立した重機関砲を 装備したSPFV(自走式火力支援車両)、40mm重機関砲を持ち歩兵12名を 運搬するIFV(歩兵戦闘車両)などの戦闘車両が半分以上。残りは補給車、戦 闘工兵車両、高機動偵察車両、医療サービス車などの戦闘支援部隊である。特に 補給車は充分すぎるほど用意されていて、補給計画がしっかり立案されているこ とを示していた。少なくとも、火器さえあれば剣と弓しか知らない住民を簡単に 制圧できる、などと考えているわけではないらしい。 予想どおり、車両は全て内燃機関を装備したレヴュー9仕様である。おそらく ほとんどのエレクトロニクスは取り外されているに違いない。つまり、正確無比 な複合照準や、誤差数センチの着弾地点計算は不可能となる。これらに不可欠な モジュール・ユニット群は、例外なく「レヴュー9効果」の影響を受ける。 唯一、NB(ナノ・バイオ)パーツで構成された機器は、問題なく動作するこ とがわかっている。だが、NBパーツによって、現在のエレクトロニクス機器と 同じものを作成しようとすると、コストはゆうに1000倍を超えてしまうだろ うし、量産など望むべくもない。NBテクノロジーは、主にMI(魔法知性)の 自律制御/自己進化中枢ユニットに使用されるものであって、射撃管制や熱線映 像処理などに使うのが目的ではないのだ。 もっとも、情報処理システムを完全になくすことができるはずもない。リエの 視線は、一台の戦闘支援/指揮管制車両を捉えた。その車両だけは、全てNBパ ーツで作られているらしい。リエはそれが、あの運命の夜、ガーディアック襲撃 作戦で使用された戦闘支援車両であることに気付いた。 兵舎の規模から、駐留している兵力は1800人から2000人、ほぼ一個師 団程度と推測された。統合軍には、空軍や海軍がなく、師団の中に全てのカテゴ リーが含まれるが、アンストゥル・セヴァルティでは航空部隊の出番はないし、 当面は水上部隊も必要ではない。おそらく、侵攻前に大幅な師団編制が実施され て、陸戦部隊が増員されているのだろう。 ネイガーベンは、大陸中から傭兵を召集しており、リエが偵察任務に出発した 時点では2万人以上になっていた。単純な彼我兵力差は10対1ということにな る。問題は、火器という要素を加えた場合、その差がどれほど縮まるか、という ところにあった。 リエは頭の中で、ガーディアック攻撃のシミュレーションをしてみた。結果は すぐに導き出すことができた。残念ながら、ネイガーベンに勝機は少ない。 その理由の一つがガーディアック周辺、80メートルから100メートルにあ った。もともとガーディアックは、森林の中にある村だったが、その範囲の樹木 がきれいに伐採されてしまっているのだ。西側は街道に通じる細い道だが、こち らは数キロにわたって遮蔽物を排除してある。森林に紛れて、密かに接近される ことを警戒してのことだろう。戦術MIなら、衛星監視とモーションセンサー、 熱反応センサー、音声分析センサー等による警戒を提案するのだろうが、あいに くどれもメーカーの保証通りの性能を発揮することを望めない。監視はもっぱら 光学的手段に頼らざるを得ないので、その効果を少しでも高めるため、周辺の森 を裸にしたのだろう。 80メートルは距離的には短いが、遮蔽物なしに進まなければならない兵士に とっては長い距離だ。迎撃側は鼻歌混じりで迫撃砲や対人砲を撃ちまくればいい。 誘導兵器など不要である。どうせ対人地雷も埋設されているに決まっている。 ガーディアックの中央には、指揮管制センターらしい建物と、兵舎用ユニット よりは、やや設備の整った宿泊設備があった。おそらく外交官や司令官、それに 佐官クラスの士官用アパートなのだろう。 その隣に、小さなフィールドユニットがあった。ちょっと見たところでは使用 目的がわからないが、独立したジェネレータやリサイクル設備を備えているとこ ろから、リエは何らかの研究設備だと推測した。気密エアロックになっているら しいハッチが開き、中から誰かが出てきたところだった。 単なる好奇心から、その人物に焦点を合わせたリエは、思わず息を呑んだ。 姿を現したのは少年だった。 忘れもしない、あの少年だ。 ここガーディアックで、リエが望まぬ力を得たとき出会った少年。<ヴェーゼ> について話をした少年。若い肉体に年老いた心を宿した少年。 少年は身体をほぐすように伸びをしていたが、急にその動きを止めた。そして、 ゆっくりと首を回し、リエが隠れている方向をまっすぐ見つめた。 発見された!逃げなければ。そう思ったものの、身体が動かなかった。 リエと少年の視線がぶつかり、接触が生まれた。 ----また会えたね、リエ・ナガセ。 ----あなたはあのときの……名前を訊いたかしら? ----アンソーヤだ。 ----アンソーヤ・何? ----ファミリー・ネームなどない。それより、どうだい?今からでも遅くない。 戻ってこないか? ----あのとき断ったでしょう。もう一度断る。何度でも断るわ。 ----人類全体のためだ。君が必要なんだよ、リエ・ナガセ。 ----アンストゥル・セヴァルティを侵略するために? ----そうじゃない。双方の人類が共存するためにだ。 ----共存が必要なのは、地球の方でしょう。アンストゥル・セヴァルティの方は、 地球なんかなくたって生きていけるのよ。 ----君だって、地球人類が徐々に滅び去るのを見たいわけではなかろう? ----それはもちろんよ。だけど、だからといって、侵略が正当化されるわけでは ないわ。流さなくてもいい血が流れるのは、統合軍のせいよ。ちなみにさっきも、 少し流れたけどね。 ----君が地球に戻れば、それ以上流さずにすむ。 ----地球にあたしの居場所はないわ。 ----レヴュー9にもない。君は君の力のために、やがてどちらの世界からもうと まれる存在になるだろう。 ----あたしが望んだわけではないわ。 ----誰が望んだわけでもない。それはそうと、リエ。同じ魔法使いのよしみで、 ひとつ忠告をしようか。 ----あたしは魔法使いなんかじゃないけど、忠告なら喜んでいただくわ。ただし、 お礼はしないわよ。 ----構わないよ。統合軍が軍事力だけを使うものと思っていると、驚くことにな る。 ----はあ? ユニットから一人の女性が出てきて、アンソーヤに声をかけた。だが、アンソ ーヤが応答しないのを不審に思い、その視線の先を追った。用意のいいことに、 光学式双眼鏡を手にしている。たちまち顔色が変わり、急を告げる叫びが口から 発せられる。たちまち、数人の兵士が姿を現した。 アンソーヤが単なる時間稼ぎをしているのかもしれない、とは思いつつ、リエ は問い返さずにはいられなかった。 ----どういう意味? ----文字通りだよ。きっとすぐにわかると思うよ。街へ帰って時を待つんだね。 もっと詳しく訊きたかったが、少し離れた森が、にわかに騒がしくなった。近 くにいる哨戒部隊に緊急連絡が飛んだに違いない。 ----もう行くわ。 ----君はどこにも行けやしないよ。 ----どうかしらね。 リエはきびすを返した。その背中を、アンソーヤの視線が追っていた。
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