長編 #4511の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
夜の闇を纏ったような男、ヴァーハイムのロキが中庭に現れる。切断された死体 には目もくれず、フレヤに言った。 「皆殺しにしたのか?」 フレヤは嘲りの笑みを見せ、中庭の片隅にへたり込んだ男を顎で示す。 「虫けらが一匹、残っている」 それは、ティエンフォウを呼びに行った盗賊である。死ぬ機会を逃した男は、逃 げる気力も無く、だた呆然と蹲っていた。 ロキは整った顔になんの表情も見せず、生き残った男の前へ行く。ぶつぶつ呟き ながら中庭を眺めている男の胸ぐらを掴み、立たせる。 ロキは、魂を抜かれたような顔でロキを見つめる男に、平手打ちをした。男の目 の焦点が合う。 「ここに、妖精族の王女、スノウホワイトが囚われているはずだ」 男は虚ろに、頷く。 「スノウホワイトを、渡してもらおう。言うとおりにすれば、命を取るつもりは無 い」 「おれを、殺さない?」 「そうだ」 ロキは、感情の無い声でいう。 「案内しよう、妖精の女のところへ」 生への希望が男に活力を、戻したようだ。黒衣の死神のようなロキの前に立ち、 盗賊の男は手招きする。 ロキは、後ろのフレヤに声をかける。 「フレヤ、ここで待っているか?」 「当たり前だ。蟻の巣を浚うのは、おまえに任す」 フレヤは、腰のスリングに、血を拭い終えた剣を戻す。その純白の姿には、返り 血の染みは無い。ロキはフレヤに会釈すると、盗賊の男を促す。盗賊の男は、砦に 向かって歩き出した。 ロキは魂を冥界へ誘う魔物のように、男の後に続く。二人は、砦の中へ入った。 サリエルの砦は、王国が栄えた時代に築かれたものであり、中規模の城並みの規 模を持つ。中に入ると圧倒的な重量感を持った城塞である事が、判る。 ただその巨獣の死骸のような城塞も、半ば廃墟と化していた。既に森林の一部に なりつつあるといっても、いい。 瓦礫の並ぶ巨大なホールは、壮大な洞窟を思わす。ロキの前をゆく盗賊は、崩れ 落ちた柱が巨竜の骨のように並ぶホールを抜け、砦の地下へと向かう。 冥界まで届くかのごとき長い螺旋の階段を、二人は下っていく。盗賊の男が手に した燭台が唯一の灯りである。ロキは闇の中に蒼ざめた顔だけを浮かびあがらせ、 生きた闇のように男の後ろを歩く。 地下は、巨大な迷宮を思わせた。時折、闇の生き物らしき者が、蠢くのが見える。 その地下の複雑な回廊を、男は迷いもせず歩いていく。 地下迷宮は、五層構造になっているようだ。それぞれの層の入り口には、巨大な 鉄の扉がある。オーラ製の火砲であっても、破壊することはできないような、頑丈 な作りだ。 盗賊の男は、頑丈そうな鉄の扉を、鍵であける。盗賊の男は、影のごとく背後に 佇むロキに声をかけた。 「妖精の女は、最下層の第5層にいる。昔は、政治犯とかを閉じこめた所らしいが な。たいそうな事をしているようだが、何しろエルフの女だ、どんな魔法をしかけ てくるかしれたもんじゃない」 男の言葉に対してロキは無言で、先に進むよう促すだけであった。男は素直に、 地下迷宮のさらに深い所へと向かう。 冷気を感じる地下の階段を下り、二人は残りの四つの鉄の扉を越え、最下層へと たどり着いた。奇妙な気配が満ちているのは、迷宮に魔法的な防御が込められてい る為のようだ。地下迷宮そのものが封じ込めの魔法を機能させるように、造られて いるらしい。 エルフの王女を閉じこめるだけの、強固な封印魔法を施すには相当強力な魔導師 が最近術を行ったはずだ。それについては、ロキは何も言わず、最下層の中心へと 向かう。 突然、回廊の奥に冬の木漏れ日を思わせる灯りが出現した。春のそよ風のように、 甘く暖かい風を感じる。その風の源が、エルフの王女の居場所らしい。 盗賊の男が振り向く。 「おれは、牢の鍵を持ってない。鍵はティエンフォウ様だけが、持っていた。どこ にあるかは、判らない」 ロキは、無言で男を押しのけ、先へ進む。次第に、暖かい光があたりを満たして ゆく。光は生き物のように、優しくロキを包んだ。 鉄柵の向こうは、まるで春の草原のごとく日差しが降り注いでいる。いかなる魔 法によるものか、とても地下深いところの牢獄とは思えない。 光の中に、銀色の長い髪の可憐な少女が腰を降ろしている。その華奢な手足や、 アーモンド型の青い瞳、少し尖った耳は確かにエルフ特有のものだ。 少女は、エルフの公有語である王国の古語でロキへ語りかけた。 「血の臭いが濃いわ。何があったの?」 光の中に浮かび上がった影を思わすロキは、一礼をした。 「スノウホワイト殿ですね。ヴァーハイムのロキです」 白い長衣を身につけたエルフの少女は立ち上がり、裾を摘むと、ちょこんと頭を 下げる。 「シルバーシャドウ女王の娘、スノウホワイトよ。よろしく。人が沢山死んだみた いね。あなたの仕業?」 「上に、巨人族のフレヤがいます。彼女がここを警護していた盗賊を、殺しました」 その時、スノウホワイトが可憐な瞳を見開いて、息を呑んだ。 「ロキ殿」 ロキは背後から顔を捕まれ、ナイフを首に突き立てられた。 「油断だな、ロキとやら」 男は、ナイフを引き、首の血筋を引き斬ろうとする。男の顔が、驚愕に歪んだ。 まるで石に対して刃を立てたような、手応えだった為である。 ロキは、部屋の片隅へ男を投げ飛ばす。男は、呻いた。 「おれは、ヴァーハイムの岩石人間と呼ばれている。おれに、刃は役に立たない」 「あんた、伝説の建国者だというのか?」 「あんたはどうも、ブラックソウルの直属のようだな」 「なぜ…」 「ティエンフォウが東の大国、オーラの間者ブラックソウルの命を受け、エルフを 監禁していたことを知っているからこそ、ここへ来た」 男は、ため息をつく。 「殺せ」 「はじめにいった通り、命はとらんよ」 ロキは、素早く男の頭を蹴る。男は気を失った。 エルフの少女は胸の前で両手を合わせ、鈴の音を思わす可愛らしい声でいった。 「よかった、私の前で人が死ななくて。でも、ロキさん、あなたは、人を殺せない んでしたわね。ヌース神があなたを造った時、そういう設定にしたと聞いています わ。本当にあなたが、ヌース神の造った人造人間だったらの話ですけど」 ロキの唇が、少し歪む。それは苦笑にも見えた。 「まず、地上へでましょう。王女」 ロキは鉄柵に手を掛けると、無造作にそれを押し開いた。王女は歓声を上げ、牢 の外へ出る。 「本当にまいりましたわ。ヴェリンダ殿の仕掛けた封じ込めの魔法は、私の力では どうしようもなかったの。私はまだ、たったの百年ほどしか生きてませんもの。ま さか、ヴェリンダ殿ともあろう方が、人間に荷担してるなんて、夢にも思いません でしたわ。おかげて、おびきだされて閉じこめられるはめに。もう、牢の中は、退 屈で退屈で」 黒衣のロキは、頷くと歩き始める。スノウホワイトは、飛ぶように軽やかな足取 りでその後に続いた。 「そうそう、まずは地上へ出るんでしたわね、ロキさん。私、あなたの事は、ちゃ んと聞いてますわよ。王国の建国者の一人でしたわね」 その後、スノウホワイトはロキの後ろで延々と一人で喋り続けた。無言の人造人 間に喋るのは、地下牢の壁に向かって話すよりは、ましだったらしい。 地上には、血臭が残っていた。しかし、血塗れの中庭も、スノウホワイトが降り 立ったとたん浄化されるように、血が消えてゆく。 スノウホワイトの魔法らしい。刻まれた肉片も急速に風化し、土へ還ってゆく。 惨劇の後が消え去った後に、スノウホワイトは巨人に声をかける。 「あら、思ったより素敵な方なのね、安心したわ」 フレヤは、スノウホワイトを見下ろす。スノウホワイトは、優雅に一礼した。 「あんたが、エルフの王女か」 「ええ、巨人族のフレヤさん。とても美しいわ、あなた。でも、心の中に影がある。 なぜかしら」 フレヤは、微笑む。 「それが、判れば苦労はしない」 「フレヤは、記憶を失っている。だから私と、行動を共にしているのです。失われ た記憶と、黄金の林檎を取り戻す為に」 「黄金の林檎ですって」 スノウホワイトは、冴え渡る空の輝きを宿した青い瞳を見開く。 「あの黄金の林檎と一緒に、あなたの記憶があるの?」 「どうもそうらしい」 フレヤは、曖昧な笑みを見せる。 「そうですか」 スノウホワイトは、快活に微笑む。 「ロキさん、あなたは何が望みなのです。私を救いだし、何を得ようというのです?」 立ち上がった影のような男は、エルフの王女を見据えて言った。 「あなた方の世界へ行きたい。つまり、ナイトガルトへつれていってもらいたい」 かつて、地上に王国が出現した時、約定により魔族は地底へ、それ以外の魔法的 種族(エルフ、ドワーフたち)は山岳地帯へ行き、中原を人間に与える事となった。 エルフは自らの国をアウグカルト山地に築き、そこをナイトガルトと命名し、その ナイトガルトを次元の彼方へ位相を写す事により、通常の次元界との交わりを断っ ている。 俗に妖精城と呼ばれるエルフ達の居城は、そのナイトガルトにあった。次元の彼 方にあるナイトガルトへ行くには、2つの方法がある。一つは、ナイトガルトの属 する次元界と、この地上の次元界が交わる定められた瞬間に、次元の通路を辿って いく方法。もう一つは、そこの住人に招かれていく方法。 スノウホワイトは、可憐な花を思わせる笑みを見せ、頷く。 「いいでしょう。では、ナイトガルトへお連れしましょう」 「ひと足遅かったようだな」 全てが終わった後、サリエルの砦に一人の男が足を踏み入れた。灰色のマントに 身を包んだ男は、長髪を黒い炎のように風に靡かせて砦の中庭へと入ってゆく。男 の後ろには、一人の女性が従っていた。 フードのついた濃紺のマントを身につけた女性は、魔導師のようである。肌は浅 黒く、フードから覗く髪は黒い。魔導師の証しとして、護符のついた杖を手にして いた。 灰色のマントの男は、砦の中庭へ入る。男の黒い瞳は、きらきらと黒曜石のよう に輝き、あたりを興味深そうに見渡す。 盗賊たちが完全に姿を消し、廃墟そのものとなった砦には、惨劇の気配を感じさ せるものは残っていない。冬の終わりの野原に残る残雪を思わせる白い花が、中庭 のあちこちに咲いている。 「ブラックソウル様」 魔導師の女が、声をかける。 「魔法が残っています。気をつけて下さい」 ブラックソウルと呼ばれた男は、問題ないといったふうに手を振った。確かに、 ここには魔法の気配が残っている。ブラックソウルの記憶にあるこの砦は、酷く殺 風景な場所であった。生命の気配など存在しない、石の廃墟。 しかし、今はその廃墟は緑の蔦に覆われ、森の一部と化しつつある。中庭にも花 が咲き、砦の内部からも生命の気配を感じた。この砦を不在にした期間が2週間た らずである事を思えば、驚異的な変化である。 ブラックソウルは砦の入り口で、ふと足を止めた。咲き乱れる小さな白い花の中 に、黒い影が見える。 拾い上げたその影の破片のようなものは、ティエンフォウの剣であった。今はへ し折られ、ただの破片となっている。 破片となって尚、その剣は強烈な瘴気を発していた。花の中に埋もれている時に は感じないが、手にとると未だ強い力が残っているのが判る。 常人であれば手にしただけで貧血を起こしかねないその破片を無造作に手で弄ぶ ブラックソウルには、何も感じられていないようだ。ブラックソウルは、破片を花 の中に戻しながら呟く。 「ティエンフォウの斬鉄剣も、役に立たなかったようだな。全く、伝説の巨人とは、 やっかいな存在だ」 ブラックソウルは、砦の中に足を踏み入れていく。かつて砦を覆っていた封じ込 めの魔法は、完全に消去されたようだ。 「ほう」 ホールに足を踏み入れたブラックソウルは、感嘆の声を上げた。かつては、石で できた巨獣の死骸のようであった廃墟の内部は、色とりどりの花で覆われている。 花は南の海に住む鮮明な色をした魚たちを思わす鮮やかな色を見せ、咲き誇って いた。ホールには光の柱のように日差しが差込み、極彩色の花々をよりくっきりと 照らし出す。
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