長編 #4363の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
白沼が去るのを待っていたのは他にもいた。勝馬を始めとする男子数名が相 羽へすり寄るように近付くと、猫なで声で恒例のお願いをする。記すまでもな いだろうけど、「宿題、見せてちょーだい」だ。 「分かった分かった。見せるから、その気持ち悪い声はやめろって」 「おおー、相羽様、サンクス」 相羽のノートやプリント類が大波に翻弄される木切れのように、あれよあれ よと移動していく。別の机に漂着した宿題の周りを取り囲む頭、頭、頭。 「ほとんど全部写してるんじゃないのか? 全く……。せめて、冬休みの間に 言え。一緒にやって教え合う方がよっぽどいいぜ」 「私らが言っても、同じように教えてくれるのかな?」 町田がきししと歯を覗かせながら、相羽に尋ねる。 短い間、きょとんとした相羽はすぐに意味を飲み込み、答えた。何故か両手 を軽く持ち上げ、ホールドアップの格好である。 「女子と男子で区別するつもりはありません。ただ、もしも大人数なら勘弁し てほしい。唐沢とかにうるさく言われそうだ」 当の唐沢は、やはり相羽の宿題の答をメモしている最中。こちらの会話に注 意を払う素振りは全くない。 「前に行ったときぐらいの人数なら、何とかなるでしょ。ほら、クッキーの焼 き方教えてもらった……」 どこまで本気なのか見えないけれど、町田は細かく聞く。 「うーん……そのときは男子も呼ぶ」 相羽の台詞を聞いて、純子はふっと思い出した。 (『女子の中に男子が一人って、恐怖なんだぜ』とか何とか言ってたっけ) でも、その思ったことを声にはしない。相羽と必要以上に親しくするのはや めたのだから。 「それで今度の宿題は、ちゃんとやってるんだろう?」 相羽は、純子と町田を均等に見つめながら聞いてきた。応じたのは町田。 「やってなかったらこんなにのんびりしていますか。あっちで書き写している 男子達を蹴散らしてでも、相羽君のノートを見せてもらってるわね」 「やりかねないだけに」 皆まで言わず、あとは笑ってごまかす相羽。その笑みを保ったまま、純子に 視線を送ってきた。 「二度目になるけど、あけましておめでとう」 「そ、そうね、おめでと。おばさんにもよろしく言っといて」 適当に応じて、純子は身体の向きを換えた。きちんと机に向かうように座り 直す。 「涼原さんも当然、宿題は……」 「やってる。合ってるかどうかは別にして」 「冬休みの間、何かあった?」 「べ、別に」 「……晴れ着は持ってないの? 初詣のときに着てるの、見たかったな」 「関係ないでしょ」 「……初夢、何か見た?」 純子の態度のよそよそしさにさすがに気付いたらしく、相羽は町田にも話を 振った。彼の表情からはさっきまでの笑みが消えている。 「んー、見たことは見たと思うんだけどね、目が覚めた途端、忘れちゃった」 町田一人が笑顔で応じ、次いで純子に尋ねる。 「純は? 初夢って覚えてる?」 「え、ええ。見たわ」 そこまで答えてから、正直に言うのもまずいと思い直す。黙っていると、当 たり前ながら町田から先を促された。 「どうしたの? 内容は教えてくれないのかいな」 「ええっと、記憶があやふやで……友達がいっぱい出て来て、仲よくする夢。 何故か知らないけど、私一人、歌を唄ってた」 「ほう。モデルよりも歌手がいいっていう願望が表れたわけ?」 「しーっ! そんなんじゃないったら」 純子は辺りを見回した。幸い、誰にも聞かれていなかったようだ。他の子に モデルのことを知られるのは、今でも気後れする。 「歌手に……なりたいのか?」 小声で聞く相羽が身を乗り出すと、純子は大慌てで首を横に振る。 「違うって言ってるでしょ!」 「ご……ごめん」 純子の大声に対し、相羽はしゅんとなった。そしてうなだれ気味に、教室の 前を向いて座り直した。もう会話はあきらめたらしい。 「どうしたのよ、純」 「え? 何が何が?」 肩に触れてきた町田を、振り返るようにして見上げる純子。 「むきになって否定しなくても、相羽君は小さい声で言ったんだから。大体、 最初から少し変だよ、今日のあなた」 「そんなことないってば。いつもとおんなじ」 純子が唇の両端を上げて笑みを作ると、町田はまだ納得行かぬ様子だったが、 そろそろ朝の休み時間も終わりが迫っていたせいだろう、「ならいいけど」と 言い残して彼女の席へと駆けていく。 純子は小さな小さな息をつき、それからちらっと相羽の横顔を見やった。 当の相羽は宿題を移している友達の方を向き、何やかやと言っている。 (ごめんね、相羽君。ちょっときつく言い過ぎたとは思うんだけど……これぐ らいしておかないと) 心の中で謝って、純子は再び息を吐き出した。今度は深いため息を。 新学期に入り、各クラブの活動も始まっていた。 無論、調理部も同様だったが、純子はこれまでみたいにお邪魔するのは遠慮 しようと決心していた。 (考えるまでもなく、私が行かなければならない理由はないのよね。試食がき っかけで出向いただけなんだから……餌に釣られたとも言う) 自分の考えたことに恥ずかしくなり、うつむいてしまう。 ともかく、放課後になると用事もなく帰るようになった純子だが。 「お母さん、おやつ、何かある?」 帰宅時間が早ければ、それだけ夕げまで間が空くことにつながる。定期的に 試食する習慣ができてしまったせいもあって、何か口にしないと物足りなくな っていた。 「あることはあるけど、ねえ」 「けど?」 髪をまとめていたゴムを取り、スカーフを外す等、部屋着に替える準備を進 めながら、純子は母に聞き返した。 「食べ過ぎじゃないかしらと思って。いくら育ち盛りと言っても、お正月から こっち、びっくりするぐらい量が増えたわよ」 思い当たる節がないでもない。純子は口ごもった。 (確かに、お餅たくさん食べた……相羽君ところでもらった分もあったし) 「油断してたら、ぶくぶく太っちゃうわよぉ」 「で、でもさ、私ってほら、食べた分がなかなか身に付かない体質だから」 「そんなの分かるもんですか。たまたま今まではそうだったかもしれないだけ で、ある量より多く食べたら誰だって太ると思うけれど」 「……別に太ってもいいもん。胸が大きくなったらいいな」 半ば投げ遣りに自嘲して、自分の胸元に両手でふくらみを形作る純子。それ を母親が咎めた。 「何をばかなこと言ってるの。自分だけの身体じゃないでしょうが」 「は?」 分からなくて聞き返す純子の鼻先に、母の人差し指が来た。 「モデルよ、モ・デ・ル。AR**からまた機会があればって言ってもらった んだからね、今の体型を維持しなさい。でなきゃ迷惑かけるでしょうが」 「……うん」 さほど執着していない純子は、使ってもらえなくなったらそれまでの話だと 思っている。代わりはいくらでもいるだろう。 だけど、太ったために使われなくなるなんて、何だか惨めだ。そういうやめ 方だけはしたくない。 「食べちゃだめって言ってるんじゃないのよ」 母の表情がふっと緩む。 「食べたらそれだけ身体を動かした方がいいと思うの。お母さんも若い頃は随 分気を遣ったものよ。ま、よく見られたくてやったことだけど」 「よく見られたいって?」 「……分からない?」 まあ呆れたと言わんばかりに目を丸くする母親。 純子はわざわざ首を左右に振って、意思表示をした。 「分からない」 「純子は周りの目が気にならないのかしら?」 「特に意識してないけど。郁江や久仁香達も、私の体型のことなんか全然気に してないわ」 「そうじゃなくて」 母は頭を片手で抱える格好をした。気を取り直した風に言葉をつなぐ。 「男の子達の目を言ってるのよ」 「あは、やだ、お母さん。好きな人でもできれば違ってくるかもしれないけど さあ、そんな、今の自分には関係ないよ」 「だからね。特定の誰それ君がいいとかいう話じゃなくて、異性の存在を気に する年頃……もういいわ」 急にあきらめたらしい。母親は吐息して口をつぐんでしまった。 純子は途中で切り上げられたのが、子供扱い(実際子供だが)されたと感じ て、反駁を試みる。 「私だって人並みには気にしてるわよ……多分」 自信がないので、最後に一言付け足した。 「あなたの場合、どこかずれてるような気がするんだけれどねえ」 「どこがよ」 「それは自分で考えて。さ、おやつ、結局食べるんでしょう? 用意してあげ るから、その間にちゃんと着替えなさい」 時計を見て思わぬ長話になってたわと自覚しつつ、母に促されるまま、二階 に上がった。 「−−って、こんなことを言われたの。どう思う?」 食が進みすぎじゃないか、男の子を全然意識していないんじゃないかと注意 された翌日、純子は学校で親しい女友達の意見を聞いてみた。 「純ちゃんのどこが太ってるのよ」 いつになく真剣な調子で、富井が講義してきた。 「私なんか、大好きなショートケーキを我慢して、二日に一個に押さえてるっ ていうのにぃ!」 「二日に一個でも多いよ」 冷静に指摘するのは町田。 「どうしてえ? これでも小学校のときは毎日食べてたのよ」 「自慢になるかいっ」 そんな二人のやり取りを、井口が止めに入る。 「やめなよ、話がずれてるわよ」 「そうそう。本題はその、男子を意識してるかって話なの」 純子は三人の友達の顔を見渡した。放課後の現在、教室に残っているのは彼 女達四名のみ。 「今さら言うまでもないよぉ。意識しまくり。だからケーキも減らしたんだも んね」 富井が身体を反らすと、大きな胸がより強調された。 代わって井口が意見を述べる。 「私も同じかな。おやつを少な目にしたのは調理部に入ったせいもあるけど、 他にも髪とか肌とか注意してるつもり。常識じゃないかしら」 「それぐらいなら私だって。男子が気になるんじゃなくて、身だしなみってや つだわ」 純子は今一つ納得できずに、首を傾げた。 片手を顎に、その肘にもう片方の手を当てて聞き役に回っていた町田が、分 かったようにうなずく。 「ま、純の場合、具体的なターゲットがないから気合いが入らないのもよく分 かるけどね。あ、言わなくちゃ分からないだろうから説明すると、ターゲット というのはいいなって思える男の子のこと」 「そ、それぐらい分かるって!」 「まだ一ヶ月以上先だけど、まあいいか」 純子の反発は相手にせず、上目遣いになって何やら考える様子の町田。 「何の話?」 「二月のイベントの一つ」 「バレンタインデーね?」 純子より先に、富井と井口がハモって反応した。 −−つづく
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE