長編 #4494の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
桜の花粉に弱い人っているのかな−−。 家を出しなに浮かんだそんな疑問も、自転車に跨り、河原に到着する頃には 忘れてしまった。 「きれいっ」 自転車の行進を一旦止め、悲鳴みたいな感嘆の声を上げた。サイクリングロ ードから乗り出すようにしてまで、見とれる。 川の両岸には等間隔に植えられたソメイヨシノ−−多分−−がどこまでも続 き、桜色を満開にさせて咲き誇る。強い横風が吹こうものなら、花びらのカー テンが展開されるに違いない。 川幅は遠いところでおよそ三十メートルあり、ここしばらくの雨のおかげか、 自転車のタイヤ大の渦ができるほどの勢いを持っている。幅が狭いところでは もっと急激になり、渡ろうとして下手をすると足を取られるかもしれない。 平日のせいか、河川敷に人影は多くない。小さな子を連れた主婦らしき人達 の集まりが一つ、ゴルフクラブを振っている中年男性が一人、あとは散歩がて らのご老人がちらほら見受けられる。 「新聞の予想通りだな。今朝の気温が上がって、満開になるって」 立島が言った。その隣には前田がいる。部活のためスケートのときは来られ なかった二人だが、今日は大丈夫。 「ここらでいいんじゃないか。これ以上きこきこ漕いでると疲れるぜ」 自転車を降りかけながら、唐沢。 「もう少し川上に行くと、もっと広くて平らな場所があるんだよ。ボール蹴る のにちょうどいい」 相羽はペダルに足をかけ、今にも漕ぎ出しそう。 (あそこに行かなくてもいいのに) 桜から視線を戻し、純子は思う。 (代役引き受けて、初めてモデルやった場所なんて……まあ、自分には意味が あるけれど。みんなで思い出話に花を咲かせるわけにもいかない) それでも、お花見をする場所としては、最高のロケーションであるのは確か。 故に反対する強い理由も見つからず、こうしてやって来たわけだが、唐沢の 尻馬に乗ってみることにした。 「十人ならここでも充分よ」 「分かった」 説得にかかろうとした純子が気抜けするほど簡単に引き下がった相羽は、く るりと横を向き、他の面々に尋ねる。 「ここでいい?」 異論が出るはずもなく、十名は河原へ通じる坂を見つけ、勢いよく下った。 陣取る場所は選び放題。木陰にするか日向にするかで、少しもめた。 「木陰の方が、見上げるだけで花が見られる」 「肌寒くなってきたから日向がいい」 「それは自転車漕いで汗かいたからだよ、きっと」 「木の下に寄り添うより、広いところから見渡す方が満喫できると思う」 「木陰からだって、対岸の景色は充分見えるんじゃない?」 「木陰にいたら、お弁当に花びらが降ってきて食べにくい」 そう、みんなが背負っているナップサックにはお弁当箱が入っている。事前 の相談でもめた例の話は結局のところ、昼食込みの花見ということで決着して いた。 皆がかんかんがくがくの議論をする横をすり抜け、相羽は荷物片手に川の方 を目指して歩き始めた。この辺りはちょうど、地形に沿ってネットが張り巡ら せてある。 「あ……あれ? どうかした、相羽君?」 さほど積極的には議論に加わっていなかった遠野が気付き、声を掛ける。 相羽は顔だけ振り返り、左人差し指で前方を示しつつ、 「時間潰すの、もったいない」 と答えた。 なるほど正論だという雰囲気がたちまち伝わり、場所の決定は後回しに。 「よし。何かしようぜ」 「苦労して持ってきたボール、使ってくれー」 勝馬は膨らんだナップサックから、サッカーボールほどの大きさの球を取り 出した。実は純子が事前にリクエストしていた物。 「じゃ、久々のドッヂボール!」 これがやりたかったのだ。中学に入ってからは、する機会がめっきり減って いたから。 早速二手に分かれてゲーム開始。純子がいるチームの他のメンバーは唐沢、 勝馬、富井、遠野の四人。相手側は相羽、立島、前田、町田、井口。 人数が少ないのに加えて、女子の占める割合が高いためもあってか、展開が 早いようだ。この回は五分あまりで終了した。 「不公平だわ、こりゃ」 負けチームの一人、町田が不満を漏らす。 「男子はうまさのバランス取れてるけど、私ら女子の中では、純が頭一つ抜け 出てるんだから」 「そうそう。人間離れしてるんだもんねえ」 町田の後ろから、井口が同調。 「誰が人間離れしてるんですって? もう」 「確かにひどい言われようだけど」 「強いのは事実だよな」 純子がむくれると、味方の唐沢や勝馬まで向こうの応援に回るようなことを 言い出す。 「どうしろって言うのよ」 「チーム替えしようか」 相羽の提案は、キャプテンを二人決めてジャンケンをし、勝った方が先に一 人を選び、そのあと負けた方が一人を選ぶ。これを繰り返すというもの。 「私か遠野さんが最後に残るに決まってる。格好悪くてやだなあ」 運動が苦手な富井が言った。ふと見れば、遠野も同じ思いの様子。 (いいアイディアだと思ったのに、ドッジボールが得意じゃない子には、あん まり楽しくない、このやり方) 純子がそう考え、相羽に進言しようとした。 が、それより早く、相羽が再び口を開く。 「キャプテンになればいい。富井さんと遠野さんがそれぞれのチームのキャプ テン。だめ?」 富井と遠野は向き合って、しばし間を取り、うなずいた。 なるほど−−他のみんなも感心していた。 腹ごなしのスポーツ。ドッジボールの次はミニサッカーをやってみたが、こ れは草の背が高くて、ボールの転がり具合がいまいちだった。逆にそれ故、思 わぬプレーもあって面白くなったと言えなくもないが。 充分堪能し、終えた頃に、ちょうど十二時を迎える。昼食に突入と相成った。 到着早々の時点ではあれだけもめた場所決めも、運動したあとになるとさす がに暑く、みんな揃って木陰を選択。 「まるっきり遠足だね」 口をもぐもぐさせ、視線は向こう側の桜並木を見据えながら、町田が言った。 頭上の桜は、咲くと言うよりも花が実っているという表現がふさわしい。 「小学校のとき、毎年四月にやってた歓迎遠足。あれと一緒よ」 「うん、雰囲気似てるかも。季節もほとんど重なってるし、行き先はこの川だ ったし。もっと下流だったけれどね」 純子がそう答えて水筒からお茶を注いでいると、話を聞きつけたらしい唐沢 が輪に加わった。 「歓迎遠足って、そっちでもやってたの? ま、当たり前か」 「そっか。唐沢君、小学校は第一だもんね。行き先、どこだった?」 「KM山、知ってるだろ。あそこさ。小一でも何とか登れる高さだし、坂は緩 いし、手頃だからな」 「なーるほど。山と来れば川か」 ありがちな合い言葉を連想したらしい勝馬の反応。単純と言えば単純である。 「あそこも桜が満開になるもの、いい場所だよね」 遠野は小さく開けた口で、少しずつ食を進めている。 「秋になったら紅葉もきれいで……そんなに広くはないけれど」 「遠野さんはよく行くのね、KM山に?」 前田が尋ねると、遠野はかすかに頬を染めた。 「え、ええ、まあ。両親が気に入ってる場所だから……」 「ひょっとすると、出会った場所だとか?」 立島の冗談めかした口調に、遠野はいよいよ赤面する。 「あれ? 図星とか?」 「そ、そういうわけじゃなくて、お父さんとお母さんが若いとき、よくデート した場所だって言ってたの……」 「へえ?」 聞き手の面々の感心ぶりは、十人十色だ。目を丸くする者、口笛を鳴らす者、 「いいわぁ」と言葉で表す者……。 唐沢が箸を持つ手を顎に当て、考え考え、口を開いた。 「てことは、ああいう場所でもデートスポットになるわけか。自分も予算が苦 しいときは、KM山にしようかな。