長編 #4432の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「みんな、少しずつ持てばいいよ」 そう言って、勝馬は箱の中から冊子を十部ほど掴み取った。 他の者も納得したか、我も我もと手を伸ばす。 結果、資料の冊子は四人の男子によって分割され、純子の手元には空っぽの 箱が残った。 「みんな、一体……」 何考えてんのよと純子が言い切る前に、四人は「これ、運んでおくからな!」 とか何とか言い残して、さっさと階段を駆け上がってしまった。 「もうっ。ありがたいけど、これ、どうするのよ!」 純子は空の段ボール箱を片手で持ち直すと、憤然としてつぶやいた。 だが、教室に持っていっても仕方ないと判断し、職員室へと引き返し始めた。 純子は今日、受付係に当たっていなかったが、それでも放課後、図書室に向 かった。 司書の小山田先生が言うには、年度末が近いから本の整理をしなければなら ないとのこと。早め早めに少しずつ進めたいので、手の空いた人は出て来てほ しいと言われていたのだ。 「それではね、今日は新着本と寄贈本を新しく入れて、古いのは書庫に仕舞お うかしら」 司書室の机上でメモを書き写し始めた先生。 覗き込もうとする純子に、先生が振り返り、紙片を手渡してきた。 「そこに書いてある本を、書架から抜き出してください」 「はい」 メモの丁寧な文字に目を走らせつつ、純子は返事した。 「それからね、傷みのひどい本を見つけたら、それも別に取り分けておいてほ しいの」 「傷みがひどいって言うのは、どの程度なんでしょう……?」 「うーんと。涼原さんの判断に任せるけれど、とりあえず、一部が抜け落ちそ うな本は間違いなく修繕しなくてはいけないから」 「はい、分かりました」 きびすを返した純子が司書室から図書室に通じるドアに手を掛けたところで、 先生は言い足してきた。 「修繕が必要な本を分けるのは、気が付いた分だけでいいからね」 向き直り、首肯してから改めて書架に。 本を運ぶためのワゴンを片手で押しながら、もう片方の手にあるメモを見や る。図書分類番号を手がかりに、行き先を決めた。 「慣れたところから……最初は文学」 九〇〇番台は冊数が多い。 メモに従って本を抜き取っては、ワゴンの上に並べていく。古くなった全集 物や貸し出し件数が極端に少ない物が対象のようだ。 たまに番号とは違う場所に目的の本がある等する。図書委員は−−少なくと も純子自身は、返却された本を間違えることなしに元の位置に戻しているから、 これは図書室内で閲覧した生徒が、戻す際に勘違いしたか面倒だったかで、別 の場所に置いたのだろう。 気持ちは分からないでもないが、図書委員の仕事をする立場から言えば余計 な時間を食ってしまうので、好ましいことではない。 (小説関係、やっと終わった) 小さなため息をつきながら、ワゴンを両手で静かに押して、カウンターの内 側に回り、ひとまず「荷降ろし」をした。 空になったワゴンを押し、再び書架の谷間に足を向ける。今度は芸術関係だ。 普段利用する人が少ないだけに、この手の書籍は棚の最上段に置かれている 場合が多い。 純子は背伸びをし、右手を目一杯伸ばして、どうにか本を抜き取っていった。 が、それもままならない高さに目指す本があるのを見て、 (あれは無理かも) と判断。すぐさま踏み台を探した。 ところが、室内に二つある踏み台は、いずれも生徒が使用中。 時間がもったいないので、やむなく自力での再トライを行う純子。 「うぅーん」 息が漏れる。 (あと少し……なのに) 右手から左手に換えて、もう一度やってみたが、やはり届かないものは届か ない。 (仕方ないわ。行儀悪いけど、椅子を一つ) そう思った矢先、急に影が差した。真横に人が立っている。 その男子生徒は手を伸ばし、 「これ?」 と、純子に尋ねてきた。 「え、あれ? 藤井君……」 どこか見覚えがあると感じていたが、しばし見つめてその男子が同じ第二小 学校出身の藤井であると知れた。クラスが違うから気付かなかったが、身長が 随分と伸びている。 「これかい?」 藤井は重ねて聞いてくる。純子は急いでうなずいた。 「はい、どうぞ」 「あ、ありがとう。待ってね、念のため確認……うん、合ってる」 受け取り、かすかに付着する埃を払ってから、ワゴンに載せる。 「久しぶり」 「ええ。藤井君は……十組だったかしら? 教室、遠いから」 「それを言うなら、小学校のときは一、二年で一緒になっただけ」 小声で会話する。純子はややスローテンポになったが、仕事の手は休めない。 「あはは。藤井君、目立ってたもん。運動会や校内マラソンで活躍してたから、 印象に残ってる」 「スポーツで目立つしかないよな、自分の場合。−−あ、これ?」 純子が手を上に差し出すのに反応して、また助ける藤井。 「ありがとう」 「いちいち言わなくていいよ。それよりも、聞きたいことがあるんだ」 「私に?」 小首を傾げて純子が微笑むと、藤井はだまってうなずく。 「本を探してるなら、遠慮なく言ってよ。図書委員なんだから」 「そうじゃなくて」 「ん?」 再度、首を傾ける純子。前に流れてきた髪をかき上げた。 「あのさあ……どう言えばいいのかな」 「……どう聞けばいいのかしら、なんてねっ」 はっきりしない藤井を見て、純子は冗談で切り返した。 藤井は疲れた風に頬をひきつらせたが、じきに気を取り直したか、再び口を 開く。 「変なこと聞くけど、相羽の奴とはどうなってるの?」 