長編 #4450の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
純子達二人は振り返らせるのをあきらめ、先にカウンターに向かった。 チキンバーガーやホットパイ、フライドポテトにジュース類を受け取ってか ら、改めて相羽のいる席に足を向ける。 ことさら大きな動作で、純子と椎名はトレイをテーブルの上に置いた。かす かにぶつかり合う音がした。 「ここにいたのね」 純子達はこのとき初めて、彼の服装が学生服だと気付いた。 「やあ」 ごく短い間、目を上げて応えた相羽は、またすぐ手元の本にのめり込む。 「熱心に何を読んでるのよ」 失礼でしょという気持ちもあって、きつめの口調になる純子。さらには、手 を伸ばして書名を確かめようとした。 いち早く答える相羽。 「パズルの本だよ」 「パズル? そんな本を読んで、にやにやしてるわけ?」 「質問ばっかしてないで、食べたら?」 相羽に言われて、純子は席に落ち着いた。椎名はとうに座っていたが、先輩 に遠慮したのか、食べ物にはまだ手を着けていない。 「恵ちゃん、食べようっ」 「はい。いただきまーす」 その間にも、相羽はまたまた本の世界に入ってしまって、感心した風にうな ずいたり、小さく吹き出したりしている。 「あのねえ、相羽君」 「はい?」 「来てもらったんだから悪くは言いたくないけれど、あなたが書いた推理小説 の話をしに集まったのよ。いい加減、本を仕舞って−−」 「うん」 手早く本を閉じ、引っ込める相羽。 純子はペースを乱されてしまった。もっと手を焼くものと予想して、次の台 詞を用意していたのに、相手が素直に反応したから。 「……どういうことよ」 「何が」 「本、面白いんでしょ? それなのに、ぱっとすぐにやめちゃって……」 「短いから」 相羽は台詞の途中でジュースのストローに口を着けた。音から推測するに、 シェイク類のようだ。冬場には冷たいだろうが、店内は暖房が効いているから、 ちょうどいいのかもしれない。 「今読んでたのは、パズルのヒント集みたいなところで、一つ一つは短いんだ。 例を挙げると……イタリアのホテルの前に、カメオ売りがいたんだってさ。通 りかかったこの本の作者を日本人だと見破ったらしく、カメオ売りは日本の歌 を唄い出した。『ムッシュ、ムッシュ、カメオ、カメオだよー』って」 「……」 最初、何を言ってるのか理解できずに顔を見合わせた純子と椎名。が、やが て同時にくすっと吹き出した。 「−−あははは。『もしもし亀よ』の洒落なんだ?」 「そう。日本から来た人がいたずら心を起こして、教えたんだろうなあ。 こんなのもあるよ。日本語を覚えたばかりの外国人が、日本の新聞のある箇 所を指差し、勝ち誇っている。『逆さまに漢字が印刷されています』って。不 思議に思った作者が覗き込むと、そこは将棋のコーナーだった……」 「将棋……あっ、そうか」 純子は両手の平を合わせたが、椎名は合点が行かない様子。ポテトをくわえ たまま、首を傾げている。 「将棋の盤のことを言ってるのよね、相羽君?」 「そうだよ。片側から見れば、相手側の駒は全部逆さまってわけ」 純子の言葉にうなずいてから、椎名に説明する相羽。 椎名はしかし将棋をまるで知らないらしい。おかげで相羽は備え付けてある ナプキンを取って、図を描いてみせる羽目に。 「物知りなんですね、相羽先輩って」 「これぐらいなら、たいていの人−−男子ならまず知ってると思うよ」 椎名の感心ぶりがおかしくて、笑いが起こった。 ひとしきり笑ってから、はたと本題を思い出す。 「それより、推理小説−−」 「難しすぎです!」 純子を差し置いて、椎名が水を得た魚みたいに俄然張り切る。小説中のヒン トらしき箇所をいちいち挙げて、ああでもないこうでもないと喋った。 