長編 #4392の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
『はい、おとうさま』シャハラがふたたびにっこりと笑った。『ではこれより予定 どおりサディレシヤ系より離脱を開始します。オーヴァードライヴ可能地点までの 最短所要時間はU・Tで5・2385H後』 かすかな、やさしいうなり声が後方からひびきはじめた。 やがてそれに重々しく底ひびく、低い轟音が徐々に、まじりはじめる。 気がつくと、ほんのかすかに前方からのGがきていた。 「あの、ずいぶんと静かに動くんですね」 サフィーヤ姫はラエラにきいた。 「重力制御がはたらいているんですよ」ラエラはこたえる。「実際は、全力加速が かかってます」 まあ、と姫はおどろいた顔をしてみせる。 「こんなに完璧な重力制御なんて、はじめてですわ。ふつう、どんなに高級な船で も発進時のGをこれほどきれいにおさえることなんて、できないのでしょう?」 「まあ、この船もふだんはもっと荒っぽい出発のしかたをしていますけどね。こう いう発進のしかたができるだけの性能は、たしかにあります。サフィーヤ、あなた が乗っているから、シャハラもいいところをお見せしたいんじゃないですかね」 「すごい性能ですわ」姫君はすなおに感心する。「いったい、どういったかたがプ ログラムなさったのかしら」 「ああ、レイです」 と、こともなげにラエラはいった。 まあ、と姫はおどろき、あらためて尊敬の目を、たたずむ長身の青年の背中にむ けた。 「あ、それでシャハラは、かれのことを“おとうさま”と」 「そうです」苦笑しながらラエラはうなずく。「もっとも、厳密にはレイひとりで なく、レイとレイのおとうさんとの共同開発で、この“シャハラザード”は設計さ れたのですけれどね」 「まあ。それでは船そのものが、あのかたの設計ですの」 「そう。それに、ティーズバードやアマーバーシャ。それらに搭載されている各種 システムや武器もすべて、レイとかれのおとうさんがつくりだしたものです。“フ ァンタム”や“ディーヴァール”の性能など、おそらく帝国や連合をふくめて、こ の船に匹敵するだけのものはまずないでしょう」 「すごいひとだったのですね、かれは」姫はいった。「わたくしはてっきり、単な る口のわるい不平屋だとばかり」 「あたってますよ、それ」 ラエラが笑いながらいった。 そのとき、レイが顔をくしゃくしゃにゆがめながらふりむいた。 「ひどいぞ、ラエラ。それはあまりにもひどいいいぐさだ」 きみは私の恋心をどうしてわかってくれない云々、とレイはまたもや大げさな身 ぶり手ぶりをまじえながら滔々とかきくどきはじめた。 そこへ、 「んん、うるさい、眠れねえじゃねえか」 と寝ぼけまなこでジルジスが乱入してくる。 むきになってレイがわめく。 「うるさいのはおまえのほうだ。だいたいおまえはなんだ、いつもいつもいつもい つもいぎたなく眠りこけているだけで何もしようとはしない。恥ずかしくはないの か? おまえなど、この私がいなければ、ただのこそどろでしかないくせに」 「ああ、いったな」 「いったがどうした、このこそどろ。その上、私とラエラのあいだにしょっちゅう 横やりを入れやがって、このこそどろ」 「わっはっは。笑っちゃうね。何がラエラとのあいだに、だ。おまえなんかラエラ に相手にもされてねえじゃねえか」 「それはちがう。それはちがうぞ、ジルジス」 「どーこがちがうってんだ、このいんちき野郎。脈なんざかけらもねえってのがど うしてわからないのかねえ、この朴念仁は」 「信じられない。きさまというやつはなんという愚か者なのだ。いいか、私はなあ ――」 不毛なののしりあいがはじまった。コクピット内は騒乱の渦にまきこまれる。 「あの、あの、どうぞ争いはおやめください」 おろおろしてサフィーヤ姫がとめに入ったが、ふたりともきく耳もたぬように口 角あわをとばして双方をけなしまくるばかりだ。 ほかの連中は、無表情なシヴァのみならず、マヤもまたまるっきり気にもしてい ないようすだ。 「あの、あの、おふたりのいいぶんはわたくしがきかせていただきますから、どう かそんなに興奮なさらず、冷静に」 姫がそういうと、 「そうかい、姫さん、だいたいこいつはねえ」 「なにをいうか、きさま。姫、このバカのいうことに耳をかしてはなりません」 とうとうラエラのかわりに、姫君をさかなにしはじめた。 ラエラにいたっては、そんな光景をおもしろい見せものを見るような顔をしてな がめやっている。 だれも、とめようとさえしないのだ。 どうやら、このふたりがののしりあいは、日常茶飯事の光景らしい。 ようするに、ただのじゃれあいなのである。 そう気づいたが、サフィーヤ姫もいまさら知らんぷりはできなくなっていた。 口ぎたなくわめきちらしあうジルジスとレイのあいだに入ってサフィーヤ姫が必 死に仲をとりもつ。 まるで酒場のような喧噪であった。 が、しばらくして、それにシャハラが割りこんできた。 『おとりこみ中のところ、たいへん申しわけありませんが』 ぴたりと、ジルジスもレイもわめきあいをやめる。 メインスクリーンの、褐色の女性の映像に目をむけた。 『ご注目どうもありがとう』シャハラが無表情に一礼して、つづける『報告します。 このままでは、あと三十分とたたないうちに、追尾してくる高速戦艦の射程に入る と推定されます』 ザグラール 「そうか」ジルジスはいった。「それは困ったな」 「やーい。ざまをみるがいい」 勝ちほこったようにレイがべろべろと舌をだす。 「あんただって同じ立場だろうに」 ラエラがあきれながらレイの頭をこづいた。 ああっきみはまたそうして私の心をふみにじる、とまたはじめようとするのをラ エラは手をふって制する。 「で、どうする?」 ジルジスにきいた。 ジルジスは、ふたたび艦長席にどっかりと腰をおろしてあごの下に手をあて、ふ む、とうなった。 そのとき、 『もうひとつ、あたらしい展開がおとずれました』 スクリーンのなかでシャハラがいった。 全員の視線が、いぶかしげによせられる。 シャハラは無表情につづける。 『追尾してくる高速戦艦より、超光速通信(ハイパー・ハーティフ)がとどけられています。 どうしますか?』 ほう? とジルジスは目をむいた。 「何者から?」 『サディレシヤ王ザグラールです』 ジルジスは、つうと目をほそめる。 「わかった」ふんぞりかえった姿勢で足を組み、ジルジスはいった。「つないでく れ」 シャハラはうなずき――一拍の間をおいて、メインスクリーンの映像が変化した。 ザグラール王の精悍な顔があらわれる。 全員の注視がふりそそぐなか、王はいささかも動じたようすなくゆっくりと視線 をめぐらせ――サフィーヤ姫の前で、その視線をとめた。 無言のまま、見つめる。 姫もまた言葉もないまま、見つめかえした。 そうしてふたりは、通信回線をとおしてながいあいだ、声もなくただ見つめあっ ていた。 が――ふいに王のほうが姫から視線をはずした。 ジルジスに目をむける。 『シャフルード。降伏しろ』 ジルジスの口もとに、嘲笑がうかんだ。 「降伏? なぜ?」 『きさまらはもう逃げられん』王は淡々という。『兵装でも数でも、こちらのほう が有利なのは自明だろう。無益な抵抗はやめろ。命だけはたすけてやる』 ジルジスは笑った。声をたてて。 「おもしろいことをいう。数はともかく、武装の点でどちらが上か、それでは試し てみるがいい」 『きさまは愚かだ、シャフルード。サフィーヤがそこにいるから、おれが手かげん をするとでも思っているのだろう。