はは」 「大勢引き連れて、山登りする気? まるで引率の先生だね」 辛口なのはもちろん町田。 「ふん。俺だってその内、本命を作ってだな」 「あんたみたいなタイプが、本命一人に絞れるのかしらん。浮気ばっかりしそ うで、到底信用できませんわねっ」 「そこまで言うか」 「日頃の行いのせいだな」 立島の突っ込みに、唐沢は天を仰いだ。彼の視界にはきっと、桜色のスクリ ーンが飛び込んできたに違いない。 「まーったく、俺と……たとえばあいつとの違いって何?」 唐沢は立てた人差し指を短い間さまよわせ、相羽を指差した。 相羽は、こちらの会話を気にする様子を見せつつ、しきりに話しかけてくる 富井と井口へ応答するのに大わらわといった風情。 「ほら見ろ、今だって二人を相手に」 「唐沢の場合、ちゃんとしたデートに連れ出してるんだろ? 何て言うか−− そう、節操がない」 立島が軽い調子で指摘する。 唐沢を除くみんなが笑う中、前田がぴたりと笑みを解いて、 「立島君もけじめ着けてよ」 と言うや、右手を立島の腕に載せ、つねる仕種を見せた。 「薮蛇っていうやつだな」 今度は唐沢が笑う番だった。 立島は気まずくなったのか、少しばかりうわずった声音で、 「さ、いつまでも食ってないで、何かしよう」 と場を促した。それもそうだとみんな片付けにかかる。 「あ、気をつけなよ」 コップのお茶を飲み干そうとした純子に、相羽から注意が飛んだ。 「ん? 何によ」 「さっき、コップの中に花びらが入ったように見えた。飲み込んでも大丈夫と は思うけどね」 微笑しながら教えてくれると、相羽はナップサックの口を閉じた。 純子がコップを覗き込むと、彼の言葉通り、お茶には花びらが三枚も浮いて いた。急いでいたので気付かなかった。 「あ、ありがとう……」 こんなことに気付くなんて、ずっと見てたのかしら、変なの−−と不思議が りつつも、純子は礼を言う。 相羽はぼんやりと見つめ返し、応じた。 「それより、次、何して遊ぶ?」 長瀬がいないこともあってスケッチの時間は取らなかったが、その代わりに 写真を撮りまくった。カメラは都合三つあって、いずれも二十四枚撮りの使い 捨てタイプであるから、気軽にシャッターを押していける。 「ほら、笑ってくださーい」 純子はレンズを通して覗きながら、急かす口調をする。自分がモデルになっ たときを思い出した。 フレームの中では、相羽と緊張した面持ちの富井が並ぶ。 「はい、もっと引っ付いてー」 「早くしてよー、純ちゃん!」 硬い笑顔の富井が声を張り上げると、隣の相羽は珍しい物を見たとばかり、 ぎょっとした風に彼女を見下ろした。 「あはは、ごめん。今度こそ撮るから」 被写体の表情がほぐれ、自然な笑みが浮かんだのを見計らって、純子はシャ ッターを押した。手ぶれしないよう、慎重に。 (ふむ。自分が撮る立場になると、モデルのことがよく見えるものなのね) 今さらながら感心しつつ、純子は口を開いた。 「オッケー。さ、次は久仁香よ」 「はいはーい」 富井と入れ替わって、今度は井口が相羽の横に立った。 これは何も富井や井口達が望んだから特別に撮っているわけではない。唐沢 が言い出したのだ。「記念にツーショット、撮ろうぜ」と。 それも、全ての組み合わせを撮影しておこうと言い出した。男子が四人で女 子が六人。男女のペアは二十四通りできるから、ちょうどフィルム一つに収ま るという計算。 当初、この提案に反対した者は二名。町田と前田だった。 町田の言い分は、全部の組み合わせを撮ることはない、やりたい者でやれば いいじゃないという主張であった。 これに対し、唐沢がまたいつもの調子で、「分け隔てなく接するのが俺のポ リシーなんだ」と言ったものだから、事態の混乱に拍車を掛けかねない。 −−つづく
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