長編 #4346の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
休日の今日、年賀状を全部書き上げると純子は街に出た。クリスマスプレゼ ントを色々と揃えるためだが、今回は友達と特に約束もしていない。珍しく、 一人だ。 (白沼さん家のパーティに一つでしょ。郁江や久仁香達に……って、同じパー ティに出るからいらないのかな? 去年もクラスのお楽しみ会でやっただけだ ったし。それより、お父さんやお母さん、どうしよう? 中学生になったら、 プレゼントをするものなのかなあ) 考えながら歩いていると、周りが見えなくなる。 クリスマスに向けてすっかり模様替えしたきらびやかな街並みに気付き、純 子は周りの光景をしばらく楽しんだ。お昼過ぎだと言うのにかなりの人出で、 気もそぞろに歩いていた純子が他人とぶつからずに来たのが不思議なほど。中 には、早くもクリスマスプレゼントを買ってもらったのか、大きな箱を抱えた 小さな子供を見かけることも数度。その後ろには、幸せそうに微笑んでいる女 性もしくは男女−−無論、子供の親だろう−−が必ずいた。 純子は、自分が今よりもっと小さかったときを思い出す。 (あれって、二年生の頃だったかな。クリスマスじゃなかったかもしれないけ ど。おもちゃ屋の前を通りがかると、恐竜の全身化石の凄く精密な模型が飾っ てあって、一目でほしくてたまらなくなって。お父さんにねだったら、『まだ 純子には組み立てるのは無理だよ』なんて言われたから……みっともなかった ろうなあ、あのときの私。床に寝転がって、じたばた泣いて、『買って、買っ て!』だもんね) そこまで思い出して、もう少し年下だったかしらと記憶を修正したくなった。 だけど、いくら考え直しても、二年生頃の話になってしまう。 (ま、いいか。あのあと、ぬいぐるみを買ってもらって、ぶすっとしていたの がいつの間にか笑って。自分のことながら、調子いいわ。あ、そう言えば、プ ラネタリウムの室内用小型機を見たときも) 引き続いて似たような記憶を掘り起こした純子だったが、それ以上は意識し てやめた。 (こんなことしてる暇ないっ。自分の買い物を済ませよっと) 今年の純子は、臨時収入があったおかげで、自由に使える額がこれまでにな く大きい。 だからと言って、高価すぎる物は、バランスに欠けてよくないかもしれない。 何せ、交換するのだから。 (女子でも男子でも、かまわない物……) 悩む。歩いているのに、腕組みしたくなる。 (相羽君に当たる可能性が全くないんだったら、手焼きのクッキーもいいと思 うのに。そうだ、お父さんとお母さんには、クッキーにしようかな) 後回しにしていいことばかりに、思考が走ってしまう。 とうとう、目当てのデパートまで到着してしまった。 見て回りながら考えようと思い直し、ドアをくぐる。 と、いきなり知っている顔に出くわした。 「あれ、涼原さんじゃんか。一人?」 「唐沢君」 大人びた丈の長いコートを羽織り、色の薄い丸型サングラスまでかけている。 「一人だったら、デートしようか。どう?」 「え? そ、そりゃ一人だけど。でも、唐沢君、それだけ格好決めてるんだっ たら、当然、お相手がいるんじゃなくて?」 (いつも誘ってくる。挨拶代わりなのよね) 内心、呆れつつ、唐沢を指差す。 「いやいや、俺も一人なんだな。何たって、クリスマス前、ゆっくり買い物で きるのは今日ぐらいだと思ってさ」 「……意味が分かんない」 「だから、イブやクリスマス当日は、いっぱい、女の子と約束があって、その ためのプレゼントもたくさん用意しなくちゃいけない。買うのは今日しかない。 分かった?」 「あはは、分かったわ」 そう答えて、さっさと行こうとすると、唐沢が着いてくる。 「涼原さんは、何の用事?」 「唐沢君と同じと言えば同じ。白沼さんの家のパーティ、プレゼントの交換会 もあるって言うから、それを買わなくちゃ」 「なるほど。うーん、返す返すも、参加したかった」 目を瞑って、うんうんとうなずく唐沢。 「危ない。ちゃんと前見てないと」 「冗談冗談。折角あったんだから聞くけど、女の子って、どんな物がほしいん だろうね?」 唐沢が目を開けると、ちょうどエスカレーターの前。二人は一段ずれて、相 前後して乗った。 「ぬいぐるみか、ペンダントやイヤリングといったアクセサリーでしょ。それ から……唐沢君、本気の人っているの?」 「ああ? いないよ、今のところ」 「でしょうね」 あれだけ大勢と付き合っているなら納得。 「じゃあ、香水なんかは却下ね」 「当ったり前。そんな物、みんなに買っていたら、俺が破産してしまう」 「安いのもあるのよ」 「だめ、敬遠だな。もっと手軽で、あっさり渡せるやつ」 「花を一輪とか?」 「うん、悪くない。でも、全員に花を一輪てのもなあ」 「……もう思い付かない」 考えるのがしんどくなって、ギブアップ宣言。こんなことしてるより、自分 の買う分を考えなくちゃいけないのだから。 「たとえばの話、涼原さんだったら、何がほしい?」 二階のフロアー部を折れて、再びエスカレーター上に。 「私? 新曲のディスクでしょ、服でしょ。小さな化石ももう一つ、新しいの がほしくなってるし、実は望遠鏡もあればいいなと思ってるし、それからペン ダントも。星の形をしたかわいいの、見つけたんだ」 「へえ、案外、あれこれとほしがってるんだ? すらすら言えるほど」 「やだ、唐沢君。これはねえ、クリスマスが近いから、両親に何をねだろうか 考えたの。それですらすら言えたんだから」 恥ずかしくて、すぐに抗議した。唐沢は、声を出して笑うことで応じた。 「ははは! 分かってるさ。それにしてもひどいぜ。一人一人に服なんか買っ てたら、破産どころか借金しなくちゃな」 「参考にならなくて、ごめんなさいね」 「いや、まあ、こっちの聞き方も悪かった」 純子がすんなり謝ったためだろう、唐沢は戸惑った風に言い繕った。鼻の下 を一度こすって、笑みをなす。 「涼原さんはクリスマスの予定は?」 「だから、白沼さんの家に」 「それはイブだろ? 俺が聞いてるのは、十二月二十五日」 「唐沢君と違って、とーっても暇です。家でケーキ食べてるわ、多分」 冗談混じりに言って、肩をすくめてみせる純子。 エスカレーターに乗って、とうとう六階に着いた。決めていたわけではない が、ファンシーグッズやおもちゃ屋が入っているこのフロアで降りる。唐沢も 当然のように着いて来た。 「先立つ物があれば、イヤリングにするのに」 おもちゃ売り場の横を通ると、イミテーションとも呼べないようなアクセサ リー類がたくさん並べてあった。 その先の小物店に、キーホルダーの回転ラックを見つけ、純子は言った。 「あれでいいんじゃない? キーホルダー」 「ふむ。手頃かな」 立ち止まり、片手で一つ一つ見ていく唐沢。 純子は一瞬、歩みを緩めたが、自分の方を片付けようと思い直し、首を巡ら せる。 最初に、皿時計に目を奪われた。 決して大きくはないが、繊細な造りの薄い小皿を文字盤とし、アナログの時 計が時を刻む。青地に金色の秒針が、光を反射していた。 純子は裏を向いていた値札をひっくり返し、思わずのけぞりそうになった。 (た、高い。やめたっ) 次に、ピエロのモールに注意が行く。なかなか愛嬌のある表情をしたピエロ の人形が、小首を傾げてこちらを見つめている。揺らすと、さらにユーモラス な感じがした。よく見ると、小物を入れるためのポケットもいくつか着いてい た。 (悪くないと思うけど、男子がこれをもらって喜ぶかな?) 思い出して、唐沢を呼んだ。 「男子だったら、これをもらって、どう?」 「うーん、特に嬉しいことはないな。でもねえ、好きな相手からなら、たいて いの物はありがたく受け取るぜ。男って」 「そういう話をしてるんじゃないのに」 苦笑して、がっくり肩を落とす純子。 「同じモールなら、そっち飛行機を吊ったのがいいな」 「女子は好きじゃないかもしれない」 「はあ、ほんと、気を遣うなあ、涼原さんて。相羽が言ってた通り」 「え? 相羽君が何て言ってたって?」 聞きとがめ、唐沢を振り返る。相手はとぼけたように、全然違う方向を見て いる。 「ん? 小学校のとき、劇やったんだって? 詳しくは聞いてないけど、涼原 さん、責任感じちゃって凄く頑張ったとかって。他にも色々」 「あ、あいつだって、人のこと言えないわよ。気遣いすぎだわ」 憤慨気味に言い返す純子に、唐沢は怪訝そうに顔をしかめる。 「あんだけ仲がいいくせして」 「変な言い方、よして。−−意見、ありがとうね。唐沢君もキーホルダー、人 数分を早く選ばないと」 それだけ言い置いて、純子はいそいそと他のディスプレイに目をやった。 いくらか曇りがちというせいもあって、放射冷却は起こらなかったはずなの だが、終業式の朝は寒かった。それでも駆け足をして来たので、身体の中は学 校に着く頃には暖まっていた。反面、指先や耳は痛いぐらい。 いつもより三十分は余裕を見て家を発ったのに、知り合いの子と出くわすと いう予定外の事態に引っかかり、純子が教室に入ったのは普段に比べて少し早 い程度だった。 それでも、クラスにいる人数は格段に少ない。実際にこの場にいる者はゼロ で、鞄が確認できるのは三名か。 まずは窓を全開にする。どんなに寒かろうが、雨や雪なんかが降っていなけ れば、教室内の空気を入れ換えるのが原則となっているのだから仕方がない。 もっとも、開放時間は日番に任されている。 次いで、花瓶の水の入れ替えだ。教室の後ろの棚の端っこに、硬質ガラス製 らしき朱色の花瓶があり、何だかんだと生けてある。冬場なので比較的地味だ が、枯らすには惜しい。純子は左手を底に添え、右手で胴を抱くようにして、 花瓶を持った。そしてゆっくりと教室を出る。 水道のある洗面所前まで行くと、一旦、花瓶の中をきれいにしてから水を注 ぎ、草花を差し込んだ。 教室に引き返すと花瓶を戻し、今度は黒板消しの清掃に取りかかる。前と後 ろで合計四つ。それも済んで、次に教卓の上をぞうきんでさっとひと拭き。 くず入れを覗くと、昨日の掃除当番はきちんと役目をこなしたようで、空っ ぽだった。もし残っていたら、日番が捨てに行かなければならない。 (もう充分よね) 寒さのせいもあって、窓を閉める。ガラスや窓枠の冷たさに、手を何度かこ すった。まだ寒いので、息をゆっくりと吹きかけた。 それから純子は自分の席に着くと、職員室から取ってきた日誌帳を広げる。 とりあえず、名前と日付を書き込んでおく。掃除の仕上がり具合をチェック する欄があるのだが、終業式の今日は掃除がないから、記入しなくていいはず。 だが、空白にしておくのも素っ気なく思えて、「掃除はなかった」と先取りし て書いてやった。 「他にすること……」 制服の肩の小さなほこりを払いながらつぶやいてみるが、何も浮かばない。 (案外、早く終わっちゃった。これならもっと寝てればよかった) 布団の温もりを想起し、純子は腕枕を作り、頭を横にしようとした。 が、廊下がにわかに騒がしくなったので、あきらめて上体を起こす。 「じゃあな」 そんな声がしたかと思うと、扉を開けて入ってきたのは唐沢。 彼は純子を見つけると、いくらか意外そうにせわしない瞬きをした。 「涼原さんがいるってことは……あれ? おかしいな」 時計を見る唐沢に、純子は言った。 「日番よ。唐沢君は部活? 朝練?」 「ああ」 うなずき、純子の後ろの席に収まる。結局、席替えは一度したきりだ。 「さすがに終業式の日は練習しないさ。ミーティングがあったんだ。それより、 どう? またテニスしようよー」 急になよなよした物言いになる相手に、背を向ける純子。 別にテニスをしたくないわけじゃないし、唐沢を避けたわけでもない。 前回、唐沢や富井らとテニスをしたときのこと−−より正確を期せば、テニ スをしたあとしばらくして自分の身に起こった出来事を思い出してしまい、ま ともに顔を合わせていられなくなっただけだ。 (相羽君は誰にも言わずにいてくれたみたいだからよかったけど……やっぱり、 思い出すのは今でも嫌) 丸めた背に、唐沢の声が降りかかる。 「あ、だめ? 冬に向いてないもんね、テニスは。今だったら、ボーリングっ てところかな」 −−つづく
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