長編 #4448の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「変な質問だな。男のタレントの感想を男の俺に聞くのかい、涼原さん?」 「え……あ、そっか」 頭をかく。 (いけない。よく考えたら、不自然よね。だったら、せめて……) 「やだな、早合点しちゃって。私が言ってるのは、男の子の方じゃないのよ」 「と言うと、女の子の方? へえ、意外。女子って女のタレントに、そんなに 興味ないんじゃないの? 人気出てるアイドルとかならまだ分かるけどさ、こ の間のCMの子は多分、新人じゃないか」 「いいの。ちょ、ちょっとだけ、か……か、かわいいかなと思ってさ。あは、 ははは」 上顎と下顎がうまく噛み合わない感じがする。 (自分で自分のこと言うなんて……ばかみたい) 気恥ずかしさが強くって、純子はフォローしたくてたまらない。 「でも、顔隠すなんて、何考えてるのか分かんないよねーっ。あは」 (何だか……空しい) 言うだけで疲れる。純子は自然と下を向いていた。 「うん、そうだな。あの子、いい感じだった。顔ははっきり見せないわ、夕陽 のおかげで肌の色とかもいまいち分からなかったけれど、プロポーション、す らっとしててよかったし」 「そ、そう?」 唐沢の感想に、そろりそろりと顔を上げた。 「歳、いくつなんだろ? それによって評価が変わる」 「どうして?」 「はははっ。もっと出るとこが出てたらいいかな、って思うからさ。いくらプ ロポーションよくたって、万が一、二十歳過ぎててあれだったら、ちょっと寂 しいなあ、ボク」 「そ、それは、ないと……思うわよ」 不意に子供じみた口調になった唐沢に、調子を狂わされながらも、純子は否 定しておいた。 「ま、二十歳ってことはないな。十五か十六、行ってて十七歳ってところじゃ ないの?」 「さ、さあ、どうかしら」 返事をしながら、内心では、 (えー? そんなに上に見えるの? 私って老けて見えるのかな……ショック ……。それも、大勢の女子と付き合ってる唐沢君に言われたなんて) と、落ち込む純子である。 肩を落として見た目にも分かり易く、若干しょげていると、当の唐沢に気遣 われた。 「どうしたのさ? 急に元気なくなったみたいだぜ」 「あ……ううん、何でもない」 「そうか? 何なら元気づけてやろうか。デートでもして」 「い、いいよ。唐沢君、他の子の相手で忙しいでしょ」 「すっずはらさんのためなら、スケジュール変えるぐらい朝飯前」 「おっと。おまえが言っても全然説得力ないんだな」 笑み混じりに告げた唐沢に、横合いから指摘が入る。長瀬だ。 意外に寒がりなのか、ズボンの左右のポケットに両手を突っ込み、わずかば かり猫背気味である。今朝の気温は平年より高かったはずだが。 「何だ何だ、長瀬。人がアプローチしてるのを、邪魔しないでくれよぉ」 不平な表情を作って見上げる唐沢に対し、長瀬は肩をぴくっとすくめた。 「おまえが言っても無駄無駄。同じ無駄なら、早く終わらせてやろうと思った わけ」 「ははっ! さしもの俺も口の悪さでは負けるぜ」 「おまえに言われたくない」 長瀬は唐沢との会話を一方的に打ち切ると、純子へと視線を移してきた。 「悩み事があるなら、唐沢なんかよりもこの僕に」 言って、気取った仕種で右手を自らの胸の前にかざす。 その直後に破顔一笑、右手をポケットに戻した。 「今話していたのは悩みじゃなくて」 わずかに迷って、結局、唐沢に尋ねたのと同じ言い回しをした。 喋っている途中、相羽と白沼が前後して到着。また、唐沢のルートで有村、 町田も集まってきて、そこへさらに前田と立島も加わる。 あっという間に人だかりができてしまった。 こうなるともう、純子が直接話さなくても、話題はドラマ『天使は青ざめた』 か、美生堂のコマーシャルに限定される。 コマーシャルに関しての意見は、賛否両論と言っては大げさかもしれないが、 「『ハート』のあの女の子、かわいいよね」 「そうかな? 顔見えないんじゃねえ」 「男の子の方は、はっきり格好いいって言える」 「ちょっと身体が細くて、頼りない感じもするけどなあ」 といった具合に、両方の見方があるのは間違いないようだ。 (一応、喜んでいいのかな?) 長瀬の話し相手をしながら、純子は考える。 (印象悪くて、売れ行きが前より落ちたら、美生堂の人達に合わせる顔がない と思っていたから……この分なら何とか合格点よね?) 答が知りたくて、相羽の顔をちらりと見やる。無論、声に出すわけにはいか ない。 相羽も白沼の相手をするので精一杯のようだ。 「あのコマーシャルの子、相羽君はいいって思ってるの?」 「えっと……何て言うか」 視線をさまよわせ、純子を一瞬だけ見てくる相羽。 純子にしても何も言えないので、見守るだけ。 相羽はだいぶ経って、白沼に答えた。 「正体知ったら、判断するのは簡単だよ」 「それってつまり、顔が見えなきゃ何も言えないという意味? 分かったわ」 少し安心したように、唇の両端を上げてうなずく白沼。彼女にしたら、それ も当然かもしれない。美生堂のコマーシャルの女の子は、白沼とはタイプがま るで違うのだから。 この話題は、朝礼が始まるぎりぎりまで続けられた。 結局のところ、学校で相羽にコマーシャルの一件を尋ねるチャンスは全くな かった。正確に言うと、二人きりになって話をする機会を得られなかったとい う意味である。 だから電話をかけることにした。夕食後、小一時間ほど過ぎる頃、そろそろ いいかなと思い送受器を手に取る。 (どうせ電話するのなら、土曜日の内にすればよかった) 呼び出し音が繰り返される間、あれこれ思慮する純子。 (相羽君じゃなくても、おばさまに直接聞けばいいわ) そのための台詞を思案していると、つながる気配が。 「はい、相羽です」 流れてきたのは、相羽信一の声だった。どことはなしに、息が弾んでいる。 まるで、短距離を走り終えたばかりという風に。 「す、涼原です」 「−−こんばんは、涼原さん」 いくぶん緊張を帯びていた声音が穏やかになり、楽しむ雰囲気さえまとった ようだ。 「こ、こんばんは。こんな時間にごめんね。おばさんはいらっしゃるかしら?」 「……」 相羽の返事は、すぐにはなかった。 「相羽君? どうかしたの?」 「いや、別に。モデルの話だね?」 相羽の口調がまた変化を見せた。ほんのわずかだが、がっかりしたような響 きがある。 「そうよ」 「母さんはまだ帰ってない」 淡々と告げてきた。 純子は耳に送受器をしっかり押し当てた。 「え、でも、八時半よ」 「遅くなるって、六時頃に連絡あった」 「ご、ご飯は、相羽君?」 「当然、食べたよ。昼間、母さんが用意してくれた物を−−。そんなことより、 そっちの用件はどうしたのさ」 「あっ、そうね」 空いている方の手で頭をかく純子。 (相羽君の家庭の事情……今さら心配したって仕方ないわよね) 心中で唱えて自分を納得させてから、本題に入る。 「コマーシャルのことなの。おばさんは何も言ってなかった?」 「……どういう意味なのか、いまいち……」 「もう、分かるでしょ。コマーシャルの評判っ」 「その話なら全く聞いてない」 「なぁんだ」 気負い込んで電話したのに肩透かしの返事をもらって、純子は力が抜けた。 弾みでついた息が大きくて、相羽を驚かせてしまったかもしれない。 「多分、母さんもまだ何も知らないと思う。分かるのは、早くても一週間ぐら いかかるんじゃない?」 「そういうものなのね……。ごめんね、邪魔して」 「これは邪魔って言わないでしょ。それより思い出した。言い忘れてたことが あったんだ、事務所の話で」 「何なに、今さら?」 メモ帳を引き寄せつつ、耳を送受器に強く押し当てる純子。 相羽は一つ、息を吸ったらしかった。 「−−交際できなくなるかも」 「こうさい……って何?」 「えと、その、所属する事務所によっては、好きな人と付き合うことを禁止す るんだ」 「ああ、交際ね」 平仮名に漢字を当てはめ、一人満足する純子。 「交際ねって……それでいいのかい?」 「私には関係ないもの。そうねえ、唐沢君だったら、絶対に無理ね。あれだけ 大勢と付き合ってるの、やめられるとはとても思えない! あはははっ」 景気よく笑っていた純子は、十秒ほど経ってから、相手側が静かなのに気が ついた。 「もしもし、相羽君?」 「−−はい」 「あぁ、よかった。切れたと思ったじゃない。聞いてるなら反応してよ」 「うん。じゃ、じゃあ、この話は問題なしだって言っておく。母さんに……」 「お願いね。あ、でも、まだやると決めたわけじゃないから、そこは間違えな いで」 「分かってるって。ただ−−」 間を取る相羽を、不思議に思う純子。送受器に耳を強く押し当てる。 しばらくして、遠くから聞こえる感じで、くしゃみのような音がした。 「−−悪い、もう限界みたいだ、ははは」 「限界って」 「電話があったとき、実は風呂から上がった直後で。今、非常に寒い格好をし てます」 「ばっ、ばかね。早く言いなさいよっ」 母親の目、いや耳も気にせず、声を大きくした。 「すぐにパジャマ着て、暖かくしなさいよ! いい? 分かったわね。じゃ、 さよなら!」 まくし立て、一方的に電話を切った。 (湯冷めして、上の空になるほど寒くなったんだったら、さっさと言えばいい のに。もう絶対に、私のせいで風邪を引かせたりさせないから) −−つづく
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