長編 #4351の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
チョコレートやクリームをふんだんに使ったケーキが行き渡ると、揃って食 べ始める。 「おいしい!」 ケーキに目のない富井が、一際大きな声で感想を漏らした。 「でしょう?」 白沼も負けないぐらい存在感のある言い方で、得意そうにうなずいた。 デザートタイムが終わると、お待ちかねの−−でもないか−−隠し芸大会。 「やっぱりやるのね」 「もっちろん」 純子らの言葉に、白沼はにこにこ答える。 「さっきピアノやったから、勘弁してくれないかな」 相羽は食べ過ぎたのか、足を投げ出し、上向きの状態。と言っても、彼自身 が欲しがったのではなく、白沼に半ば強引に食べさせられたという格好だ。 「だめよ。何だったら、同じピアノでもいいから」 じゃんけんの結果、隠し芸の順番は、トップが白沼。次いで柚木、純子と富 井と井口の三人、勝馬、清水と大谷コンビ、長瀬、取りが相羽と決まった。 「お茶でも踊りでもよかったんだけれど」 そう前置きした白沼はバイオリンの演奏を披露した。機械みたいに正確に弾 いていき、無難に終えた。 「すごーい」 皆の前で、自信満々に始めただけあって、確かにうまい。全員、感心の拍手。 特に、井口はかつてバイオリンをやっていたせいもあってか、「負けたぁ」と こぼしていた。 続く柚木は記憶術をやった。全員に三つずつ単語を言ってもらい、記憶。そ れを順番通りに言ったり、逆順に言ったり、あるいは「八番は?」と聞かれた ら「カメラ」と答え、「ヘリコプターは?」と聞かれたら「二十二番」と答え るといった芸当も。 「さすが、暗記物は勉強の方も得意だもんな」 と、長瀬の言葉にみんな納得。 三番手は、純子達三人の歌プラス物真似。ほとんどやけっぱちの受け狙いで、 フラッシュ・レディの主題歌を唄う。三人組の歌手が唄っているのもぴったり。 予想できたことだが、スタートしてしばらく経つと、清水や大谷が親衛隊よ ろしく、「レイちゃーん!」「エアちゃーん!」「マリンちゃーん!」と息を 合わせて声援を送ってきた。紙テープがあれば、飛ばしてくるところだろう。 おかげで、やりにくいったらない。 終わる頃には、少なくとも純子は、気疲れで心理的にぐったりしてしまった。 (楽しんだことは楽しんだけど……) 緊張と恥ずかしさとで浮き出た汗を手の甲で拭っていると、 「白沼さん、タオルか何か、貸してくれないかな」 という声が。相羽だった。 「みんながあの様子だから」 「いいわよ」 気安く受けて、腰を上げる白沼。少しして、白、ピンク、水色のタオルを持 って来た。 「はい、どうぞ」 「あ、ありがとう」 白沼から直接受け取って、純子は他の二人にも回す。 「相羽君も、ありがとねー」 富井と井口が相羽に手を振る。純子も遅ればせながら、頭を小さく下げた。 「いいって。そんな大げさな」 軽い笑みで応えると、相羽は早くも次の隠し芸に注目している。 勝馬がやったのも、物真似だった。ただし、有名人を真似るのではなく、声 帯模写の類。リクエストを聞いて、できない物、たとえば虎を言われると「虎 は今日は風邪でお休みだから、代わりにパトカーでどう?」と受ける。そして、 パトカーのサイレンが近付き、横を通り過ぎ、遠ざかっていく様を割と達者に やってのける。 「勝馬君て、あんなにうまかったっけ?」 「うん。前はただ真似てるだけだったのに」 何度か見たことがある純子や富井達は、こそこそ言い合った。 やがて演じ終わった勝馬が、相羽に「どうだった?」と聞いている。相羽は 指でオーケーサインを作った。 (あ。もしかすると、相羽君が教えた? 面白く演じられるように、どう喋っ たらいいかって) 相羽の手品での演出を思い、純子は自分の想像が当たっているに違いないと 確信を持った。 五番目の清水と大谷は、一年前と同じく漫才。傾向は同じだったが、中身は 新しくなっていた。 (いつ練習してるのかしら。まさか部活のときじゃないだろうし) あれこれ空想すると、おかしくなってしまう。もっとも、漫才を見ているの だから、いくら吹き出そうが気にする必要はない。 続いて長瀬の登場。柚木と並んで、純子達はまだあまり知らないクラスメー トだけに、注目。 「体力芸をやりたかったんだけど、他人の家では無理だから、こういうのを」 そうして彼が取り出したのは、小さなスケッチブックと鉛筆。 「なんだ、似顔絵ね」 白沼がいち早く言うと、長瀬は「ああ、ばらさないでほしかった」と片腕を 目に持って行き、泣く真似。 「私にとっては、隠し芸じゃないわね」 「固いことは言いっこなし。さて……男を描いてもつまらないし、白沼さんに はばれてたということで」 と、純子、富井、井口に視線を合わせる長瀬。 女子三人は、急いで居住まいを正した。咳払いなんかもしてみる。 「まずは、簡単に」 鉛筆を動かし始めた長瀬。スケッチブックは斜めに立ててあるので、どんな 絵が描かれているのか、純子達からは窺い知ることはできない。 極めて短時間で長瀬は一枚目を描き上げた。手際よく破り取ると、裏返す。 「わ、私だぁ!」 富井が感嘆の声を上げ、腰を浮かす。彼女だけでなく、みんなが絵を囲うよ うに集まった。 その絵は、非常にシンプルに描いてあった。大きな目やふっくらしたほっぺ た、巻き気味の髪といった富井の特長をうまく捉えていて、分かり易い。 「よかった。名前を言わずに分かってもらえた」 長瀬はそう言いつつも、かなり自信があった様子。絵を本人にプレゼントす ると、二枚目に取りかかった。 「次はアニメ風、漫画風に」 さらさらと鉛筆の動く音がする。 先ほどよりは時間がかかったが、これも短い時間で仕上がった。 「はい、どうだ」 今度も一目で分かった。井口だ。 「ありがとう。うまいのねえ、長瀬君」 「これは可愛く描きすぎだよー」 覗き込んでいた富井が異議を唱える。 「そんなことないわよ。これこそ自画像」 反駁する井口は、両腕を伸ばして、その先の絵をご満悦そうに眺める。 「こんなことで、もめないでくれよ。さあ、最後は当然、涼原さんだけど」 改めて指名され、純子は正座したまま背筋を伸ばした。 「ちょっと時間をかけるから、そんなに緊張してると疲れるぞ」 注意を出した長瀬の目は、純子の顔と紙の上とを盛んに行き来する。 他の男子が、絵の途中経過を覗き込み始めた。白沼ら女性陣も続く。 (うー。気になるよ) 膝の上に置いた両手をもじもじさせながら、純子は苦笑いが勝手に出て来る のを抑えられない。 スケッチを覗く面々は、最初はくすくす笑ったり、指差したりしていたのだ が、やがてそういった動きはなくなり、呆気に取られたような表情をして静か になった。 「−−うん。よし、これで完成だな」 画家気取りで鉛筆を耳に挟むと、長瀬はスケッチをくるりと返し、純子に示 した。 「……あっ」 どきどきして絵を見た純子は、声を上げた。 「じょ、上手……」 それぐらいしか言葉が出ない。 紙面には、リアルなタッチで純子の肩から上の姿が写し取られていた。少し 恥じらいの混じった硬い表情が、忠実に再現されている。 「これ、プレゼントするよ」 「あ、ありがとう」 純子が画用紙を受け取るのを確認すると、長瀬は皆に会釈をした。 「以上、似顔絵三形態でしたっ」 隠し芸大会もいよいよ大詰め。最後は相羽だ。 「どうして、みんながみんな、うまいのかなあ。やりにくいったら、ありゃし ないよ」 相羽は何をするとも告げず、ゆっくりした足取りで前に立つ。 「何をしようかな……。えっと、とりあえず、招待してくれた白沼さんに感謝 を込めて」 いきなり、白沼へ手を差し伸べる相羽。 「どうか、これを受け取って」 「……? 何もないわよ、相羽君」 空っぽの右の手の平から、視線を相羽の顔へと移す白沼。 「あれ? おかしいな。忘れたか……」 相羽はそう言いながら、右手を一度、振った。次に止まったとき、指先には 紫色の小さな造花が。 たちまち、白沼の表情に喜色が宿る。 「相羽君、手品を見せてくれるんだ?」 花を受け取りながら、声を弾ませる白沼。相羽は小さくうなずいた。 (やっぱり、手品ね。まーったく、気障に始めちゃって) 内心、呆れて笑いながらも、純子は期待通りの展開に胸躍らせる。 「一人だけあげるのは不公平だから、みんなにももらってもらおう。富井さん、 井口さん、そして涼原さんには、同じく花を」 白、黄、緑。何もないはずの手を返す度に、色違いの花が現れた。 「僕らには何をくれるんだ?」 興味深そうに身を乗り出す柚木。 「ま、花ほどじゃないが、結構いいもんだぜ。柚木。手の平を揃えて出してく れないか」 相羽の頼みに、柚木は素直に両手を出した。蛇口からの水を手で受けるとき のような格好だ。 「よく見てろよ」 縦に素早く左手を振った相羽。 同時に、銀色に光る円形の物が柚木の手の中に落ちる。 コインだ。 −−つづく
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