長編 #4456の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
相羽より早く、純子が否定する。 唐沢の視線がこちらを向いた。 勢いで喋っている純子は、その眼差しに気圧され、急に口ごもった。 「じゃ、何でさ?」 「えーと。嫌いなんじゃなくて……」 わけを話そうとして、はたと悩む。 (本当のこと言うのは結構恥ずかしいかもしれない。ううん、言えないよ!) そんな深刻に受け止める必要はないのだが、どうも真剣に考えてしまう。 「と、突然で驚いちゃって。誰がぶつかってきたか、分からなかったし」 純子の返事に、勝馬が「ええ? そうだったか?」と疑問を呈しようとする ところへ、町田が割って入る。 「はいはい、この話はおしまい。それよりも」 と、第一小学校出身の男子二人に目を向ける。 「人のことをとやかく言うからには、二人とも滑れるんだ?」 「もっちろん」 町田の問いに、唐沢は大げさに返事をして、長瀬は黙って首を縦に。 「何しろ女の子を誘うのには、ポピュラーな手段だからな。しゃーって滑って きて、女の子の前でぴたっと停まる。そして一言、『一緒にどう?』って声を 掛けるのさ」 唐沢のこの手の話は、本気か冗談か区別つかない。 「なら、その華麗な滑りをとくと拝見させてもらいましょうか」 町田が試す風な口振りで応じる頃、スケート場近くのバス停に到着した。 身体で覚えているというやつだろう。ほぼ一年ぶりのスケートだったが、純 子は快調な滑り出しができた。 「気持ちいいー!」 早くもスピードに乗って、髪が風になびく。 (小さい子の面倒を見ずに滑れるのって、いつ以来? ……藍ちゃん達が来れ なかったのは残念だけど) シーズン終了を惜しむかのように、平日にしてはたくさんの利用者がいた。 それでもリンク内の混雑はさほどでないから、考えごとをしながらのスケーテ ィングでもまず大丈夫だ。 (中一じゃあ、まだ責任者にはなれないものかな、やっぱり) 藍ちゃん達小学二年生の子数名を連れて行く話があったけれど、親御さんが 大人の保護者がいないのは心配だとして、待ったをかけてきた。少し頑張って みたが、結局は押し切られる。 (引率する自信はあるのよ。でも、万が一にも怪我をしたときどうするかって 問われると……強く言い切れなかった。せめて、普段からもっとあの子達と一 緒にいたら信用してもらえたかもしれないのにね。残念) 「すっずはっらさーん、どったのおーぉ!」 段々ゆっくりになっていた純子の横を、騒ぎ声が抜けて行った。唐沢だ。 と、彼のすぐ後ろを町田が追いかけている。全力疾走に近い。 「余裕出してるんじゃないっ!」 大方、町田が「さあ滑ってみせてよ」と言ったのに対し、唐沢の方で「捕ま えてみな」とでも応じたのではないだろうか。 「あははは。どっちも頑張れー! 気を付けながらねっ」 手袋をした手で口元を多い、笑っている内に思い出した。 「相羽君は、と……」 どのぐらい上達したか見てあげようと、近辺に視線を走らせた。が、見つか らない。まだ出て来てないのかと思い、外にも目を向けたが、やはり同じ。 「おっかしいわねえ」 改めてリンク全体をぐるっと見渡すと、ようやく発見できた。 てっきり、近い距離にいるものと思っていたのが、随分遠くに立っている。 相羽の周囲にいるピンクやオレンジ色の服装は富井達らしい。 (あんな隅っこ) 純子は向きを換え、力を込めて滑り始める。 周りに注意しつつ、接近するに従って、皆の様子が見えてきた。 「あら。そこそこ滑れる……面白くないの」 相羽がそれなりに――下手なりに――滑っているのを眼前にして、がっかり。 そしてまた、安心もした。またぶつかられてはたまらないから。 (すこーし、からかってやるつもりだったけど、あそこまで進歩してたら言え ないよ。それにしても力んでるわねえ) きゅっと音をさせて停止し、見守っていた純子に、やがて長瀬が気付いた。 