長編 #4610の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
さすがにグラウンドでは、いくつかの運動部が朝練をしている。二人は距離 を置き、相前後して玄関口へ向かった。 「多分、日番より早いね」 靴箱の前で、おかしそうにする相羽。 その言葉を耳にして、純子は行き先を階段から職員室へ変更した。鍵を取り に行くためだ。 あとを追ってきた相羽と一緒に、職員室に行き、出入り口近くの鍵掛けから 二年十組の物を取り外す。 改めて教室に向かおうと、廊下を急ぐ。その途中、角を折れたとき。 「−−相羽君、涼原さん?」 白沼と出くわした。ともに立ち止まり、ぶつかりはしなかったが、びっくり したような表情を三人揃って作る。 「おはよう、白沼さん」 真っ先に口を開いたのは相羽。 「ひょっとして、今日の日番? だったら、鍵は取ったから」 右手を開いて示す。 が、白沼はそちらを見ることなく、純子に視線を向けてきた。 タイミングを計りかねていた純子は、急いで「おはよう」と言った。 「おはよ。二人とも、どうしてこんなに早く来てるのかしら」 「部活だよ」 間髪入れず、相羽が答えた。思わず純子が見上げてしまうほど、自然な流れ の台詞だ。 「調理部が早朝練習するの?」 案の定、白沼は訝しんできた。鞄を持ち替えると、右手の指先でこめかみの 辺りを神経質そうにいじる。 相羽は「とにかく教室に行こうぜ」と促し、歩き出した。純子と白沼も続く。 階段に差し掛かったところで、相羽が説明を始める。 「もちろん朝練なんかじゃない。昨日の活動で、ちょっと失敗があってさ。そ の後始末が、下校時間までに終わらなかったんだよね。それで、早めにやって 来て、片付けてたわけ」 「ふうん。相羽君達が? 一年生にさせるのが普通だと思うけれど」 白沼も鋭いところをついてくる。 二階に到着し、少しだけ間を取ってから、再び相羽。 「そりゃ、失敗の原因が僕らだから。吹きこぼれるのを見逃してしまって。ね、 純子ちゃん」 「え、ええ。そう」 嘘は苦手という自覚のある純子は、表情から悟られぬよう、顔を背けるので 精一杯。 「自分の失敗は自分で片を着けるもんだろ」 「なるほどね」 そんな言葉とは裏腹に、まだ疑わしそうに上目遣いをする白沼だったが、教 室のドアが相羽によって開けられると、日番の仕事を思い出したか、追及をあ きらめた様子。 加えて、相羽が「手伝おうか」と申し出たものだから、すっかり気分よくな ったと見える。破顔一笑して、 「じゃあねえ、ごみを捨てに行くの、着いてきて」 と遠慮なくリクエストをした。 相羽と白沼が教室を出て行くのを見届けてから、純子は席を立ち、窓ガラス を開けて回った。何となく、手伝っておこうという気持ちが起きたのは、嘘の 返事をした後ろめたさのせいかもしれない。 (私に比べたら、あいつの口のうまさ……。いつだったっけ。唐沢君が相羽君 のこと、理屈を考えるのがうまいなって言ってたの、大賛成だわ) 全てのガラス戸を開放し終わっても、白沼達は戻ってこなかった。純子は、 他にも手伝っておこうかと思ったが、出過ぎた真似をすると変に受け取られる かもしれない。結局、自分の席に落ち着く。 「ふあ……ねむ」 動き回ったことに加えて、ちょうど日の当たる時間帯。ぽかぽかしてきた。 残暑と呼ぶには穏やかな温もりに、瞼が閉じてしまいそうになる。 と言って、眠り込んでいられる状況ではなかった。目を瞼の上から指で揉ん だり、何度も瞬きしたり、あるいはこめかみを押さえたりと、努力する。 「お。涼原さん、何やってんだ?」 唐沢の声に顔を上げると、彼はすぐ隣にまでやって来ていた。 「お、おはよう、唐沢君」 おかしなところを見られはしなかったかと、早口で応じる純子。 「特に何をしてたってわけじゃ……。唐沢君はテニス部の練習?」 「違うんだな、それが。チケット買うためにコンビニにね」 近くの机に手をつき、気軽な調子の唐沢。 「チケット? コンサートか何かのね。だけど普通、十時頃から電話予約があ る……あ、そっか。授業中だわ」 「その通り。で、コンビニでも予約受け付けるとなってて、しかもそれが午前 七時から。女の子達のために張り切らせてもらいましたよ、俺は」 「また集団デートなのね」 さもありなん。くすくす笑ってしまった。 「唐沢君がみんなにおごってあげてるとか?」 「とんでもない。チケット代までは、手が回りませんねー。バイトでもできれ ばいいんだがな」 「バイトできる年齢だったら、女の子達におごってあげるの?」 「うーん、相手によるねえ。そうだな、涼原さんなら楽々合格」 「また、冗談ばっかり」 口を押さえて、声を立てずに笑っていると、唐沢の方も釣られた風に苦笑を 見せた。 「真面目な話で、涼原さんが好きな歌手って、誰だい?」 「うん−−どちらかと言ったら、曲で選ぶのよね、私って。最近なら、ドラマ の挿入歌を唄ってた香村綸とか星崎譲……あっ、未広鏡子(みひろきょうこ) も好き。グループだったら、URSやアースショットも結構聞いてるし」 「へえ、人並みにアイドルも好きなんだ。知らなかった」 唐沢のそんな口ぶりに、からかわれたような気がして、純子は急いで付け足 した。 「あと、鷲宇憲親の作る曲も感じが合うわ。外国人なら、カーク=オーヴァー ランドにアンブローシア、スリル。それから」 「そんぐらいにしてくれー。幅広いなあ。どのコンサートにしようか、迷うね。 外国人はなかなかチャンスないだろうけど−−」 「べ、別に一緒に行こうって言ってるんじゃないんだから」 慌てて両手を振る純子に、唐沢は普段よりずっと真顔になって、 「俺はそのつもり、あるよ」 と言った。 「え、それ」 台詞を遮る、レールを滑るドアの開閉音。 純子が意味を問い返そうとした折も折、白沼と相羽がようやく戻って来た。 「ありがとね、相羽君。あとは自分でやるから−−あら、涼原さん。唐沢君と 何か楽しいお喋りでも?」 よほど楽しいひとときを過ごせたらしく、白沼の物腰は流れるようで、調子 がいい。純子の「う、うん。まあ」という曖昧な返事もちゃんと聞いたかどう か怪しいもので、鼻歌混じりに日番の次の仕事に取りかかっている。 相羽はその間にも、純子と唐沢のいる方へ近寄ってきた。 「何の話してたの?」 「教養溢れる話題。主に音楽について」 「……好きな歌手とかどうとか、そういうことだな」 冗談混じりの唐沢の回答を、相羽はすぐに見破った。 「ばれたか。何て言うか、もしまたみんなで遊びに行くんだったら、コンサー トもいいなと思ったわけ」 「悪くないけど、小遣いが足りなくなるぞ。前の遊園地だってかなりかかった もんな」 「自分で選んどいて、なーにを今さら。過ぎたことをあれこれ言わない」 唐沢は景気よく笑ってから、純子へ視線を送る。 「てことで、ご要望があったら、いつでも言ってちょうだいな。任せてくれる んなら、こっちで決めるし」 「そう言われても……みんなで行くんだったら、日にち一つを取っても、簡単 に決められることじゃないでしょ? 普通、夜になるでしょうから、親の許可 ももらわなくちゃいけない」 難儀さに表情を曇らせる。でも、唐沢の方は慣れているのか、あっけらかん としたもの。 「平気平気。親は適当にごまかせばいい。集まって宿題やるんだとかね。日取 りの方は小さいとこ−−ライブハウスでよければ毎日みたいにやってる。