長編 #4447の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
しかし、月曜日を待たずして、反応は届いた。 日曜日、いつもの四人――富井、井口、町田、そして純子――で買い物をし た帰り、試験勉強をぼちぼち始めようという名目で町田の家に集まった。そこ でお喋りに興じる内に、バレンタインの延長で、理想の男性を有名人にたとえ ると?−−こんな話題になった。 まずは、言い出した富井が率先して自分の考えを披露する。 「うーんとね。今の自分ならカムリンでしょ。大人になったら星崎譲(ほしざ きゆずる)みたいな感じがいい」 「大人って、星崎は確か十七歳ぐらいじゃなかった?」 井口が怪訝そうに口を尖らせる。 「郁江の大人ってのは、十七なんだよね」 茶々を入れる純子に、富井は膨れっ面を作った。 「批評はあとでいいから、みんなのを教えてよお」 「それじゃ、私から。えっとねえ」 井口が上目遣いになって答える。即答した富井と違って、しばし考慮してい るようだ。 「郁江に倣って……今は香村綸かな、やっぱり。大人になったらねえ……難し いな。桜田篤弥(さくらだあつや)なんて渋くていいかもしんない」 「カムリンと桜田篤弥じゃ、全然違うよお」 不満そうな富井は、膨らませた頬をなかなか収められないようである。 「いいじゃない。言ってみれば、恋人と夫の違いってところ」 「現実的すぎるわ。つまんない。芙美ちゃんもどうせ現実主義なんでしょ」 「当たり」 待ちかねたように町田はにやっと笑う。 「まあ、同じ年頃のタレントにはあんまり興味なくて。敢えて選ぶなら、鰐渕 クンかな。あれはいいよ。悪っぽくて、演技できるし、歌がうまいのがいい」 「そお? 個性がきつい感じ。目つき悪いわよ」 井口が反論し、それに富井が追随する。 「だいたい、今度のドラマでカムリンをいじめる役だから好きになれなーい!」 「あ、『天使は青ざめた』? あれ、いい感じよね」 「うんうん」 急に話題が転じたらしく、純子を除く三人は盛り上がり始めた。 香村がイメージチェンジを図ってるだの鰐渕は相変わらずいい味出してるだ の、紫藤はかわいらしいけど声が嫌い、ストーリーはこれからこうなるんじゃ ないか云々……。 純子もこのドラマのストーリーには並々ならぬ興味があるが、それ以上にコ マーシャルのことが気になってしまう。 (き、聞いてみたいっ。でも、私が言い出すのもおかしいし……どうやら気付 かれていないのは間違いないみたいだから) 三人に合わせて適当に相づちを打ちながら、話を何とかコマーシャルへと持 っていけないかと悩む純子だったが、それは徒労に終わる。何故なら、富井が 口にしたから。 「浮気するわけじゃないけれどぉ、『ハート』のCMに出てた男の子、格好よ かったと思わない? ね、ね?」 「ハート? あっ、缶ジュースの。うん、いいよね。いい線行ってる。何て言 うか、優しさと冷たさが一緒になってるような」 目を細めて同感の意を表す井口。 「そんなイメージだよね。透明感あって」 「あんた達、見た目だけでよくそこまで言えるわねえ」 町田が呆れ口調で言う。 「芙美は認めないの?」 「そんなことはないけれど。格好いいとは思う。でも、中身や性格の想像はま だしないよ。外れてたとき、反動でがっくり来ちゃうかもしれないでしょ」 「いいじゃなーい。ねえ、純ちゃんはどう思った?」 「え?」 富井達にすれば当然の問い掛けも、純子にとっては意外極まりない。返事が 遅れてしまった間に、富井は言葉を継ぎ足してきた。 「見たでしょう、『ハート』のCM。いくら男の子に興味ない純ちゃんでも、 あんな印象に残るCM、忘れてないよねえ?」 「う、うん。見たことは見た」 控え目に返答する。本当は意識を集中していたのだ。 「いいよねえ、あの男の子。名前分からないけど、きりっとしてて素敵だった」 「そ、そう? かもね、あはは、はは……」 笑顔の裏で冷や汗が流れる。 (やっぱり気付いてないわ。当然、もう一つの方も私だと分かってないわけで あって……。話、振ってみようかしら) こめかみに指を当て、思案する。 その合間にも他の三人、特に富井と井口のお喋りは盛り上がった。 「名前が出てなかったけど、初めて見る顔だったよね」 「他に何か出てるのかな? 芙美は知らない?」 「あいにく、私の網にも引っかかってない。番組のあと、雑誌を色々調べたん だけどさ」 肩をすくめると、町田はついでにように付け足した。 「女の子の方も分からなかったわ」 「あー、もう一つのパターンの。顔を全然映さないなんて、どういうことなの かなぁ」 「それはそれはとてつもなく不細工だったりして」 井口が茶化すように言った。 「そ、そんなことないわよ」 純子は思わず反応していた。これまでにない早い反応。 みんなが不思議そうに顔を見合わせた。 「純ちゃんがどうしてそう言えるの?」 「それは……まあ……勘」 問い詰められると弱いので、うつむいてしまった。軽くウェーブのかかった 髪が耳元をなでる。コマーシャルの放映が近付くに従って、髪型を撮影のとき のそれと似せないようにしている。これからもそうするかもしれない。 「根拠のないこと言うなんて、珍しい」 「え、そう? えへへ」 ごまかしたい気持ちが強くて、やたらとにやける。友達なんだから言っても いいじゃない、そんな思いもあるのだが。 「まあ、不細工ってことはないでしょ」 町田の意見披露が始まった。 「私がにらんだところでは、売り出すための作戦ね」 「作戦……大げさな」 「全部を出さないことで、見る側のイメージを膨らませる。話題にもなるかも しれないしさ。それでいざ顔を出したときに平凡だったら、こけちゃうでしょ うが。だからそれなりにきれいじゃないと」 「なるほど、ありそうな話」 町田の説に納得する二人。その様子を見守る純子は、おかしくて吹き出しそ うになるわ、恥ずかしくて全身が熱っぽくなるわで大変な状況。 (全然違うのに!) せめて少女バージョンは私よと打ち明けようかと思ったが、その機先を制し て町田が尋ねてくる。 「ところで純子の理想のタイプ、まだ聞いてなかった。有名人にたとえると誰 なのかな?」 心の準備ができてなくて、純子の答はおざなりになった。 月曜の朝、純子は比較的落ち着いていた。 親しい友達でも気付かなかったのだから、誰にもばれるはずがない。そんな 意を強くして登校。 途中、『天使は青ざめた』を話題にしているグループが二つあったのに気付 いたけれど、コマーシャルへの言及はないらしかった。 「おはよ、純子」 「おはよう、久仁香」 途中で井口と合流。さらに遠野とも一緒になった。 「涼原さんはテレビ観るの?」 「ん?」 遠野から振られた質問が予想だにしない内容だったので、純子は首を傾げて 向き直った。 「もちろん観るよ。どうしたの、遠野さん。いきなり……」 「そ、それじゃあ、この間の金曜日に始まった『天使は青ざめた』って」 遠野は静かに、ゆっくりと話す。 が、ドラマ名が出た途端、井口が引き継いだ。 「あら? 遠野さんも観るんだ? よかったよねえ、あれ」 「う、うん。それで、あの番組」 「カムリン、格好よかった! 遠野さんは誰のファン?」 「え、私は……前も言ったと思うけれど、香村綸の大ファン……だからこそあ のドラマも楽しみにしてて」 「あ、そうだったわ。ごめんね、忘れちゃってて。また映画があったら、一緒 に観に行こうよ」 井口の喋るペースに、遠野は面食らっている様子がありありと窺えた。 純子もようやくそれに気付いて、井口に軽い忠告をしようと思い立つ。 「久仁香」 つんつんと袖の辺りを引っ張り、注意を喚起する。 「何?」 「遠野さんが喋ろうとしてるんだから、あんまり先に先に言ったら悪いってば」 「あ、そうか。ごめーん」 遠野に向かい、両手を拝み合わせた井口。さらには深く頭を垂れるものだから、 遠野自身、困った風に眉を寄せた。 「い、いいの。私がとろいから。ははは……」 「そんなことないって。で、何を言おうとしてたの? あの番組の中で、何か あったっけ?」 聞く気になっている井口に向けた視線を動かし、純子をちらっと見やってき た遠野。 え?と純子が思う間もなく、遠野は視線を外した。 「やっぱり、いい。大したことじゃない」 「えー? 気になるよぉ」 本当に気になるらしく、井口は露骨に不満そうな顔をする。 「言ってよー。さっき邪魔したことは謝るからあ」 「そ、それは関係ないのよ、ほんとに。うん、つまんないことだから」 「でも」 「あ、それよりも、ゴールデンウィークにアニメ映画があるわ! 井口さん、 知ってる? 香村倫が声優に初挑戦したんですって」 「へえ、観てみたいっ」 井口は切り替えも早く、反応する。 が、端から見ていた純子には、遠野の話題転換がどことなく不自然に感じら れて。 (変なの……。最初、私に聞いてきたのに、久仁香が張り切りすぎるから) 再度、頭を捻る純子だった。 校舎内に入っても、一年三組の教室でも、純子のコマーシャル出演が知られ ている様子は全くなかった。勘づいたのなら、駆け寄ってきて一言あってしか るべき。それがないのだから、誰も気が付いていないに違いない。 (気抜けしたぁ。ちょっぴり残念かな……なんて、贅沢な悩みだね) 席に落ち着いて、小さく息をつく。 (感想を聞きたい気持ちもあるのよね。昨日みたいに、知らんぷりして話題を 持ちかけてみようっと) そうと決めたら、相手を捜しにかかる。 (女子は芙美達の反応でだいたい分かるから、男子がいいかしら……) というわけで、純子は真後ろへ向くため、足の位置を変えた。 「唐沢君、『天使は青ざめた』っていうドラマ、観た?」 我ながら直接的すぎたと悔やみつつ、でもいきなり商品名を挙げるよりはま しよねと慰める純子。表面上は何気ない風を装っていた。 「あ? ああ、観たよ」 下を向いて鞄の中をごそごそやっていた唐沢は、手を止めると首をひょいと 上げた。 「女子の間で人気出そうな番組は、全部チェックするんだ。話題作りのために」 胸を張る唐沢。努力を認めてくれと言いたげである。 「そうなんだ? ……それでさあ、あのとき流れてたコマーシャル、覚えてる かなあって思って」 結局、遠回しには言えない。気が急いていることもあるが、心根を隠すのが 苦手なのだ。 唐沢は暫時、怪訝そうに唇を軽く噛んだが、すぐに応じた。 「ああ、見てたことは見てたさ。コマーシャルも話題になるかもしれないから ねえ」 「だったら、一つ、新しいコマーシャルが入ってたでしょ」 「何だかクイズみたいだな。あったね、確かに。『ハート』だろ。商品は前か らあったが、CMが変わった」 「あれに出てた子を見て、どんな風に感じた、唐沢君は?」 −−つづく
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