穏やかな海を行く帆船みたいにゆっくりと寄って来て、隣に立つと、相羽を顎 で示しながら言う。 「さっきの話ほど下手じゃない。まあまあじゃないか」 「ええ、私も驚いてるとこ」 「勝馬なんか焦ってる。『やばい、抜かれる』って」 前を見ると、勝馬は相羽を追いかけて滑っている。競う気らしい。 その横から声援を送るのが井口と富井。当然と言っていいものか、相羽応援 団と化していた。 「かわいそーだから、勝馬君の応援したげようかしら」 「だったら、俺も加わろうかな。応援してくれる?」 「うまい人を応援してもねえ。上手なんでしょ?」 問われた長瀬は肩を落として、 「こんなことなら、下手な頃を見てもらっておくんだったな。上達ぶりを誉め てもらえただろうにさ」 と苦笑を交えて応じた。 「唐沢君だったら小さい頃から仲いいんじゃない?」 「まあ、そうだけどね。男に誉められても嬉しくない」 純子の真面目すぎる応対に、長瀬は首を捻った。 しばらくして、リンクの整備係泣かせな傷を二箇所ほど残して相羽が戻って 来た。そのすぐ後ろ、捕まえようとしているのだろう、勝馬が手を伸ばしてい る。さらにわずかに遅れる形で併走するのが富井と井口。ぱっと見た目には、 四人で電車ごっこをしてるみたい。青、白と黒のチェック、ピンク、オレンジ と、服の色がそのまま車輌の模様といった風情。 幸い、技術差がほとんどないおかげで、うまく前に進んでいる感じである。 「そうするくらいなら、最初から連結して滑ればいいのに」 徐々に徐々に速度を落とす相羽達四人に純子が提案すると、女性陣がたちま ち乗り気になった。 「それ、いい! やろやろ」 そうして純子の手を引っ張る。 「純ちゃんも入ったり入ったり」 「え、あの、ちょっと」 嫌がる間も与えられず、取り込まれてしまった。 「長瀬君も入ろーよ」 「あ、俺はカメラ買ってくるわ。さぞかしいい写真が撮れるね。えっと、売店 はどっちだっけかな」 そそくさとリンク外に出る長瀬の後ろ姿を見つめながら、純子は思った。 (逃げ損なったわ……) サンドイッチの切れ端を飲み込んで、口の中を空っぽにしてから喋り出す。 「何か、無口ね」 みんなでお昼をスケート場の食堂で取っている最中、純子は気になったこと を相羽本人に振ってみた。 「−−そうかな?」 相羽は俵型のおむすびを器に戻し、口元を拭いながら応じた。次いで、お茶 を一口。 「滑ってる間、ほとんど喋ってなかったじゃない。ねえ?」 「うん」 隣の富井に同意を求めると、即答が返って来た。 「話しかけても、『ああ』とか『そう』とかが多くて、頼りなかったっていう かあ。すだれに腕押しってやつ?」 「のれん、でしょうが」 そばをすすっていた町田がひきつった表情で指摘。どうやら、吹き出しそう なのを必死でこらえたらしい。 「そうだった? まあいいじゃない、意味が伝わったら」 「私は疲れてんの。輪をかけて疲れるようなこと言わないでほしいわ」 「そんなこと言うなんて、芙美ちゃん、年寄りくさーい」 「誰が年寄りだ、誰が。あちらさんと追っかけっこしてたせいよ、まーったく」 町田に箸で差された唐沢は一瞬動きを止めたかと思うと、くわえていたラー メン一本を一息で吸い込んだ。 「ボク、若いから疲れてないよなー」 「何よ。そんなこと言いますか」 「事実なもんで。あれぐらいで疲れてちゃ、多人数の相手は務まらないんだな」 「ああ、そうでしょうとも」 言い合いを始めた町田と唐沢を置いて、純子は再び相羽に向き直る。 「考えごとでもしてた?」 「うん、考えごとと言えなくもない。思い出しながら滑ってたから」 食べる作業を再開する相羽。 「思い出しながら? 何のこと?」 「スケートの特訓をしたのが一年前だったから、忘れてないか不安で」 「特訓て……やっぱり練習したのね?」 純子が感心してみせると、相羽は照れた。明らかに照れた。食べかけのおむ すびを再び皿に置き、さっき飲んだばかりのお茶を口に運ぶ。