長編 #4538の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
入場料は中学生にとって、決して安いくはない。みんな、元を取ろうと気合 いが入る。 「入場料の他に、マシンに乗るのにも料金払うのって、日本ぐらいなものなん だってさ。最近はだいぶ減ってるみたいだが」 こういうことには詳しいらしい唐沢が、料金表をにらみながら喋る。フリー パスを買おうかどうしようか迷っているのだ。 「おーい。何時頃までここで遊ぶ予定になってるんだ?」 「みんながその気になれば、ずっとここでもいいさ。あとの計画はなしにして」 答えるのは無論、相羽。 唐沢は腕組みをして「むう」と唸ると、他の面々を見やる。 「どうする?」 「自分はどっちでもいい」 近くにいた勝馬から答える。次いで、遠野も同様の返事をした。 主張があったのは富井から。 「相羽君が立てたスケジュールでいい! 折角考えてくれたんだもん」 「隣に同じ」 井口は調子を合わせると言うよりも、本心から意志表示した。 一方、町田は実際的な意見を述べる。 「ひとまず絶対に乗りたい物の料金だけ合計して、フリーパス買うべきかどう か決めたら?」 「待ち時間の問題があるからな。絶対に乗りたいと思っても乗れないことだっ て……。まあ、何とかなるか」 唐沢は腕組みを解いて、財布に手を伸ばす。 「そうそう。考える分、時間の無駄だ」 相羽が同調し、皆を急き立てる風に手を振った。 「こうしている間にも、スケジュールがずれてしまうよ」 結論としては、全員がフリーパスを買い、腕にその証であるバンドを付けて もらった。ただ一人、遠野だけは、 「私、あんまり乗りたがらないと思うから……」 と、遠慮したそうであったが女子四人がかりで説得した次第。 朝の少しでも空いている時間帯に、人気のある施設を回る−−これが作戦。 いや、作戦と呼べるほど立派な物ではないが。 ともかく、そのつもりで巡っていくと、絶叫マシンと呼ばれる物に立て続け に乗ることになるのが必然。 さて各自の反応であるが、相羽は恐がるのではなしに、まさしく楽しむ様子 で声を張り上げる。勝馬は基本的に苦手らしく、並の恐怖を感じる物には素直 に絶叫していたが、限界を超えるほど恐い物−−彼にとっては自由落下系のマ シン−−に乗ったときは声はなく、ただただ表情を強張らせていた。唐沢は何 だかよく分からない。と言うのも、やたらと他の者に話しかけてくるのだが、 それが恐怖心を紛らわすための行為かどうか、外見からは判断できないのであ る。 一方、女性陣では、最もにぎやかだったのが富井。面白がっているのか本当 に恐がっているのか、とにかく叫びまくる。井口はどちらかと言えば大人しめ。 相羽達男子に見られていることを意識した節が見受けられなくもない。町田は 表面こそ冷静を保とうとしていたが、三つ四つと乗りこなす内に、足元がおぼ つかなくなった。 「うーむ、身体は正直だわ」 町田が心情を吐露したのは、唐沢がいないときを見計らってであった。 純子は至って普通。人並みに高いところは危ないな恐いなと思うし、スピー ド感もある一定を過ぎると冷や汗を覚える方。 だけれども、今日ばかりは嫌でも冷静に振る舞うこととなった。と言うのも、 遠野にすっかり頼られてしまったから。 ループの数と高さが売りのジェットコースターでは隣り合わせに座ったのだ が、普段にも増して無口になっている遠野は、コース序盤から純子の腕を握り しめてきた。 「あの、遠野さん。つかまるんだったら、前のバーを握った方が」 純子が促しても、遠野は黙って頭を振るだけ。追いつめられたリスみたいに、 小刻みに震えてさえいる。 そしてコースターが上に下にと激しく進み、スパイラルコースを猛スピード で駆け抜けると、遠野の手には一層力が込められていった。 (すっごい力! 遠野さんてこんなに力あったの?) 恐がる以前に、そっちの方が気になってしまった。 こんな調子だったものだから、五つ目を済ませた段階で、遠野はギブアップ を宣言。 「ここで休んでるから……みんな、行ってきていいよ……」 木製のベンチに半分横たわる姿勢になった彼女は、実に弱々しい声である。 「もったいないよぉ」 自分が楽しんでいるからか、富井は信じられないような響きを含ませてそう 言った。 「無理してでも乗ったら、その内慣れるって」 「いやあ、これはよした方がいい」 唐沢が即座に反対した。ジュースを買ってきた相羽も眉を心配げに寄せ、そ れに続く。 「遠野さん、ごめん。動ける?」 枕元−−枕はないが−−に跪き、囁く調子で尋ねると同時に、紙コップに入 った大きめのジュースを差し出した。 「う、動けることは動けるけれど……さっきみたいな激しいのには……乗りた くない」 答えてからコップを受け取り、ストローから一口だけ飲む遠野。 「じゃ、静かな物だったら平気?」 「多分……」 「何か乗りたい物があれば言って」 「……メリーゴーランド、かな」 「よし。飲み終わったら、次はメリーゴーランドにしよう。−−な?」 相羽はしゃがんだまま振り返り、皆へ同意を求める。 反対意見が出るはずもなかった。 −−ただ、男子三人は、メリーゴーランドに乗ることは遠慮した。おとぎ話 の絵本に出て来そうなピンク色がかった馬、乗っているのは小学校低学年を除 けば女性ばかりと来ては、やむを得まい。 その代わり、遠野や純子達が相前後して馬に跨って回る様子を、その柵の外 から写真に収めたり、声援を送ったりと、盛り上げるのに一役買う。 まあ、中には「本命三番、対抗五番。一番は大穴だな」なんて囁く輩もいた。 断るまでもない、唐沢である。 「誰かさんが競馬に当てはめていたようだけれど」 どんな耳をしているのか、しっかり聞きつけていた町田。降りるなり、冗談 の過ぎた男につかつかと詰め寄った。 当の唐沢は明後日の方向を見て、口笛を吹かす。流れ出るは、何故か「夕焼 けこやけ」。 「競馬にふさわしい歌があったんじゃない。ほれ、『走れ走れ……』って」 唐沢がつられてメロディを変えたところで、町田のげんこつが飛んだ。もち ろん、本気ではないけれど。 正午を前にして、園内の人口密度は飛躍的に上がり続けていた。 色とりどりの風船がふわふわと行き交って、子供連れが多いのだと分かる。 相羽達は昼食も摂らずに、一時を少し過ぎるまで乗り物やアトラクション等 を楽しみ続けた。そうしないと時間がもったいないのと、もう一つ。 「ここの食べ物、どれもあんまりうまくないから、よそで食べようと思ってる んだ」 相羽の言葉に、こだわりのない唐沢や勝馬、あるいは町田がげんなりした風 に反応を示す。 「ここで食べた方がいいんじゃないか? 面倒だぜ」 「それによそってことは、遊園地を出ちまうんだろ? 何かもったいない」 「そう言わずに」 短く、やんわりと頼む相羽。 町田が一度舌なめずりをしてから尋ねた。 「どんなおいしい店に案内してくれるのかしらね。言っておくけど、健康食品 なんてのは嬉しくないわよ。ばか高いのもごめんだから」 「そういうのとは違う。とにかく、騙されたと思って」 「うん、騙されるー!」 富井と井口が調子よく声を上げた。 「じゃ、ちょっと待ってて。開店しているかどうか、電話で確認しておく」 電話を済ませた相羽が戻ってくると、一行は遊園地を出た。相羽の先導で最 寄りの駅まで引き返し、電車に揺られること二十分あまり。海が見える土地ま で移動する。 「もしかして、釣りをする気か」 唐沢の想像を「まさか」と一笑に付し、相羽は駅を出るなり、右に折れる。 「ねえ、相羽君。ここへは来たことあるの?」 自信たっぷりに歩く相羽の背を見ていると、何だかかえって不安になってき た純子。 「昔……四年ほど前だったっけ。そのとき偶然見つけたおいしい店が、調べた ら、今もあるって分かったから」 きらきらっと光る海を左手に臨みつつ、足早に前進。お腹が空いてきたせい もあるのだろうが、相羽の歩調に合わせて随分と忙しない。 海鳥が舞っているのを気にしながら、純子は重ねて聞く。 「おいしいのはよく分かったから、あと何分ぐらいで到着するのか教えて。じ りじりしてきちゃうわ」 「もうすぐだ。ほら、もう見えてる」 相羽が指差した先には、赤地に漢字が踊る縦長の看板があった。電飾が施さ れているが、昼間は当然点灯しない。 「ひょっとすると、ラーメン屋さん……」 足を止めた井口が背伸びをし、額に片手で庇を作る格好をした。 相羽はやっとスピードを落とし、口調も同様にゆったりと肯定する。 「そうだよ。校則を守るならこれが最高。期待はずれだった?」 「う、うん、ちょっと。時間かけて来るぐらいだから」 皆まで言わず、語尾を濁した富井。 (ほーんと。ラーメンだったら安く済むかもしれないけれど、電車賃かかって るし。それに私みたいに髪が長いと大変なのよ。そこのところ、分かってない) 同感だったのは純子ばかりではないだろう。 しかし、唐沢がいつもの調子で取りなす。 「まあまあ、いいじゃないの。ラーメン食うには少々暑いかもしれないが、絶 叫マシンで散々冷や汗かいた人にはぴったりだ」 「……誰のこと言ってんの」 町田が用心深い物腰で、探る風に尋ねる。 「はあ? 特に誰とは」 「そう。それならいいのよ」 目をしばたたかせる唐沢に、町田はうなずき返し、引っ込んだ。 唐沢は「変なやつ」と形だけ唇を動かした。そして店を目前とした位置で、 相羽に忠告する。 「今日はかまわないけどな。二人っきりでデートするときは、ラーメン屋はよ した方がいいぞ」 「体験者からのアドバイス、ありがたく受けとくよ。−−こんにちは!」 相羽は店の戸を静かに横へ引き、それとは対照的に元気よく言った。 中からは威勢のいい女性の声が返って来た。 「いらっしゃいませ!」 幸せそうな笑顔付きだ。 店員そのふくよかな中年女性の他、アルバイトの学生みたく見えるショート カットで背の高い女性、そしてカウンターの向こうでうつむいて手を動かして いる色黒で頑なな印象の男の人の三人だけらしい。 ピークを過ぎているせいか、こぎれいだが広いとは言えない縦長の店内に、 男のお客が一人だけ。新たな来客にも目立った反応はせず、テレビ中継のデー ゲームを食い入るように見つめる彼の目は、いくらか落ち窪んでいる。その前、 無地のテーブルの上にはお冷やのコップと瓶のジュース、空っぽになった丼と いう少しばかり妙な取り合わせが並んでいた。 「何名様でしょう」 若い方の店員が聞いてきた。 それに答えようとする相羽が声を出すより先に、年上の方の店員が口を開く。 「あれ。坊や、また来てくれたのかい」 「はい。この間は今日の予行演習だったんです。−−あの、八人です」 視線を移し、最初の質問に答える相羽。 返事を受けて、若い人は二つのテーブルに、氷が浮かぶコップを四つずつ並 べ始めた。さらにおしぼりが続く。 「これはまた大勢で来てくれたねえ。歓迎するよ」 随分と親しげな口調だった。 (常連客なのかしら) そんな感想を抱きながら、純子達は案内されるまま席に落ち着いた。相羽、 純子、富井、井口の四人と、それ以外とに分かれる。 「ご注文は?」 二人の店員さんがそれぞれ聞いて回るのに対して、相羽は皆を見渡した。 「全員ラーメンでいいだろ? それとあと、大盛りチャーハンを二つ。それで、 悪いんですが」 相羽の言葉を聞き終わる前に、おばさん店員はうなずいた。 「小皿を八つ、だね」 「はい。お願いします」 注文を受けると、店員が伝えるよりも早く、コックの男性は動き始めていた。 −−つづく
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE