長編 #4445の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「だけど私、知らない人から感想もらったことない」 「え?」 怪訝そうに首を傾げた相羽に、純子は落ち着いた調子で伝えた。 「この間、気付いたの。モデルのお仕事について、何か言ってくれた人って、 私が知ってる人ばかり。一緒に仕事をした人でしょ、相羽君に相羽君のお母さ んでしょ、私の両親、友達……ね? 本当に見ず知らずの人の意見が聞きたい」 「雑誌に載ったとき、反響はあったそうだよ。印象のよかった広告のアンケー トでも、かなりの数を集めていたって」 「それはルミナちゃんや他のモデルさんと併せて、だよね?」 「う、うん」 「だったら、私一人の力とは違う。−−今度のコマーシャルなら、はっきり分 かるわ」 「なるほど。そういう理屈か」 相羽はようやく安心できたかのように、肩を下げて息をついた。 「決めるのは君だから、いつでもいいよ。母さんにもちゃんと言っておく」 「うん、お願い」 長い立ち話が終わった。 次の日は朝から白沼がかしましかった。餌をねだるひな鳥だって、もう少し 静かかもしれない。 「相羽君、昨日の放課後、図書室に来なかったわね?」 「うん」 登校してきて教室に入るなり彼女につかまった相羽は、とぼけるように目を そらした。そのまま自分の席に向かう。 「どうして?」 「行く必要がなかったから」 「嘘。昨日の一時間目のあとの休み時間に、話していたじゃない」 言葉を一旦切って、純子を見やってきた白沼。 その横目の険しさに純子は気圧され、背筋を伸ばす。 「涼原さんと同窓会の話をするんじゃなかったの? 私、ちゃあんと聞いてい たんだからね」 「僕も涼原さんも、図書室で、なんて言わなかったと思うんだけど」 「確かにそうだったかもしれないわね。だけど、あなたと涼原さんて、たまに 図書室で話してるんですって? 聞いたわよ」 再び純子に流し目を送ってくると、白沼は「ふん」といった具合に髪を手の 甲でなで上げた。 「昨日も図書室じゃなかったのかしら。涼原さんは図書委員だし、打って付け よね、内緒話をするのには」 「内緒話ってほどじゃないってば」 黙って聞いておられず、口を挟む純子。両手に握り拳を作っていた。 だが、白沼は純子の力説をあっさりと片付ける。 「今は内緒話かどうかを議論してるんじゃないの。図書室で話をしなかったの なら、どこでしたのか、教えてくれない?」 心持ち顎を上げた白沼の視線が、純子と相羽を行き来する。 相羽が口を開いた。 「話してもいいよ。その前に何故、こんなことを知りたがるのさ」 「もちろん、相羽君、あなたが女子と二人きりで話すのが気になるからよ」 堂々と言い切った白沼に、純子は赤面しそうになる。 (白沼さんらしいけれど……はっきり言われるのって、どきっとするよー) 「答のピントがずれている」 冷静な声の相羽。 「気になるんだったら、どこで話をしたかなんて知っても、ほとんど意味がな いでしょ? 話の中身を確かめるんなら、まだ分かるけれど」 「そうでもないわよ。もしかして、あなたか涼原さん、どちらかの家に行って ……なんていうことだったりしたら、とっても気になるのよねえ」 「じゃあ言うよ。部活の終わりに涼原さんが来て、そのときついでに話をした んだ。ね、涼原さん?」 突然の呼びかけ、しかも相羽の作り話に戸惑いつつも、純子はともかく黙っ てうなずいた。 しかし白沼は簡単には納得してくれないようである。 「どうしてよ。調理部って言ったら、家庭科室でやってるんでしょう? 他に も部員の人達がいたんじゃなくて?」 「当然、部活の間はいた。だけど終わってからだったら、みんな帰る。六年の とき同じクラスだったメンバーだけで話を済ませたんだ」 「ほんとにぃ?」 