長編 #4423の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「僕が言ったら、フィリオさんの飛空機についても、教えてもらえますか」 「……そうだね、どうしようか」 間を取るため、曖昧に返事して、笑みを浮かべるフィリオ。 (参ったな。ジェームズもケビンを使って、こっちの秘密を探り出したがって た訳か。しかし今の僕には、何にもないと言っていい状態だぞ。そりゃあ、設 計図ならいくつもあるが……。まあ、僕だってこうしてケビンから聞き出そう としてるんだからな。全然見せないのもだめか……ケビンが気に病むかもしれ ないし) 迎神機が完成間近であるなら、今さら知られても関係ないだろうと考え、フ ィリオは最終的に承諾を決意した。 「いいよ。好きなだけ、見ていけばいい」 「ああ、よかった。フィリオさん、ありがとう」 目を細め、ほっとしたように息をつくケビン。 「それでケビン。迎神機の形、特に翼について教えてほしいんだ。翼が悪けれ ばひょっとしたら飛べない物かもしれないから、大事なことだろ」 「え、飛べないんですか?」 目をいっぱいに開くケビンを安心させようと、フィリオは急いで首を横に振 った。 「いや、だからさ。それを知るために、君の話を聞こうって訳。当然、ジェー ムズに飛んでほしいよな、ケビン?」 「それは……飛ぶんだったら、安全に飛んでほしい」 そこまで言って、ケビンは慌てたように付け足す。 「あ、もちろん、フィリオさんにもっ」 対して、フィリオは一瞬面食らったが、すぐに笑みを作った。 それからケビンの語った迎神機の形状に関する話を聞き、フィリオは首を傾 げたくなった。 (何だ、前、ちらっと見たときと、同じじゃないか? ちっとも変わり映えし ていない……せいぜい、翼に模様を着けたぐらい。そんなので飛ぶなんて、と ても信じられないんだが。自分の考えに間違いがあるのか? 大学を出た専門 家の方が物を知っているのは確かだろうし……) 自信をなくしかけるフィリオ。だが、彼自身も似たような実験は何度か繰り 返してきている。その経験が、迎神機が安定して飛ぶ光景を、容易に想像させ ないのだ。 「フィリオさん?」 「なあ、フィリオにいちゃん、黙っちゃって、どうしたんだ?」 「フィリオ!」 子供達の声で、我に返る。 「フィリオさん、どうしたんですか? 役に立ったでしょうか、僕の話?」 「あ、ああ。役立つよ。とっても大切なことかもしれない」 ケビンの頭をなでるフィリオ。 少年はくすぐったそうにしているが、フィリオは気もそぞろに別のことを考 える。 (この型が最も危ないぜ? 宙高く、浮かぶことは浮かぶだろうが、そのあと、 安定して飛べないと、落ちるしかない。高さがあるだけに、命に関わるかもし れない。まさか空中に浮かんだまま静止して、そこから滑空を始める設備もな いようだし……。研究者の二人って、本気で取り組んでるのか?) そんな考えが閃くと、フィリオはケビンに尋ねずにはいられなくなった。 「なあ、ケビン。二人組の研究者−−」 「ウィップル博士とバリアント博士って言うんです」 のどかな調子で教えてくれるケビン。 「その博士達だが、真面目にやってるんだろうなあ、やっぱり?」 「はい。予算て言うんですか? どんどん請求してきて、いっぱい、色んな材 料や道具を買い込んでいるみたいでした。お兄様も珍しく……って言ったら怒 られるんですが、本当に珍しく、気前がいいんです。まるで湯水のように、お 金を出してあげて……」 「ふうん……。お金、そんなに使ってるのかい?」 羨む気持ちも少なからず起きた。 「だけど、もう完成間近なんだから、いらないだろう?」 「いいえ、違います、フィリオさん。その反対」 断言するケビンに、フィリオは眉を寄せ、身体を相手にしっかり向けた。 