長編 #4344の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「え? それって、たまに満月が赤っぽく見えるときがあるけど、そのことを 言ってるの?」 「うん」 「どうしてそれが苦手なの?」 「聞きたいんだったら、話すけどさ。不幸の押し売りみたいで、気が進まない 部分もあって。−−父さんが死んだ夜、空に真っ赤な満月……」 言葉を途切れさす相羽。 純子は、まずいことを聞いてしまったと、後悔の念に駆られていた。 「あのときの月、僕には、本当に、真っ赤に見えた……錯覚だろうけど。恐い ぐらいに赤い満月だった。見上げているとどんどん広がって夜空全体を覆い尽 くすんじゃないかと思えた」 相羽の呼吸が、かすかながら荒くなったようだ。話す早さも一定していなく て、区切りを着けた喋り方をしたかと思うと、一気にまくし立てるような口調 にもなった。 「もういいよっ、相羽君」 純子もうつむいて、鋭い声を飛ばした。 「ごめん。こんなことになるなんて、思わなかった。余計なことまで聞いて、 ごめんなさいっ」 うつむいた顔を上げるのが恐くて、そのまま深々と頭を下げた。髪留めをし ただけのストレートヘアがぱらぱらと流れ、純子の顔の横を覆い隠す。 「謝らなくていいのに」 相羽の声の調子は、どこか晴れ晴れとしていた。 不思議に感じ、面を起こす純子。 「僕も正直すぎたね、はは。適当に嘘の答を言えばいいのに。これじゃ、同情 を引こうとしてるみたいだ。こんなつもりじゃなかったんだ。僕こそ、謝らな いと−−気を遣わせて、ごめん」 「……ううん」 そう応じるので精一杯。 (相羽君は……この人は、強い人だ) 心底、そう感じた。 「それで涼原さん? 元気戻った?」 「な、何、いきなり?」 戸惑う純子に対し、相羽は一瞬、指を浮かして窓の方を示しかけたが、途中 でやめる。 「忘れてるのなら、言わない方がいいかな」 「……あっ。雷!」 気付いてしまった純子に、相羽は失敗したという具合に頭をかいた。 そんな相手にはお構いなしに、耳を澄ます純子。 「……よかった。だいぶ、遠くなったみたい」 言って、胸をなで下ろした。雨はまだ降っているようだが、小さくなった雷 に恐怖心はほとんど消えた。 「それじゃ、僕、帰ろう」 相羽が教科書を閉じかける。純子は慌てた。 「え、冗談でしょ」 「てことは、まだいていい?」 真顔で聞き返されると、返事に窮する。少し間を取って、それから答えた。 「宿題、結局は一問しかできてないじゃないの。折角の機会なんだから、一人 より二人でやって、早く片付けるのって、いいと思わない?」 「−−もちろん、いい考え」 相羽はページの間に挟んだままだった指を動かし、再び教科書を開いた。 相羽の真正面に来ると、白沼は両手を揃えて一枚のカードを差し出した。 「これ」 「……って、何、これ?」 分からないという風に首を軽く傾げる相羽の手は、受け取ろうかどうしよう か迷っている様子。 「もうすぐクリスマスよ。私の家でパーティをやるの。ぜひ来て」 「パーティ……誕生日のときはせずに、クリスマスに?」 「あら、だって、自分一人が主役になるのって、何だか嫌らしいじゃない。ク リスマスなら、みんな公平でしょう?」 にっこり笑う白沼。 近くの席からそれとなく見ていた純子は、思わず、目を白黒させる気持ちに なる。 (主役になるのを遠慮するなんて、白沼さんのイメージに合わないような) もちろん、そんなことを口には出さない。それよりも、相羽が受けるのかど うかが気になって、聞き耳を立て続ける。 「予定が入っていないんだったら、来てほしいの。だめかしら」 「……」 相羽は黙って受け取り、カードをめくる。出席の意を表すのかと思いきや、 どうやら、日時を確認しただけらしい。 「他に、誰々が来るのさ?」 「それが関係あるの?」 「うーん……もしも男子が僕一人なら、遠慮したいなぁ」 そう答えた相羽が短い間、ちらりと見やってきたのに、純子は気付く。だが、 その意味を深く考えようとはしなかった。 「そう来ると思った」 待ちかまえていたらしく、白沼の笑みはさらに広がった。 「クラスの男子の何人かに、カードを渡しておいたわ。なるべく、相羽君と親 しい子に」 「親しいって、ひょっとして、立島とか……勝馬にも?」 相羽の問い掛けに、当然とばかりにうなずく白沼。続いて答える。 「立島君は断ってきたけれどね。まさか、全員が揃わなくちゃだめなんてこと、 ないでしょう?」 「あ、ああ……うん。そうか、立島は来ないの。やっぱり」 どこか安心した風情の相羽。純子はその理由が気になって考える内に、はた と思い当たった。 (そっか。立島君と前田さん、白沼さんには引っかき回されてるもんね。だか ら立島君の名前を出したんだわ、相羽君。それで今、安心してる……気遣い性 なんだから) 微笑ましくなって、目を細める純子。そんな彼女へ。 「涼原さんも来る?」 白沼が話しかけた。 「え、私?」 自らを指差し、聞き返す。すると白沼は、目だけでうなずいた。 「聞いてなかった? クリスマスイブ、私の家でパーティを」 続いて、さっきと同じ話を繰り返す。 純子は初めて聞いたかのように、相づちを打った。 (どうして私まで誘うんだろ? 男子だけじゃなく、女子にも声をかけていっ たら、大変と思うけどな) そう疑問に感じ、注意して聞いていると、女子全員に声をかけるわけでもな いらしい。純子は自ら尋ねてみることにした。 「誘ってくれてありがとうっ。でも、私、白沼さんとあんまり親しくないのに ……どうして?」 