聞き終わって、相羽は難しい顔をする。 「……ということは、僕の書き方がよくないんだ。分かるようにしないと」 「そんなことないですっ」 慌てた風にフォローに回る椎名。 「簡単なのより難しい方がいい。ですよね、涼原さん」 「う、うん」 同意を求められて、純子も急いでうなずいた。 「誰にも解けない方が、凄いってことでしょ?」 「凄いとは限らないだろ。誰にも解けないパズルなんて、たいてい欠陥がある もんだ。うーん……」 「そんなものかしら? まあ、いいじゃない、そんな悩まなくたって。残りの 解答編、読ませてよ」 「そうそう。早く続きが知りたくって」 二人にねだられて初めて思い出したように、相羽は推理小説の結末部分を二 部取り出し、純子と椎名それぞれに渡す。 「何か、目の前で読まれるのって、照れる……」 相羽がそんなことを言ったが、純子達は意に介さない。ハンバーガー片手に、 熱心に目を通す。 しばらくして、その目から鱗が落ちる思いを味わった。 椎名が「なーるほど」だの「見落としてた」だの、しきりと悔しそうにつぶ やくのとは対照的に、純子は口をぽかんと開いて、半ば呆れていた。 (こんなこと、よく考え付くわ。どんな頭してるのか……) 「面白くない?」 相羽の声はうわずっていて、不安げな響きをたっぷり帯びている。 「せめて、怒られたくないなぁ……」 「怒るなんて。面白かったです」 紙の束を胸元に抱き、顔を起こした椎名が目尻を下げて嬉しそうに言った。 自分のことみたいに喜ぶ笑顔の理由は、期待通り、あるいはそれ以上の物を読 めたという感動のためかもしれない。 「そ、そうかな」 さすがに照れるらしく、どもる相羽。 「また次のお話、お願いします!」 「あ、ありがとう。次を期待してもらえるっていうのは、最高だよ。でも、う まく行くかどうか責任持てない」 「大丈夫、これなら次も傑作間違いなし」 小学生から太鼓判を押されて、相羽は微笑した。 その笑みを残したまま、純子へ視線を移す。 「あの……涼原さんはどう思った?」 「え? −−うーんとね。びっくりしたというか意外だった」 読み返していた原稿から面を上げ、純子は正直なところを伝える。 「意味がないと思ってた場面に意味があったり、難しく見えた物が簡単に解け たり……。手品に似てる感じね」 「それはあるかもしれない」 肯定した相羽の表情から、不安感は消えていた。純子からもまずまずの好評 を得たと分かり、ほっとしたのだろう。 「そうだ、いいこと思い付いた。次回作は手品を応用する手があった」 「それ、面白そうっ」 声高に反応したのは純子のみ。椎名は相羽の手品をまだ見たことがない。 故に、この小学六年生の少女からのリクエストが、一つ増えることになった。 「いつか、手品も見せてくださいね?」 「もちろん。……宿題が増えちゃったな」 芝居がかって肩をすくめ、真顔で眉を寄せる相羽。 それをポーズだと見破った純子が笑い始めると、相羽も硬い表情を解いて苦 笑する。 きょとんとした椎名も、つられて次第に笑い出した。 三人のいる席はまたひとしきり、笑い声に包まれた。 大部分の男子は、相羽と同じようにホワイトデーをやり過ごすか、後回しに する様子であった。 だが、ごく少数の例外はどこにでもいる。 「素敵なチョコのお返しに、何がいいかな」 一年三組で、そんな枕詞を乱発しているのは唐沢だった。 期末考査が始まる前に、リサーチしているらしい。なかなか大胆で度胸の据 わった振る舞いである。今もまた有村の希望を尋ねてたところだ。こんなとこ ろを先生に見つかり、なおかつ成績が少しでも下がっていたら、どう言われる ことやら。 「さあて、次は他のクラスに遠征してこなくちゃ」 いそいそと教室を出て行く唐沢を、有村達も笑顔で見送るのだからよく分か らない。 「よくやるわ」 町田が見送る視線を外して、吐き捨てるように言った。 純子と町田は放課後の時間を利用し、机の上にノートを広げ、目前に迫りつ つある試験に備えて、細かいところを確かめ合うつもりだが、今の今まで、唐 沢のおかげで少しばかり気が散ってしまった次第。 「何でもてるんだろ、ああいうタイプが」 「外見がいいから、それで引き付けられるんじゃない?」 純子はノートに目を向けたまま、淡々と答えた。 「おや? 純の口からそんな台詞が出るとは意外だわ」 「何が意外って?」 「唐沢君のこと、少なくとも見た目は合格点を出してるんでしょ」 「変な風に取らないで」 やっと顔を起こした純子。急いだものだから、髪が顔の前にかかっている。 それをかき上げている間に、町田が先に口を開いた。 「そりゃあね、いい線行ってると認めるのに、私もやぶさかじゃあない。問題 にしたいのは性格」 「うーん……悪い人じゃないわよ」 「私はそうは思わないな。ああいうつき合い方は許し難いものがある、うん」 「芙美ったら、何か恨みでもあるみたい」 おかしくて、くすくす笑って、はっと現実に立ち返る。 「それより、この問題だけど」 勉強に舞い戻ってからしばらく経って、唐沢が戻って来た。何故か富井が一 緒だ。 「郁、どうしたっての?」 純子と顔を見合わせてから、町田は怪訝そうに改めて振り返った。 「相羽君以外の男の子と……」 「やだあ、芙美ちゃん。人をそんな」 きゃっきゃと笑うものだから、富井の後半の台詞は聞き取れなかった。 「相羽を捜してるって言うから、もう帰ったみたいだぜって教えたんだ」 後方に立つ唐沢が伝える。 そのあとを引き取って、富井自ら事情を話し出した。 「数学で、出そうなところを教えてもらいたくてさぁ」 「もう無理ね。ここにいてもしょうがないよ」 町田が教室を見渡すのに対し、富井は握った左右の拳を胸の前で軽く合わせ る。そうしておいて、様子を探るみたいに「えへへへ」と小さな声で笑った。 「数学がピンチなのは本当なのよー。この際、相羽君じゃなくていいから、教 えてちょうだい!って気分」 「……なんて言い種」 怒るのを最初からあきらめた風に、肩を落としてため息をつく町田。 純子も呆気に取られて、「よくやるよ」とこぼした。 「私達って、代役なのね」 「そんなつもりじゃあ……。頼りにしてますっ、純ちゃん、芙美ちゃん!」 「富井さん、同じクラスに誰か聞く相手、いないの?」 まだいた唐沢が、鞄片手に尋ねる。どことなく面白がっているのが見え隠れ。 「いるよぉ。でもさ、今日の授業終わったら、ぱあって帰っちゃった。私も最 初から相羽君に聞こうと決めてたしぃ」 「なるほどねえ。俺があいつぐらい数学できるんなら、喜んで代役務めるんだ けどな」 唐沢のさも残念そうな渋面を見て、町田が一言、純子に耳打ち。 「ほら、また始まった」 それを当人も聞き留めたようで、唐沢は表情を戻してすかさず言う。 「何がまただって」 「相変わらず、お優しいんですねってことよ」 町田がいささか棘のある口調で返した。 しかし唐沢は意に介さず、肩をすくめると、今度は涼原に顔を向けた。 「涼原さん、時間ないことだし、早く教えてあげなよ」 「え、ああ、そうね」 純子が満足な返事をする前に、唐沢は教室の戸口に向かっていた。 廊下に出るときになって、片手を挙げ、「チャオ」と言った。 「英単語覚えるのにひいひい言ってるのに、なーにが『チャオ』よ」 最後までぷりぷりしている町田。よほどそりが合わないようだ。 「もういいから、テストのこと!」 純子が促す。ようやく三人で額を寄せ合った。 −−つづく
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