長編 #4521の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ヴェリンダは優しげといってもいい笑みを、シルバーシャドウへ向けている。 「どうしたね、奴隷。顔色が悪いようだね。もうおしゃべりは終わりなのかい」 シルバーシャドウの視線は虚ろであり、表情からは生気が失われていっている。 エルフの衛士たちは、色めきたって槍をヴェリンダへ向けた。ヴェリンダは笑みを 浮かべたままだ。 「心配するな奴隷。死なせはしない。まず狂ってもらおうか。苦痛だけを感じる愚 かな獣となって地を這いずってもらおう」 無言のまま、黒衣のロキが立ち上がる。 「そのくらいにしてはどうか、魔族の女王」 ヴェリンダはおぞましいものを見る瞳で、ロキを見る。 「黙れ、たかが自動人形であるおまえに意見されるいわれは無い」 ロキは表情を変えない。その冷たい瞳は差し貫くようにヴェリンダへ向けられて いる。 「確かにおまえを止めるのは私の仕事ではない、ヴェリンダよ。しかし、忠告だけ はさせておいてもらおう」 ヴェリンダはせせら笑う。 「忠告だと?」 「ああ。いいか、もうすぐこの城の主が戻る。調子にのりすぎて気づいていないよ うだが」 ヴェリンダは高らかに笑う。 「奴隷の長が戻るか。ではその女と一緒に狂わせて、地面を這い回らせてやろうか」 突然、彗星が出現したかのようにヴェリンダの目の前に巨大な光の球体が顕れる。 その眩い白い輝きの中から巨大な白い鷲が出現した。白い鷲は人間の身長以上の長 さがある翼を数回うちふると、蒼白い焔につつまれる。焔の中で巨大な鷲は次第に 姿を変えていった。 そして焔が消え、一人のエルフが姿を現す。蒼白い焔が燃え盛るような瞳を持ち、 純白のマントを身に纏ったそのエルフは、皮肉な笑みを浮かべヴェリンダに語りか ける。 「待たせたな、家畜の妻になりさがった魔族。私が奴隷の長、ペイルフレイムだ」 女性の衛士長であるアンバーナイトは、爆煙が残る焼け焦げた丘陵で気がついた。 槍を杖にしてなんとか立ち上がる。爆音はやんでいるようだ。戦いは終わったらし い。 傍らに自分を乗せていた一角獣の死体を見つける。首筋に金属の破片が食い込ん でいた。おそらく一撃で死んだのだろう。苦しまなかったのが、せめてもの救いで ある。 アンバーナイトは自分の体を調べた。金属の破片は体の肉を引き裂いていたが、 どうやら重要な血管は裂かれていないようであり、骨も無事のようだ。ため息をつ くと、ゆっくり丘陵を登り始める。 アンバーナイトは丘陵を登りつめた。目の前には焼け焦げた草原が広がる。そこ に広がっていたのは、破壊神の通り過ぎた後の風景だった。 鋼鉄の蜘蛛たちは一体のこらず破壊され、切り刻まれた足が放置された鉄材のよ うに転がっている。それは金属でできた植物を思わせた。 漆黒の蜘蛛の胴体は鮮やかな切断面をみせ、屍を晒している。それは圧倒的な力 の顕現であった。天上より降臨した破壊の力は、地上に無慈悲な暴虐の嵐をもたら す。 しかし、それはアンバーナイトの心になんの感情も引き起こさなかった。それは 彼女たちの属している世界と次元の大きく異なる世界の力であった為だ。 それは神話の時代に属する始原の力に思える。目の前に無残な姿を晒している鋼 鉄の蜘蛛たちの残骸は、創世の神に捧げられた生贄だった。 アンバーナイトは神話の時代へ立ち戻ってしまったような幻惑を感じる。全ては 世界が創造される前の混沌と狂乱の中から立ち顕れた夢だと思った。 アンバーナイトは破壊しつくされた草原を歩いてゆく。それは金属の植物が生え た荒野を歩くのにも似ていた。 そしてアンバーナイトはこの世界に破壊をもたらした巨人、純白のマントを纏っ た暴虐の女神を見いだす。古の神殿に祭られる女神の彫像のごとく美しい顔は、燃 え上がる金色の炎のような髪に縁どられ、サファイアのように青く輝く瞳はまっす ぐエルフの衛士を見下ろしている。アンバーナイトは、放心した表情を見せ巨人の 美貌を見上げた。 「ここは片づいた」 そう言い放つと、巨人フレヤは巨大な鉄材のような長剣を腰のスリングへ戻す。 アンバーナイトはその何の感情もこもらぬ声を聞いて、自分を取り戻した。 「妖精城に強大な魔力を感じます。速く戻らなくては」 美しい巨人は笑みを浮かべると、妖精城へ向かい歩き出した。アンバーナイトは その後を追う。 ヴェリンダは楽しげな笑みをペイルフレイムに投げかける。それは世界が色を失 い昏く霞んでしまうほど強力な瘴気を伴うものであった。 「地を這いずる惨めな生き物たちよ、我が足元にひれ伏すがいい。かつてそうして いたようにな」 ペイルフレイムは、ヴェリンダの放った瘴気を春のそよ風ほどにも感じていない ように、苦笑を浮かべる。凍てついた夜に輝く星を思わせる蒼い光を放つ瞳で、ペ イルフレイムはヴェリンダを見つめた。 「まったく古きものよ、おまえたちの時間は止まっているのかといいたいね。世界 は変わってゆくのだよ、惰眠を貪るしか能がない魔族たちの女王。いずれおまえた ちの王国は人間どもに蹂躙されると思うがね。なにしろおまえは人間の僕に成り下 がっているではないか。魔族が人間の家畜になり下がるのは、時間の問題だろうな」 ヴェリンダは天空を支配する月のように黄金色に輝く瞳で、ペイルフレイムを見 つめている。その表情はひどく穏やかであった。 「誤解を解いておこうか、奴隷の長。私は人間の僕ではない。私は私だ。もうひと つ。我が力がおまえに及ばないとでも思っているのか。この世界で私以上に魔道の 力を極めたものはもういない。それを教えてやろう」 ヴェリンダの瞳はさらに強い光を放つ。その力は周囲の空間を微かに歪ませ始め る。魔道の力が発現されつつあった。ペイルフレイムはそのエルフ特有の神秘的な 美しさを備えた顔に、冷ややかな笑みを浮かべる。 「古きものよ、代わり映えのしない召喚魔法を使うつもりか。やれやれだね。認め るべきだと思うな、おまえの魔道が通用しないことを。私は世界を旅し、人間の魔 導師と言葉を交わしてきた。もう一度言っておくが、世界は変わっているのだよ。 詫びをいれるのは今のうちだ、老いた女王。今なら赦してやってもいいよ、愚かし く恥じるべき行いを。馬鹿は自分が馬鹿だと気づかぬもの。人の助言は素直に聞き たまえ」 ヴェリンダは答えなかった。彼女の回りは、強大なハリケーンを思わせる魔道の 力が荒れ狂っている。 嘲るような笑みを浮かべたエルフの王の前で、不可視の力が音なき咆哮をあげな がら渦を巻いていた。その凶悪な力に満ちあふれたメエルシュトロオムの中心で、 邪悪な気配が強まっていく。その中心は、地獄への扉を隠しているようだ。 ヴェリンダは肉食の獣が獲物を捕らえた時に浮かべるであろう笑みを見せる。 「全てを破壊しつくす。我が力を見よ、奴隷ども」 ゆっくりと破滅の太陽が荒野に昇るように、異界の生き物が姿を現し始める。エ ルフの城はその邪悪な気によって色あせていった。 それは巨大な闇色の球体である。その内部には、無数の血に飢えた獣たちが駆け 回っているかのごとくごうごうと目に見えぬ風が吹いていた。 ペイルフレイムはぱんぱんと手を叩く。その口元は侮蔑の笑みで歪められていた。 「これはこれは。古き者に相応しい、お粗末な芸だ。エントロピーの怪物を私の王 宮に出現させてくれるとはね。こんなレベルの低い出し物は、見るほうが恥ずかし いよ」 直径が5メートルはありそうな巨大な暗黒の球体は、触れる者を瞬時に狂気へ陥 れる程強力な瘴気をふりまいている。それは魔物たちが狂乱の宴を繰り広げる呪わ れた夜を切り取って、この部屋へ置いたかのようだ。 エルフの王によってエントロピーの怪物と呼ばれた闇色の球体は、黒い糸のよう な触手をあたりに放つ。その触手に触れた植物は、瞬く間に萎れ枯れていった。そ の怪物は、妖精城に満ちあふれた生命力を吸い取り、飲み込んでいっているようだ。 漆黒の球体を中心に、亀裂が床に走る。巨大な暴風が妖精城を包み込んだかのご とく、城全体が軋みながら揺れていた。ヴェリンダはその言葉通りに、この城を廃 墟とするつもりらしい。 ペイルフレイムは、嘲りの笑みを浮かべ右手をあげる。その手の平から金色の光 が一筋、放たれた。それは生き物のように迷走する。 金色の光、それは金属の糸であった。夜明けの太陽が放つ光を帯びた鋼の糸は、 螺旋を描きながら闇色の球体を覆ってゆく。 螺旋状に漆黒の怪物に巻き付いた黄金の糸は、急速に収縮していった。黒い球体 は裁断され、影の固まりとなって地に墜ちる。 分断された黒い固まりは、日差しを浴びた影のように薄くなってゆき、消え去っ た。ヴェリンダは怪訝な顔で呟く。 「なぜ、」 「生きているからだ」 ヴェリンダの背後で、ブラックソウルが囁きかける。 「あの金属の糸は生きている。気をつけろヴェリンダ。あれはラヴレスの生み出し た地上最強の生き物、ゴールドメタルギミックスライムだ。エントロピーの怪物を 上回る生命力を持つ唯一の生き物だよ」 黄金の糸は、輝く蛇のように身を捩らせ、ヴェリンダへ迫る。ヴェリンダは破滅 的な瘴気だけを身に纏っており、漆黒の女神のような裸身を誇らしげに晒していた。 その裸身へと輝く鋼の糸が触れる。 一瞬、雷が放つ閃光のように素早い動きを、糸が見せた。次の瞬間には、ヴェリ ンダの左手が地に墜ちる。紅い血が床を濡らした。 「まずは、我が妻に行ったふるまいに対する礼といったところだな」 ペイルフレイムは静かにいった。なんの感情もこもらぬ声だ。 「ほう」 ヴェリンダは珍しいものを見るように、自分の左腕の傷口を見る。その真夏の太 陽の輝きを宿した黄金の瞳は、むしろ楽しげだあった。 「ヴェリンダ」 ブラックソウルが苛立たしげな声をあげる。ヴェリンダが苦笑した。 「我が愛する者よ、心配するな。状況は理解しているよ」 黄金の糸はヴェリンダの目の前で、螺旋状に旋回している。再び糸は閃光のよう に素早い動きを見せた。黄金の糸がヴェリンダの黒い裸身を覆う。 すっとヴェリンダは右手を上げると、その手の中へ黄金の糸は吸い込まれていっ た。ペイルフレイムの手中からゴールドメタルギミックスライムの糸は失われ、ヴ ェリンダの右手の中に収まった。 ふわりと地に墜ちていた左手が宙に舞い上がり、元通り左腕に繋がる。ヴェリン ダは新しいおもちゃを手にした子どものように、球状になった糸を見つめた。 「なるほど、人間は面白いものを作り出すものだな。それに」 ヴェリンダはエルフの王に酷薄な笑みをなげかける。 「この生き物は真の主が誰かが判るようだな、奴隷の王よ」 ペイルフレイムはくすくす笑った。 「今のあなたでは全く私に歯がたたないからね。ひとつくらいは武器をもたないと、 戦いにならない」 「心遣いに感謝するといっておこうか」 ヴェリンダはそういうと、右手に持った黄金の球体を放りだす。宙に投げられた ゴールドメタルギミックスライムは、ガラスの球が砕けるように空中で開き始めた。 黄金の鋼糸は複雑な動きを見せ、一つの形態をとろうとする。それは人の形であ った。やがて、黄金の騎士が姿を現す。 そこに立ち上がったのは暁の輝く光を全身に受けているかのごとき、黄金の鎧を 身につけた騎士であった。ゴールドメタルギミックスライムは、輝く金の鎧を自ら の擬態の形態として選択したのだ。 黄金の戦士は、猛々しい光を放つ金色の剣を抜き放つと、ペイルフレイムにむか って歩き始める。それは決然とした、殺戮の意志をもった歩みであった。 ペイルフレイムは、優雅に笑う。 「古き者も、やればできるじゃないか。さっきの無様な怪物に比べると、ずっとエ レガントだ。これで勝てれば完璧だけどね」 ペイルフレイムは笑い続ける。いつしかその笑みに嘲りの色が混じっていた。 「しかし、所詮は惰眠の中にいる者が作った戦闘機械だ。だめなものはだめだね」 エルフの王の瞳が、蒼い光を宿す。その真冬の星を思わせる輝きに答えるように、 足元の影が動き始めた。 やがて影が立ち上がるかのごとく、黒い固まりが人の形態を持って出現する。立 ち上がった影は、漆黒の鎧を着た騎士の姿をしていた。 黒い騎士は、黄金の騎士の前に立つ。それはあたかも黄金の鎧を身に纏った戦士 が、自分自身の影に対面したかのような景色であった。 漆黒の騎士は黄金の騎士に呼応し、闇色の剣を抜く。 「ヴェリンダ、気をつけろ。あれは次元口の集合体だ」 「次元口だと?」 ブラックソウルの囁きに、ヴェリンダが答える。 「クワーヌが作った黒鋼騎士と似ているが、もう少しやっかいだ。あの黒い体その ものが、別の次元界への入り口になっている」 黄金の戦士は輝く剣を振りかざす。と同時に、立ち上がった影のような黒い騎士 もその動きに合わせて剣を構える。 剣は、ほぼ同時に振り降ろされた。漆黒の剣が、黄金の鎧に触れた瞬間、黄金の 騎士は姿を消す。そこに残ったのは、闇色の騎士だけであった。 漆黒の戦士は、もう一度剣を振りかざす。 「やめろ、馬鹿!」 ブラックソウルが叫ぶと同時に、剣が振り降ろされる。その瞬間、剣の切っ先が 消えていた。その闇色の剣の先端は、ヴェリンダのそばに出現している。 その切っ先だけ出現した黒い剣は、黒い騎士の動きに合わせてヴェリンダの胴を 薙ぎ払う。それと同時に、ヴェリンダの下半身がかき消すように消えた。 ヴェリンダの上半身が地に墜ちる。床が血がひろがり、紅い海が出現した。 「愚かな」 ブラックソウルは呆然と呟く。 「遊ばしておいてやればよかった。なぜ怒らせる」 「私が怒っているからさ」 ペイルフレイムは冷たい怒りを湛えた瞳で、ブラックソウルを見る。
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