「反対だって? どういうことか、話して」 「えっと、仕上げるためにあれがほしいこれがほしいって、請求してきてまし た。お兄様が街に出発したあとも、それは続いています。お兄様から命令が出 ていて、お金には糸目を着けるなって」 「……もしかすると」 フィリオの頭の中で、新たな考え−−疑いが浮かんだ。 だが、まだ確信が持てないため、口にするのは控えておく。 「ケビン。悪いんだけど、請求書や領収書。要するに、お金と品物の出入りに 関する書類をできるだけ見たいんだ。別荘の人達みんなには内緒で、持って来 てくれないかな?」 「多分、大丈夫だと思います。数字がぎっしり書いてある紙が何枚も、ごみ箱 にありました」 そういった書類の重要性を理解できていないのだろう、ケビンは簡単に承知 した。 フィリオは、ケビンに本当の理由を打ち明けないまま、スパイ行為をさせる ことに後ろめたさを感じなくもない。が、今、フィリオの抱いた疑問は、確か めておくべき種類のものだ。ジェームズや研究者二人、さらには、ウッド家別 荘の者に気付かれないように。 フィリオは息をついてから、ことさら明るい調子で言った。 「さあ、ケビン。それにみんなも、作業場に来な。まだまだ作りかけだが、最 新の飛空機をご披露しよう!」 「何をなさっているのです、ケビン様」 突然の声に顔を上げたケビンは、その主−−執事を見て、とりあえず照れ笑 いを浮かべた。 別荘内の廊下は、鮮やかな色の絨毯が敷き詰められて、塵一つない。 そんな中、ケビンの左手はくずかごの縁を、右手はその中に突っ込んだ姿勢 のまま。これで身なりが悪ければ、何を言われるか分からない。 「う、うん。ちょっと」 「何か、間違ってお捨てになってしまったのですか? それでしたら、私ども にお言いつけくださればいいものを」 執事は近寄ってくると、すぐそばに身を屈め、一緒になって探し始めようと する。 「それで、どういった物をお探しでしょう?」 「い、いいよ。いい。自分で探すから。邪魔をしないでおくれ」 言って、両手でくずかごを掴むと、全身を使って隠すように背を向けるケビ ン。 「ですが」 「いいから! 別に悪いことなんかしていないんだから」 「さいですか……。では、お一人でどうぞ。もし手助けが必要でしたら、いつ でもおっしゃってください」 執事はその表情にまだ訝しむ色を浮かべていたが、身を引くと、静かに立ち 去った。 執事の姿が廊下を折れ、視界から消えたのを確認してから、ケビンは再び作 業に没頭した。 (ああ、びっくりした。危なかった) 安心して息を吐くと、ほこりが少し舞う。 慌てて顔を遠ざけ、片手で口を覆う。すると今度は、安定感を失ったくずか ごが、転倒しそうになった。またも慌てるケビン。 (……ない、ここにも) 放り散らかした紙くずを戻し、首を傾げた。途方に暮れてしまう。 今朝からくずかごの中を調べること、数十度。問題の書類は、一枚たりとも 見つかっていない。 最初、ケビンは簡単に考えていた。作業場にあるくずかごを覗けば、一発で 見つかると踏んでいたから。 なのに、いつの間に処分したのだろう、くずかごは空っぽになっていたのだ。 それでも別荘内のどこかにあるはずと考え、邸内の数え切れないほどたくさ んあるくずかごを渡り歩いている。が、それでも見つからない。 ウィップルやバリアントにあてがわれた部屋の近くのくずかごに、特に期待 をかけていたのに、やはり成果は上がらなかった。 「もう、焼却炉なのかな」 気が付いて、ケビンは焦った。 別荘の敷地の隅っこには、焼却炉がある。たいていのごみは、そこで処理す るのだ。 「普通、昼前に火を着けるから……急がなきゃ!」 まだ間に合う。ケビンは駆け出した。 子供の狭い歩幅で、別荘の長い廊下をぱたぱたと抜け、突き当たりの角を、 壁に肩をこするようにして曲がり、また懸命に走る。息が切れかける頃、よう やく外に通じる戸口が見えた。 「……あ」 扉を開けるや、バリアントと出くわした。彼は一瞬、髭をひくつかせ、何を 言うべきか逡巡するように舌なめずりをした。 「……これはこれは、ジェームズ様の弟君。ケビン様」 ケビンの小さな身体の真ん前に仁王立ちし、囲い込むかのごとく両腕を広げ ると、バリアントは見下ろしてきた。 「そんなに急いで、えー、どうなさいましたか?」 ウィップルに比べると、バリアントはいくらか言葉遣いが粗野だ。 ケビンは伏せてしまいそうな両目を、勇気を持って上に向けた。手に力が入 り、地面を踏みしめる二本の足は、その靴底がじりっと音を立てた。 「焼却炉を見に行くんだ」 「ああ、それでしたら、さっき自分が火を入れ、戻って来たところです」 マッチの箱を手の中で転がしてみせるバリアント。 「え? バリアントさんがやったの?」 「ええ。ついでがありましたので。いやあ、たくさんごみが出て、すぐに作業 場はいっぱいになってしまいますからなあ」 「も、もう、燃えちゃってる?」 動揺を悟られないよう、落ち着いて喋ろうとするケビンだが、完全にうまく は行っていない。 バリアントは大儀そうに息をつき、「とっくに火が回ってしまいましたよ」 と答えた。 「そう……」 「ケビン様、どうしたんですか?」 気味悪いほどにやついた笑みをなし、バリアントはケビンに顔を寄せる。 「い、いや、それが……」 ケビンはしばらく考える。 (内緒って言われたけれど、一人ぐらいなら事情、教えてもいいよね。バリア ントさんは博士の一人だけど、詳しく言わなかったら大丈夫。昇天トンボを僕 にくれた、いい人だもん) 相手の巨躯を見つめ、ケビンは淡々と言った。 「ある書類を探してるんだ。多分、バリアントさんならそのことをよく知って ると思うから、頼みたいんだけど……」 それからケビンが具体的に話すにつれ、バリアントの顔つきは徐々にしかめ っ面になっていった。 しかし、ケビンは気付かない。バリアントが豊かな髭を蓄えていたせいもあ るかもしれない。低い視線では、彼の表情はよく見えないのだ。 その日の午後、ケビンはバリアントに案内され、迎神機の製作場に連れて来 られた。 昼食時という理由もあって、そこにはウィップルを除いて誰もいなく、いつ もの作業中の、耳にきーんと響く騒がしさが嘘のように静かだった。 バリアントはウィップルに何ごとかを耳打ちした。それに対し、ウィップル はケビンに、にらむような一瞥をくれてから、腕を組んで考える。 しばらくして、ようやく口を開いたウィップル。 「ケビン様ご所望の書類は、全て処分してしまいました。もしかすると、お兄 様であらせられるジェームズ様がお持ちかもしれませんが、外出中の今はどう しようもないのですよ」 「ふうん。それだったら、仕方ないですね」 納得して帰ろうとしたケビンを、二人組は声を揃えて引き留めた。ケビンを 前後から挟み撃ちする形になる。 「そういった書類が出て来たとして、何に使うおつもりですか?」 ウィップルの優しげな問い掛けに、ケビンはつい答えてしまいそうになった が、寸前で思い留まった。 「それは言えないんだ。秘密」 「……では」 わざとらしく小首を傾げ、ウィップルは眉の辺りをかく。言葉と言葉の間隔 がとてつもなく長い時間のように、ケビンには感じられた。 「もう少し、ご見学なさいますか?」 ケビンはちょっとだけ考え、うなずいた。 (僕ができるだけよく見て、記憶しておいたら、フィリオさんもより詳しく分 かるはずです。そうなれば、お兄様が安全に飛べる方法も分かるかもしれない) 対するウィップルとバリアントは、ケビンの両脇に立つとその小さな背にそ れぞれ片手を添える。 「私どもが、一つ一つ、ご説明して差し上げましょう」 −−つづく
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE