長編 #4547の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「吉兵衛、あの洞穴にいた美しい娘はおぬしの娘か? やはり、わが殿にみそめ られたのか?」 「はい、左様でございます」 「そうか、でもなぜ城に上がらせないのじゃ。城に勤めるというのはたいそうな 名誉ではないか」 「荒井さまはご存じないのか。城に上がった娘たちがどんな仕打ちを受けるのか」 又え門はうなずきました。 「側室たちから相当ひどい目に遭うらしいな」 「はい、そうでございます。喜び勇んで城に上がった娘たちが、発狂寸前で暇に 出されるというのが続いています」 「それでおぬしも竜にさらわれたことにしたのか」 「はい」 「しかし吉兵衛、なぜ、竜なのだ?」 「はい、それは他の村で、竜が現れては娘をさらうという話でしたので、それを 真似ただけでございます。この弥助が鉦鼓洞の潮吹きを知っておりまして、わた しに教えてくれました」 「それであの島に娘を隠したというわけか。ふーむ」 とりあえず、鉦鼓洞の竜の謎は解けました。やはりこれも作り話。ところが、 又え門にはもうひとつの仕事が残っておりました。 「まあ事情は分かった。わしの想像していたとおりだったな。しかし吉兵衛、わ が殿の命だ、おぬしの娘は連れて帰らねばならぬ。竜の噂の真相を知った今、娘 をあの島に隠したままでは、おめおめと城へは戻れぬからな」 「なんだとお」 今度は弥助です。とうとう立ち上がりました。吉兵衛があきらめ顔で弥助を宥 めます。 「荒井さまもお勤めなのだ、仕方あるまい」 壱の浦からの小舟には、弥助、又え門の他に吉兵衛も乗り込みました。一路、 鉦鼓洞の島へと向かいます。海は風がようやく出始めて、舳先の風車も回りだし ました。今度は弥助も真っ直ぐに島へと向かいましたから、あっという間でした。 三人は岩場に乗り移り、小舟は島の岩場に引き揚げられました。 「美津(みつ)出ておいで。もう隠れている必要はない」 吉兵衛が声を掛けると、娘が顔を出しました。 「お父っつあん、危ないよ。竜が帰ってきたよ」 美津は手で掻き出すような仕草をしました。出ていけという合図のようです。 「いいんだよ、美津。もうお芝居はいいんだ。こちらの荒井又え門さまといっし ょにお城に上がるんだから、支度をしなさい」 頭を振り振り吉兵衛が呼びかけますが、美津は後ろを気にしながら同じ言葉を 繰り返しました。 途端に地面が揺れ始めます。奧から唸り声も低く聞こえます。弥助が素っ頓狂 な声をあげました。 「あれえ、潮吹きの時刻にはまだ早いぞ、どうしたんだあ」 洞窟の揺れはますます大きくなり、奧からの風も強くなります。美津は心配そ うな顔のまま、岩陰に隠れました。洞穴の入り口で三人は立ちすくんだままです。 突然、耳をつんざくような大きな声が三人の鼓膜に響きわたりました。これは 尋常ではない・・・と三人が三人とも思ったときには、すでに体は凄まじい突風 に煽られ、宙に浮いていました。 あっと言う間もありませんでした。三人は猛烈な勢いで海へ向かって吹き飛ば されました。 海の中で弥助が一番最初に正気に戻りました。 海面を見回しますが、他の二人は見当たりません。すぐに岩場に泳ぎ着き、小 舟をおろしました。美津が洞穴から出てきています。 「弥助さん、お父っつあんは・・・」 「大丈夫だ。すぐに見つける」 弥助は小舟に飛び乗ると漕ぎ始めます。目はせわしなく海面を走らせます。幸 いにも又え門と吉兵衛はすぐに見つかりました。又え門はしっかりと槍をつかん で、泳いでおりました。 二人を小舟に引き揚げると、弥助は再び鉦鼓洞へと向かいました。又え門と吉 兵衛は小舟の舟底に横になって一息をつきます。舳先の風車が勢い良く回る音が 聞こえます。 「すごい潮吹きだったな」 青い空を見上げながら又え門は感心したように呟きました。小舟は弥助の漕ぐ 櫓に合わせて、ゆらゆらと揺れていました。吉兵衛も横になって、放心したよう に空を見上げています。 その時、青い空を黒い影が横切りました。 「なんだ?」 大きな鳥のようでもあります。二人とも、がばりと起きあがりました。空を見 上げて影を探します。二人の様子がおかしいので、弥助もつられて空を見上げま した。 黒い影は空高くふらふらと舞うように飛んだかと思うと、ものすごい速さで海 に向かって急降下し島の裏側に消えました。 しかし、その異形な様は目に明らかでした。大きな丸いからだの両脇に鋭く伸 びた手のひらのような翼、ぴんと長い二股の尾、丸い胴体は前に向かってくびれ、 先は七つに分かれていて、その先端に鋭角の頭がついていました。 三人は息を飲みました。 「あれは竜ではないか」 最初に口を開いたのは又え門でした。 「おお、おお」 吉兵衛は言葉になりません。弥助も呆気にとられたように空を見ています。 「お美津さんの言ったとおりだ・・・」 弥助のつぶやきを、又え門が聞きとがめました。 「なんと言うた? 美津が言っていた竜というのがあれなのか?」 「いやさ、おれもこの目で見たのは初めてだが。確かにお美津さんが教えてくれ たとおり、頭が七つもありやがる」 「うーむ、竜がまことにいるとはなあ。うーむ」 唸ってしまう又え門です。吉兵衛は声なく、ただただ竜が飛び去った辺りをぽ かんと見つめています。いつの間にか小舟は島に着いていました。美津が岩場の 上に立っています。 「荒井さま、あたしを連れて行かれますか?」 「い、いや。待て、待て、わしは竜の所在を確かめに来たのじゃ。美津、今しが た空を飛んでいったのが竜か?」 「はい、その通りでございます」 「ふーむ。藩内のあちこちで起きている竜の噂は本当だったか。あんなに速く空 を飛ぶのでは、調べに当たった者が竜を見つけられなくても不思議はないわな。 そうすると、竜が連れ去ったという娘たちもここか」 「はい、洞穴の奧に、皆無事でおりまする」 「ふーむ。あい分かった。それじゃあ、帰るぞ、弥助」 「へっ?」 弥助が飛び上がりました。吉兵衛も怪訝な顔つきです。 「荒井さま、娘を連れて帰らないのですか?」 「弥助、漕げ」 又え門は難しい顔をして、吉兵衛の問いには答えようとはしません。目を閉じ て考えるような仕草です。美津が見送る中で小舟は島を離れました。 小舟は凪の海を進みます。しばらく黙り込んでいた又え門が壱の浦の近くにま で来てやっと口を開きました。 「あれほど娘たちが城へ上がるのを嫌っておるとはのう、わしはまったく考えが 及ばなかった。竜まで使って娘たちが身を隠してしまうとはな。しかし、娘たち は何とかもとの村に戻してやらんといかん。のう、弥助」 「ふん、そんなことは当たり前でえ。城に来いなんていう勝手な命令をやめてく れればいいのさ」 「そうよ、その通りだ。ま、確かに竜は見させてもらったから、これでわしは帰 る。そしてわが殿に進言しよう」 これには吉兵衛が驚きました。 「荒井さま、それではわたくしどもにはお構いなし、ということでしょうか」 「まあ、たぶんな。それより吉兵衛、お主はすごい男を近くにおいておるな」 又え門は弥助を見やり、ニヤリとしました。 「大凧というたか、忍びの術に人間を空に飛ばす技があると聞くが、あの竜もそ のような技を使うのかの」 弥助は何も言わず、ニヤリと笑い返しました。吉兵衛だけが「恐れ入ります」 と小舟の底板に頭をこすりつけたのでした。 (鉦鼓洞の竜・了) 蛇足:弥助は、あの有名な「風車の弥七」とは別人だと思います。
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