長編 #4629の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
* * 一人になる時間ができると、相羽はこのことばかり考えた。 つまり−−雑誌を入れたのは誰か。そしてその理由は、という問題について。 (教室の窓は全部閉じられ、ドアも施錠されていたけれど、鍵は持ち出し自由 だもんな。これからは絞り込めないか。目撃者がいれば話は別だが、期待でき ないだろうな) 自室で机に頬杖をついて、たまに思い浮かんだ単語を紙に走り書きしながら、 可能性を探る。 (いつ置かれたのか不明なのが、痛いよな。昨日の放課後か、今日の朝早くの どっちかなのは、確実なんだが。 早朝に限定されるなら、絞り込みも簡単。僕よりも先に登校し、鍵を職員室 から持ち出し、また戻さなければいけないから、目立つだろうし。 火曜の放課後が含まれるとしたら、もうお手上げ。こうなると分かってたら、 遅くまで下校しなかったのに) 紙上の「動機」という単語に丸を付けた相羽。頭を切り替え、別方面から攻 めてみる。 (僕の机は教室の奥の方にある。だから、僕を狙ってやったのは、ほぼ間違い ない。でも、標的にされる理由が分からない。ああいうくだらない冗談をやる 仲間ならいくらでも思い付くけど、こんなに引っ張るかな? 今日の放課後に でも、すぐ打ち明けてくれそうなもんだ。 思い掛けず、持ち物検査があって、大ごとになったから、打ち明けづらくな った? 仮にそうだとしても、早く知らせてくれりゃいのに) 方法の面からも、動機の面からも、うまく行きそうにない。 (あとは、近くの書店を回って、あの週刊誌を買った奴を探し出す……という のも机上の空論か。メジャーな週刊誌だから、何冊も売れるに違いない。だい いち、学生服着ていくわけないから、店員の記憶に残っているとは考えにくい。 発売日から何か割り出せないか? 火曜発売だっけ。昨日、放課後すぐに買 って、学校へ引き返して仕掛ける……慌ただしい。何故、昨日発売の雑誌を悪 戯に使わなければいけないんだろ? もっと古いやつを使ってもいいのに。急 に思い付いた悪戯? だったら、昨日の放課後に決行するよりも、今朝の方が 楽なような気がする……。 あーあ、自力で見つけるのは無理かもしれない。他力本願、相手が動いてく れれば、ひょっとしたら……) かすかな望み。 しかし、それ以上に望んでいることがある。 (悪戯をした奴が、名乗り出てくれないかな) * * 普段の授業がなくなり、練習時間に当てられる頻度がぐんと上がる−−体育 祭が迫っていた。 総まとめ的な予行演習が終わったあと、純子は教室で着替えている際にある 話を持ちかけられた。 と言っても、話しかけられたのが自分だとはすぐには気付かなかった。レッ スンと体育祭の練習が重なる日も多く、疲れが溜まっているせいかもしれない。 「涼原さん! 聞いてる?」 「あ? はい」 服から首を覗かせると、白沼が苛立たしげに口を真一文字に結んでいるのが 見えた。きちんと両袖を通してから、純子は改めて謝る。 「ごめんなさい、聞いてなかった」 「……何だか最近、とろくなってない、あなたって?」 純子があっさり頭を下げたのに拍子抜けしたか、とうに着替えを終えた白沼 はため息をつきつつ言う。これが本題でないのは確かだ。 「あはは。そうかも」 思い当たる節があるので、笑ってごまかす。 「ま、いいわ。それより、リレーのこと」 今年の体育祭、純子はクラス対抗の女子八百メートルリレーにエントリーし ている。まずまず希望通りだが、これは運に恵まれたと言うよりも参加したが る女子が少なかったという理由が大きい。 なお、予行演習の今日は予選が行われ、六クラスの決勝進出チームが決まっ ている。無論、十組は男女とも予選レースをクリアした。 (白沼さんと一緒にやることになるとまでは、思ってなかったけれど) そう、同じチームに白沼もいる。 「念のために聞くわよ。足の調子はもういいのね」 「え? ええ、捻挫ならとっくに」 何を今さらと思いながら、小首を傾げる純子。 「だったら、今日のは何? 最後、ペースダウンしたでしょうが?」 「あれはセーブしただけ……怪我をしたら嫌だし、転んだら元も子もないから」 指差してきた白沼に少なからずかちんと来たが、純子は抑えた調子で答えた。 白沼は白沼で、一向に態度を変えない。 「そう? だったらいいんだけど、当日は全力でやって、絶対に一着になるの よ。特にアンカーは要なんだから」 「? は、はあ……」 これまでの練習では勝負へのこだわりを見せてなかった白沼が、急に態度を 変えたように思えて、純子はますます頭を悩ませる。 「でも、勝ち負けは運もあるから。そんな固く考えなくても」 「勝たなきゃだめなの。いい? リレーはクラス対抗種目であると同時に紅白 戦でも大きなポイントを占めてる。ここで頑張れば、一気に有利に」 「……」 不審に感じながらも、口には出せずにいる純子に対し、横から解説が入った。 「涼原さんたら、練習が終わったら速攻で帰ることが多かったから知らないよ うだけど」 声に振り返れば有村だった。笑みを絶やさぬ表情は端から見て気持ちがいい が、どこか面白がっている風にも受け止められる。 「男子との競争でもあるんだよね」 「競走? 女子と男子、別々でしょ?」 「やだな、きょうそう違いだって。男子にも同じ種目があるでしょうが。順位 を比べて、勝った方は負けた方の一人を指名して、文化祭の丸一日、言うこと を何でも聞かせられる」 「そんな、いつの間に決まったのー? だいたい、男子のリレーのメンバー、 速い人ばかり……向こうの一着は決定的だと思う」 相羽、立島、唐沢……とそうそうたる顔ぶれを思い浮かべる。後込みしそう になるのも無理ない。 じれたように白沼が言った。 「だからこそ、あなたに念押ししてるのよ。リードしてたら保つ、遅れていた ら巻き返す。全部、アンカーの役目」 強い口調に圧倒されてしまう。実際、ほんの少しだがのけぞりそうになった。 (そう言われても、責任全てを押し付けられちゃうのは、たまんない) アンカーを辞退しようかとさえ考えたが、思い直す。と言うよりは、別のこ とが気になった。 「白沼さんは勝ったら何を望むの?」 「どうでもいいでしょ、そんなこと。あなたには関係ないわ」 若干、舌の回転が速くなったようだ。 「でも。そんなに勝ちたがってるってことは、当然、あい−−」 「そうね、きっとあなたが思っていることで当たっているわよ」 おっ被せるように白沼は言う。 「だから、勝った暁には、邪魔しないでほしいわね、涼原さん」 「私、別に邪魔なんて」 (そんなことする理由ないし、具体的に白沼さんが何しようとしてるか想像で きたわけじゃないもん。関係ない) 純子が語尾を濁したのを、白沼は肯定と受け取ったらしく、そのままついっ と横を向いて行ってしまった。 「あ」 呼び止めようとして、やめる。 (どうしてこんなことになったのか、聞こうと思ったんだけどな) その理由は後日、別のルートから伺い知ることができた。 「唐沢君だったのね」 本人を前にして、純子は呆れ気味の息をついた。予想しないでもなかっただ けに、笑ってしまいそうになる。 と、洗い物をしていた手がストップしたのに気付き、すぐさま再開。調理部 の活動の後片付けだ。普段は一年生の役目なのだが、今日は「お客」がいたの で特別だ。 「いやあ、白沼さんが『そっちは練習しなくても勝てる自信があるみたいで、 うらやましいわね』なんて言うんだ」 いかにも心外そうに、お客の唐沢は握り拳を作った。彼の方もやはり部活帰 りで、調理部の本日の成果の味見に寄った次第。 「どうせ、リレーの練習時間に、女の子と話していたんでしょ」 町田が突っ込むと、「あの場にいなかったはずだが」と、今度は歌舞伎役者 みたいな言い回しで応じる唐沢。 「見てなくたって、分かるわ」 洗い上がった皿を拭く町田の手つきが乱暴になって、きききっと嫌な音を立 てた。唐沢は瞬時、目元をしかめたが、気を取り直した風に続ける。 「それでまあ、やる気を出すために勝負を持ちかけたら、白沼さんが乗ってく れたからさあ。こっちも楽しみが増えた……よな、相羽?」 「ん? 何の話?」 活動日誌を付けていた相羽は、筆を止めて顔を上げた。皆の会話をほとんど 聞いてなかったらしく、きょとんとしている。 唐沢は小さくにやっと笑って、台詞を多少変更した。 「リレーの勝負、勝ったらおまえはどうする?」 これには野次馬を決め込んでいた富井と井口も、気になった様子。片付けの 手をぴたりと休めた。 注目の中、相羽はいつもの調子でゆっくり応じる。 「さあ……勝っても負けても、大した差はないと思ってるから」 女性陣はほっと一息。 「な、何でだ?」 信じられんとばかり、相羽のいる四人掛けの机まで歩み寄ると、唐沢は両手 をどんと着く。その物問いたげな目を察したか、相羽は帳面を閉じた。 「勝ったとしたって特に何もないし、負けたら言うこと聞くだけだしな」 「もったいねー」 すでに勝利を確信している唐沢。オーバーにも頭を抱えると、しみじみした 風にこぼした。 「なんつー、もったいないことを言うか。しかも四人の内の一人−−涼原さん を前にして」 え−−と、目を向ける純子。 相羽も純子の方を見たが、すぐに視線を外した。 「それこそ勝ち負けと関係ないぜ。自分は調理部だもんな。文化祭当日は、ほ とんど一緒にいるだろうから」 「あ、ちくしょ。俺も調理部だったらよかった」 指を鳴らして悔しがってみせてから、純子に声を掛けようとした唐沢だった。 が、町田の存在が気になったか、未遂で終わる。 気を取り直したように手の甲で鼻の頭をこすると、唐沢は再び口を開いた。 「それにしても相羽クン。君は、女の子達と一緒にいるだけでいいわけだ」 「何のことだ?」 「俺なんか、リレーで勝ったら、ああしよう、こうしようと、色々な考えが膨 らんじゃって−−いてっ」 「下品な冗談はよしなっての!」 町田から厳しい突っ込みが入り、場は笑いに包まれる。 両手で防ぐポーズを取りながら、唐沢は強い調子で反論。 「待て、誤解だ。確かに冗談ではある。が、俺は具体的には何も言ってないぞ」 そして意地悪げに舌先を出す。 町田の手が再び伸びようとしたところをすり抜け、逃げ出した。小脇にしっ かりスポーツバッグを抱えて。 「考えすぎじゃないかな? んでは、今日はごちそうさんっ」 片手を振って、そのまま廊下へ。 「く〜っ」 町田が肩を震わせている後ろで、相羽がやれやれといった風情で嘆息する。 「どこまで本気なのやら……。純子ちゃんは勝ったときのこと、考えてるの?」 「え? え?」 くすくす笑いながら最後の一枚を洗い終わったところだった純子は、危うく 皿を落としそうになった。でも、どうにか難を逃れる。 「そうね。唐沢君の人気で、調理部のお店にお客さんを大勢連れて来てもらお うかなっ」 「それ、いいな。去年みたいな真似は疲れる。今年は裏方に……」 一年生のときの文化祭、仮装姿で客引きをしたことを思い出したのは、純子 も同じ。でも。 「だめよ。あなたには、調理部命令としてお客を呼んできてもらうから。ね?」 富井達に目配せするや、間を置かずに「うん!」という力強い反応があった。 「相羽君一人でも充分なぐらい、お客を呼べる。目立ちすぎるのは嫌だけど」 相羽は聞こえないふりのつもりか、また帳面を開いて何やら書き始めた。 −−つづく
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