長編 #4603の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
八月末が迫ってくると、恒例の宿題片付け共同作業が始まる。 純子達が集まる場所は、いつも通り、町田の自宅。 「唐沢の奴、悔しがってたのよねえ」 休憩を取っているとき、町田が嬉しそうな顔をするから、理由を尋ねてみた ところ、返ってきた答がこれだった。 「悔しがってたの、どうしてぇ?」 富井が重ねて質問する。焦らされて、いらいらしているように見受けられた。 「人気が落ちてきたってね。いいことだわ、うんうん」 腕組みをして、満足げにうなずいた町田。 聞き手にはまだ話が見えてこない。今度は井口が聞いた。 「唐沢君の人気が落ちてるって、ほんとに? 何でまた……」 「相羽君の人気が上がってるからみたいなんだな、これが」 「ええーっ?」 三人で声を揃えて反応してしまった。 町田はかまわず、人差し指を振って説明する。 「林間学校で一人の女の子を助けたことが、広まったのね。格好いいわ、頼り になるわって。これまでの静かな想いから、一気にブレイク!ってなもんよ」 「ちょ、ちょっと。その女の子って、私……?」 純子が確認を取ると、町田は何を今さらという風に見つめ返してきた。 「私も一緒にいて、足をくじきたかったなあ」 「そうそう。思いっ切り、相羽君に優しくしてもらえたはず」 富井と井口が憧れるように見やってくるので、純子はふるふると首を横に。 「そんな楽しいものじゃなかったのよ。道に迷うし、動けないし、雨に降られ るし……雷も」 「相羽君がいてくれたらいいんだもん、ねー」 富井の喜色溢れる様を目の当たりにし、いくら言っても無駄だと判断した純 子は、あきらめの嘆息をした。 (だいたい、相羽君には本命の彼女がいるのに。今でも会ってるぐらいだから、 つながりは強いみたいよ……と言ってあげられたら楽なんだけど、確かめてい ないし) 「それより、その相羽君や唐沢君達、まだ来ないね」 壁の掛け時計を見上げると、三時半を過ぎていた。 きちんとした時間を決めなかったものの、今日の宿題の教え合いに足を運ぶ 約束は取り付けてあるのだ。 「早く来ないかなあ」 「そだね。分からん問題、相羽君頼みだわ」 井口、富井が相羽を心待ちにする理由と、町田のそれとはかけ離れているら しい。 純子自身は……自分でもよく分からない。とりあえず、ハンカチとミサンガ を渡すのだけは忘れないようにしようと誓っている。 町田がぽつりと言った。 「ま、もうすぐ来るでしょ。プレイボーイの誰かさんはすぐ近くにいるんだし」 * * 相羽は少しだけ、焦りを覚えていた。 「わざわざ学校に集まるなんて、どうかしたのか?」 校庭の片隅で、招集を掛けてきた本人達、唐沢と勝馬に尋ねる。 「急がないとまずいだろ。特に唐沢なんて、すぐ近所のくせして、どうして学 校に」 「話があるのさ」 唐沢がにっ、と笑む。 「だから何の話だっての。町田さんとこでしちゃだめなのか」 「だめだから、こうしてるんだよ。−−林間学校でのことだけどな」 「あ?」 「どうだったんだ、相羽。え?」 唐沢が気のない風を装いつつ、質問してきた。勝馬の方は舌なめずりを一度 し、興味津々といった具合。 「どうって何が。はっきり言えよ」 「やだねえ、相羽クン。おとぼけちゃって。涼原さんを抱いたんだろ?」 「だ……」 さらににやけて肘で小突いてくる唐沢の前、相羽の目元に赤みが差す。 「抱き心地、よかったか?」 相羽は大きなため息を吐き出した。 「唐沢、言葉は正確に使おうぜ」 「間違ってたか?」 「抱くってのが違うだろうが。おんぶしただけだよっ」 「おんぶってどういう風に」 勝馬が具体的に聞いてきた。 相羽は顔をしかめたものの、あのときのことを正しく伝える努力をする。 唐沢と勝馬は聞き終わると、またにやにや笑いを始めた。 「それだと、足に触ったわけだな」 「そ、それはそうだけど。触れずにどうにかなるもんじゃないだろ。安定して 担ごうと思ったら、ああするしか」 「その上、胸が当たったんじゃねえの?」 「−−」 相羽の顔色は一段と赤くなる。 「ちっさくても、あるもんな。背中で感触を味わった気分はどーですか」 「案外、大きかったとか」 二人して問い詰めてくるのを相羽はにらみ返した。 「いい加減にしろよ、おまえら」 声変わりもほぼ終わった低い調子で、牽制するように言った相羽に対して、 唐沢達は意に介さず、「いいな、いいな」と合唱。 呆れた相羽は背を向け、立ち去ろうとする。 「もう知らんっ。先に行くからな」 「まあまあ、待てって。くだらん助平話はここまでにしてだな。実際のところ、 どうなんだ」 相羽の正面に回った唐沢は、先ほどとは打って変わって真面目な口振り、真 面目な表情になっている。 「分かり易く言ってくれよ」 「おまえが涼原さんをどう思ってるのかってことさ。さあ、分かり易く答えて くれよ」 反応が楽しみでならない風情で、唇の片端を上げる唐沢。 だが、相羽はためらうことなく即答した。 「大事な友達の一人だ」 「……分かり易くないなぁ」 「何て言われたって、それ以外に答えようがない。だいたい、唐沢、君は答を 決めてかかってないか? 悪いな、期待に添えなくて」 「なるほど。さすが、言い逃れが上手だねえ。いつだっけか、白沼さんから腕 時計をもらったときもそうだったよな」 唐沢の追撃を聞き流し、今度こそ出発しようと自転車に跨る相羽。 「先に行く」 * * 男子達がまだ現れないのをいいことに、その手の話題を続けていた。 「芙美。唐沢君のこと、どうして毛嫌いするの」 前々から気になっていた点を、お節介かなと思いつつ尋ねてみる純子。 町田は口をぽかんと開け、そして閉じると手の甲で拭い、やおら答え始めた。 「毛嫌いってほどじゃないわよ。前にも言ったでしょうが。そんなんだったら、 グループデートになんて最初から加わらない。スケートやお花見だって」 指折り数える町田。純子はけれども合点が行かなかった。 「確かにそうだけど。それにしても、唐沢君の話になると、口ぶりが乱暴にな る……呼び方も」 「いいじゃない、別に」 素っ気ない返事に、純子は首を振った。 「よくない。折角なんだから、仲よくしよ。唐沢君だって芙美を相手にしてる と、最初の頃と違って、段々と荒っぽい喋り方をするようになってるわ。あの 唐沢君が、女の子相手にあんな口調−−普通じゃないと思う。内心、怒ってる のかも」 「−−わははは!」 風船が破裂したみたいに、爆笑を始めた町田。 これには純子だけでなく、二人で話し込んでいた富井と井口も何ごとかと首 を向けた。 「はははは。いやー、おかしいわ。おかしすぎる。でも、純はあいつの正体、 知らないから仕方ないか」 「正体って」 小首を傾げる純子に、町田は人差し指を立てて説明を加えた。 「女子大勢を相手にしてにやけてる方が猫かぶりで、乱暴に喋ってるときこそ 地なのよ、地。怒ってるんじゃないって。万が一、怒ってるんだとしても、私 にゃ関係ないですわよ。おほほ」 目配せしてから、いかにも作ったような笑い声を立てる。 純子は再び首を傾げたが、すぐに納得。 「そうなの? 幼なじみの芙美が言うんだったら、当たってるのかな……」 「幼なじみがどうこうだなんて、おかしな言い方しないのっ」 怒ったふりをしてから、町田はにんまり笑って、付け足し。 「郁も久仁も聞いてほしいんだけど、あいつは猫かぶってるのよ。いい男ぶっ てね。ま、幸い、うちらに興味を示してないという、全くもって見る目のない 奴だから、今はいいかもしれないけどさ。万が一、向こうからアプローチして きたら、びしっと断るのが一番」 「一緒に宿題やること自体、唐沢君とすでに仲よくしてるような気もする」 井口が冷静に指摘するが、町田は折れなかった。 「そういうのは含めません。あいつが一人で、女子が複数ってパターンにはま るのだけはやめましょうってこと」 「それは絶対にないよー」 井口が富井とうなずき合う。次に口を開いたのは富井。 「だってぇ、相羽君がいないと意味ないもーん」 「……あんた達には言う必要なかったわね」 頭をかく町田であった。 そこへようやく、呼び鈴の音。まるでタイミングを見計らっていたみたいに、 相羽の声が元気よく響いた。 「こんにちは!」 対して、「わ、来た!」と一番に声を上げたのは富井、次に井口だったが、 行動を起こすのは町田が早い。無論、ここが彼女の家であるという理由も大き いには違いないが、玄関へダッシュ。 純子達もぞろぞろと着いて行った。 「やあっと来たわね……おっと、唐沢のおばかは? それに勝馬君も」 「もう少ししたら着くと思うよ。−−お邪魔します」 靴を脱ぎ始める相羽。 「町田さんのお母さんやお父さんは?」 「例によって留守。と言っても、今日は仕事じゃなくて、水入らずのデート。 我が親ながら、あの年齢でよくやるわ」 相羽へスリッパを差し向けると、町田は西洋人がよくやる風に、肩を大げさ に上下させた。 「ま、そのおかげで遠慮は無用だから。それよりも、何で残りの男子が遅れて るわけ?」 手提げ鞄を片手に勉強部屋に向かう途中、町田に問われ、相羽はあとに続く 純子達の方を向く。そしてまた元通りに。 「ちょっと。あの二人から逃げて来たものでして」 部屋に入ってから、改めて純子達三人にも挨拶をした相羽。 時をほぼ同じくして、再び玄関方向が騒がしくなった。唐沢達の到着らしい。 −−つづく
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