だが、そうとはかぎらんぞ』 「ほう」 と、ジルジスは身をのりだした。 口もとに、獰猛な微笑をうかべて。 「いい覚悟だ。うけて立つぜ、ザグラール。あの世で後悔するがいい」 いってジルジスは、ぱちりと指をならした。回線を切れ、というシャハラへの合 図であろう。 が――それをさえぎるように、王が口をひらいた。 『待て』 ブラックアウトしかけたスクリーンに、ふたたび王の姿がうつしだされる。 ――身をのりだして、うったえかけるような目をよこしていた。 ふたたび回線がつなぎ直されたのを知って姿勢をととのえ―― あらためて王は、サフィーヤ姫に目をむけた。 遠い、手のとどかないところにいるひとを、狂おしく求めるようなあの目をして。 しばしそうして姫君を見つめ――やがてザグラール王は口にした。 『エル・エマド気質、というがな、サフィーヤ』 姫は、いぶかしげに眉をひそめる。 かまわず王はつづけた。 『ハイン大学でのことだ。フェイシスの連中が、無数のカップルをつくって恥ずか しげもなく人前で愛を語らっていたのを、そなたもおぼえているだろう』 王の言葉に、姫君の脳裏にまたあの光景がうかびあがる。 青い空のもとで、王とふたり言葉すくなにすごした、あのまぼろしのような時間 の光景が。 そしてあのときに王が口にしかけた言葉も、また。 そのときには、おれは、そなたを―― とくん、と胸が鳴いた。 姫は息をのみ、王の言葉を待った。 王は、静かな視線を姫君にむけたまま、いう。 『おれもアリシャールも、それにエル・エマド圏内から留学していたほかの連中も、 たいていそれを気恥ずかしく感じていたものだ。おれにはとうていああいう真似は できん。そう考えていたし、そんなことをする必要があるとも思えなかった』 そこで口をつぐみ、姫を見つめた。 サフィーヤ姫もまた、胸の上で手を組んで王を見つめかえす。 ひたむきな視線で。 それを受けて――王が、笑った。 静かな、おだやかな微笑であった。 『だが、おれはまちがっていたのかもしれん』そして、口にしたのである。『一度 もいったことはなかったな。サフィーヤ。おれはそなたを、愛している。おれはか ならず、そなたを迎えにいくぞ。何度でも。かならずな』 それだけだ、と最後につぶやき、スクリーンの前で手をふった。 姫が思わず手をさしのべながら腰をうかせた。 が、そのときにはすでに、スクリーンはブラックアウトしたあとだった。 あ、と、放心したように姫はつぶやき――ふと、室内につどう全員の視線をあつ めていることに気づいて、頬を染めながら腰をおろした。 うつむいて、言葉をのみこむ。 そんな姫のようすを、ジルジスはしばらくのあいだ無言のまま見つめていた。 が、やがていった。 「シャハラ、反転して敵戦艦を迎えうつ。迎撃準備だ」 『了解しました、ジルジス』 姫が、はっと顔をあげてジルジスを見つめた。 それは無視して、ジルジスはレイに呼びかけた。 「レイ」 「いやだ」 即座にレイがこたえる。 まるで気にしたふうもなく、ジルジスはつづけた。 「ディスラプター・キャノンだ」 「ことわる」 予想していたのか、レイはまたもや即座にそういった。 が――姫は気づいた。 マヤもラエラも、そしてあの無表情なシヴァまでもが、はっとしていっせいにジ ルジスをふりかえったことに。 ディスラプター・キャノン――ジルジスがそう口にした瞬間、ピン、とはりつめ たものが走りぬけたのである。 「おまえはやってくれるよ、レイ」 「それはおまえの見当ちがいだ。冗談ではない。私はやらない。断固としてやらな い」 「だいじょうぶさ」 「だいじょうぶ、ではない」 「わかってる。シャハラ、スタンバイだ」 「シャハラ、スタンバイの必要はない。私はやらない」
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