長編 #4661の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
迷うことなく、一人の少年の姿を見つける。傍らにはいつの間に戻って来て いたのだろう、その母親の姿もあった。 純子と視線が合った相羽の表情に、瞬間的に赤みが差したようだった。その せいか、顔を伏せ加減に歩いてくる。純子の前、やや右寄りに立ち止まると、 彼は一呼吸挟んでから言った。 「誕生日おめでとう、純子ちゃん」 「あ、ありがとう」 戸惑いながら受け止めた。簡単だが、熱くなるような祝福のメッセージを。 「次はデビューしたあと、同じ言葉を贈れるようになればいいね」 間に立った鷲宇がつぶやいた。純子と相羽の視線を引き付けてから、彼は重 ねて言った。 「それはさておくとして、きっかけは、彼が学校での君のことを伝えてくれた からでね」 「学校……私、どこかおかしかった?」 尋ねる純子へ、相羽はしばらく考えてから口を開いた。 「うまく言えないけれど、これまでと同じじゃなかったのは間違いないよ」 「何よそれー」 「疲れたような元気の出し方だった、とでも言えば納得してくれる?」 「……まあ」 曖昧にうなずいた。純子自身、思い当たる節がないでもない。ただ、それを 外見に出したつもりは全くなかったのだが。 相羽のあとを、鷲宇が引き継いだ。大げさな調子で、手振りを交えて。 「そこで僕は考えた。レッスンしていても、輝きがわずかばかり欠けていたの はこのせいだったのかなと」 「そんな」 「ことがあるのですよ」 純子の挟んだ言葉へ勝手につなげる鷲宇。 「短期間に集中的にやってきたから、疲れや飽きが訪れても不思議じゃない。 志気を高めるのに何がいいか。頭を悩ますまでもなく、一つのアイディアが閃 いた。僕自身、やってもらって非常に楽しかったやつ――サプライズパーティ をしようと。ラッキーなことに、君の誕生日がすぐそこに迫っていたしね。加 えてもう一つ、メリットがあった。我々の親睦を深めるのにもちょうどいい。 仲間なんだから」 「そんなにご心配をおかけしてたんですか……ありがとうございました」 深々とお辞儀する純子は、鷲宇が首を横に振るのを気配で感じ取った。 顔を上げると、しっかり釘を刺されてしまった。 「感謝の気持ちもいいんだけど、元気が戻って来たのなら歌で力を出し切って ください。OK?」 「イエスサー!」 右手の指先を揃えて伸ばし、こめかみ辺りにかざす純子。 鷲宇は目尻を緩めると、軽く両手を打った。 「それでは今日のレッスンの内容を説明するから、よく聞いて。――パーティ を思い切り楽しむように。以上」 一瞬、唖然として、次に破顔一笑。純子はしっかりと応えた。 「……はいっ。難しいけど、頑張ります!」 サプライズパーティからの帰りしな、純子は車中で改めて感謝した。 「ありがとうございました」 助手席の純子は隣の相羽の母に頭を下げた。膝に額が着きそうなぐらいに。 車はスタートしていないので、シートベルトはまだだ。 「気にしなくていいのよ。これでまた、新鮮な気分で仕事に取り組めたらいい わね」 「母さん」 刺々しい声が後部座席から飛んで来た。振り返るまでもなく、ルームミラー を通じて、相羽が唇を尖らせているのが見て取れた。それ以前に、口ぶりから だけでも容易に想像できたけれども。 「そうやって、すぐに仕事に絡める」 「あら、ごめんなさい。今ぐらいはやめておくわ」 相羽の母はそう答えてから、口元に右の人差し指を当てた。 「純子ちゃん、後ろに座らない?」 「え? あ、信一君と入れ代わりですか?」 「そうじゃないわ。私が口を出さないで、二人で話せるように。あなたも仕事 の話は聞きたくないでしょう」 「それは……はい」 表情を隠すようにうなずいた純子に、おばさんはにこっとした。引き続いて、 ドアのロックを解除。 純子は言われるまま、後ろに移った。右に相羽、左に純子という並びになる。 車が走り出して――約一分、沈黙が続いた。話題を探していた純子は、はた と思い出したことがあった。 「今日はほんとにありがとうね、相羽君」 「何度目の台詞だい?」 窓外の景色から目を戻す相羽。 (話の流れっていうものがあるんだから、大人しく聞きなさい!) そんなことを念じながら、純子は続けた。 「私の誕生日を覚えてくれてたのに、私の方はあなたの誕生日のとき、忘れて しまって」 「え? ミサンガをもらったけれど」 自らの左手首を指差す相羽。その顔は、常識を覆されたときみたいに、戸惑 いで固まっている。 「日は覚えていたわ。でも、みんなでお邪魔――お祝いするって、約束してた でしょ。それが守れなかった」 「約束……ああ、もしかすると、去年のクリスマスのときに言ってたこと? あれは約束っていうほどきっちりしたものじゃなかっただろ」 「うん。でも、大きなケーキ――」 純子が話そうとする目の前で、相羽は自分の唇に人差し指を縦に当てた。両 目が「それ以上はストップ」と真剣に語っている。 純子は目を見開いて、わけを尋ね返した。所作でそう表したつもり。 「それは」 相羽は運転席に視線を投げた。 (おばさんに聞かれたくないってこと?) 相手の素振りの意味するところは、簡単に見当がついた。では、その理由は となると……。 (お母さんに余計な気遣いさせたくない……かな。二人家族だから大きなケー キを買っても食べきれない、大勢いる方がいい、なんて) 多分、これで当たっていると思った。 純子はぎゅっと口をつぐむと、髪を揺らしてうなずいた。そして言葉を選ぶ。 「誕生日に行けなかった代わりに、クリスマス、みんなで押し掛けていい? 今日のお返しに」 「僕はかまわないとしても」 相羽は再び母の後ろ姿を見た。 息子が何も言いかけない内から、母は反応をした。 「もちろん、歓迎するわよ。そのとき、仕事の状況がどうなっているか分から ないから、私は家にいないかもしれないけれどね。あっ、いない方がいいのか」 微笑の混じった語尾に、相羽は何とも言えない顔つきになった。否定と肯定 それぞれの気持ちがぶつかり合っているのか、それとも、あからさまに否定す るのが恥ずかしいのか。 純子も、そこまで察することはかなわない。話の勢いで、両手でガッツポー ズを取った。 「にぎやかなクリスマスになります、きっと」 夕方になって、風が出て来た。この季節にしては冷たい感じのする風。 学校から帰宅するなり、純子は制服姿のまま隣近所を回りに出かけた。 中間テストが迫ってきているので本日はレッスンがない。その代わりという わけでもないけれど、近頃全くできなかった手伝いに少しだけ精を出す。 今やっているのは、近所一帯の郵便受けに、配布物を入れる作業。町内会の 当番、十月は純子のところが当たっている。 薄手の冊子を入れる度に、ことん、ことんと軽い音がする。調子よくこなし ていたが、四軒目に差し掛かったときだった。 「あっ」 突風に冊子が飛ばされてしまった。風が強いのは意識して身体で隠すように 持っていたが、それまでとは逆方向からの急襲に、あっさりさらわれた。手元 に残ったのは二部。 慌てて片手を伸ばしたが、すでに遅い。地面は冊子の青で彩られた。 (ああ、もうっ。晴れでよかったわ) 乾いたアスファルトから一部ずつ拾い、砂埃を払っていった。 最後の一部を回収してしゃがんだまま安堵した純子の前に、細長い影が落ち る。人の頭の丸い形が二つ。 「何してるの?」 声の方を見上げると、相羽と立島が並んでいた。 立ち上がった純子は質問に答えてから、逆に聞き返す。 「二人とも、何してるの? こんなとこで」 問いを発しておきながら、純子はきびすを返した。まだ配りきっていないか ら、仕方がない。顔は肩越しに相羽達へ向けている。 答をもらうより先に、 「終わった、と」 純子の手が空になった。 それを待っていたらしい相羽の口が開かれる。 「立島に頼まれたディスク、純子ちゃんに貸したままだって思い出したから。 もしよければ――」 「そっか。借りっ放しだったね、ごめんなさい。今、取ってくるわ」 「待った。一緒に行こ」 行こうとする純子を、男子二人が呼び止める。結局三人でそのまま家の前へ。 「ここで待ってて。すぐに持ってくるから」 「ゆっくりでいいよ」 相羽と立島は学生鞄を小脇に抱え、あるいは片手を塀について、立ち話を始 めた。NBAという単語が漏れ聞こえてきた。話題はバスケットボールらしい。 (バスケも長いことやってないなぁ。体育の授業でやったのは一年生のときだ ったから。やりたくなってきたわ。今度、体育館で) そんなことを思いつつ、純子は玄関のドアを閉めた。 * * 扉がかちゃりと音を立てるのを待って、立島は口をつぐんだ。 相羽は夕日色に染まるドアを見つめていた目を、正面に戻した。 「納得行った?」 「ああ」 立島は下を向きながら首肯し、片足で地面を蹴った。 「普通の反応だったよな。俺はてっきり、涼原さんておまえのことがあれなん だと思ってた」 「違うよ」 「それどころか、付き合ってると信じ込んでいたんだが」 「何でそういう風になるわけ? 教えてもらいたいぜ、まったく」 ドアを気にしつつ、相羽は問い返す。風で前髪が乱れたが、そのまま放って おく。 「こうしてよく貸し借りしてるんだろ。仲いいじゃないか。それに、おまえの ところのお袋さんの仕事の関係もあるし、何と言っても林間学校」 「関係ない。趣味が合うだけ。モデルだって、林間学校のことだって、偶然さ」 「きっかけってのは、そういうもんだぜ」 「……前田さんとはどういう具合にして始まった? 問題なければ聞きたいな」 「問題なんてねえけど」 言葉とは裏腹に、虚を突かれたためか、体勢を変える立島。塀にもたれかか って、足を組む。 「小学校のときからだからな。きっかけなんて……二月十四日だよ」 「……なるほど」 うなずく相羽は、内心で少し羨ましさを感じた。 (お互いの気持ちが最初から分かっているなんて、恵まれてるぜ) 「それで結局、おまえの気持ちはどうなん?」 立島の声に、相羽ははっとして顔を起こした。 「何が」 とっさにそう返すのが精一杯。 立島は面倒臭げに鼻梁にしわを寄せると、早口で続けた。 「だから、涼原さんを好きなのかどうかってことさ」 「それは」 口を中途で止め、どう答えようか考える相羽。答は決まっているのだが、そ れを正直に言うかどうかの問題だ。 「どうなんだよ。涼原さんの――」 立島が急かすのと同時に、玄関の戸が開いた。 * * 自らの「ごめーん」という声が被さったため、純子は立島が何を言っていた のか聞き損ねた。おまけに、風で髪――こういうときに限ってポニーテールじ ゃない――が顔の前にまとわりついてきて、男子達の表情もしかと見えなかっ た。 門を抜けて往来に出たときには、二人の男子は沈黙していた。上下の唇をし っかり結んでいる。 「なかなか見つからなくて、遅くなっちゃった。ごめんね」 ――つづく
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