長編 #4488の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
しばらく後輩の子の後ろ姿を見送っていた茜の顔が、ふいにこちらへ向く。 「なんであんな事言ったの?」 何か寂しそうな表情。 「あんな事って?」 私はわざと、とぼけてみせる。 「くだらないって」 「ああ。だって本当の事じゃない」 「藍って誰に対してもそうなんだよね。恋愛にすごく冷めてるというか……」 「恋愛なんて交尾の為の下準備でしょ。そう考えるとくだらないとしか言えないん だよね」 「……悲しいね。そういう考え」 「なにをいまさら。私の性格知ってるくせに」 「わたし、前から思ってた。どうにか藍のそういう考え方を改められないかって… …」「余計なお世話よ」 その言葉を遮って私は強く言ってやった。たとえ茜でも私に干渉することは許さ れない。今までだって、彼女は最低限私の中に干渉することを避けてきた。だから、 今まで昔と変わりなくつき合えたっていうのに。 「ごめん。そんなつもりじゃなかった」 「わかればいいの」 私だって不必要に茜を責めるつもりはない。なぜかわからないけど、現在の彼女 との微妙な友好関係は気に入っているのだから。 「もう言わないよ」 彼女はふいに目をそらす。それが本心でないことが簡単にわかってしまう。 気まずい雰囲気が漂う。私はつらい感情を心の奥底へと隠す。そして、気持ちを すぐに切り替えることにした。 「早く戻らないと予鈴鳴るよ」 何もなかったかのように茜へそう告げた。 SIDE B(伊井倉 茜) わたしと藍の家は昔、隣同士だった。だから、家族同士のつき合いもあって幼い 時はよく遊んだ記憶もある。でも、彼女の両親が離婚し少しだけ家が遠くなってか ら、あまり遊ぶような事はなくなった。その頃からだろうか、彼女の性格が変わり 始めたのは。 幼い頃は好奇心旺盛な感情豊かな子で、何に対してものめり込むような性格だっ た。それがだんだんとおとなしい感じになり、中学に入学するのを境にあんな意地 悪な感じの冷たい子になってしまった。 両親が離婚した要因は大きいと思うが、それにもまして中学に入ってからの彼女 の変容ぶりにわたしは何か怖さを感じていた。だから、あまりつっこんだ事を訊け なくなってしまっていたのだ。 今までも、何回か気まずい雰囲気になったことはあるが、ほとんどの原因はわた しの言葉にある。彼女は自分に対して干渉されるのを嫌う。何か意見を言うばかり か、思いやりさえも彼女は拒もうとする。 わたしは藍の幼い頃を知る唯一の人間。だから、そんな彼女の態度にずっと悲し みを抱いてきた。今日の事にしても、恋愛そのものではなくたぶん、人間自体を嫌 っているのかもしれない。だんだんとそう思えるようになってきた。 そういえば、1年生の時こんな話をしてくれたことがある。人間には『魂』なん て存在しない。脳のシステムによって偽物の意識を持たされているのだと。 わたしは難しいことはわからない。でも、『魂』を……自分を否定してしまうこ とだけは絶対に嫌だった。 「それでも人は生きていける。大昔から生物はそうやって疑問も持たずに生きてき たんだから」彼女は笑ってそう言った。でも、その笑顔が心からの感情だったのか はわたしにはわからなかった。 しばらくその話題は出なかったが、彼女の言葉の裏にその理論が隠れていること は、わたしにはわかっている。 なにかと彼女は、人間というものを機械的なシステムだと決めつけていたのだか ら。 ある意味、学者的考えとか合理主義者的だと思う人もいて、たしかにそう考えれ ば納得がいく部分もある。 でも、わたしはそんな単純な事ではないことに気づいてしまっていた。そんな彼 女に哀れさを感じてしまっていた。 けど……それは、藍の一番嫌がること。 そうじゃない……それはわたしだって嫌なこと。他人に哀れまれるなんて、彼女 じゃなくても嫌がるはず。 最近、思考が閉塞的になっていく。わたしはいったい何に拘っているのだろう? 「茜。なにぼーっとしてるの?」 後ろの席の佳枝がペンの先でわたしの背中をこずく。 我に返って時計を見る。終業ベルまであと1分。 「帰り、本屋寄ってかない?」 低いトーンで彼女は囁く。 「べつにいいけど……」 用事もないので断る理由がない。 「今週発売の『ラピュア』にさあ」 佳枝の言いたいことはだいたいわかる。 「憧れのSHERUFA様が載っているっていうんでしょ?」 SHERUFAっていうのは、今注目されているバンド『ケルベルス』のヴォー カルだ。美形が売りのいわゆるビジュアル系のバンドなのである。 終業のチャイムが鳴った。 「今度の日曜は気合いいれなくっちゃ」 佳枝の興味はもうただ一点にしかなかった。 「そうか、チケット発売日だったね」 わたしはすぐに気づいてそう呟いた。 彼女もある意味じゃ恋愛に興味を持っていないんだけど、まあ、芸能人一筋なわ けで……誰かさんに似てるってのと違うか、やっぱり。 SIDEA(石崎 藍) 廊下で久しぶりに見る顔があった。橋本誠司。たしか今は5組だったと思う。 すれ違う時に、彼はばつの悪そうな顔で私から視線をそらした。もちろん、私も 彼にはもう興味を感じていないので、そのまま何事もなかったかのように通り過ぎ る。 彼は私が1年の時に唯一付き合った事のある男子であった。今もだけど、むろん その頃にも私の中に恋愛感情などというものは存在していない。そこにあったのは、 ひたすら好奇心だけ。人間の心のシステムに興味を持ち始めて間もなかった頃、私 は好意を寄せてきた彼に不思議な感情を抱いた。それはまさに好奇心。なぜ、自分 なんかを好きになるのだろうという、興味。だから、付き合ってくれと言う彼の言 葉を断らなかった。 しかし、私たちはすぐに別れることになる。二人がうまくいくわけなんかない。 私にとっては恋愛なんかではなく一時的な好奇心、彼も……彼だって結局、同じだ った事はすぐにわかってしまった。だから、別れるのは簡単だった。 彼と付き合った事はある意味でいろいろと勉強になったし、後悔はしていない。 「今の5組の橋本だろ?」 私の前に一人の男子が立っていた。通り過ぎた橋本誠司の方を見つめながら私へ と質問する。周りには私以外、誰もいない。彼の言葉は独り言には聞こえなかった。 「そうだけど……」 私は訝しげに彼の方を見る。同じクラスの幾田明生(いくたあきお)。私に興味 があるのか好意を持っているのわからないけど、なにかとちょっかいをかけてくる うざったい奴。 「知ってるか? あいつ、うちのクラスの川瀬と付き合ってるんだってさ」 親切ご丁寧にそこまで教えてくれるが、私には関係のない話。 「それがどうかした?」 無視してもよかった。でも、あいつはそんなことに関係なく話しかけてくる。 一度、「私に関わらないで」と言ったことがあるのだが、そんなことを気にする ような奴でもなかった。 「石崎がうちのクラスで評判が悪いのは、川瀬経由で悪い噂が流されているかららし いよ」 初耳だった。でも、他人から疎まれるのは慣れている。そんなことは今更の話だ。 「それがどうかした?」 私の言葉はだんだんと苛ついてくる。 「悔しくないの? 他人の噂だけで自分の品格を落とされるのは」 「品格? そんなものを気にして生きてるなんて馬鹿らし」 「たしかに馬鹿らしいかもしれない。でも、何かと損をするのは石崎の方だよ。効 率よく生きるのが石崎の信条だと思っていたけど」 「相変わらずおせっかいだこと」 いい加減にうざったくなり、私はそれだけ言うと目線を反らしてそのまま歩き出 した。別に私は効率よく生きようなんて思っていない。私は私の思うようにしか生 きられない。そのさい、不必要に干渉してくる者に対しては、それなりの処置をと るだけなのだから。 そういえば、いつからだったかな? 幾田がわたしにかまってくるようになった のは。 好意があるならそれらしい行動をとればいいのに……それとも単純に変人扱いさ れている私に興味があるだけなのだろうか? とにかく、どうでもいいことかもしれない。今のところ、彼に興味はないのだか ら。
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