「あら、充分、親しいと思ったのに」 両手を合わせ、さも心外で悲しいわという風に首を右に傾ける白沼。 彼女の様子に、純子は焦って言い繕おうと、口を開きかけた。だが、白沼は 表情をころっと一変させた。 「って言うよりも、本当は、さっきね。相羽君を誘ったら、同じ部の女子も何 人かいると嬉しいって言うから」 純子は言葉をなくし、相羽の方を振り返る。 対する相羽は、いつの間に持ち出したのか本を両手に持ち、それで顔を隠す ような姿勢でいる。 「それで、あなたや町田さんを誘えば、調理部の他の子達にも伝わる、なんて 期待したわけなのよ」 「私、調理部に入ってはいないんだけど」 「入ってるようなものじゃないの? 聞いたわよ、文化祭のとき、お客の呼び 込み、やったんですって? 凄い格好をして」 「す、凄い格好ってほどじゃ……」 顔が赤らむのを自覚し、下を向く純子。 相羽が何か言いたそうに、上目遣いをするのが見えたが、それより先に、白 沼が表情を明るくした。 「そうだわ。仮装パーティにしようかしら。となると、涼原さんにはぜひ、フ ラッシュ・レディになってもらわなくてはね」 「も、もういい! あれはだめよっ」 「どうしても? だったら、普通のパーティにするから、来てくれるわね?」 「う、うん」 「よかった。じゃ、町田さんや他の調理部の子にも、言っておいてね。カード、 使いきったから、悪いんだけれど、この一枚でみんなに」 と、先ほど白沼が相羽に手渡したのと同じカードが、純子の手の平にも置かれ た。 「よろしくね」 用事は済んだとばかりに、白沼はその場でくるりと半回転し、相羽にまた何 かと話しかける。 (よろしくねと言われても……) 純子は弱り目になって、カードに視線を落とした。 (芙美はともかくとしてもよ。郁江や久仁香、何て言うだろうなあ……) 生まれた不安が、どんどん大きくなっていった。 しかし、翌日、調理部の部活に顔出し−−正確には部活が終わってから−− したとき、純子はできることなら、みんなの頭の一つでもはたいてやりたいと 思った。 (もーっ、あんなに悩んでた私って、一体何だったわけ?) 小躍りしそうなまでに浮かれる富井や井口を前に、拳を握り、肩を少し振る わせながらも、ぐっとこらえる純子であった。 白沼からの話を伝えたところ、実に呆気なく、参加したいという答が返って きたのだ。最初こそ、ほとんどよく知らない人の家に上がることになるので、 ためらいを見せていた富井達だが、 「え? 相羽君も行くの?」 「その予定だよ」 結局、これが決め手だったらしい。 (相羽君がいれば、何でもいいのか、君らは……。そう言えば、誕生日のとき も似た感じだったっけ。−−よく考えたら、白沼さんも白沼さんよね。直接言 えばいいのに。私に頼まなくたっていいじゃない) などと、ぶちぶちと頭の中で文句を言っていると、身体を揺すられた。 「ねえねえ、それでどんなことするの? 初めてだから想像つかない」 井口が期待に目を輝かせている。続いて、富井も。 「やっぱり、プレゼントの交換とかあるのかなぁ?」 「ちょ、ちょっと待ってよ。カードには……」 もらったカードを開き、中を読む。実はまだ、詳しくは読んでいない純子で あった。 「あ、あるわ。プレゼントの交換会をするから、各自プレゼントを持って来て ください、ですって」 「ふうん。去年のクリスマス会みたいなもん?」 興味なさそうにしていた町田も、ようやく乗ってきた様子だ。 「そうらしいわ。どんな物を用意すればいいのか、迷いそう」 「噂によれば白沼さんのお家って、お金持ちだそうじゃない? それなりにい い物を持って行かないと、見劣りしちゃったりして」 脅かす風に言う町田。反応するのは富井。 「ま、まさかぁ。中学生らしく、子供らしく行こうよぉ」 「私に言われても、知りません」 その間、カードの続きを読んでいた純子は、思わず、「げっ」とつぶやいて しまった。すぐさま、他の女子三人が気付いて、顔を寄せてくる。 「何なに? どうしたの?」 「ここ……隠し芸をしてくれだなんてっ」 文面を指差しつつも、頭が痛くなってきた。フラッシュ・レディの仮装を思 い出し、さらには去年、サンタの格好をしたのを思い出した。 (あっさり、仮装パーティやらないって言ったと思ったら、こういうこと? うう、やだなあ) 「そろそろ出た方が」 鞄を持った相羽が、廊下へと向かいながら皆を促した。 彼に倣って、全員、外へ。 「相羽君は隠し芸、決まってるよねえ。もち、手品?」 富井の質問に、家庭科室の鍵をかける相羽は、施錠されたのを確認してから 答えた。 「うーん、どうなるかな。そろそろ演目のネタが尽きかけててさ」 その大げさな肩のすくめ方から、本気でネタ切れなのかどうか、誰にも分か らない。 町田が、急にいたずらっぽい笑みを浮かべた。 「やれば? 私達の知ってるやつでいいからさ、白沼さんをびっくりさせるの よ。あの人の驚いてる顔、見たいと思わない?」 そういう話題を振られても、富井や井口は白沼がどんな性格なのか詳しくは 知らないし、当の相羽が答えられるはずもなく、残る純子もあんまり答えたく ない。どっちでもいいことだから。 (相羽君の手品、うますぎるから、白沼さんだって驚くよりも感心しちゃって、 ますます相羽君のことを……ってなるかも。それって、まずいんじゃない?) なんて心配も浮かんだが、ここまで気にする必要もないと思い直し、口には 出さないでおく。 −−つづく
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