長編 #4495の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
一方、前田は前田で、はっきりと口にしたわけではないが、要するに、決ま った相手がいる者は除いてくれてもいいんじゃないかしらという意味のことを、 実に淡々と述べた。 「立島、どうする?」 唐沢は、からかうように立島の脇腹を肘で小突く真似をする。 当の立島は白沼の一件の記憶が生々しいのか、 「どっちでもいいさ」 と短く答えるのが精一杯のよう。その目は前田を恐れている……と言っては 大げさかもしれないが。 だが、最終的には二人の反対者が折れた。 「自然にツーショットになりたいよぉ」 富井と井口が拝み合わせて請願してきたためである。 その撮影も、組み合わせが変わる度にあれこれ場所も移していたため、案外 時間を食ってしまった。今ようやく終わりに近付いたところ。 「はい、チーズ−−ん、成功」 井口と相羽のツーショットを撮り、顔をカメラから離す純子。 「これで終わりね。このカメラ、誰のだっけ?」 と、持ち主を求めて手を回しかけた純子に、周囲で見ていた内の一人、勝馬 から声が飛ぶ。 「あのー、それはかわいそうってもんじゃないかいな、涼原さん」 「え、何が」 きょとんとして首を傾げた純子へ、腰に手を当てた町田が呆れ口調で告げる。 「まだ二十三組しか撮ってないよ。最後、あんたと相羽君とが残ってるでしょ うが」 「あ? そうだったっけ」 広げた手を元のように引っ込めながら、純子は相羽へ向き直る。 彼の方は、軽く天を仰ぐポーズをやった。次いで、ズボンの横ポケットに左 右の親指をそれぞれ引っかけ、かくんとうなだれる。 「そんなに存在感ないかな……」 「ううん! 相羽君、私が悪かったわ。さぁ、撮ってもらおう。ね」 純子が砂利を踏み鳴らして駆け寄ると、相羽は面を上げた。その途端に、口 元を自らの手で覆う。どうやら、吹き出しそうなのをこらえているらしい。 「な、何よ」 「く。だって」 相羽の声は、当然ながらくぐもって聞こえる。 「そんな真剣に、申し訳なさそうな顔をされると……あはははっ」 やっと手を口から外した相羽は、今度はその手で純子を示してきた。 純子は気持ち、身を反らして、頬を膨らませる。 「本当にそう思ったんだからっ。笑うことないでしょ! もう、早く撮って、 済ませるわよ」 くすくす笑いの止まらない相羽の横に、いつもよりきつい表情をして純子が 並ぶ。 「ごめんごめん。だけど」 「何?」 指差す動作を相羽が見せたようだが、純子は確認しなかった。 相羽は続けて言った。 「カメラを持ったままじゃあ、撮ってもらえないと思う」 指摘の通り、純子はさっきまで使っていたカメラを、まだ手にしていた。 純子は顔が赤くなるのを感じながら、黙ってカメラを前に突き出した。 「話は済んだか? じゃ、撮ってあげよう」 唐沢の声がしたが、それには笑いがかなり混じっていた。 遊び道具はボールぐらいしか持ってきていなかったが、それがかえって思い 付きの翼を広げることになったのかもしれない。 さすがに桜の木に登るのは遠慮したけれど、そこいらにある物を利用して、 遊びはいくらでも工夫できた。空き缶を並べての模擬ボーリングをやったり、 松葉を使ったミニ相撲で競ったり。あるいは女子がアザミやタンポポで首輪作 りをすれば、男子達は木の枝と蔓で弓矢を作ってみた。が、これはひょろひょ ろとしか飛ばなかったので、急遽、チャンバラに変更する一幕も。それにも飽 きたら、刀代わりだった枝を釣竿に見立て、お弁当のおかずの残りを餌に、ザ リガニ採りに挑戦していた。 こんな風にして頭に浮かんだ遊びやゲームを片端からやっている内に、時間 はどんどん過ぎて行く。夕焼けにはまだ早いが、ここに到着したときにいた人 達はもう誰もいなくなっていた。 「網を持ってくればよかったかも」 ビニールシートに腰を下ろして帰り支度を始めた矢先、相羽はそう言って宙 に視線をさまよわせる。 何羽もの白くかわいらしい蝶が、ひらひらと舞い飛んでいた。陽光を浴びて いるおかげもあって、風に乗るその様は、ぼんやりしていると桜の花びらと見 紛うばかり。 相羽はリュックの奥の方から、黒地の帽子を取り出した。チェッカーフラッ グを交差させた図柄が施されたそれの鍔を持ち、適当な感じで空間をかいた。 「よせよ。帽子で採れるかい」 立島が呆れたように言う。それから前田と目を見合わせ、ともにうなずいた。 「せめて立てば? 座ったままじゃあねえ」 町田がやはり否定的に述べる。 「別に本気でやってるんじゃなく−−あ。採れた」 相羽の口ぶりは、そのつもりはなかったのにという調子である。 「嘘だろ」 唐沢は片付けの手を止め、相羽へと近寄る。他の面々も注目。 「嘘じゃない。見せてやるよ。逃がすけど」 太股の上に伏せられた形の帽子を、のんびりした動作で持ち上げた相羽。 黒い布製のドームの中からは、白い折り紙で作ったみたいな蝶が二羽、ダン スのステップを思わせる軽やかさで現れ、上昇していく。 皆、一様に見上げた。 「二羽も捕まえていたのか」 さっきとは別の意味で立島は呆れたらしい。 「モンシロチョウ、かわいい」 富井が高い声で言ったのへ、相羽は軽く握った拳を口元に当て、少し考える 素振りを見せた。ぼーっとした目が細くなり、眼差しも鋭くなる。 「モンシロチョウじゃないみたいだ。はっきり見てないから断言できないけれ ど、スジグロシロチョウの仲間かな」 「へえ、モンシロチョウに見えるぅ」 「適当なこと言ってんじゃないのか?」 勝馬が疑いを示すが、相羽は簡単に受け流す。 「普通、モンシロチョウなら、筋があんなに濃くないはずだから」 「ふーん」 主に女子の面々が感心する。 それを見てジェラシーの一つもかき立てられたか、唐沢が軽い調子で始めた。 「俺も蝶にはちょっと詳しい。あっちで飛んでいるのはモンキチョウ」 彼が指差した先には、確かに黄色い蝶がいく羽も飛び回っていた。 が、当然と言えば当然だが、女子の反応はおしなべて冷たい。 前田と遠野はくすくす笑い出したが、これはまだいい方で、純子、富井、井 口の三人は肩をすくめたり眉を寄せたりする。町田に至っては、「ばーか」と 切って捨てる始末だ。 「黄色いんだからモンキチョウ! 私らだって分かるわ」 「何で知ってる? 虫嫌いのくせに」 唐沢は大真面目に不思議そうな返事をしたあと、にかっと笑みをこぼす。よ くよく見れば、目も最初から笑っていた。全て冗談のつもりだったらしいが、 町田には通用しなかったよう。 「町田さん、そんなにきつく言わなくても。黄色いんだからモンキチョウって のは、まあ正しいけれどね」 相羽がいたずらの種を見つけた風に、手の甲を口の前にかざしつつ始めた。 「モンキチョウの中には、白いのもいるよ」 「ええ? まじ?」 お喋りしながらも帰り支度をやめなかった町田だが、この言葉にはさすがに ストップモーションとなる。 相羽は申し訳なさそうに頭をかきながら言い足した。 「うん。キチョウもシロチョウの仲間だから、白い羽を持っているやつもいる んだ」 町田は、にわかには信じがたいのか、腕組みをした。 「ははは。疑うんだったら、図鑑か何かを見てくれー」 「貴重なキチョウってわけか」 唐沢は思い付きの洒落を言いつつも、戸惑い顔をした。まるで、プールサイ ドに紋付き袴姿の人間を見つけたみたいに。 「あ、でも……」 今度は遠野が遠慮がちに言葉を挟む。 「それならどうして、モンキチョウって言うのかしら……?」 「紋が黄色いからモンキチョウなんだ」 相羽は視線を彼女に移し、ゆっくり答える。 「羽に家紋みたいな丸い模様があってね。それを表から見ると、黄色をしてい る。だからモンキチョウ」 淀みなく答えた相羽に、遠野だけでなく女子みんなが再び感心してうなずく。 (ひょっとして、今でも虫捕り網を持って、原っぱを駆け回ってるのかな? 簡単に想像できちゃうだけに、ありそう!) 昔を思い起こして現在の相羽の姿に重ね合わせる。自然と表情がほころんだ のを、純子はしばらく経ってから意識した。 「俺って、もしかして墓穴を掘ったわけね」 唐沢がぼそっとつぶやき、苦笑いをこらえるようにして、帰り支度を再開し た。それをきっかけに、全員が動き出す。 −−帰り道、相羽は新たにニックネームをもらった。「昆虫博士」と。 (さすがに、学校で待ち合わせはできないよね) 入り口近くの柵に腰掛けたまま青空を見上げ、そんなことを考えながら公園 で待っていた純子は、足音が聞こえたのを機に振り返った。 「待たせちゃって、すみません。お昼を食べてたら時間かかっちゃいました」 「ううん、たいしたことない」 立ち上がり、首を横に振る。 デート日として椎名が入学式のあとを希望してきたのは、正直、純子にも予 想外だった。 「中学入学、改めておめでとう。−−うん、似合ってる」 制服姿の椎名を見るのは初めてだったが、彼女が髪を伸ばしたせいもあって、 よくフィットしている。そう感じた。 もじもじして、はにかんだ笑顔を見せた椎名に、純子は引き続いて尋ねる。 「それで、今日にしたのはどういうわけから? この前は、時間がもったいな いとか言ってたのに」 「あれから考えたんです、晴れの日にプレゼントしてもらった方が嬉しさ倍増 かなって」 「忙しいんじゃない?」 「いいえー、暇なぐらい! さあ、行きましょう」 純子の手を取り、歩き出す椎名。つまずきそうになる姿勢をどうにか立て直 し、純子も足を進める。 一回り大きめのジーンズで包み、身体の線を極力出さないようにした。長い 髪は椎名のいつものリクエスト通りにした上、野球帽を被っている。じっくり 観察するならまだしも、ぱっと見には純子は男の子だと思う人が過半数だろう。 「一応、私も考えて来たけれど、恵ちゃん、行きたいところってある?」 「どこでもいいからドライブに−−冗談ですってば」 純子の顔色を見て、椎名は声の調子まで変え、慌てた風に言い足した。 純子はつんと顎を上げ、怒ったふりを続ける。 「こっちはふざける余裕ないんだからね」 「だって、涼原さん……さっき、『私』って言った」 椎名の方がむくれ出してしまったので、純子は目をぱちくり。その次の瞬間、 気がついた。 「ごめん、僕が悪かった」 ぎこちない口調でそう言った純子に、椎名は表情を和らげる。 (約束したんだったわ。男になりきってみるって。よしっ、今日は『私』じゃ なくて、『僕』よ、『僕』) 電話でのやり取りを思い起こし、肝に銘じる純子。 「こう言えばいい?」 「はい」 「だけどね−−今、ちょっとタイムね−−、それを言い出したら、恵ちゃんも さっき、私を涼原って呼んだじゃない」 「え、何の話−−ああ、古羽って呼ばなくちゃいけないんですよね」 「そういうこと」 得意げにうなずいてみせた純子。だが、実際に得意がる気持ちはほとんどな く、単に椎名をやり込めたくなっただけ。 (古羽って呼ばれても、ぴんと来ないわ。あーあ、劇のことをここまで引きず るなんてねえ) 純子は深呼吸すると、意を決した。できる限り低い声を作って、呼び掛ける。 「では、恵ちゃん。今日は僕に任せてくれるね」 まず、街に出て映画を観た。 ちょうど探偵物がリバイバル上映されることを知り、事前にそれとなく探り を入れたら椎名も知らない風だったので、予定に組み入れた次第。果たしてそ の判断は当たった。 次に再び電車に乗り、二駅先で降りる。目指すは科学館。そこにはプラネタ リウムがあるのだ。 −−つづく
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE