長編 #4453の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
期末試験が終わりほっとするのも束の間、授業ごとに容赦なく答案が返却さ れるようになっていた。誰もが一喜一憂している。中には、憂いが喜びを圧倒 的に上回ってしまった者も、いないでもないが。 今は数学の時間だが、牟田先生の都合で答案を返しただけであとは自習に突 入。故に少々、騒がしい。 (下がらなくてよかった……) 点数を見て、安心するのは純子。息をゆっくりついた。 (直前にモデルのお仕事やって、お母さんがお父さんを説得してくれて、ここ で成績下がってたら合わせる顔がないもんね) と、そのとき視線を感じて、純子は顔を向けた。 隣の相羽が点数を気するように、横目で見やってきていた。 「何よ」 「数学、みんなで勉強してたって聞いたから……唐沢から。よく分からないけ ど、僕を探していたとか」 「探してたのは郁江だけよ。あなたがいなかったから、芙美と私が勉強してた のへ混じって、三人でやったの」 「そうなのか。涼原さん達の点が悪かったら、責任取らなきゃならないかと思 ってた」 肩の荷が降りたとでも言いたげに、相羽は軽く笑い声を立てた。 「まさかぁ」 純子の方は肩をすくめ、今し方の話の源となった唐沢へと視線を転じた。 「ふむ。遊びすぎた」 唐沢は、返って来たばかりの答案片手に自己分析をやっている。点数は惜し いところで赤点。案外、冷静な目を持っているようだ。 「テストを飛び越して、ホワイトデーに意識が行ってたせいじゃないのか?」 席の近い柚木が、からかい半分の口調で覗き込む。 「かもなぁ。すこーしだけ暗記に時間を回すべきだったか」 大げさに嘆息する唐沢に、これまた席が近い有村は心配そうに、申し訳なさ そうに尋ねる。 「もしかして、私のせいなの? 唐沢君、ごめーん!」 「いやいや。みんなと楽しい時間を過ごせた方が、よっぽどいいさ」 「でも追試でしょ」 「う……」 さすがの唐沢も、少し口ごもる。しかしすぐさま表情を明るくした。 「追試の勉強、教えてもらおうかな」 「あ、それいい。英語なら何とかなるわ」 にわかに張り切る有村は、今にもテキストを開きそうな勢い。 だけど、唐沢は彼女をやんわりと制した。 「冗談冗談。こんなことで女の子の世話になりたくないの、俺。格好つかない ぜ……。というわけで、相羽クン」 身を乗り出して、相羽の肩を揺さぶる唐沢。 「な、何だよ」 振り返った相羽の顔つきを、よくある言い回しで表現するとしたら、「一難 去ってまた一難」といったところか。何故なら、純子との話を終えた彼は白沼 の相手をしていたのだから。 「聞こえてないか? 色々とわけあって、キミに勉強を教わることに決めたか ら、よろしく頼んだぜ」 「意味不明なこと言うなよ。−−あぁ、追試か」 「そう、その通り」 どういうわけか胸を張る唐沢。 そこへ、邪魔をされた形になった白沼が口を挟んできた。 「自分が悪いんだから、自分で勉強したらっ」 その声は、もちろん刺々しい。薔薇のイメージがぴったり来る。 唐沢は右手の人差し指を立て、左右に振った。 「分かってないな。それができるぐらいなら、最初からいい点取ってるっての」 「……そういうことを、よくも偉そうに言えるもんだわ」 「まあまあ、絵里佳。抑えて抑えて」 有村が止めに入った。彼女のにこにこ笑顔に、白沼は気抜けした様子。肩を 上下に動かし、大きく息をついた。 「おもてになる人と話すのって、疲れるわ」 相羽との会話はしばしあきらめたとばかり、自席にきちんと収まった白沼。 「そうだな、確かに俺は裏がない人間だから、おもてになる」 取るに足らない軽口を唄うように言う唐沢。随分、愉快そうに唇の両端を上 に向けた。 「それ、聞き飽きた。裏がないだけに占いが好きだって、続けるんだろ」 相羽が先回りすると、唐沢は眉を一瞬しかめたが、ただちに立ち直る。 「そんな古くさい洒落は忘れたな」 二人のやり取りに何の気なしに聞き耳を立てていた純子は、思わず吹き出し そうになった。 (く、くだらないっ。男子っていつも、こんなこと話してるのかしら?) 勝手に想像をして一くさり微笑んでから、教科書を開いて、正解例と間違え た箇所とを見比べる。 が、程なくしてお喋りの誘惑がかかった。町田が「遠征」してきたのだ。 「真面目にやっとるねー」 「芙美はもう直したの?」 「大雑把なチェックは。面倒だからきちんと式には書いてない」 町田はしゃがんで、両腕を机の縁に載せてきた。 「それよりか、春休みの話」 「何があったっけ」 「まさか忘れてる? スケートだよ」 「ああ……日にちを決めてなかったんだ、そう言えば。郁江と久仁香の都合は どうしよう」 「休み時間に聞きに行ったら、オーケーの日はね」 と、手帳を開く町田。この手のことに関してはいつも以上に素早く、まめだ。 「あとさあ、遠野さんも行きたがってたのよね。だけど、三月中はどうしても 無理だって。しょうがない」 「四月になったら終わっちゃうもんね、スケート場。また何か考えましょうよ」 「もち。それがいい」 「あと……男子の予定はいいのかな」 スケートに行く日を決定する前に、純子は肝心な点を思い出した。 「平気平気。向こうから合わせるって。無理なら、来なくていいんであって」 「でも最低限、あいつの都合だけは……」 純子は首をかすかに動かし、相羽を示す。 相羽は再び白沼との会話に巻き込まれた様子だ。 「それもそうね。あとで聞いておくわ」 請け負った町田は、次いでにんまりと笑った。 「どうしたの、芙美?」 「大したことじゃないけれど。純、あんたが男子を気にするのはかなり珍しい からね」 「む。気にするの意味が違うでしょ」 頬を膨らませ気味に反発した純子だが、町田は肩をすくめて受け流す。 「さあ、どうかしら」 卒業式が済んでから。 学校の家庭科室を借り切って、調理部の三年生送別会をささやかながら催し、 吉住ら卒業していく先輩達を送ったあと、残る部員は片付けにかかっていた。 「誰よ、こんな、深く、打ち付けたのは」 釘抜き片手に、町田が何度も力を入れている。木の柱に立つ釘は細いながら も、実に頑固だ。 町田の声に呼応して、高所の飾り付けを外しにかかっていた相羽が、肩越し に振り返る。 「うん? そんなに強く打ったつもりなかったのに……代わろう」 飾りを取り去った相羽は椅子を飛び降り、町田のそばへ駆け寄った。 「悪い。貸して」 釘抜きを受け取ると、相羽は持ち方や視点の位置を定めるために三度ほど軽 く握り直し、やがて力を込めた。 「−−っと、抜けた」 「どうもどうも」 「抜けなかったらどうなることかと思って、焦った」 手の甲で額を拭う相羽。もちろん汗などかいていないから、ポーズだけだ。 そこへまたお呼びがかかった。 「相羽くーん! こっちも手を貸してよぉ」 「はいな」 富井の方へ足早に行く。 (たった一人の男子部員だから、みんなもいいように使ってる感じ) テーブルを濡れ雑巾で拭いて回る純子は、前を横切った相羽を見て思う。 (それにしても、よく動く……こまねずみみたい。と言うより、ねずみ花火か しらね) 自分の想像に笑いそうになっていると、隣に人影が。 「ありがとうね、涼原さん。部員じゃないのに手伝ってもらって」 「い、いえいえ」 折っていた腰を伸ばし、首を振った。弾みで、髪をまとめていた三角巾が取 れそうになる。 「こっちこそ、関係ないのに、参加させてもらって……楽しかったですし」 「そんなことは気にしない。どうしても気になるのなら、入ってくれたらいい のに。ねえ」 「あの、それはちょっと」 お茶を濁そうと、再びテーブル拭きに熱中してみせる純子。 (嫌じゃないけど……モデルの仕事やるからには、できるだけ時間空けといた 方がいいって言われたから) 「今入らないと、新一年生が先輩になってしまうわよ。それとも料理、全然で きないから億劫だとか? だとしたら、なおさら入った方が」 「遠慮しておきます……」 「残念。いつでも言ってよ」 言い置いて、そばを離れる南。意外とあっさり解放してくれたので、純子は ほっとできた。 南は相羽の方へ話を振る。 「相羽君は掛け持ちするとか言ってたわよね。もう決めた?」 「いえ、まだです」 工具類を片付けながら、顔だけ振り返った相羽。 「掛け持ちするかどうかも、はっきり決めたわけじゃないし」 「気を遣ってるんだったら、余計な心配無用よ。こっちの活動日に参加できる んなら文句なし」 「はあ」 「都合つかないにしても、一人新入部員を引っ張ってきたら許す」 「ええっ?」 小さめの工具箱の蓋を閉じる音がした。が、相羽の返事はそれをかき消すほ どの声量だ。 「新入部員……」 「今度の新一年生を男の色気で……なんてね。ああ、そうだ。涼原さんでもい いのよ」 からかい口調だとはすぐに知れたが、これには純子も慌てさせられる。 「み、南先輩〜っ」 「同じクラスなんだから、ちょうどいいかなと思ってね。あははは」 「……二年生でも同じクラスになるとは限りませんけど」 純子がせめてもの抵抗を示すと、話題は一気にそちらに触れた。後片付けは もう終わったから、気兼ねなくお喋りに入れる。 「そうかぁ、クラス替えか」 町田が腕組みをした。何か続けて言うのかと思いきや、口を閉ざしている。 交替する形で、富井が反応した。 「みんな一緒になれたらいいよねえ!」 「そらま、そうだけど」 「何よぉ、芙美ちゃんたら気のない返事なんかして。一緒じゃやなの?」 「こらこら、そういう目で見るな」 じとっとした視線で見上げてきた富井に、顔をしかめて手を振った町田。 「確率を考えたら、難しいと思えただけよ」 「確率ぅ?」 「合ってるかどうか確信ないけれど、十クラスあるんだから、十分の一を人数 マイナス一回分、掛け合わせればいいんじゃないかしら」 「人数から一を引く……んだっけ」 自信なさそうな富井は井口と顔を見合わせる。井口もまた頼りなげに、首を 横に。 「とにかくそれを計算したら、一万分の一になる」 「一万分の一!」 富井の弱り顔が、とてもだめだわと語っている。 井口の方は、気を取り直したように小さな声で言い添えた。 「全員一緒が望み薄なら、私とあと一人だけでいいもんね。それならえっと、 十分の一で済む」 そうして、相羽をちらりと盗み見る。 その視線を感じたわけでもないだろうが、相羽が呼応するように口を開いた。 「女子と男子のバランスなんかがあるから、もう少しややこしい計算式になる んじゃないかな。それにさ、水を差すけど、計算してもあまり意味ないと思う」 「どうして?」 確率計算を言い出した町田、さらには純子の声が重なった。 「だって、クラス分けを決める先生−−かどうか知らないけど、クラス分けを 決める人は、まさか抽選で僕らを振り分けるはずないよ。−−南部長、成績じ ゃないですか?」 「そういう噂はあるわ」 −−つづく
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE