長編 #4601の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
清水だった。ボートを引っ張っているのは、大谷と勝馬。 「な……」 「立島達の様子、探ってただろ? ずっと覗いてるのかと思ったら、意外と早 くやめたな」 ボートの中、立ち上がろうとする清水。見下ろそうというつもりだろうか。 「そう言うあんたもね」 町田が近付き、ボート表面をぼこんと一撃。清水は敢えなく転倒した。 「いってなあ。何するんだよ!」 「男の覗きは趣味悪いわよ」 せせら笑う仕種の町田に、勝馬がボートから伸びる紐を握りしめたまま、立 ち泳ぎをしながら、「男女差別反対」と訴えた。 町田は黙ってうなずいただけでその意見をあっさり無視し、 「それはそうと、あんた達三人だけで来てるの?」 と尋ねた。 「おう。部活が休みだから、暇ができて。金も掛からず、それなりに遊べると ころって言ったら、近場じゃここぐらいだろ」 何故か偉そうに語る清水。 純子は、さっきから気付いていた。 (清水……目を合わせようとしない) 何となく違和感があった。純子自身、告白されたときのシーンが二ヶ月ほど 経った今でも蘇ってきて、多少なりとも心穏やかでなくなる。 町田は勝馬を掴まえ、話を続ける。 「相羽君や藤井君、柴垣君とかは誘わなかったんだ?」 「いや、誘ったことは誘った。でも、みんな都合が悪いって」 「そう」 返事は勝馬に対してのものだが、町田の視線は富井達に向けられた。当てが 外れて残念ね、とばかりに。 一方、何か喋ろうときっかけを探していた純子。ふっと思い出したことが。 「……あ。大谷君、怪我は治った?」 「はい? あぁ、あんなもの、とっくに」 水面から片方の足先を覗かせ、準備運動するかのようにぐるぐる回してみせ る大谷。 「大したことなかったんだ?」 「うん。あれえ、心配してくれたのか」 「……そうよ」 冗談のつもりで言ったらしい大谷は、純子の答に目を見開く。一瞬、喜色が 広がった。 「だって、ただでさえ頼りない野球部の戦力が、ますますダウンするもんね。 もう三年生が引退の時期でしょ。あんた達に頑張ってもらわないと」 純子が少し意地悪げに笑うと、大谷は大げさな身振りで水中へと転んだ。 「す――涼原、それはないだろ。先輩が抜けたから仕方なく、じゃねえぞ」 清水がやっと話しかけてきた。 純子はどこかほっとした気持ちになり、肩で大きく息をする。 「そうよね。頑張って練習してるところ、よく見るわ。応援にはなかなか行け なくて、悪いんだけれど……」 「ふん、気にしなくていいぜ。おまえらが見に来て、きゃあきゃあ騒がれたら、 気が抜けて負けちまうよ」 「しょ、背負ってるー」 それだけ自信を持ってやっているなら大丈夫よねと、純子は胸をなで下ろす 思い。誰のせいでもないとは言え、告白を断った影響が悪い方向に出ていたと したら、やはり気になってしまう。 「涼原達は、昼飯食ったのか?」 「ううん、まだ」 唐突な質問に戸惑いつつも、首を振る純子。 町田ら三人がさざ波を立てて近寄ってきたので、どうしようかと話を振る。 「んなこと聞くからには、おごってくれるのかな?」 町田が目を細め、薄笑いとともに清水を指差した。 「だーれが! 聞いてみただけだっ」 「そお? 男ばかり三人で食べるのも味気ないなあ、なんて考えたんじゃない のかしら」 「万が一、そう思ったとしたって、おめーらには声を掛けるかってんだ」 「そうだそうだ。同じ席で食えるか」 大谷が復活して、後方から声を送る。 いつもなら怒り出すところだろうけれど、今日の町田はあくまで自分のペー スを崩さない。 「ほほう。折角、勝負しようと思ったのに。お昼御飯を賭けて」 「なぬ?」 「そう言うのなら仕方がない。行こっ、みんな」 「ちょ、ちょい、待った」 プールサイドへ向かおうとした女子四人を、ボートの上から清水が呼び止め、 さらに水中へ飛び込む。一流の飛び込み選手みたいに、しぶきがほとんど上が らなかったのは偶然だろう。 「あら、何かしら」 「話、聞くだけ聞いてやる」 「無理しなくていいのよ」 素っ気ない態度を通す町田に、他の三人にも徐々に意図が見えてきた。 「無理なんかしてねえよ。時間だけはたっぷりあるからな。で、勝負って何の 勝負だ?」 「プールに来てるのだから、決まってるでしょうが。水泳よ」 町田は得意げに言った。 「これだけ混雑してるのに競泳?」 女性陣からも疑問が飛ぶ。 「競泳とはちょっと違う。互いに代表一人を立てて、流れるプールを早く一周 した方が勝ち。どう?」 「負けた方は全員で、勝った方に昼飯をおごるのか」 大谷の確認に、大きくうなずいた町田。 そこへ勝馬が身を割り込ますようにして異議を唱える。 「待った待った。そっちは四人でこっちは三人。負けたとき、俺達の方が損だ よな」 続いて「言われてみれば……そうだそうだ!」と清水達が騒ぎ出すのを、町 田は意地悪げな笑顔で押さえ込みにかかった。 「あれえ? 最初から負ける気なのね」 「それに、そっちが勝ったら、私達四人でおごるのよ。少し高めでも大丈夫な んだから、得じゃない?」 井口も追い打ちをかけて挑発。 話はまとまった。 話し合いという名の多数決で、純子が女子の代表に推された。泳ぎはさして 得意ではないが、体力面では抜きん出ているからという理由だ。 男子の代表は清水。 普通の競泳ならば、清水が圧倒的に有利。運動部に入っている男子には、ち ょっとかないそうにない。 でも、今から行うレースは普通ではない。蛇のように曲がりくねった流れる プールを、その水流とは逆向きに進み、とにかく早く一周すればいいのだ。し かもコース上にはたくさんの障害物――他のお客さんがいる。どちらにも勝機 がある、ゲームのようなもの。 「当然、相手を引っ張って邪魔するなんてのは禁止。それに、コースから上が って、走るのもだめだからね」 提案者の町田の注意に、純子はこくりとうなずき、清水は「分かってるよっ」 と乱暴に答える。スタート体勢に入り、気がはやっている様子。 「用意――ドン!」 富井の高い声、そして振り上げられた右手が開始の合図。 純子と清水は同時に飛び出した。 差はほとんどなし……いや、純子の方が少しずつだがリードを広げていく。 スリムな体型が奏功していると言えそう。対照的に清水は大きく抵抗を受けて いる。 (このまま行ければ……なんて甘いかな) 幾度か振り返りつつ進む純子。 果たして、急なカーブを乗り切ったところで、先を小学生の集団に遮られた。 三年生ぐらいだろうか、周囲をちっとも気にせず、十名ほどの彼ら彼女らは 思い思いにはしゃいでいる。「通して」と口に出しても、騒がしさに聞こえな い。耳に届いたとしても、素直に退いてくれるかどうか怪しいもの。 純子は大回りをして子供達を避けるコース取りを真っ先に考えた。が、やっ てみようとして、流れに足を取られそうになる。ちょうど噴出口があるのが分 かった。ジェット水流が作る渦は、その勢いの強さを主張していた。 どうしようかと立ちすくんでいると、清水がばしゃばしゃと音を立て、おま けに何やらわめきながら追ってくる姿が視界に入った。このままではみすみす 貯金を使い果たしかねない。 (押し流されるよりは) 純子は覚悟を決め、子供の一団にすーっと近寄る。横泳ぎの要領だ。 「ごめんねー。ちょっとだけ。通してくれる?」 効果を期待せずに注意の喚起を促してみると、言うことを素直に聞いてくれ る子も一人二人はいた。が、大部分はやはり、見知らぬおねえさんの存在など 目に入らないものらしい。純子は身体のどこかを都合五回は蹴られた。 力が弱いため痛くはないが、予想が付かない方向から衝撃が来るので、びっ くりしてしまう。 加えて、どこから伸びてきたのか、子供の手が頭に当たって、水泳帽がずれ た。一旦脱ぎ去り、被り直そうとしていると……。 「涼原ー、災難だなー」 声に顔を上げれば、いつの間にか清水が先んじている。どうやら体力を活か して、きつい逆流の中を泳いだ(歩いた?)ようだ。 「お先に、なっ」 余裕を示したいのか、振り返って片手を振る清水。 「待ちなさいっ。勝負はこれから」 純子は精一杯、足を踏み出した。焦る気持ちから、帽子は持ったままだ。 ところが、きれいな再スタートとは行かなかった。土踏まずに異物の当たっ た感触が起きる。 「え――あっ、ごめんなさい」 子供の足を踏んでいた。 その男の子は比較的大人しい性格なのか、踏まれたまま、怒るでもなく叫ぶ でもなく、純子の方をじっと見上げてきている。 純子は飛び退き、目の高さを合わせた。 「大丈夫? ごめんね、私の不注意で……痛くなかった?」 尋ねても、なかなか返事がない。純子から視線を外すと、近くにいた女の子 を手招きした。さも内緒話をしますよという風に、耳元へ口を近付けると、そ の様を見られないように手で隠した。 耳打ちが終わると、女の子も純子をまじまじと見つめてきて、「うん」と大 きく二度うなずいた。 (な、何なのよ〜っ) レースのことは一時忘れ、純子は動くに動けなくなる。片腕を胸の前に持っ てきて、その手の中で水泳帽を握りしめる。判決を待っている気分だ。 その直後、女の子が叫んだ。 「おねーさん、フラッシュ・レディでしょう!」 勝てる勝負を落としてしまった――そんな思いから、純子は悔しさでいっぱ いだった。 (みんなにも合わせる顔が) しょんぼり、肩を落とし、男子がホットドッグやら焼きそばやらを選ぶのを、 離れた位置で待つ。 「第二小の子達が来てるなんて、計算外だったわ。ううん、いてもちっともお かしくないんだけど、そこまで考えが回らなかった」 財布の中を覗き込み、心配顔を作る町田がぽつりとつぶやく。 確認したわけではないが、純子がレース中に遭遇した小学生の集団は、同じ 第二小学校の後輩らしかった。 もしそうでなくて、第一小の子達だとしても、大差はない。要するに、この どちらかの小学校の児童で、純子達の中学校の体育祭を見に来る割合はかなり 高いのだ。あの子達も、去年の体育祭に来て、仮装行列でフラッシュ・レディ を演じた純子の姿を覚えていた次第。 「それにしても一年前でしょぉ? よく覚えてるわよねえ」 呆れている様子の富井。 ――つづく
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