必要あるとは思 えないほどたくさん飲んで、時間を稼いでいる。そんな具合だ。 「ね、ね、誰から教えてもらったの?」 井口の口調は興味津々。まさか同じ年頃の女子だったら……という考えが頭 をよぎったのかもしれない。 相羽は手の甲で口元をひと拭きし、瞬時、上目遣いをして呼吸を整えた。 「母さんに教わった。最初は手を引いてもらってさ」 「ああ、あのお母さん。相羽君がこれだけ滑れるようになったってことは、上 手なんだ?」 「その辺は分からないけど……僕よりはうまい。当たり前か、あはは」 緊張が解けたみたいに朗らかに笑った相羽。 (あ、笑った。ここに来て初めてじゃないかしら? 滑れるようになったけれ ど、まだ自信なかったのかもね。今になってようやく安心できたってところね、 きっと) 相羽の笑顔を見ていると、純子も何だかにこにこしてしまう。 「努力の人だったんだな、おまえって」 茶化し気味に勝馬が口を挟む。 「それこそ当たり前だろ。何を今さら」 「いやあ、そうは見えない。勉強も運動もできる上に、ピアノ引いたり、手品 したり、何でも簡単にやっちまうもんだから、天才かと思ってた」 「ばからしい」 それ以上答えるのが面倒になったか、相羽は残るおかずを片付けにかかった。 「分かるぞ、相羽ーっ」 急に割って入ってきたのは、唐沢。町田もこちらを見ている。 「いきなり意味不明なことを言う……」 「つまり、見えないところで努力してるって部分だよ」 言いながら胸を反らした唐沢は、町田の方へ視線をちらりとやる。 「俺がもてるのも日頃の影の努力のたまものだってのに、町田さんが信じてく れなくて」 「信じろって言う方が非常識だってーの」 片方の肘を突いた町田が、呆れ口調で告げた。 「……いつの間にそんな話になったのよ、二人とも? 最初と話題が随分ずれ たみたいだけれど」 純子が首を傾げると、唐沢と町田は顔を見合わせ、やはり首を傾げた。 「はて、何だっけな」 「忘れた。唐沢君のお喋りったら、それはそれは際限なく広がるからねえ。男 じゃないみたいに」 町田が言い合い再開の口火を切ると、唐沢もにやりと笑ってすぐさま反応を 示す。それでいて、どんぶりの中は、二人ともきれいに平らげていた。 「この喋りは、女の子のお相手をするのに必要なんだよ。俺だって一人でいる ときは物静かに決めるぜ」 「どうだか。テレビ相手に突っ込んでるんじゃないのかなあ?」 二人のやり取りを目の当たりにして、他のみんなは納得した。 (はあっ。これなら話題がどんどん変わっていくのも当然だわ) 一旦休めた身体をリンクの上に出すと、忘れていた寒さを感じた。 午後からは人が増えるものと覚悟していたのに、どうしたわけかかえって減 ったようだ。天気が悪いせいかもしれない。建物の中からではしかとは見えな いが、とうとう降り出したらしい。屋根を叩く音に耳を澄ますと、相当大粒の ようだと想像できた。 「予定よりだいぶ早いが、帰るか?」 腕時計をしている唐沢が、そこへ視線を落としながら皆に尋ねた。 町田が額に手をやり、即応する。 「何言ってんだか。今さら帰っても、雨に濡れるだけで損だわ」 「それもそうだ。雨がやむまで滑る方がいい」 「しっかしスケートばっかってのも、飽きてこないか」 今度は長瀬が不平を漏らす。多分、陸上部の彼としては、膝や足首に負担を かけるような運動を長くはやりたくないのだろう。それを口に出さないのは、 きっと気配り。 長瀬は相羽の応援を求めた。 「なあ、相羽もだいぶお疲れだろ。だよな?」 「うん。まだ慣れてないからかな、しんどいことはしんどい」 「休憩したばかりなのに、弱音を吐くなんてだらしないわねえ。私なんか、あ と三時間は滑ってられる。追いかけっこなんてばかをしなければ」 −−つづく
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