長編 #4377の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
がおきる、という情報を、ドゥルガ教徒に流したのかもしれん」 「流したですと? だれがです?」 「むろん、シャフルードだ」むっつりと王はリダー大臣にこたえ、ティギーン将軍 に視線をむけた。「規模は?」 「ちいさくはないようです」将軍はこたえる。「防御力の極端に低下したところを 襲われましたから、現場は混乱しています。追跡軍の半分を、応援に戻らせました」 「おまえが直接現場に顔をだして指揮する必要はないのか?」 「ありません。王宮が手薄になるぶん、カシムを総責任者にすえておきました」 「カシム、か」 王は瞬時、鼻頭にしわをよせた。 ティギーン将軍の事実上の副官であるカシム星佐は、ある意味ではティギーンよ りさらに優秀な武人である。が、冷酷かつ強引な作戦を立案する、野獣のように傍 若無人な性格の人物でもあった。口にはださないが、ザグラール王とはたがいにそ りがあわぬ様子が、はたから見ていてもありありとうかがえる。 リダー大臣もそのことはよく知っているため、さすがにティギーン将軍にむけて そのことに揶揄をあびせかけるのを遠慮したようだ。王がかんしゃくを破裂させる のをきらってのことだろう。 「油断ならんな」やがて、王はひとりごとのように口にした。「シャフルードとい うやつ、たしかに生きながら伝説にうたわれるだけのことはある。あるいは、カシ ムのような男のほうが相対させるにはむいているのかもしれん」 ぎょっとしたのは、リダー大臣のほうだった。ティギーン将軍は否とも応ともい わず、無言のままこうべをたれてみせただけだった。 「よろしい。西門の騒乱はカシムにまかせるがよかろう。ティギーン、おまえはひ きつづき――」 みなまでいい終えぬうちに、みたびティギーン将軍のコミュニケータがコール音 を発した。 報告を受ける将軍の表情が、一瞬、怒りともおどろきともつかぬ形にひき歪む。 「すぐにいく」 最後に短くそう告げて将軍は通信を終え、むずかしい顔をして王にむき直った。 「またもや悪いしらせです、陛下。万一の場合を考えて、追撃のための戦闘車輌を 準備させていたのですが、兵員輸送車、砂漠用機動装甲車等に破壊工作がしかけら れているのが発見されました。機関部に時限爆弾がしかけられていたらしく、つい さきほどそれが爆発。ほとんどの砂漠用車輌が使用不能の状態になっています」 「なんだと」さすがに王も目をむいた。「それでは砂漠に逃げられたら終わり、と いうことか?」 「いえ。さいわいなことに、一部のガンシップ、およびデザートガレーは、カシム 星佐の監督のもとに整備部でちょうど修理・改装が加えられていたところでした。 全時間体勢で行われていたので、破壊工作の手もおよばなかった上、あと数時間で 使用可能にすることはできそうです」 ふう、と大臣が安堵したようにおおきく息をついた。口うるさいことはたしかだ が、現在サディレシヤで国の行く末をもっとも案じているのがこのリダー大臣であ ることもまた、たしかだったのである。 「まったく、ばかものめ。管理体制がなっとらんぞ、ティギーン将軍」 叱責に、将軍は無表情に頭をさげるだけだった。 疾走する逃亡者の浮遊車(フライア)は、追撃する車がはなつ砲撃をたくみにかわしな がらラグシャガートの市街へとなだれこんだ。どのみち内部に姫君がいることは知 れているので、追撃する兵たちには手荒な攻撃はできなかった。 そのことを見こしたように、逃走車はいっさいの反撃を見せぬまま全力で疾走し、 予期せぬ位置でまったく無意味としか思えない方向転換をくりかえし、周囲をはし る無関係な浮遊車をつぎつぎにまきこみながら混乱を助長していった。 さらに僥倖がかさなった。 あるいはそれは、シャフルード一味の計算であったのかもしれない。 王宮西門でドゥルガ教徒のゲリラ部隊が強襲を開始するのと機を一にして、市内 のあちこちで爆弾テロが頻発しはじめたのである。 ドゥルガ教徒とは、半世紀ほど前からエル・エマド圏内のいずこからか発生し、 まるで伝染病のごとくじわじわとその勢力をのばしはじめた、過激なテロを特徴と する一団である。“破壊と再生”の象徴であるとされる暴虐の女神ドゥルガを唯一 神としてあがめ、その過激な教義にのっとって各地で反政府的立場からゲリラ的手 法で混乱をまきちらしているのである。 銀河帝国ではすこし事情がちがうが、およそ地球人文明圏全般にわたって多大な 影響力をもっているのは、アシュトラ教という名の古い宗教である。 ジャール・アシュトラという、大空白時代以前の伝説の時代に生きた教祖によっ て創設されたこの宗教は、人類の拡散時代に宇宙航海の手段を一手にしてきた。そ のために、信仰の深浅はべつとして、銀河系全域に散った人類の多くが、その出発 点から陰に陽にアシュトラ教の洗礼をうけている。 特にエル・エマド圏はこの宗教の影響力がつよく、事実上、半数以上の国家にお いて国教としてのあつかいをうけている。 いきおい、新興宗教であるドゥルガ教は反政府的色彩をおびざるをえない。まし て徹底した破壊ののちに楽園を獲得する、というのがその教義の骨子である。国家 権力とは相対する存在となるのは、むしろ必然といえた。 ザグラール王統治下のサディレシヤでも、十年ほどまえからじわじわとドゥルガ 教が勢力をのばしはじめていた。そしてここ数年は、そのテロ活動も無視できるレ ベルではなくなっていた。テロ対策も、万全とはいえないまでも幾度となく吟味さ れている。 したがって通常であれば、王宮の眼前にまでゲリラの侵入をゆるすことなどあり 得ないのだが、今回はみごとに虚をつかれるかたちとなってしまったのである。 その混乱に、ラエラはたくみにつけこむかたちで追跡部隊を翻弄しているのだっ た。 ときには装甲車である利点をフルに利かして通りがかりの建物に真正面からつっ こみ、強引に裏道へとまわりこんだり地下街などへ乱入したりした。 出動した機動警察をもまきこんでいよいよ混乱は輪をかけて拡大し、それに乗じ て追跡者たちは対象をついに完全に見失ってしまったのである。 ラグシャガート市警が、手配された装甲車を発見したときには、昏倒するふたり の兵士以外には、とうぜんのように何者をも見つけることはできなかった。 カシム星佐は、異様な刺激臭の充満する西門外の戦場跡を、ゆっくりと巡回して いた。 立ちのぼる異臭にその凶暴そうな髭面を激しくゆがめながら、麾下の兵士たちが 敵にあたえたダメージや、うけた損傷などをひとつひとつ、検分するようにしてゆ っくりとながめまわす。 ゲリラ部隊の強襲に、当初こそ虚をつかれて守備隊は混乱をあおられたが、すか さずかけつけたカシム星佐の迅速・的確な指揮のもと体勢を即座にたてなおし、追 撃隊をさいてよこされた援軍との挟撃で、攻撃開始から十数分で混乱は収拾の方角 へとむかったのであった。 いまはゲリラ部隊もすっかり鎮圧され、事後処理の段階に入ったところである。 立ちこめる刺激臭は、プラズマ弾の攻撃によるものだ。城門前のアスファルトは 熱せられてぐずぐずに溶け崩れ、金属製のガードレールはアメのようにひん曲がっ た無惨な姿をさらけだしている。 敵味方双方の負傷者たちがあちこちに、横たえられたまま口々にうめき声をあげ ているなかを、カシム星佐はゆっくりと歩いていった。 ふいに、耳ざわりなアラーム音がひびいてくるのに気づき、星佐は音源をさがし て四囲に視線をやる。 守備隊の兵士がひとり、困惑したような顔をしてたたずんでいた。その足もとに、 ドゥルガ教徒が横たわっている。 カシム星佐はつかつかと歩みより、野獣を思わせる凶猛かつ冷酷な視線で、ちら りと守備兵を見やる。 「息はあるのか? ええ?」 きいた。言葉のひとつひとつに、無意識に圧力がこめられている。星佐独特の話 しかただった。なにげなくむける視線からも、意識するまでもなく異様な圧迫感が 炎のように激しく放射されている。 「は、はいシフ・カシム」まだ歳若い守備兵はあわてて直立不動の姿勢をとり、緊 張をまるだしにした口調で“シフ”の尊称をつけ、星佐の名を口にした。「昏睡状 態にあるようであります」 「見ればわかるぜ」 乱暴な口調でいってカシム星佐は、よわよわしく胸部を上下させているゲリラの 上にしゃがみこんだ。 血にまみれた懐中でアラームをならしつづけるコミュニケータを、無造作にとり だす。 べったりと赤い液体のこびりついたカード型の機器を眼前にかかげ、嫌悪のしわ を眉間によせながらスイッチを入れる。 「どうした?」 機器にむけてそう問いかけると、雑音のむこうから、これもよわよわしげな声音 がきこえた。 『……ルーガン戦神官?』 「そうだ」 顔色ひとつかえずにカシム星佐がいう。 『う……こちらは第十三基地……緊急事態だ』と、回線のむこうで声はいった。 『襲撃をうけて……われわれは全滅……“シフリーヤ”を強奪された……』 「襲撃者はどこのどいつだ?」 『不明だ……疾風のように……男をひとり見た……黒ずくめの男を……どでかいブ ラスターをめちゃくちゃにぶっぱなして……まるで風だ……そいつは――』 あとは雑音がつづくだけだった。 ふん、と鼻をならしてカシム星佐はコミュニケータを守備兵にわたし、虫の息の ドゥルガ教徒の戦闘服で、がしがしと血によごれた手のひらをぬぐう。 「意識のあるドゥルガ教徒はいるのか? ええ?」 くちびるの端をへの字にゆがめた凶暴な表情のまま、カシム星佐は兵にたずねる。 べつに相手を強圧する目的でそんな顔をしてみせたわけではない。この男は、いつ でもこういう顔つきをしているのだ。軍人というよりは、裏街のやくざ、といった 雰囲気である。 あせりもあらわに、歳若い兵は四囲を見まわしはじめた。 星佐は顔をゆがめて舌うちをする。 「ばかやろう。いまさらきょろきょろしてるんじゃねえ。それくらい確認しとけ。 何年兵隊やってるんだてめえは」 「は、銀河標準年(U・T)で、一年と二ヶ月であります」 しゃっちょこばった敬礼をしながら、兵は律儀にこたえる。 あきれたように星佐は兵を見かえした。 舌うちをひとつ残してカシム星佐はふたたび巡回を再開する。ほどなくうめき声 をあげているゲリラ兵をひとり見つけて、その頬をぴしゃぴしゃとたたきはじめた。 薄目をあけて見あげるドゥルガ教徒に、ぶきみなうす笑いを落としながらカシム 星佐はいった。 「ききたいことがある。すなおにこたえろよ。ええ? 第十三基地とはどこにある ? それと――“シフリーヤ”ってのはなんだ?」 ラグシャガート 繁華街は、王宮からはやや離れた西方の一角、大河ハシュヴァルをはさんで、ラ グシャ砂漠をかたわらにのぞむ位置にあった。 その繁華街でも、とりわけガラのよくない一角を、ラエラとサフィーヤ姫は徒歩 で移動していた。 途中、ラエラがあらかじめ用意しておいたデポがわりの安ホテルのひとつに立ち よって着替えをすませていた。 サフィーヤ姫は、田舎からでてきた娘がせいいっぱい背のびをしている、とでも いったふうな派手めの色彩の、露出部の多いかわいらしいドレス。 対してラエラは、一見遊び人ふうの男性に見えるような、マニッシュなかっこう をしていた。油断のならない、陽気だがその陰から危険さがにじみだしているよう な雰囲気の、四囲の街路にふさわしいような装いだ。 ラグシャガートは王宮を擁したサディレシヤの首都である。姫君は後宮の窓辺か ら毎日のようにその景色をながめやっていた。 が、こうして街を歩くのははじめてであった。 まして繁華街など、故郷のそれですら目にしたこともない。 だから、好奇心がおさえきれないようすが、ありありと見てとれた。 そんなようすが、まさに夜の街のこわさをまだよく理解できていない田舎出の小 娘そのものだった。 そんなふうに、ものめずらしさにきょろきょろと周囲をながめまわす姫君の肩を 抱えこむようにして、ラエラはおちついた足どりで街区を横ぎる。 所在なげにたむろした、一目でまともな種類の人間ではないと知れる連中が、つ ぎつぎに野卑な声をかけてくる。 中にはまとわりついて離れようとしない者もすくなくなかったが、ラエラは超然 とした態度をくずさず無視を決めこんだ。あまり悪質な相手には手ひどい一撃をく らわせて路上に血をぶちまけさせることで、かたっぱしからまたたくまに黙らせて いく。 暴力ざたにはなれっこだとでもいいたげな、ならず者ふうの連中も少なくはない。 だがケンカなれしたラエラのファイトぶりよりはむしろ、叩きふせられてぼうぜん と見あげるところへ頭上からにらみおろしてくる、冷然とした、圧力にみちたその 視線こそ、そういった連中を一発でおとなしくさせてしまう原因のようであった。 やがてふたりは、街でももっとも奥まった一角にある建物のなかに歩をふみ入れ た。 半地下式の階段をくだって、うすよごれた踊り場に立つ。 目の前に立ちふさがった扉には、店らしき表示はいっさい出てはいない。が、ラ エラがためらいなくそれをひらくと、とたんに騒々しい音楽と喧噪が内部からはじ けだしてきた。 はでな色彩のスポットライトがいくつも交錯してはおどりまわり、ブラックライ トで陰影を強調された底にいくつもの紫煙がたちのぼっている。 店内はバルコニーのように四周をとりまくテーブル席にかこまれて、さらに地下 にメインのフロアがひろがっている。収容人数は百前後だろう。メインフロアのま んなかに位置するカウンターをふくめて、客席は八分の入り、といったところか。 ラエラはサフィーヤ姫の肩を抱いたまま、スティールの階段をおちついた足どり でおりていき、カウンターについた。 とまり木にサフィーヤ姫をすわらせると自分もそのとなりに腰をおちつけ、近づ
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