疑い深い。恐いような流し目の次は、猜疑心溢れる瞳で見上げてきた。 「それより白沼さん、まさかとは思うんだけど、図書室にずっといたのかい?」 「そうよっ。絶対に来ると信じて、待っていたんだから。とんだ骨折り損のく たびれ儲けだったわ」 苛立ちを隠そうともせず、ぷんぷんと怒っていた白沼だったが、その険しい 表情が不意に緩んだ。 「ねえ、おかげで身体が冷えちゃって。暖めてくれる、相羽君?」 「あの」 思わぬ奇襲を受け応対に困る相羽の横で、純子は声も立てずにそっと笑うだ けであった。 (さすが白沼さん。転んでもただでは起きない……) 変なところを感心する純子の前を人影が横切る。唐沢だ。 「おはよう、すっずはっらさん。あの二人、何の話してるんだよ?」 言いながら、白沼と相羽の方を肩越しに指差す唐沢。どうも、途中から来た 彼は、相羽と白沼の会話に純子は関与しておらず、ただ聞いていただけと判断 したらしい。 「大したことじゃあ……。そ、それより唐沢君、遅かったのね」 話を逸らすために、適当に話題を探す純子。 (本当のことを言ってもいいんだけれど、確認されたらちょっと困るのよね。 唐沢君、特に女子に顔が広いし、用心しておこうっと) 「朝練、今日はある日だっけ?」 「ないよ。ちょっとね。女の子と軽いデートを」 「え? 朝っぱらから?」 真剣に驚いた純子の前で、唐沢は鞄を抱えたまま大きく口を開けて笑うと、 椅子にどっかと腰を落とした。 「冗談さ。引っかかりやすいねえ。素直なのかな」 「……どうせ私は」 むくれて前を向くと、白沼が相羽を遊びに行こうとしきりに誘うのが分かっ た。 それも結局、相羽が首を縦に振らない内に時間切れとなった。 だが、白沼も粘り強いというか、執念深い。 朝がだめでも次があると言わんばかり、休み時間が来る度に、相羽へ話しか ける。 お誘い一辺倒から少し作戦を変えたらしくて、自分の趣味に思い出話、果て はいささか自慢めいた家のことや家族にまで話題は及ぶ。そして自分のことを 披露し終える毎に、「相羽君は?」と聞くのだ。 相羽は相羽で辟易しているのか、頑固だった。質問には単語で答えるだけで まともには返事せず、白沼のお喋りにも「ふうん、そう」と気のない相づちを 入れる程度。 まるで我慢比べだったが、昼休みになって、しびれを切らしたのは白沼の方 だった。 「プレゼント、使ってくれてるかしら」 いささかすねたような口調の白沼。それでもちらりと顔を覗かせるのは、こ う言った類の質問を相羽は無視できないことを見抜いたかのような意図。もっ とも、白沼にとってもこの問いかけは切り札のはず。 「使ってる。腕時計は仕舞ったままだけど」 「これまで言わないでいたけれどね。これ、気付いてくれてた?」 白沼は右手で左の袖を引いた。細く赤いベルトの腕時計が露になる。 「女物と男物の違いはあっても、デザインは同じタイプ。ペアになってるのよ、 相羽君のと」 「へえ、そうなんだ?」 白沼の第一撃は、相羽にかわされたようだ。彼女は唇を湿らせ、改めて口を 開く。 「クリスマスにあげたあれはどうなっているの。ねえ?」 「あれは……さすがに着られないぞ」 周囲をはばかるかのような相羽の口調。 純子は少なからず、興味を覚える。 (そっか。白沼さんから相羽君に渡ったクリスマスプレゼント。何なのか見せ てもらってないんだったわ) 富井や井口のためにも、情報を掴んでおこうと耳を澄ませる。 (着られない、と言うからには服?) 純子の想像が当たっていたことは、直後に証明された。 「ひどいわねえ、一度も着てくれないなんて。折角オーダーメイドして作らせ たんだから、あのセーター」 「着られないって。いくら何でも目立ちすぎるよ」 「いいじゃない。心のこもったハートマーク」 白沼の答に、純子は吹き出しそうになった。必死に手で口を覆って我慢する。 (セーターにハートマーク? ストレートねえ、白沼さんらしい。でも、色彩 は分からないけど、センスよくないのは白沼さんらしくない感じ。着てもらい たかったら、もうちょっと考えなくちゃ) 実物を見ない内からそこまで批評してしまう純子。その一方で、派手なセー ター姿の相羽を見てみたい気も少し起こるのは事実。 白沼は素知らぬ様子で続けていた。 「じゃ、この間のは? バレンタイン」 「あれなら食べた。おいしかった。えらく高級そうで、いいのかなって思いも したけど。はは」 「チョコだけじゃなくて、エプロン、使ってくれてる?」 また予想外の単語が飛び出した。純子は給食を喉に詰まらせそうになった。 (エプロン? 何で?) どうにか飲み込みながら、ついにはまじまじと二人の方を向く。 「家では……」 答えにくそうな相羽の横顔が見えた。 「学校でも使ってちょうだい。調理部なんだからあげたのよ」 白沼の言に、純子も合点が行った。そうなると次に、柄はどんなのだろうと 気に掛かり始める。 「部には部のエプロンがあるんだよ」 「いいじゃなーい、そんなの。校則があるわけじゃないんだし」 「学校のルールじゃない。部のルール」 「固いところあるわね。ま、そこを含めていいなと思ったんだけど」 白沼が微笑みかけるのに対し、相羽は口元を右手の甲で拭うや立ち上がり、 「ごちそうさま」と小声で言って給食の後片付け。 空いた席の向こうに、白沼の悔しがる様がよく見通せた。歯がみして、食事 も進んでいない。 「−−涼原さんっ」 「は? 何?」 名を呼ばれ、居住まいを正す純子。緩んでいた表情も瞬時に引き締まった。 「何がおかしいのかしら」 「え? 別におかしくは」 「笑ってたわよ、あなたの顔」 指摘に、純子はすぐさま十指を頬に持って行き、肌を撫でる。念のために顔 の筋肉を再度引き締め、 「そんなことないよ。白沼さんの思い込みだってば」 と、手を振った。 「そうかしらね? どうもうれしがっているように見えたのだけれど」 「違う違う」 ぶんぶんと首を横方向に振ると、純子は心中で付け足した。 (面白がってはいたかもしれないけどね。うふ) 相羽はと見ると姿はすでになし。自分の席には戻ってこず、教室を出ていっ たらしい。 「……あのさぁ、涼原さん。いい加減、しつこいと感じてるでしょうけど」 白沼の前置きに、思わず「うん」と相づちをしそうになった。 「相羽君、今付き合ってる子って、ほんとにいないわけ?」 「……そう聞いてるわ」 「だったら、やっぱり片想いの相手に心を決めてるんだわ、きっと」 前を向き、右手の親指を唇に持って行き、爪を噛みそうな雰囲気の白沼。 「でなかったら、おかしいわよ。こんないい女がモーションかけてるのに、全 然乗ってくれないなんて。そう思わない?」 口元にあった右手は白沼の髪をさあっとかき上げ、そして流す。 「え。ええ、まあ……そういう気も」 純子の受け答えはしどろもどろになった。口が何だか、ふわふわしてくる。 (白沼さんて見た目は凄くいいのに……少し強引だからかな) またも表情から緊張感がなくなり、笑ってしまいそうになった。 (そう思ってても口には出せないよ、なかなか) 「つまり、まだまだ押しが足りないってことよね。振り向かせるためには、こ れまでよりももっと積極的に行かなきゃ」 「……うぅーん」 何とも返事のしようがなかった。 でも、純子のそんな態度を白沼は別の意味に解釈した。 「あら、ごめんなさい。そっちにはそっちの事情があるんだったわね。友達の こと」 「−−えへへ、まあね」 そういうことにしておいた。 −−つづく
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