長編 #4437の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「あっ、そういう書き方はしてないんだ」 相羽が注釈を入れる。 「やっぱり書いてみたら難しくてさ。探偵役にちょっとした幸運があったこと にしないと、うまくまとまらなかったんだよな」 「そうなんですかあ? あの推理劇みたいに犯人当てできたら嬉しかったのに な……」 椎名は頭を少し傾け、がっかりした様子。 「うん、まあ、一つだけ偶然があって……そこを想像できたら、犯人を当てら れると思う」 「それならいいです」 相羽の説明に、ころっと笑顔になる椎名。 その変わり身ぶりに相羽と純子は顔を見合わせて、苦笑い。 それから相羽は言い足した。 「だったら、小説の結末部分は渡さない方がいいかもね。どうする?」 椎名を見やる。 彼女は口を開くよりも、行動で示した。受け取ったばかりの紙束を手提げか ら取り出し、そっくりそのまま渡す。 「抜いてください」 相羽も無言で手にし、原稿を繰ってぱらぱらと風を起こす。目的の箇所をす ぐに見つけ、そこから前後に分ける。さらに後よりの最初の一枚を別にした。 「何してんの?」 純子は思わず尋ねた。 相羽はその原稿に目を通しつつ、答える。 「きりのいいところが紙の切れ目とは限らない」 言い終わるや、用紙の前三分の一辺りに折り目を強く着けてから、慎重な手 つきで縦に破いた。 「これでよし、と」 切れ端と合わせた小説の「問題編」部分を椎名に再び渡した。 「ぎざぎざになったのが嫌だったら、これだけやり直して持ってくるよ」 「いいえー、これでいいです。すみませーん」 椎名は受け取ると、純子に向き直った。 「そういうわけですから、涼原さん、さっき言った通り、一緒に少しずつ読む ことで決まり。いいですよね?」 「はーい、分かりました」 お手上げのポーズをしてから、相羽を見やる純子。 「悪いけどお願いね、相羽君」 「明日、学校に持って行けばいい? それとも今日これから……」 「私に家まで来いって言うのかしら、相羽クン?」 純子は冗談のつもりで言ったのに、相羽は真面目に受け答えする。 「違うよ。家で印刷してくるから、あとで届けていいかってこと」 「そんな、手間をかけさせるなんて。明日でいいわ」 「うん、分かった。−−それじゃ、椎名さん。読んで、感想聞かせてくれたら 嬉しい」 「もちろんですよ。早く読んじゃうともったいないから、ゆーっくりと読みま すね。涼原さんに合わせます」 原稿を入れた手提げを胸に抱き、満面の笑みで答える椎名だった。 現在のところ唯一のファンがやがて立ち去ると、純子と相羽も公園を出た。 しばらく同じ道をわずかに前後して行く。 「一つ、聞いていい?」 間を保つ意味もあって、純子は相羽の背に声を掛けた。 「さあて、何でしょう?」 狭い歩道を過ぎ、幅が広がったところで相羽は並んできた。当たり前のよう に彼は道路側を歩く。 「今日のバレンタイン、いくつもらったのよ?」 「聞いてどうするの?」 「べ、別に。去年も教えてくれたんだから、いいじゃない」 「……二十三個あった」 その答に、思わず口笛を吹きたくなった純子。実際にはしないけど。 「えっと、凄いわね。六年のときが確か……十か十二だった?」 「それぐらいだったかな」 「倍ほどになったわけね。人気上昇中!」 「そんなんじゃないよ、全く。部の先輩なんかもくれたんだ」 「なるほど、南さんとかね? それで今年は本命からはもらえたのかしら、な んて」 気軽い調子で質問する純子。教室で耳に挟んだ話の確認でもあるのだ。 「……もらえたと思う、よ」 それまで純子を見ていた相羽の視線が、急に前を向く。 「へえ、よかったじゃない。でも、『思う』ってのは何よ。あ、まだ中身を確 かめていないから?」 「う、うん。まあ」 「そうよねえ。本命の人の名前のある箱を開けてみたら、大きく『義理チョコ』 なんて書かれていたりしてっ!」 「縁起でもないこと言うなよ……勝馬にも言われたんだよな、それ」 とても真剣な相羽。心なしか、顔が青ざめたような、そうでないような。 (あはは。本当に好きなのね、その人のこと。一体誰なんだろ? 今日あげた 人の中にいるのは間違いなくても、多すぎるわ。聞いてもこればかりは教えて くれないし) 純子は一応の目的を達成して、満足していた。 と同時に、ちょうどうまい具合に分岐点に到達。 「それじゃあ、明日、原稿を持ってくるから。期待しないでいてよ」 「うん。でも、期待しないでいるなんて無理ね。楽しみにしてるから」 目を細め、首を肩に当てる風に傾げる純子。 すると相羽は肩をすくめ、かすかに赤らめた頬で苦笑しながら手を振った。 * * 「立島君。これ、あげる」 部活が終わり着替えてから出て来ると、先に身仕度を済ませた前田が待って いた。 「お。サンキュ」 両手で差し出すのを片手で受け取った。 同学年の部員仲間から「いいな、いいな」と冷やかし混じりの声が上がって、 さらには「前田さん、その他の部員へ義理チョコは?」なんて冗談も飛び出す。 「やめろっての」 前田が答えるより早く、立島は短く言った。そしてスポーツバッグを肩に掛 け、行こうとする。 前田が追いかけるところへ、バスケ部の部長が姿を見せた。 「立島に前田。ほどほどにしとけよ」 「あっ、はい」 二人は足を止め、近い距離にいる前田が答えた。 「部活とごっちゃにするな。終了したあとだったから大目に見るが」 言葉遣いは粗っぽいが、きつい調子ではない。 部長自身も部活前に何やかやともらっていたのは、部の誰もが知っている。 「俺も野暮は言いたくないけどよ、一応、部の志気に関わるから。−−分かっ たな?」 「分かりました、先輩」 頭を下げ、「お先に失礼します」と告げてきびすを返す。 暗くなった空の下、校門を出てから前田が口を開く。 「渡すタイミング、悪かったかしら?」 「そんなことないさ」 やや素っ気ない口調の立島。 「先輩だって一年前には同じことを言われたはずだ。だから言いたくてたまら なかったんじゃないかな」 笑い飛ばす立島に、前田も安堵の息をついた。外気は冷たく、こぼれた息が 白くなる。 「それでねえ、憲作君」 「何だ? 気持ち悪いな」 前田の滅多にない甘えた声に、立島は眉間にしわを寄せた。 「あ、分かったぞ。ひと月後を期待してるのか」 「それもあるわ。けど、その前に」 口元に微笑を浮かべる前田。 「あなたの正直度をテストします」 「……何だって?」 本当に聞こえなかったのか、それとも意味を把握しかねたのか。立島は耳に 手を当てた。 「正直に答えてよ。今日、女の子からもらったプレゼントの数は?」 「何でそんな質問に答えな−−」 「言えないのね?」 前田の追及に立島は上半身を反らし、言葉に詰まった。中途半端に閉じた唇 の端が片側だけ吊り上がる。 「なかったらないって言えばいいのに、答えたがらないってことは、もらった んでしょう?」 「……」 間が持たず、かと言って適切な返事を用意しているでもなし。立島は意味な く頭をかいた。歩みも自然に速くなる。 「待ってよ」 「何で気にするんだ?」 「当ったり前じゃない」 追い付いて横に並んだ前田は、呼吸を少し荒っぽくしていた。無論、早足で 歩いたせいではない。 「喜んでるんじゃないかと思うと、気が気でないわ」 「……俺の正直度を言う前に、俺を信用してくれないと始まらないな」 「信用しているわよ」 「だったら、何でこんなことを聞くんだよ」 「もらったのかどうか、事実を知りたいだけだってば」 「どうせ怒るくせに」 すねたような物言いになっている立島。 前田の口調もまた、似た具合になる。 「もらうなって言ってるんじゃないわよ。正直に言ってよ。その上で、全然喜 んでないってところを見せてくれなきゃ」 「何にもねえよ」 立島が肩をすくめると、前田はかぶりを振った。 「言葉だけじゃだめ。見てたんだから、私。あなたが他の子からもらった物を 手に、だらしなくにやついてるのを」 「う……嘘だろ。誰にも見られていない−−」 「やっぱりもらってるのね」 誘導されたと分かったときには遅かった。 「どこが信用してんだ、全く……」 「誰々からもらったのよ」 「知ってどうする? 文句言うのか」 「何もしないわ。知っておく権利、あると思うんだけど」 「知りたきゃ勝手に見ればいい。バッグに入ってる」 肩のバッグを手に持ち替え、顎で示す立島。 「そんなこと言うぐらいなら、そっちは他に誰にもやってないんだな? 義理 チョコも何も」 「当たり前じゃない。あ……お父さんにはこれからあげるつもりだけど、嫌か しら?」 自信満々に言い切ったあと、ふっと表情を緩める前田。 立島は「かなわない」と思った。 その横で本当に鞄の中のプレゼントを調べ始めた前田は、早くも声を上げた。 「ま! 白沼さんから! 彼女のぐらい、断ればいいのに!」 * * 純子は相羽と別れてから帰宅する道すがら、ふと思い出して爪先の向きを換 えた。 (久仁香の家に行って、報告だけしておこう。ちゃんと渡したから安心してよ って) 決心すると一刻も早く伝えたくて、小走りになる。手ぶらのお見舞いになる が、許してもらおう。 ほどなく、井口家の前に到着した。今朝来たばかりということもあって、そ んなに緊張しない。井口の母に来意を告げた。 「風邪がひどいようでしたら、またにしますけど……」 「いいえ。そんなことない。大歓迎よ。あの子を元気づけてやってちょうだい」 「はい。お邪魔します」 礼をして上がる。 「でも念のため、うつらないように注意してね、純子ちゃん」 「あ、あははは。丈夫なのが取り柄だから平気です」 そう受けておいて、クラスメートの部屋に逃げ込むように入った。 「くーにか! 来たよ」 「純子、来てくれたの?」 ベッドの上で身体を起こしかける井口に、純子はそばまで駆け寄る。そして ベッドの縁に腕を載せた。 「起き出して平気なの? 大したことない?」 「風邪の方は何とか。ちょっと頭痛がするぐらい」 「そう、大事にしなよ……って、わざわざ言わなくても自分が一番分かってる わよね」 −−つづく
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