長編 #4418の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
木漏れ日の中、小鳥がさえずり、花々が揺れる。 村のさわやかな朝だった。 (今日もいい天気になるなあ、こりゃ) 一面の畑を見渡し、ヨアンは思った。 じきに手伝いのフィリオがやって来るだろう。さして期待せずに雇ったのが 数日前。意外と役に立つと分かったので、今や頼りにしている。 その下準備に、道具を取り出そうと身をかがめたヨアン。 と、そのとき、耳慣れない騒音が伝わってきた。ヨアンは背を伸ばした。 「……何だぁ、あれは?」 音のする方角を見やり、目を細める。街へと通じる野道が、もうもうと起こ る土煙にかすんでいた。 しばらく待って、ようやく音を立てていた物の正体がはっきりする。 大きなトラックが何台も連なって、村へと向かって来ているのだった。 ヨアンの農地に足を踏み入れたフィリオは、その途端、耳障りな音を聞きつ けた。 自分のいる位置から野道は見通せなかったので、急いで高台へと駆け上がる。 ほどなく、ヨアンの姿を見つけた。 「ヨアンさん」 「お、おお、フィリオ。おはよう」 返事したヨアンはフィリオへ振り返らず、手の鍬を杖代わりに、呆然とした たたずまいで音のする方向を見ていた。 「おはようございます。それより、何の騒ぎですか、この音……」 尋ねながら、フィリオも道へ向き直る。 騒音と土煙、さらには排気ガスをも撒き散らしながら、トラックの団体が怒 った牛のように突進してくるのが認められた。 「……街からの商人でしょうかね」 「うむ……こんな不定期に来るのも珍しいが、それ以上にあの数は尋常じゃね えぞ」 顎を撫でて思案顔のヨアン。 フィリオも考えていた。考えても分からないので、身を乗り出し気味に目を 凝らし、積荷が何かを確認しようと試みる。 「−−あ?」 我が目を疑いたくなった。 念のため、激しく瞬きをして、もう一度視線をやる。 村までの距離をどんどん縮めるトラックの荷台には、金属製の柱が見えた。 その他にも、機械類らしき物ばかり積載している。 「ヨアンさん。村に何か、新しい建物でも建てる予定がありましたっけ?」 「いや、そんなもん、ないよ」 「じゃあ、一体……」 やがてトラックの隊列は、フィリオらからは見えない、丘の向こうに隠れて しまった。しかし音だけは変わらず、いや先ほどよりもやかましくなって伝わ ってくるようだ。 「さあて−−あっ、あれは」 ヨアンに続き、作業に取りかかろうときびすを返しかけたフィリオは、トラ ックのあと、そこそこの距離をおいて走る一台の高級車に注意を留めた。 その車に誰が乗っているか。この村の者なら、ほぼ全員が分かるだろう。 「ジェームズ……子爵様のだ」 「ほんとだ」 ヨアンも足を止めた。 「どういうつもりだろう、子爵様も……?」 顔色を曇らせるヨアン。乳製品をウッド家に収めている手前、表立って悪く は言えないが、今朝のこの騒ぎには、不安をかき立てられてしまうに違いない。 「フィリオ、考えても仕方がない。我々は自分の仕事をやってればいいんだよ。 さ、行こうか。これではどんどん遅れちまう」 「あ、はい」 吹っ切ったらしいヨアンの声に反応し、フィリオも急いで着いていった。 が、その心中では、まだ続く不審の思い。 (何をしでかす気だ、ジェームズ?) もはや当たり前のように、子爵を呼び捨てにしていた。 数十名の工事人夫が動き回り、鉄柱が行き来し、合図の笛がひっきりなしに 響く。 (今に見ていろ、あの小僧め) その様を、ジェームズは微笑しながら眺めていた。目は爛々と輝いている。 (おまえのいるこの村で、おまえの目の前で、おまえよりも先に空を飛ぶ乗り 物を造ってやる! 以前、おまえがこしらえた半端ながらくたよりも、長時間 自在に飛べるものをな。そうすれば、アリスもおまえなど見捨てて、俺になび くに違いない。決まっている。ふははははっ) 声に出して高笑いしそうになったジェームズは、それをかみ殺し、ウィップ ルとバリアントへ向き直る。 「望み通り、専用の作業場をこしらえてやった。工具や当座の資材も運び込ん だ。他に必要な物があったら、どんどん言え。即刻発注して、運ばせる」 「ありがたいお言葉です、ジェームズ様」 練習をしたかのごとく、同じ角度に頭を垂れる二人組。 「この環境なら、私どもの研究の完成も近いことでしょう。なあ、バリアント」 「ああ、これまでの狭苦しい研究室とは大違い。実験も好きなようにやれる。 絶好の土地です」 二人組の言葉に、ジェームズは「ただ広いだけの田舎でも、たまには役立つ こともあるんだな」と思って、鼻で笑った。 「ところでウィップル、バリアント。おまえ達が造る空飛ぶ乗り物だがな、名 前は何という?」 「は? 名前?」 いつもは澄まし顔のウィップルが、しかめ面になった。声もいくらか慌てて いる響きがなくもない。 「そうだ。……先日、噂になった飛空機。あれは実はこの村のある若造がこし らえた物なんだが、飛空機のような名称はないのか?」 「はあ、名前ですか」 戸惑った風に相棒を見やるウィップル。 バリアントの方も髭を上下させ、口をもごもごさせながら、しばらく考える 様子。が、やがて言った。 「昇天機にでもしましょうか。昇天トンボの大きな機械なのだから」 「昇天機?」 作業の大きな音があちこちからとどろく中、ジェームズは眉を寄せた。 それを察したか、急いだ口調でウィップルが応じる。 「あ、いえ、縁起が悪すぎますね。私どものような研究ばかは、こういったこ とに疎いものでして……この、考えなしがっ」 と、いきなりバリアントの胸を小突いた。 不服そうにしたバリアントだが、何も口には出さず、黙ったまま。 ウィップルは続ける。 「そうですね……空を飛ぶということは、いわば神の所業。神を迎えるための 乗り物、迎神機(げいしんき)でいかがかと存じますが」 「迎神機か。よい名だ」 やや不機嫌になっていたジェームズは、喜色を取り戻した。ウィップルらも ほっとしたように明るい顔つきになる。 そこへ命令口調で言うジェームズ。 「おまえ達、迎神機を一日も早く完成させよ。私が乗って、大空を自由に舞う ために」 杭の打ち込まれる音がまた一つ、響き渡った。 手押しの一輪車が大きめの石に乗り上げ、中身がぶち撒かれる。 「あちゃあ」 フィリオはため息をつき、スコップを取りに走った。 「どうした?」 その姿を見とがめたヨアンが、作業を中断することなく、声をかけてくる。 「あ、すみません。一輪車、ひっくり返しちまって……」 スコップを持つと、きびすを返し、急いで戻ろうとするフィリオ。 と、彼の背中にヨアンの声が飛んだ。 「おいおい、しっかりしてくれよ、フィリオ。その手の失敗、朝から数えて三 度目だ」 「す、すみません」 「いや、大したことじゃねえからいいけどよ。今日はどうかしたのか? いつ ものおまえらしくないなあってな」 「いえ……ちょっと考えごとを。仕事中に集中力欠いて、すみませんでした。 次から気をつけます」 「そうか。なら、いいんだが」 口ではそう言いながら、まだ心配げなヨアンを振り切り、フィリオは一輪車 を転倒させた場所まで走って戻った。 「ああー、だめだ」 強くかぶりを振る。 それから一輪車を立て、ぶちまけたたい肥−−正確にはたい肥にするための 藁や草や土−−をスコップですくい、入れ直し始める。 (くそっ、気にしないようにしようと思っても、気になるぜ。ジェームズ、何 を建ててるんだ?) ウッド家別荘に近い、子爵家領地で行われている作業は今でも続いている。 けたたましい音がかなり頻繁に聞こえてくる。 (工場? だとしたら、一体何の……。嫌な予感がする) フィリオの悪い想像が当たっていたと分かったのは、それから二日後の昼間 だった。 「フィリオ、聞いてよ」 よその家の手伝いが一段落し、昼食を摂りに家に戻ったフィリオを、アリス が待ちかまえていた。 「あれ? 今日は食事、アリスの家の厄介になる日じゃなかったはずだけど、 違ったかな」 「そんなことじゃないのっ」 怒った口調のアリスに、フィリオは状況が飲み込めず、目を丸くした。とり あえずなだめながら、家の中に招く。 どうやら、祖父のランディスは出かけているらしい。食卓には、素っ気ない 風情でパンとスープ鍋が載っていた。 「アリスはもう食べた?」 「食べた。何時だと思ってんのよ」 確かに、お昼時はとっくに過ぎている。 「そんなことより、私ねえ、また会ってしまったわ」 「会ったって、誰と?」 鍋を火にかけながらフィリオ。それを横合いから、アリスが思い出したよう に手を伸ばす。 「貸して。私がやる」 「いいよ。話の続きを聞きたい。座って、落ち着いて」 「じゃあ……」 言われた通り、素直にテーブルに就くアリス。軽く深呼吸をしてから始めた。 「あの子爵様に、道でばったり」 「本当か? 何か言われたのか? それとも何かされたとか……」 フィリオは肩越しに振り返った。 と、アリスが驚いた表情になり、さらには嬉しそうに微笑むのが見えた。 「心配してくれてるのね?」 「あ、当たり前だろ。あんなことあったんだから」 「うふふ」 また笑うアリスに、フィリオは少し苛立ってきた。 「早く話してくれよ、頼むから」 「そうね。−−あっ、鍋!」 「え? あ!」 前を見ると、スープが吹きこぼれる寸前だった。慌てて火を消す。 「はあ、危なかった。昼、パンと水だけになるところだった」 しばらく笑い声が続く内に、昼食のテーブルに就く。 「それで? 子爵はどうしたって」 「馬に乗って、見回りだったのかしら。鼻歌混じりで、気持ち悪いぐらいにや にや笑ってた。私は回れ右したかったんだけど、あからさますぎるかなと思っ て、そのまま横に退いて、黙ってお辞儀だけするつもりだったのよね」 アリスの口ぶりには、あそこで回れ右しとくべきだったという後悔がありあ りと窺えた。 「そうしたら、先に声をかけてきたの、子爵様が」 「あきらめたはずじゃ……」 「私もそのことを言ったわ。そんなにはっきりとじゃないけれど。あの子爵様、 何て言ったと思う? 『こうして会えるとは、運命を感じるな、アリスよ』と か、『おまえの幼なじみよりも飛んだら、俺のことを尊敬するか?』だって。 何考えているのかしらね。私、腹が立ったり、おかしかったり……」 「……」 アリスの呆れた口調とは対照的に、フィリオは話の内容に緊迫感を覚え、目 を細めた。 「フィリオ?」 「……子爵が何を考えているのか、分かった」 つぶやくように言ってから、匙をスープ皿に叩き付けんばかりに突っ込む。 残っていた液体が、少しばかり飛び散った。 −−つづく
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