案外 簡単に見つかるものさ」 慣れた調子は頼もしくさえある。ただ、声が大きすぎたかもしれない。 「相羽君達、どこかに遊びに行くのね?」 しっかり聞いていた白沼が、花瓶を手にしたまま肩越しに振り返る。 「私も一緒に連れてってよ。いいでしょう?」 疑問形ではなく、決めつけるような物言いの白沼は、そのまま廊下に出る。 花瓶の水を替えるためだが、この分だと、間髪入れぬほど素早く戻ってくるに 違いない。 「失敗したかな」 苦笑いを浮かべる唐沢に、純子と相羽はきょとんとして顔を見合わせた。 富井の第一印象とは裏腹に、紅畑先生の評判は日増しに高まっていた。特に 女生徒の間で。 「ねえねえ、聞いた? 紅畑先生の家ってお金持ちなんだって」 「山林を所有とかって聞いたけれど。それで、先生は別に働かなくてもいいご 身分」 「だからかな、教え方に余裕があるって感じ」 「美術じゃなくて、数学とかの担当だったらよかったのに」 そんな調子。 もっとも、男子から言わせるとさほどでもない。「女子には優しい、それだ けだよな」となる。この見方に賛成する女子は、富井らごく少数という状況。 「この子ったら、相羽君を叱ったからってだけで」 からかいの響きを含ませ、町田が肘でつつく。 と、白身を泡立てていた富井は身をよじって、その場を飛び退いた。 「痛いよ、芙美ちゃーん。そんなんじゃないってば……それもあるけれど」 本日の部活、相羽は欠席しているので、富井も遠慮なく(?)恥ずかしがっ ている。 ちなみに純子も今日は早めに帰らなければならない。ぎりぎりまで参加しよ うと思ったのは、相羽と揃って欠席するのを何となく避けたかったから。 「いい先生に見えたけど……そういうことがあったんなら」 井口も影響を受け、認識を新たに。 その変わりように、町田も純子も、果ては一年生部員の数人までも、呆れ顔 になったり、くっくっくと笑ったりした。 「いつまでいるのかなあ、あの先生。一ヶ月と言ったら……」 「体育祭の終わる頃? もうちょっとかしら」 よほど早く追い出したいのか、富井と井口はそんな話まで口にする始末。 町田の方は違う話題がほしかったらしく、考える素振りから一転、ぽんと手 の平を叩く。 「そうだわ。みんな、体育祭の種目、何に決まった?」 一年生からも答が返ってくる。中でも「ジェスチャーレース」との声には、 純子は心から同情した。 「仮装行列は? 結構、楽しみにしてるんだけどな」 問い掛けながら、にこにこ笑う町田。どれほど笑わせてもらえるか楽しみに している、そんな意図が見え隠れしている。 「野球漫画のコスプレ」 「まだ決まってないんですー」 「不思議の国のアリス。脇役はみんなトランプの兵隊で」 「わけ分かんないんですけど、和風白雪姫」 多種多様な仮装が見られそうで、確かに楽しみではある。 (そう言えば、恵ちゃんのとこは何だろ? あの子、案外強引なところあるか らリーダーシップ取って、ひょっとして古羽探偵……まさかね。そんなことし たって、大多数は知らないんだから意味ない) 突拍子もない想像を打ち消すと、一人笑みがこぼれる純子。 「クラブ対抗の種目って、ないんですね? 私のお姉ちゃんの高校では、クラ ブ対抗のリレーをやるんですけど」 「ははあ、なるほどねえ。そういうのって、文化系のクラブにリレーの練習す る時間があるのかいな」 「そこまでは聞いてません。多分、ぶっつけ本番」 皆の楽しげな会話に、少し後ろ髪引かれる思いもあったが、時間が迫ってい た。純子は頭の三角巾を取ると、手早く畳みながら言った。 「悪いけれど私、この辺で」 −−つづく
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