長編 #4617の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
夜になるのが待ち遠しい。好きなテレビドラマもそこそこに、私は部屋にこもった。 テーブルに置かれたサターン・クロックの上に本がある。本は三センチ角の角材で 組んだ足場の上にのっている。角材のうち一本は、紐で結んであって、取り外しがき くようになっている。紐はモーターにつながり、モーターはデジタル表示のタイマー につながっている。タイマーは設定した時間に、決められた時間だけ、電流を流すよ うセットした。 実験してみる。 タイマーが働くとモーターが回り、紐を絡め取る。結ばれた角材が取り払われ、足 場が崩れた。最後に本が落ちてツノを押す。 アラームはオフになった。元の状態に組み立て直し、アラームをセットしなおした。 私は詩朗さんに逢うため、眠りについた。 夢の中、シティホテルのスイートルームは厳粛な華やかさを保っていた。私はク イーンサイズのベッドの上に横になり、窓辺で詩朗さんがたたずんでいるのを見つめ ていた。 「そっちに行ってもいいかな?」魂が震えるくらい優しい声だった。 私はただ無邪気にうなずいた。 詩朗さんがベッドに腰掛け、私の元に倒れこんだ。私の髪をかき上げ、そっと唇を 近づけてくる。 目が覚めるかな? 詩朗さんの呼吸を感じた。 たぶん、きっと、だいじょうぶ、このまま……。 詩朗さんの唇が、微かに触れた。 このまま、どこまでも……。 私の身体が堅くなった。 詩朗さんは私を抱きしめて、「亜希子」と呼び、そのまま身動き一つしなかった。 どきどきしているのは、どちらの心臓の鼓動なのか、分からなくなっている。 私の身体がとろけそうになっていく。緊張が解けて、うたた寝のような気持ちよさ が、私を支配している。 アラームを止めることに成功したんだ。心の片隅でそう考えていた。 詩朗さんの、私を抱きしめる腕に力がこもった。私は身を任せた。 私は夢を見ている。夢の中で夢を見ている。私の身体が暗闇に溶けていく夢を。身 体の感覚が失せても、恐怖を感じなかった。側に詩朗さんがいる、そう信じていたか ら。 月は群雲に隠れ、街灯だけが冷めた路地裏を照らしていた。 唐紙時計店の照明は消えている。 闇となった室内に押し殺した声が響く。 「俺の勝ちだな。亜希子は眠ったまま二度と目覚めることはない。自分で止める方法 を発見したのだからな」 「そうかしら。悪魔のテーゼは『愛』なんでしょう?」 詩織さんは、明かりのない室内で、椅子に座ったまま目を闇に向けている。 「悪魔のテーゼは『愛』だ。アンチテーゼは『残酷』。ジンテーゼは『契約』だ。だ から悪魔は愛ある心で契約は守る。それが時には残酷に結びつくがな」 「悪魔は契約を守る。絶対という言葉の元にね。――それでは訊くけど、説明書の記 載に偽りはないわよね?」 詩織さんは闇に向かって、一枚の紙を投げつけた。紙は漆黒の空間に、舞いながら 吸い込まれていった。 沈黙の気配が濃密になり、やがて言葉が生まれた。 「小娘が気に入ったのか?」 「死んだ妹に似てるわ」 「何百年たっても忘れられないのか……人間とは莫迦な生き物だな」 「そんな私が気に入ったんでしょう。詩朗は」 詩織さんの問いに答えは返らなかった。 闇が収束して消えていく。街灯の明かりが室内に射し込み、床に落ちた紙を照らし 出す。サターン・クロックの説明書だった。 詩織さんは拾い上げ、最後の一行を読み上げた。 『貴方の確実な目覚めを約束します』 踵を返すと、詩織さんのスカートが翻った。 「亜希子さん。この夢は、忘れたほうが幸せになれるわよ」 詩織さんの赤い口紅が微笑んだ。 ……遠くから目覚ましの音が聞こえてくる。 −−−−−−−−−−−−END
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE