長編 #4520の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「衛士隊が後退しつつあります。このままでは、オーラの機動甲冑が我らの防衛線 を破るのは時間の問題かと」 白銀の防具に身を包んだエルフの戦士が、シルバーシャドウに報告する。シルバ ーシャドウは泰然とした風情で、その報告を聞く。 「すでにフレヤ殿が向かわれました。時間の問題なのはオーラの兵士のほうでしょ う」 そこは妖精城の中にしては珍しい、広大な広間である。といっても壁に覆われて いる訳ではなく、高い樹木に囲まれた部屋というべきか。 当然天井はなく、頭上に広がるのは透明のドームである。部屋の中央に長机が置 かれ、その一端にシルバーシャドウが座っていた。部屋の奥には玉座があり、本来 ここは王の執務室なのだろうが、その主となる王は不在であった。 「そんなことよりも」 シルバーシャドウは自分の傍らに影のように立つ黒衣のロキに、微笑みかけた。 「珍客がここに来ているようですわ」 シルバーシャドウは蒼白く輝き始めた瞳を、一点に向ける。空気が波打つように、 空間が歪み始めた。 「いつまでそこにいるつもりです、オーラの間者」 空気が水晶の球体に変化し、それが砕け散ったように光の破片を散らせながら魔 法が消えてゆく。その飛び散る光の粒子の中から姿を現したのは、杖を掲げた魔導 師、灰色のマントに身を包んだ男、白髪に深紅の瞳を持つ男であった。灰色のマン トの男は、狼の笑みを見せながら一歩前に出ると嘲るような調子でエルフの女王に 礼をとる。 「始めてお目に掛かる、私はオーラ参謀ブラックソウルというものです。それとロ キ殿、魔族の宮殿で会って以来ですかな」 シルバーシャドウは神秘の夜を支配する月の女神を思わせる美貌に、冷酷な笑み を浮かべてブラックソウルを見つめた。 「何をしに来たのです、ブラックソウル」 ブラックソウルは笑い声をあげた。狼に似た精悍な表情の男は、楽しげに笑い、 エルフの女王を見つめ返す。 「いや、失礼。ご存じなかったとは驚きですな。あなたがたとてあれをいつまでも 管理し続けるのは、本意ではないはずだ。あれは神が私ども魔族の家畜であるとこ ろの人間に授けた重荷。快く渡していただけると思っていますが」 シルバーシャドウの表情は変わらない。無慈悲な裁きの女神の瞳で、ブラックソ ウルを見つめていた。 「一体何の話しをされているのですか、ブラックソウル」 ブラックソウルは獲物を追いつめる狼の本性を剥きだしにした残忍な笑みを、浮 かべる。 「死せる女神の心臓にして、この宇宙で最も邪悪な存在が金星のウロボロスによっ て封印された牢獄よりこの地上へもたらしたもの、そう、太陽の黄金の林檎ですよ」 「ここにはありません」 シルバーシャドウは、全く表情を変えぬまま答える。ブラックソウルはとても楽 しげな笑い声をあげた。まるでエルフの女王が気のきいたジョークを放ったとでも いいたげである。 「ない?ここにないだって?ではどこにあるんだ?」 笑いを押さえながら問うブラックソウルに、少し笑みを浮かべたシルバーシャド ウが答える。 「彼のものはウロボロスと共に」 「馬鹿な」 「いずれ我が主人、ペイルフレイムが戻れば判ること」 「ならば待たしてもらおう、王の帰還を」 「いいえ」 シルバーシャドウは無慈悲な笑みを浮かべる。 「その必要はありません」 ブラックソウルは何かを言おうとしたが、その前にエルフの女王の冷酷な宣告が 下った。 「消えなさい」 放たれたのはその一言だけ。その瞬間にブラックソウルたち三人の姿はかき消す ように消え去った。 エルフたちの混乱は、漆黒の巨人を縛っていた呪力を無効化した。立ち上がった 夜のような巨人は、再びゆっくりと歩み始める。 漆黒の巨人は銀色の丘陵を登ってゆく。回りには炎につつまれのたうつ鋼鉄の蜘 蛛たちや、怒りの咆哮をあげ爆煙に飲み込まれる一角獣がいた。 漆黒の巨人は丘陵を登りつめる。巨人の目の前には、青い湿地帯と透明なドーム に覆われた妖精城があった。 「闇から彷徨いでたのか、影よ」 闇色の巨人は声をかけられ傍らを見る。そこにいたのは、白衣の巨人フレヤであ った。汚れなき新雪のごとく輝いている白い鎧を身につけた美貌の巨人は、青く冷 めた瞳で黒い巨人を見つめている。 二人の巨人の背丈は同じくらいだ。それは本来フレヤの足元にあるべき影が、立 ち上がり主であるフレヤに対面したような、不思議な光景である。 「闇は闇に戻るがいい、影よ」 フレヤは立ち上がった影のような漆黒の巨人に声をかける。黒い巨人はその言葉 に逆らうように、再び咆哮した。闇色の糸の固まりが暗黒の焔のようにフレヤへ襲 いかかる。フレヤはその闇色の糸を全身で受けた。 糸はフレヤの体を覆ってゆく。月の影が白昼の太陽を覆って夜の闇をもたらすよ うに、フレヤの体は暗黒の糸に飲み込まれていった。 フレヤは完全に立ち上がった暗黒の柱と化している。その闇色の固まりとなった フレヤを漆黒の巨人は満足げに眺めた。 黒い巨人はその暗黒の柱をいとおしげに抱きしめる。闇と闇が重なり合って一つ になってゆくように、黒い巨人はその暗黒の柱を体内へ取り込み始めた。 闇色の固まりは一つになる。フレヤは完全に巨人の体内、つまりリードとリリス のつくりあげた別の次元界へ送りこまれた。 巨人は再びゆっくりと歩み始める。妖精城を目指して丘陵を下っていく。エルフ たちは絶望とともにその闇色の巨人を見つめる。 唐突に、その歩みが止まった。 黒い巨人の星なき夜空を思わせる胴体の中心に、夜明けを知らせる明けの明星の ような光が出現する。その光は激しさを増し、やがて猛々しい程の輝きとった。 黒い巨人から光は分離し、輝く光の柱が出現する。その光は次第に薄らぎ、中か ら純白に輝く巨人、フレヤが出現した。 フレヤは女神のごとき美貌に皮肉な笑みを浮かべる。真冬の日差しのように清冽 な輝きを宿す剣を抜いた。 「影よ、おまえの用意した闇の牢獄は私には狭すぎたようだ」 黒い巨人は、フレヤに掴みかかった。フレヤの巨大な鉄材のような長剣が漆黒の 巨人をなぎ倒す。その表面を次元断層で覆った巨人は切り裂かれることはなかった が、強風にさらされた木の葉のように大地へ叩きつけられた。 起き上がろうとする黒い巨人をフレヤは踏みつけ、押さえ付ける。漆黒の巨人は フレヤの影となったように大地へ留められる。 その腹部の闇に綻びがあった。丁度フレヤがこの次元界へ戻ってくる時に通り抜 けた次元断層の裂け目である。フレヤは聖母のように美しい笑みを浮かべながら、 その闇に残る煌めきを見つめた。 「這い出てきた闇へ帰るがいい、影よ」 フレヤの振りかざす光の柱のごとき長剣が、闇色の巨人を串刺しにする。剣は影 のように大地へ巨人を縫い付けた。 闇色の巨人の動きが止まる。巨人の身体は溶けていくかのごとく、崩れ始めた。 やがて巨人を覆っていた次元断層は黒い水にも似た動きを見せ、流れ消えてゆく。 後に残ったのは巨大な金属の骨格である。胴体の部分を切断された巨大な金属の 骨格が、銀色の丘陵に屍を晒す。巨大な鉄柱のような肋骨が並ぶ間から、一人の黒 衣の男が立ち上がった。リードである。 「全くあきれたものだ」 リードは目の前に立つ、美貌の巨人を見上げながら呆然と呟く。足元には意識を 失ったリリスの体がある。リリスの体は無数の金属のワイヤーで巨大な骨格に接続 されていた。 その巨大な金属の骨格はリリスの体の一部といってもいい。むしろリリスの本体 というべきか。リリスの本体である巨大な金属の骨格は普段はアイオーン界という 異世界に存在する。リリスは体内にある次元断層を通じてその金属の巨人に繋がっ ていた。 リリスは自分の意志をもたない自動人形である。そういう意味ではオーラの機動 甲冑と大差はない。リリスは体内の次元断層を通じてリードの脳にも繋がっている。 いうなれば、リードのもう一つの肉体ともいえた。 リリスは胴を切断され機能を停止している。リードはフレヤを次元断層で覆い、 その身体をアイオーン界へ送り込むのに成功したところで勝利を確信した。しかし、 フレヤをアイオーン界へ送り込んだとたんフレヤの身体が強力なエネルギーを放出 し始め、そのエネルギーにリリスを破壊されることを恐れたリードはフレヤをもう 一度この世界へ戻さざるおえなくなったのだ。 リードは、今まさにアイオーン界へラフレールによって持ち込まれている黄金の 林檎が、アイオーン界へ送り込まれたフレヤと感応して強大なエネルギーをフレヤ へ与えたことを知らなかった。むろん、何が起こったかを理解していないという点 ではフレヤも同様である。 「おれはどうやら手を出すべきではないものに関わったようだな。しかし、」 リードはフレヤを見つめ続ける。伝説の中でのみ存在する死せる女神のように美 しい巨人は、サファイアの輝きを持つ瞳でリードを見下ろしていた。リードの心に 奇妙な陶酔が生まれる。神話の中で死ぬという、神話と一体化する陶酔。その痺れ るような心の動きを振りほどくように言葉を続ける。 「いまさら戦いをやめられない」 リードの足元でリリスの目が開く。リリスは本体というべき金属の骨格を破壊さ れたが、その機能が全て停止した訳では無い。リードの手の中に闇色の固まりが出 現し始める。次元断層であった。 次元断層は無限の硬度を持つ刃として扱うことも可能だ。糸として放ち、幻獣の 首を落としたようにフレヤの胴を両断することもできる。 別の次元界へ糸が忍び込む。アイオーン界を通じて糸がフレヤの体の側に出現し た。糸がフレヤの体に触れる寸前、リードは自分の体を熱いものが通り過ぎていく のを感じる。フレヤの剣が振り降ろされていた。疾風のように駆け抜けたその剣を、 リードは全く見ることができなかった。リードは自分の右半身がゆっくりと地面に おちてゆくのを、昏くなってゆく意識の片隅で見る。 フレヤはゆっくり振り返ると、妖精城を囲む丘陵の頂に駆けのぼった。金属の蜘 蛛たちは、もう丘陵の中腹まで来ている。一角獣に跨ったエルフたちは、戦力の半 ばを失い後退する一方であった。 フレヤは丘陵の頂上で、黒い蜘蛛たちを見下ろす。フレヤは戦う天使のように狂 暴な笑みを浮かべた。 フレヤが天空へ羽ばたく巨大な白鳥のように跳躍するのと、蜘蛛たちが火砲を放 ったのは、ほぼ同時である。 シルバーシャドウは、ブラックソウルたちが消えた空間を見つめていた。魔法が 終わり次元の裂け目が閉ざされれば空間は安定するばずである。しかし、ブラック ソウルたちが消えたその空間は安定するどころか次第に歪みを増してゆく。 その様は傍らにいるロキにも見えていたようだ。 「戻って来るぞ」 ロキの言葉とほぼ同時に、その空間の歪みから炎が出現した。黄金に輝くその炎 は次第に大きくなり、やがて人の形をとる。 人型の炎は沈み行く太陽のように輝きを失ってゆき、その中にいる漆黒の人影が 明瞭に見え始めた。昼間の太陽が沈み、暗黒の太陽が出現したかのごとく強大な瘴 気がたちこめはじめる。シルバーシャドウは眉をひそめた。 炎が消え、漆黒の肌の女性が姿を現す。黄金に輝く髪と、闇の世界を支配する女 神を思わせる美貌を持ったその女性は魔族であった。魔族の女性は、野生の獣が放 つ燃え盛る生命力を持ち、魔神の叫びのごとき邪悪な瘴気を撒き散らしている。 魔族の女性は傲岸な笑みを放ちながら指を鳴らす。その後ろにブラックソウルと、 白髪の男ティエンロウが出現した。 魔族の女は狂った神々の崇める黒い太陽のように邪悪な笑みを放ち、虫けらを見 る瞳でシルバーシャドウを眺める。 「久しぶりだな、我が奴隷ども」 シルバーシャドウは蒼ざめた顔で魔族の女を見つめる。 「私たちはもう奴隷ではありません。かつて人間の王エリウスが結んだ約定をお忘 れですか。第一あなたとてもう魔族の女王ではないのでしょう、ヴェリンダ」 ヴェリンダと呼ばれた女は楽しげな笑みを浮かべてシルバーシャドウを見る。 「私はアルケミアの女王だよ、奴隷」 シルバーシャドウは侮蔑の笑みを口元に浮かべる。 「魔族の女王ともあろう方が家畜と呼ぶ人間を夫にし、化身の術を使って人間に姿 を変えて行動を共にするとはどういう事です」 ヴェリンダは哄笑した。世界の終わりに神々を滅ぼす終末の獣が咆哮するように、 強烈な瘴気を撒き散らす。もしもその場に普通の人間がいれば、昏倒していただろ う。エルフであるシルバーシャドウですら、病に犯された者のごとく蒼ざめている。 ただ、後ろに立つブラックソウルだけは激しい瘴気を受けても平然としていたが。 「思い出すがいい。おまえたちエルフは我々魔族が戯れに家畜と交わることによっ て生み出された種であるということを。おまえたちは家畜の血を受け継ぐ無様で憐 れな生き物であったが、魔道の力を持っていたがゆえに奴隷として扱ってやった。 思い上がるな。おまえたちが城とよぶこの粗末な住みかを廃墟に変えてやってもい いのだぞ。今すぐにな」 シルバーシャドウは昂然と眼差しをヴェリンダへ向ける。 「できるというのなら、やってみなさい。たかが人間の下僕と成り下がったあなた に、なんの力も認めません」 まるで暗黒の風が吹くように、邪悪な気がシルバーシャドウを襲う。シルバーシ ャドウの顔色は土気色となり、小刻みに体を震わせていた。
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