「……どういう意味?」 相羽の名が出て来た理由に思い当たらず、疑問符一杯の口調で聞き返した。 「その……小学生のとき、噂に聞いたから。何て言うか……あいつとキスした って」 「またそのこと!」 今いる場所を思わず忘れ、短く叫ぶ純子。 舌打ちが返って来たようだ。慌てて声を潜めた。 純子の手は、もはや完全にストップしていた。それも仕方あるまい。 「……あのね、藤井君」 「はい?」 「藤井君とは長い間クラス違ってるから、知らなくてもしょうがないけど…… その噂は間違い」 「間違い? 変だな、僕の友達で見てたって言ってる奴が」 「そ、それがね。口と口がぶつかったのはほんとだけど」 この件に対していつも用いる説明を、この日も繰り返した。 純子が話し終わると、藤井は気抜けしたように顔をしかめる。両手を後頭部 にあてがい、言った。 「何だよー、それ。ただのトラブル……じゃなかった、ハプニングってことか」 「そうよ。何ともないんだから」 「ははあ。小学生の頃って、やっぱガキだよなぁ。そんなことで大騒ぎしてた のか。期待して疲れた」 「む? 何を期待してた、ですって、藤井君?」 すねたような表情を作ってみせる純子に、藤井は忙しなく両手を振った。 「い、いや……凄いことだったのかと期待してたって意味」 「とにかく、それは誤解ですからね」 毎度毎度、こんな解説をするのは、純子にとっても気疲れを呼び起こす。 (いい加減、この噂も消えてほしいわ) そう思いながら、無意識の内に唇に手を当てる純子。 「ね、藤井君? そんなこと聞くために、図書室に来たの?」 「そう……いうわけでもない」 「変なの。大体、今頃になって聞かなくたっていいのに」 純子のその台詞には反応せず、藤井はワゴンを顎で示した。 「仕事の続きは?」 「もちろん、やる」 「だったら、もう少し手伝う。答えてくれたお礼に」 「は、はあ……ありがとう」 どことなく調子が狂う。小学生のときの藤井と、受ける印象が微妙に違うよ うな気がした。 (話するのも久々だから、それも当たり前かな) 純子は自分をそう納得させ、図書の整理の続きに取りかかった。 その日の学校からの帰り道。 寒々しさがぶり返してきた風景の中、純子は町田、富井、井口の三人と一緒 に急いでいた。 純子を除く三人は部活が終わったところだ。相羽の姿がないのは、家の用事 で急いで帰ったせい。 「家庭科室に顔出すのが遅れたけど、図書室で何やってたの?」 町田がくぐもった声で純子に聞いてきた。くぐもっているのは、すくめた首 の上からマフラーを厳重に巻いているため。 対する純子は耳当てをしていたので、なおのこと聞き取りにくかった。 「芙美、何て?」 「だから」 純子は耳当てを外し、町田は口元のマフラーの引き下げた。 ようやく意志疎通に成功。 「今日は当番じゃなかったはずだよ?」 「うん。でも色々やることあってね、今日は特別。それに、その仕事をやって る途中、藤井君が話しかけてきてさ」 いきさつをざっと伝える。 町田だけでなく、残る二人も興味を示した。 「藤井君て、あの藤井君?」 「そうそう」 井口の問に答える純子。これで会話が成立するのだから、友達同士とは便利 なもの。 「何でぇ? どうして藤井君、純ちゃんに話しかけてきたのかなあ?」 「郁江〜っ、それは言ったでしょうが」 キス事件のことをまたも口上に乗せるのは忍びず、ため息をついた純子。 「だからぁ、私が分かんないって言ってるのは、何の予告もなしに、急に聞い てきた理由だよー」 嫌々するように首を振った富井に、町田が冷静な突っ込みを入れる。 「予告じゃなくて、前触れとでも言った方がいいんじゃない?」 「細かいこと言わないでよ、芙美ちゃん。私は純ちゃんに聞いてるんだから」 「私に聞かれても、分かんないわよ。藤井君が急に聞いてきたわけなんて」 外したピンクの耳当てを、手の中で弄ぶ純子。 「偶然、図書室で会えたから聞いてきた−−そんなところじゃないかしら」 「そうかな。何か他に裏の事情が……」 うがった見方をするのは井口。口元の辺りに右の人差し指を当てて、考え込 む仕種だ。 「そう言えば、純」 間隙をつくかのような町田の発言。 純子は忙しく首を巡らせた。 「この間、日番してたとき、運び物をしたわよね」 「−−ああ、あれね。重いからって、男子の何人かが手伝ってくれた」 「それだけど……最近、純は男の子から妙に親切にされてると感じてない?」 「はい? 何を言い出すのよ」 ひとまず否定しておいてから、じっくり思い出してみる純子。 「……これまでも親切にしてもらったこと、あるわよ」 「でも、清水や大谷からはなかったんじゃないかしらね」 町田の指摘に一つうなずき、純子は奇妙さを急速に覚えた。 「本当だわ。手伝うふりして邪魔するのなら、何遍もあったけれど、あのとき の二人ったらまとも……。気味悪ーい」 両方の二の腕を自ら抱えた純子とは好対照に、三人は顔を見合わせ、目配せ する。 「これはひょっとして、新たな行動を起こしたのかもよ」 井口は言って、やけににやにやする。 「な、何のこと? 新しい意地悪?」 「違うってば、純ちゃん。その逆だよぉ」 富井には笑われながら、肩を叩かれてしまった。 次いで、町田がこれも苦笑いめいた物を表情に張り付け、まずはこほんと咳 払い。それからおもむろに、純子の顔を指差してきた。 −−つづく
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE