長編 #4672の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
5 居合わせた全員が、リエが守勢に立たされたことを確信した。兵士たちの中の 一人は、公認四級魔法使いの資格を持っており、リエが指先に炎をともすような 些細な魔法を発生させただけでも、即座に発砲することになっていた。リエをま んまと罠に誘い込んだ指揮官は、悦に入ったにやにや笑いを浮かべていた。躊躇 っていた兵士たちも、増援を得たことで恐怖感を払いのけることができたらしく、 再び銃口を向けている。 だが、あいにくリエは守勢に立つことなど学んだことはなかった。あるとすれ ば、守勢に立ったふりをしてチャンスを待つことだけだ。 リエは手にしていたライフルを、ゆっくりと下ろした。注意深くセイフティを ロックすると、草の上に置く。続いてハンドガンを肩の高さに持ち上げて見せる と、それも離れた場所に放り投げた。 「投降すれば、命は保証してくれると言ったわね、少尉?」 「言ったとも。保証してやるぞ。もっとも……」指揮官のにやにや笑いが大きく なった。「無傷で、とは言ったおぼえがないがな」 「どういうこと?」リエは怯えた声を装って訊いた。 「お前は魔法使いだそうだな。意識があるうちは安心できん。基地へ戻るまで眠 っていてもらう。服にどんな仕掛けがあるかもしれんから、オールヌードでな」 「いいかげんにしないか、ボブ」別の小隊の指揮官がたしなめた。 「うるせえ。こいつのおかげで、部下が3人も死んだんだ」 「自衛の手段が尽き、武器を捨てて投降した者を虐待してはならない。これは軍 法で明確に規定されている」 「軍法など知ったことか」 「大佐に報告するぞ」 「密告屋か、てめえは。いい子ぶるんじゃねえ」 「指揮官失格だな、お前は」 ボブと呼ばれた指揮官の顔に、怒りが沸き起こった。リエから目を離し、同僚 の方へ一歩踏み出す。つられて、大多数の兵士の視線も、そちらに流れた。 リエの待っていたチャンスだった。 兵士達の間から驚きの声が上がった。リエが動いたのは、さきほど捨てた火器 の方ではなく、もっとも兵士が密集している部分だった。慌てた兵士たちが、ぐ るりと銃口を向けたが、包囲態勢が仇になった。それぞれの反対側の兵士が邪魔 になり発砲できない。 リエは腰の剣を抜き放った。ネイガーベンの刀鍛冶に頼んで、簡単な魔法がか けてある。光もないのに、ぎらりと刀身が輝くのがその効能だった。 一般には「銃は剣より強し」と言われている。レヴュー9には剣と弓しか存在 しない。その事実に、統合軍のほとんどの兵士は安心感を抱いていた。だが、こ と接近戦になると、その立場は簡単に逆転してしまう。 身体の側面を手近の兵士に接触させ、相手のライフルの銃身をつかむと銃口を 地面に向けた。兵士が力任せに火器の制御を取り戻す前に、リエは剣の切っ先を 相手のむき出しの前膊部に突き刺した。 苦痛に慣れていない兵士が、驚くほど大きな悲鳴を上げて、腕を振り回した。 その動きは、ますます仲間の兵士たちの射界を遮る結果となる。むろん、リエは さっさとその場から離れ、別の兵士の背後に回り込んでいた。流れるような動き で、兵士のふくらはぎに剣を数センチ埋める。兵士たちのコンバットジャケット は、胴体部こそ防弾/耐熱/耐破片防御繊維が織り込まれていて、剣にもある程 度有効だが、脚の動きの自由度を高めるために、膝の裏側はやや薄目になってい るのだ。 剣を抜き取りざま、リエは手首を翻した。後ろから飛びかかろうとしていた兵 士の襟元から、獲物を狙うヘビのような正確さで剣を滑り込ませ、鎖骨の上を切 り裂いた。たちまち血が噴出する。 少し驚いたことに数発の銃声が鳴り響いた。この状況で発砲などすれば、リエ に命中するよりも、同士討ちとなる可能性の方が高い。訓練をすっかり忘れてい るか、小隊長の指揮がいきとどいていない証拠である。銃弾は見当外れの方向へ 飛び去り、誰も傷つけることはなかったが、リエは数歩で発砲した兵士の元へ駆 け寄ると、腹部に強烈な蹴りを叩き込んだ。兵士は呻き声ひとつもらさぬまま、 意識を失って地面に転がった。 「撃つな!撃つな!」 「包囲を崩すな!」 「フォーメーションGに移れ。4時方向」 ようやく小隊長たちが指揮を執ることを思い出したらしく、いくつかの命令が 飛ぶ。深層インプラントによる感情制御のパスコードも混ざっていたらしく、兵 士たちの動きから、曖昧さが消えつつあった。 包囲の輪の一部が開こうとしていた。リエを空いた方向に追い込むことで、射 線を確保し、火力を集中させようとしているのだ。リエは横っ飛びに跳躍して、 別の兵士と併走すると、剣の柄を相手の脇腹の上に叩き込んだ。肋骨を2本、き れいに折られた兵士は、そのまま地面に倒れると、激痛に転げ回った。 「この野郎!」 同僚の兵士が、ライフルを棍棒のように振り回しながら迫ってきた。2メート ル近い巨体である。ストックが頭上に振り下ろされるのを待って、リエは相手の 足元に身を投げると、一回転しながら右足の甲に剣を突き立てた。足を地面に縫 い止められた兵士は、膝をつき、絶叫しながらも、しかしライフルを振り回すの をやめない。背後に回りこみ、攻撃をかいくぐりながら、リエは兵士のこめかみ に強烈な肘打ちを叩き込んだ。 手間取ったために、包囲態勢が、半包囲態勢に変わりつつあった。リエは弧の 先端にいる兵士に襲いかかると、ライフルを跳ね飛ばしておいてから、その腕を 掴んで投げ飛ばした。宙を飛んだ兵士は、仲間の背中に激突し、列を大きく崩す ことになった。その箇所に急行すると、リエは二人の兵士の腕をまとめてへし折 った。 強力な敵と指揮系統を狙う、というのは戦闘におけるセオリーである。が、そ の気になれば狙えたにもかかわらず、リエは指揮官たちには近寄ろうとしなかっ た。指揮系統を失えば、経験の浅い兵士たちはあっさりパニックに陥ってしまう だろう。そんな奴らの闇雲な乱射を浴びるよりは、リエを生きたまま捕らるため のフォーメーションを取ろうとしている、と思っている兵士たちの方が、はるか に扱い易い。 もっとも、これ以上増援が到達するようだと、さすがのリエにも対応できなく なる。通常の戦闘なら、適当に損害を与えたところで後退し、追撃してくる敵に 対してアンブッシュをかけるのだが、今回はそうもいかない。リエの行きたい方 向は後方ではなく、前方----ガーディアックだからだ。 その目的を達成するため、リエは可能な限り効率よく、統合軍兵士たちの戦闘 継続能力を奪っていった。兵士ひとりにつき、10秒から15秒程度しか費やし ていない。統合軍がリエを生きたまま捕らえることにこだわっていなければ、こ うはいかなかっただろう。 一個小隊分にあたる12名が倒れたとき、ようやく指揮官たちは事態に気付い た。リエは兵士たちを的確に負傷させるだけで、命まで奪ってはいない。つまり 負傷者を連れて帰らねばならないということだ。これ以上、静観していては、動 ける者がいなくなってしまう。 「全員、後退!」指揮官が叫んだ。「後退しろ。敵に構うな。負傷者を運べ」 「アルファチーム。弾幕を張って後退を援護しろ。ブラボーチーム、側面を固め ろ。敵の追撃は不要!」 兵士たちは救われたように、負傷者に駆け寄った。無傷のライフル分隊が横一 列に並び、自らも後退しつつ銃弾をばらまいた。リエを仕留めることが目的では なく、牽制にすぎない。もっともリエは、とっくに身を翻して、近くの茂みに飛 び込んでいた。 「通信管制を守れ」指揮官が負傷者をかつぎながら命令している。「基地に連絡 して、医療班を待機させろ。近くにパトロール小隊はいないか?」 「一番近いのでも、4キロ北になります」 「やむを得ない。そっちの小隊長と協議して、ランデブーポイントを決めろ。火 力が減じている」 「リエ・ナガセはどうした?」 「逃げていったようです。追跡しますか?」 「かまわん、放っておけ。負傷者の収容が先だ」 「戦死者の死体はどうします?」 「負傷者を優先する。後で回収部隊を寄越してもらおう」 「シックスチェック(後方警戒)。全速で後退する。ポイントマン、先導しろ」 一団となった兵士たちが、足早に去っていった。リエは100まで数えてから ゆっくり立ち上がると、彼らの後を追い始めた。
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