長編 #4393の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「気にするな、シャハラ」 「気にするのだ、シャハラ」 『いったい、どちらの命令を実行すればよろしいのですか』 「おれだ」 「私のに決まっているだろう。おとうさんのいうことがきけないのか」 「頼むよ、おとうさん」 「だーっ。だれがきさまのおとうさんだ」 「おまえ」 「ばかもの。脳みそ腐っとるのか、きさまは」 「だいじょうぶだ。たのむぞ。シャハラ、スタンバイ」 『了解しました』 「ジルジス、きさまのその強引さには、ほとほと愛想がつきはてる」 「だが、おまえはやるんだろう?」 にやにやしながら、ジルジスはいった。 憤然と、レイはそんなジルジスをにらみかえしていたが――やがて鼻息も荒くい った。 「今度だけだぞ」 「そういっておまえは、いつでもおれをたすけてくれるのさ」 ジルジスは笑った。 ふん、と鼻をならしてレイは、荒々しい動作でその場をはなれた。 マヤの右まうしろのシートに乱暴に腰をおろし、憤然とした態度でボードをたた きはじめる。 すぐに、高速再生映像のように、コンソールを操作するレイの手が異常な速度で 動きはじめた。 舞踏か、あるいはピアニストの超絶技巧にも似た雰囲気がかもしだされる。 もはやレイが夢中になっているのが、傍目からもうかがえた。 「あの……なにがはじまったんですか?」 不安を胸にひそめて、サフィーヤ姫はラエラにきいた。 「ディスラプター・キャノンの……起動準備です」 息をのんでレイを見つめていたラエラが、うわのそらでそうこたえた。 「ディスラプター……キャノン、ですか?」 「はい」と、なおも魂のぬかれたような顔をしてラエラはいい――ちらりと、ジル ジスに視線をむけてから、姫にむき直った。「とても危険な兵器です」 「危険な兵器?」 姫はききかえす。 ラエラは真顔で、深くうなずいてみせた。 「一言でいえば、空間を引き裂く兵器です」おどろくべきことをいった。「理論的 なことは省きますけど、壮絶な威力を発揮します。そしてそれだけではありません。 制御がきわめてむずかしいのです。その制御はレイにしかできませんし、かれがそ れを完璧にこなせるかどうかもわからないんです。微妙な条件を考慮した複雑な計 算が必要ですから、すこしでも不備があればすぐに制御が困難な状態におちいって しまいます。だから、使用すればかなりの高確率で暴走してしまいかねないんです。 そしてひとたび暴走すれば――わたしたち自身も危険だし、もし制御不能な状態に おちいったとしたら、その結果がどうなるかは予想もつきません」 「予想もつかない、ですか?」 「ええ。まさに言葉どおり、予想もつかないんですよ。でも、そう、最悪の場合は ――宇宙がほろびます」 え、と姫君は目をまるくした。 なにをいわれたのか、一瞬理解することができなかったのだ。 ようやくのことで、相手の言葉の意味するところを理解するが、それでも感覚が おいつかない。宇宙がほろびる、ということがどういうことなのか、まるで想像が つかないのである。 「あの、それはいったいどういうことでしょうか」 姫は困惑もあらわにそうきいた。 ラエラは真剣な表情でいう。 「空間が無制限に引き裂かれてしまう可能性があるんです。その結果、崩壊の影響 が全宇宙をまきこむことは、じゅうぶん考えられるそうです」 「そんな……」 絶句して、姫はジルジスの横顔に視線をむけた。 盗賊は、無表情に前方を見つめているばかりだ。 とほうにくれて、姫はジルジスとラエラを交互に見つめた。 が、ラエラは姫から視線をそらすだけだった。 ごくり、と姫はのどをならす。 「それでは……そんなものの攻撃を直接うけた側は……とてもぶじではいられない のでしょうね……」 「ええ」目を伏せたままラエラはこたえた。「黒い闇に一瞬でのまれて、あとかた もなく消滅します」 それをきいてサフィーヤ姫は息をのんだ。 凍結した雰囲気のもと、レイが猛スピードでコンソールを操作する音だけが、コ クピット内にしらじらしく反響する。 姫はくちびるをかんで顔を伏せ、必死の表情でなにごとかを一心に考えつづけて いるようすだった。 が、やがてふいに顔をあげ、思いつめた表情でジルジスにいった。 「あの……あの、ジルジス」 「なんだい?」 静かに、ジルジスは姫を見かえした。 無表情だった。 息をのみ――サフィーヤ姫は意を決していう。 「わたくしのために、みなさんがこんな窮地に追いこまれたことは承知しています」 うん、とジルジスは静かにうなずく。 「それで?」 「はい。あの……それなのに、こんなわがままなことをいうのは申し訳ないのです が……あの、ディスラプター・キャノンを使うのはおやめになっていただくわけに は、まいりませんか?」 「それは、サフィーヤ姫」と、ジルジスは静かな口調でそういった。「どういう意 味なのか、きかせてもらえるかい? 自分やおれたちの身にまで危難がおよぶのは 避けてくれ、という意味なのか」 「もちろん、そういう意味もあります」 意気ごんだ口調で姫はいった。 それにはかまわずジルジスは、あいかわらず静かな口調でつづけた。 「それとも、ザグラール王の身を案じてのことなのか」 と。 ――姫ははっと目を見ひらいた。 盗賊の、真正面からの視線をうけきれずに視線をおとし―― しばらくしてから、もう一度顔をあげ、しっかりとジルジスを見つめかえして、 うなずいた。 「はい」 その目には、つよい決意がうかんでいた。 ジルジスは――あわく、かすかに、微笑んでみせた。 「サフィーヤ姫。きみは、ザグラールを愛しているんだな」 問いかけというよりは、確認の口調だった。 姫君は盗賊を見つめたまま、その両の瞳をおおきく見はり―― やがて、うなずいた。 「はい」そういった。「はい。愛しています。あのかたを。心から」 言葉をかたちにして――そのとたん、ぽろぽろと、その目から涙がこぼれはじめ た。 そのことにサフィーヤ姫は、自分自身でおどろいたような顔をした。 盗賊は微笑んだ。 ちいさくうなずき、そして正面にむき直った。 「レイ、シャハラ、ディスラプター・キャノンの発射は中止だ。ブラスターで、敵 船に致命傷を与えないよう攻撃を加える。交差戦準備」 「なんだと」そのとたん入力に熱中していたレイがものすごいいきおいでふりかえ った。「ジルジス、きさまは私をばかにしているのか。せっかく暴走しないように 完璧な下準備をととのえつつある、というのに。もしかしてきさまは、この私の頭 脳を信用していないのか? それとも単に私を愚弄して遊んでいるだけなのか? あとのほうがありそうなことだな。ジルジス、きさま、許せん。いいか、きさまの ようなやつはな――」 「申し訳ありません、レイ」そこへ泣きながらサフィーヤ姫がわりこんだ。「申し 訳ありません。わたくしがわがままをいって、やめていただいたのです。どうか、 そんなにお怒りにならないで。おねがい」 「あ、いや」にわかにレイはうろたえ、中腰になってしどろもどろにいいはじめた。 「そそそ、そういうことならべつに問題はないんだ。いやいや、私はてっきり、ま たジルジスのいやがらせかと。なにしろこいつは性格が極端にわるいやつだから、 その、つまり、あなたは気にしなくていいのです。つまりそういうことです。ああ、 あのその、泣くのはどうかその、えーと、姫」 見るからにおろおろしはじめた。 そんなレイのようすを見て、姫はくすりと笑い、 「ありがとう」 と口にした。 レイはぽかん、と姫を見かえし――みるみる顔を真っ赤に染めながら、特殊兵装 コンソールにむき直ってなにやら操作をはじめる。 「てれてやがる」 「うるさいっ」 からかうようなジルジスの言葉に、はじけるように叫び声をかえす。 マヤが、声をたてて笑った。 そのとき、シャハラがいった。 『ジルジス、敵高速戦艦の最長射程内まであと一分です。秒読みを開始します』 「たのむ」いってジルジスは立ちあがった。「ラエラ、かわろう。砲撃はおれがや る」 いわれて瞬時、ラエラは目をむいてジルジスを見かえした。 が、無言でうなずき、席をジルジスにあけわたす。 そして、 「サフィーヤ」涙をぬぐう姫に呼びかける。「こちらへどうぞ」 姫君は泣きはらした顔でラエラを見あげ、くすんと鼻をならしながらうなずいて 立ちあがった。 つれだって、コクピットをあとにする。 交差戦 “ディーヴァール”とはイレム語で“壁”を意味する。ひらたくいえば、時空歪曲 場により攻撃をふせぐ、フィールド・バリヤの一種である。 コンピュータ制御によるシステムが、敵の攻撃を感知してフィールドを展開し、 防御するのである。 大量のエネルギーを消耗する上、システム自体に限界が存在するために、永久に 攻撃を防ぎつづけるわけにはいかない。敵の火力や攻撃の頻度等に比例してジェネ レータが次第に加熱し、それを放置しておけば爆発する場合もある。ゆえに一般的 には限界をこえる前に、自動的にシステムダウンするよう設定されている。 “シャハラザード”も基本的にはそうである。ただ、レイとレイの父であるプロフ ェッサー・ジンドの組み上げたシステムは非常にすぐれたもので、一般的な量産型 ジェネレータと比較すると倍近い耐久力を保有している。 それでも相手が三隻、という状況下である。 ディスラプター・キャノンなら、相手を歪曲場ごと引き裂いてしまうのでなんら 問題はない。だが通常兵器による砲撃戦、となれば話はちがってくる。 そしてさらに致命傷を与えてはならない、という制限が加えられている。 ザグラール王が、宣言どおりほんとうにこちらを撃沈するつもりで攻撃を加えて くるかどうかも、戦闘の帰趨にはおおいに関係してくる。 迫りつつある高速戦艦は、ふつうの戦艦と比較すると兵装はやや威力が落ちる。 通常航行におけるスピードを第一に考慮した設計の戦艦だからだ。 それでも戦艦は戦艦だ。 長射程の光子弾、パルスレーザーなどに加えて、短射程大口径ブラスターも装備 している。 匹敵する装備は“シャハラザード”にもあったが、相手が三隻という点がネック だ。 システムの優秀さを計算に入れても、圧倒的に不利な状況であった。 となれば、とりうる方法はひとつ、とジルジスは判断したのである。 交差戦。 敵ディーヴァール・システムのダウンを待たず、高加速で接近して双方のフィー ルドを接触、干渉させて中和し、そのあいだに砲撃をたたきこんで離脱する。 勝負は、一瞬で決することになる。 さらに、フィールドの中和がどういったタイミングで起こるかは予測不可能とさ れているので、通常のコンピュータ制御による攻撃は不可能なのだ。 したがって砲撃手の、経験の蓄積による一瞬の判断がすべてを決することになる。 いつもならば、その役目はラエラがになう。 銃火器を使った戦闘は、ラエラの独壇場だ。それが戦闘機や戦艦の装備であって もラエラの場合はかわらない。深い知識と経験にうらづけられたたしかな腕があっ た。 が、ジルジスにはラエラほどの確実さはない。 それでもラエラがジルジスに席をゆずったのには、もちろん理由がある。 この交差戦が経験による判断以上に勘を必要とした、いわば神だのみじみた不安 定さを内包しているからであった。 考えるまでもなく、勘、という視点からしてもラエラという女性は常人とはかけ はなれたものをもっている。 だがことその点に関しては、ジルジスのそれのほうがはるかに勝っている、とい うのが“イフワナル・シャフルード”たちの共通した見解であった。 ジルジスの勘は異常なほどに発達している。 超能力の一種なのではないかと思えるほどに勘がいいのである。測定値にはあら われないためジルジスがシャーイルであるとは考えられないが、かなり強力な予知 能力の保有者にくらべても、このジルジス・シャフルードという男の勘は遜色はな い。否、危機的な状況下にあればあるほど、それは優秀な予知能力者でさえ足もと にもおよばないような冴えを発揮するのである。
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