長編 #4649の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
十二月二十日(月曜日) ようやく卒論を書き上げ、無事提出。卒論審査が年明けに控えているが、ま ずは片付き、落ち着ける。 さあ、これで計画に専心できる! 黒沼さんを死に追いやったあいつら二人 を殺す! 今まで、僕は二人を心中に見せかけて殺すことを考えていたが、やはりそれ は取り止めるとしよう。あいつらを殺すのに、そんな生やさしい手段は似合わ ない、ふさわしくない。だいいち、僕自身の気持ちが収まりそうもない。 見た目にも明らかな他殺を行う――となると当然、警察の介入は覚悟しなけ ればならない。 僕が田原とふみえの二人を殺す動機は、第三者には窺い知れぬところなのだ。 黒沼さんの自殺の原因は、田原が彼女を捨て、佐川ふみえに走ったことであ るのは調べ上げられ、想像によって補われるだろう。その点を動機に持つ者と して、黒沼さんに好意を寄せていた人物がリストアップされることも間違いな い。 しかし、そこで僕の名前が挙がる可能性は全くもって低い。僕は黒沼さんを 想う気持ちでは、他の誰にも負けぬつもりでいるが、それを面に表したことは 皆無と言ってよい。そんな僕が、リストアップされるはずがないんだ。 だが、黒沼さんと同じ、あるいは田原と同じ文芸サークルにいたという理由 だけで、事情を聞かれる状況は充分に想定できる。それを発端として、変に疑 いを持たれることは避けたい。 ああ、そう考えると、最初の計画である警察が介入しないように仕組むこと がいかに大切か、痛感する。 何とかして、両立できないものだろうか。あいつらをむごたらしく殺すこと と、警察の介入を最小限に抑えることとを。目指す理想は、完全犯罪なのだ。 そうだ、自分が狂気に走りすぎて(自覚はまだあるね)、忘れてしまうとこ ろだった。黒沼さんの両親の立場も考えなくてはならない。 下手に殺人を実行すると、真っ先に疑われるのは黒沼さんの両親じゃないか。 どうしてこんな簡単な点に気付かないでいたのだろう。そもそも、最初に心中 に見せかけて殺そうと考えたのも、黒沼さんの両親のことを考慮しての計画だ ったはずなのに。 このままではいけない。一度、頭を冷やす必要がある。より完璧で、しかも 僕自身や黒沼さんの両親が疑われることなく、そして黒沼さんの魂にやすらぎ を与え得る手段を考え出さねばならない。 頭を冷やすと言っても、殺人を諦めるなんてことは断じてない。あいつらを 殺すのは黒沼さんのため。そして僕の使命なのだ。 就職なんて俗なもの、どうだっていい。この倉井巽のよさが分からない企業 に、無理に採ってもらおうとは思わない。僕の親だってさほど期待していた様 子はないのだから、一年くらいはアルバイトでも何でもしてやっていける。 僕は殺人者の資格試験を受ける気構えで、生きてやる。必ず合格してみせる よ。再挑戦ができない試験。失敗は許されない。 十二月二十一日(火曜日) 朝から考えて、なかなか素晴らしいアイディアが浮かんだ。これならば、あ いつらの内、どちらか一人は滅多刺しにして殺せる。しかも、心中に見せかけ る願いも叶うのだからね。 まず……佐川ふみえを殺すことにしようか。気分が晴れるよう、哀れな死を 与えてくれる。 そうしておいて、ふみえを殺したのは、田原の仕業だと見せかけるのだ。田 原には毒か何かで死んでもらう。当然のことながら、その死は自殺に見せかけ る。 重要なのはこれからだ。 ワープロによる遺書を用意する。錯乱した文章で、「黒沼えり子の霊が見え る」とか、「赦しを請うためにふみえを殺して、自分も死ぬ」なんてことを書 く。 言うなればこれは、無理心中に偽装した殺人。この方法をうまくやり果たせ たら、僕の精神はある程度満たされるし、警察の介入も最小限に抑制できよう。 誰一人として疑われはしまい。 基本的に、この無理心中に見せかけた殺人を行う線に決定する。具体的な方 法については、これから詰めていこう。 決めておきたいことがいくつかある。 まず、日の問題がある。いつ、殺人を決行するのか、だ。三月末までに葬っ てやるとは決めているのだが、そろそろ日を絞り込まないと、思わぬミスをや らかしかねないんでは? たとえば……卒論が終われば、学生は卒業旅行を考えるのがパターン。田原 もご多分に漏れず、旅行プランを立てているらしい。これをしっかり把握して おかないと、殺してやろうと勇んで出向いたはいいが、ターゲットは不在なん て馬鹿げた状況にもなりかねない。そんな間抜けはごめんだ。 佐川ふみえの方は、もう短大を卒業して一年が経とうとしている頃なのだか ら、ある程度行動は型にはまっているだろう。その点は楽なはずだ。でも、も しかすると、田原の奴と一緒に旅行に出かける可能性も大いにあり。くそっ。 そういった情報を仕入れなくては。そのために、田原の奴と顔を合わさざる を得ない。見ただけで気分が悪くなる顔だが、復讐という目的遂行のためだ。 我を押し殺し、努めて平穏に振る舞おう。 日の問題に関連し、時間の問題がある。何時頃に殺人を行うか。もちろん、 当日の二人の行動にも密接な関連を持ってくるに違いないが、自分としては夜、 それも深夜に決行したい気持ちが強い。目撃される可能性が少ないからだ。そ の代償として、どうやって二人を呼びつけるかが大きな問題となってくるであ ろうが……。 そう、場所の問題もある。どこで殺人を行うか。当然ながら、佐川ふみえの 家では不可能だろう。何故ならば、彼女の家には彼女の家族が一緒に暮らして いるのだから。僕自身の家で殺人を行うことは色々な面でリスクが大きすぎる。 馬鹿馬鹿しくて問題にもならない。 理想としては、田原の家に佐川ふみえを呼び出させ、そこでふみえを殺した 上で、田原を自殺に見せかけるのが一番ではないか。まあ、二人を殺す順序が 前後してしまう場合もあるかもしれないが。 そうだ。田原は現在、マンションで一人暮らしをしているが、いつまで続け るつもりなのだろう? 卒論の審査が終われば、当分、大学に顔を出す必要はなくなる。三月の末近 くに卒業式があるはずだが、卒論審査から卒業式までの約二カ月間、ただ何の こともなしに一人暮らしを続けるというのは、どうにも不経済ではないか? 自分が貧乏性なのかもしれないが、何か理由がなければマンションを出払っ てしまうだろう、田原の奴は。よほど割のいいバイトがあるとか、LINEX に通勤するのに便がいいのだとすれば、そのまま入居を続けるケースも期待で きるが……。殺人計画を少しでも完璧に近付けるために、その点をはっきりと 聞き出しておかねばならない。 こうして列挙していくと、殺人を行うのも楽ではない。いや、殺人そのもの はさほど苦労せずに実行できると、自分は信じている。特に、その動機が復讐 に後押しされている場合は。 だが、殺人を行い得る機会の設定がかなり難しいし、警察の追及をかわすよ うに殺人を成し遂げることはもっと困難だ。これらの点でミスがないように、 明日辺りから、情報の収集に努めなければならない。それも、相手や周囲に感 づかれないよう、必要事項を細かく分割し、徐々に集めなければ。 十二月二十八日(火曜日) いい気なものだ! 田原の奴、イブだのクリスマスだのと飛び回りやがって、 つかまえられない。 しかも、必ず佐川ふみえと一緒だったらしい。全く反省していないようだ。 あいつら二人を殺すことに、もはや、微塵もためらう必要はない。これまでに、 あいつらが少しでも黒沼さんにすまないと思う態度を示していれば、僕の決心 もここまで固まることはなかったろうに……。全て、あいつらが『悪』なんだ。 とりあえず、電話でさりげなく聞き出せた情報が、いくつかある。 予想通り、田原は卒論審査が終わると三月半ばまで、色々と旅行に出かける つもりらしい。何だかんだと名目をつけて、国内外を見て回ると言う。海外旅 行じゃ日本人は狙われやすいからな、まあ、せいぜい、卒業式までに無事に帰 って来るんだな。それだけは祈っておいてやるよ。その後の運命は責任持てな いが。はははは。 殺人を決行する日は当初の予定に従い、三月末日でよさそうだ。もちろん、 佐川ふみえの方も、どうにかして調べておかなければならないが。 そうそう、ふみえが今、何をしているのかも分かった。田原の話では、秘書 の資格を取った彼女は、LINEXに入社して、その関係の仕事をこなしてい るという。ちゃんと仕事に就いているとは意外と面倒だが、チャンスはたくさ んあるだろう。田原の入社の前祝いだとか何とか、口実はいくらでもある。 一方の重要問題である殺害方法についてだが……。僕は冬期休暇に入った大 学に出向き、冷や汗をかきながらも、どうにか毒薬を持ち出すことに成功した。 薬学部から盗み出すつもりだったのだが、そちらは管理が厳しく、仕方なく 工学部の方に狙いを転じた。それが幸いしたらしく、メッキに使用する青酸ソ ーダを手に入れた。 致死量等はこれから詳しく調べてみるつもりだが、青酸系の毒物には即効性 があることぐらい、僕も知っている。こんな毒物こそ、僕が欲していた物だ。 実はいっとき、僕は毒物を盗まずに、睡眠薬を大量に買い込み、それをあい つらに飲ませて殺してやろうと考えていた。黒沼さんが味わった苦しみと同じ 苦しみを、あいつらに味あわせてやりたかったから。 しかし、致死量の睡眠薬を飲ませること自体困難であるし、そんなことをし ても黒沼さんの苦しみの何分の一をあいつらに味あわせられるのか、疑問だと 思い直した。 毒を使って殺すのは、田原の方だ。無理心中に見せかけるためには、田原が ふみえを殺し、自殺したように見せかけた方が説得力がある。 その理由に加えて、僕の貧弱な体格で田原に切りかかっていったとしても、 抵抗され、悪くすると返り討ちに遭ってしまうかもしれない。僕は田原との体 格差・体力差も考えに入れて、田原に毒を飲ませるつもりだ。 ふみえの方は刺し殺す。その凶器としてふさわしいのは、何だろう。 色々と考えるが、根本的に忘れてはならないことがある。田原が持っている 物でないと、凶器として使用できないという事実だ。 田原がふみえを殺し、無理心中をしたように見せかける計画であるのに、先 に殺されたことになっているふみえが、田原の持っているはずのない凶器で殺 されたと知れたら、不審に思われるに決まっている。 僕は田原がどんな『凶器』を持っているのか、知らない。それを把握できれ ば、同じ物を買って、殺人に使用してもいいだろう。もちろんのことながら、 田原が使っていた物そのものを用いることができれば、何の文句もない。 まだまだ、調べなければならない点はいくらでもありそうである。気は進ま ないんだが、これは一度、田原の家を訪ねておく必要あり、だ。そこを現場と して想定している観点からも、どうしてもしなければいけない。 一月一日(土曜日) 一年の計は元旦にあるという。 それが真に正しいのだとしたら、僕の殺人計画も、今日をもって完成させた 方がいいのだろうか。 いや……古人の言葉に左右されるな。惑わされるな。僕は自分自身で納得の いく計画をじっくりと練り上げ、完成させればいい。 新しい年を迎え、僕はさらに意志を固める。計画がより完璧なものになりま すようにと、初詣でお祈りしてもいい。 だが、実際は思うように進んでいない。正月は田原とふみえの二人とも、動 き回ってばかりでつかまえられないからだ。 それも今の内だけだ、お二人さん。三ヶ月もしない間に、おまえ達の命はこ の世からなくなってしまうんだからね。せいぜい、楽しんでおくことだよ。 ああ、早く戻って来い。計画が進められないじゃないか! これほどまでに、 田原の奴を待ち遠しく思えたのは、本当に久しぶりだよ! 一月十五日(土曜日) いつまで経ってもあの二人をつかまえられずにいたので、先に、やるべきこ とを一つ片付けた。 毒物調べ。 大学の工学部研究棟からから盗み出した青酸ソーダについて、その方面の書 物をあたってみた。 それによると、青酸系の毒物については、まだ不明である点も多いらしい。 即効性があるのはどれも同じだが、それを飲み下すことでどのような作用が 起こり、生物を死にいたらしめるのか、詳しくは分かっていないそうだ。胃酸 と反応して青酸ガスが発生、その気体が呼吸器系統をマヒさせるらしい。 死に至る過程や原因なんて、僕にとってはどうでもいい。なるべくなら、あ いつらには苦しみ抜いた末に死んでもらいたいが、それにも増して、重大なこ とがあると、僕は知らされた。 酸化についてである。青酸系の毒物は空気中ある一定の時間以上さらされる と酸化してしまい、化学変化によってその効力は失われてしまうらしい。 僕は慌てて、盗んだ毒物が密閉されているかどうか、確認した。幸いにも、 盗んだ青酸ソーダは、缶に入った新品で、密閉されていた。 しかし、これは危ないところだった。実は、殺人決行の一ヶ月ぐらい前に、 小動物相手に毒の効き目を確かめる実験をしてみようと考えていたのだ。そん なことをしていれば、殺人の日までに、毒の効力は全て失われることはないに しても、かなり劣ってしまっていたであろう。 もう、実験は行わないことにした。本で読んで、半数致死量の方も分かった。 完全に殺すために、多めに飲ませてやれば、どんな奴――田原のような腹黒い 野郎でも死ぬさ。 ――続く
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