長編 #4334の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「やれやれ、人のことには目敏いんだから………」 「なに? もっとはっきり言ってよ。聞こえない」 「いえ、なんでもございません」 相羽の今度はふざけた反応に、純子は自分の推測に自信を持った。相羽の反応 は、純子の見当外れに呆れているのではなく、なんとか事実をごまかそうとして のものに思えたのだ。 「もしかしてさ、相羽くん、西崎さんに………その、告白されてたんじゃない?」 「な……」 相羽は言葉に詰まり、その眉がわずかに痙攣したのを純子は見逃さない。 「だって、私といっしょに美璃佳ちゃんたちを探してて、相羽くんと出会ったと きの西崎さんの様子、普通じゃなかったもの。なんとなく、気まずそうで。 それに西崎さんのアパートや、お父さんが亡くなられたことも、相羽くんは早 くから知ってたみたいだし………」 「憶測でものを言うのは、それくらいにした方がいい」 相羽の言葉からは、ふざけた調子や動揺の色が消えていた。酷く穏やかな声。 過ぎるほどに。 腹を立てて怒鳴った訳ではない。もちろん純子にしても、相羽が怒るようだっ たら、この話は止めていただろう。しかしその時には反省したかも知れないが、 少しくらいは反撥も感じるかも知れない。 けれど怒られるのではなく、静かに言われることで反撥は起きず、調子に乗り すぎてしまったのではないかと反省の気持ちだけが生まれた。 「もしかして、怒った?」 なんだか、とても悪いことをしたような気持ちになった純子は、恐る恐る訊ね てみる。相羽は、相変わらず穏やかなまま、首を左右に振った。 「いや、怒ってない」 口調も静かに答えると、また何かを考えるように天を仰ぐ。 「ぼくと西崎さんは、友だちだよ。他のみんなと同じように。仮にぼくと西崎さ んの間に、涼原さんの言ったようなことがあったとしても変わらない。 それにね、西崎さんはこの街を離れてしまったろう? 涼原さんの推測に対し て、彼女は反論が出来ない。欠席裁判みたいで、フェアじゃないだろう?」 後半の方は、純子に言い聞かせるというより、また冗談のような調子に戻って いた。どこまでが本気で、どこからがふざけているのか分からない。 けれどこれによって、純子はもう一つの質問が出来なくなった。 『結局、今日も聞き出せなくなっちゃったな』 愛美は知っているらしい、相羽の好きな人を。 「あのさ、相羽くん」 「なんだい。また、変な質問なら黙秘させてもらうよ」 そう言って、相羽は笑った。その笑顔に、芝居をしているようなぎこちなさは 感じない。怒っていないと言うのは、信じてもよさそうだ。 「私の知ってる西崎さんって、いつもどこか元気がなかったけれど………向こう に行って、きっと元気になれるよね」 「うん、なるさ………きっと。あの子は、強い子だよ」 ほら、相羽くん、西崎さんのこと詳しいじゃない。 純子はそんな言葉を呑み込んだ。 「それから、さ」 「ん?」 「私たちに、なにも出来ないのは分かっているけど………やっぱり美璃佳ちゃん や、良太くんにも幸せになって欲しい」 また先日のように、相羽が何か言い出すのではと思いながらも、純子はつい口 にしてしまう。世界中に、たくさんの不幸な人たちがいて、純子にはその一人一 人を救ってあげられないのは分かっている。同情が救いにはならないのも分かっ ている。それでも身近な、知り合った人々の幸せくらいは願ってやりたい。 「うん、そうだね」 相羽は、穏やかに頷いてくれた。 「ところで、今日、涼原さんはどうするの?」 「えっ、どうするって?」 突然切り換えられた話題に、純子は一瞬、戸惑ってしまった。 「今日は二十四日、イヴだよ。涼原さんも白沼さんのパーティに行くんだろう」 「はあ、そうなのよねぇ」 そのつもりはなかったのだが、応える純子の台詞はため息混じりとなってしま った。 「ひょっとして、気乗りしないの?」 心配そうな相羽の瞳が、純子の姿を映していた。 「えっ、違う違う。そんなんじゃないわよ」 笑って否定したものの、正直なところ確かにあまり気乗りしてはいない。別に 白沼が嫌いだからとか、他に予定があったから、と言う訳でもないのだが。白沼 の目的がどこにあるのか、予想されるだけに何となく憂鬱な気分になってしまう。 今日、招待されている男子は白沼の友だちと言うより、ほぼ相羽の友だちで固 められている。それだけで、白沼が本当に招待したかったのが誰だか、容易に知 れてしまう。 積極的な彼女のこと、この機に相羽に対して何のアプローチもしないとは考え にくい。 だがそれだけであれば、ことは相羽と白沼、二人の問題だ。純子が関わるもの ではない。 しかし女子の参加者、純子の友だちも来るとなると話は変わってくる。どこま で本気であるかは不明だが、彼女たちも少なからず相羽に好意を持っている。ま さかとは思うが、積極的な態度に出た白沼と、一触即発、などと言う事態もあな がち考えられなくもない。 『考え………過ぎだよ、ね』 そう自分に言い聞かせて見ても、不安は拭いきれない。このままパーティに参 加すれば、純子は相羽を巡る女の子たちの監視役として楽しめそうにない。もっ とも行かなければ行かないで、何か起きてはいないかと心配で堪らないだろう。 「じゃあ、涼原さんも来るんだね」 そんな純子の気持ちなど、知りはしないのだろう。嬉しそうな笑顔で相羽は言 った。 『なによ、ひょっとして相羽くんは、今日のパーティを楽しみにしているわけ?』 誰のせいで、私が監視役なんかしなくちゃならないと思っているの。 つい、文句の一つも言いたくなってしまったが、それは堪える。 その中心に相羽が在るものの、彼が何かした訳でもないのだから。 「六時、からだったよね」 とりあえずそんな不満は押し隠し、純子は時間を確認する。 「あ、うん。遅刻しないようにね」 人の気も知らないで、念を押す相羽。 『私はあんたのために、行くんじゃないのよ』 そんな相羽に聞こえないように、純子は秘かに呟いた。 「でも、六時まではまだ、ずいぶん時間があるわね」 時計がないので分からないが、いまはまだ十二時を少し過ぎたばかりだろう。 「どこかで時間を潰していく?」 「あのね………まるまる六時間近くも、どこで………」 相羽の提案に異議を唱え掛けた純子は、その言葉を途中で止めた。彼の目が笑 っていたからだ。 「あのさ、つまんなさ過ぎるよ。その冗談」 「ごめん、まさか本気にするとは思わなかったから」 と、謝りながらも、相羽の顔に反省の色は見られない。 「ま、とにかく。私、プレゼントも家に置いたままだし………お昼も食べたいか ら、もう帰るね」 「お腹が空いていたなら、さっき、藤井さんの誘いに乗れば良かったのに」 「私は、そんなに野暮じゃありません。じゃあ、また今夜ね」 純子は相羽に軽く手を振り、家に向かって歩き始める。ところが相羽も純子に 並んで、一緒に歩いてきた。 「なんで着いてくるのよ」 「なんでって………ぼくの家、途中まではこの道なんですけど」 「あ、そう」 どうにも先ほどから相羽にからかわれ続けているようで、どうにも納得のいか ない純子だったが、反撃の材料も見つからないまま並んで歩くことになってしま った。 「半分だけ涼原さんの望んだ、ホワイト・クリスマスってことになったね。いや、 グレー・クリスマスかな」 どこか上機嫌な相羽は笑いながら、日陰に残されている黒ずんだ雪を見やって 言った。もしかすると本当に相羽は、今日のパーティを楽しみにしているのかも 知れない。誰か好きな女の子が、参加するのだろうか。と、つい勘ぐってしまう。 「分からないわよ、まだ今夜降るかも知れないし………」 純子も同様に、雪を見ながら応える。 確かにアスファルトの上に、溶けだした水を滲ませた灰色の雪は、風情も何も ない。これだったら、何もない方がよっぽどクリスマスらしい。せめて今晩、も う一度雪が降ればいいのにと思う。美璃佳たちが無事に見つかったいま、心から そう願えた。 軒を並べる店々から、それぞれにクリスマス・ソングが流れだし、賑やかさを 競っているようだった。 良太の表情が険しくなる。 美璃佳は戸惑っているようだ。いまにも泣き出しそうな顔をしている。 ただ言えることは、二人とも喜んでいる様子は全くない。 駿にしてもそれを見た瞬間、激しい怒りしか感じなかった。 「みんな、どうかしたの?」 一人事情を知らないマリアだけが、不思議そうに駿たちの顔と、その視線の先 にあるものを相互に見やっていた。 ファミリーレストランで昼食を摂った後、駿たちはアパート『若葉荘』に戻っ た。そこで思いがけない人物、いや駿がなんとか探し出したいと思っていた人物 の姿を見つけることとなった。 相変わらず、派手な毛皮を纏っている。遠目からからでもそれと分かる、際だ った格好の女。良太と美璃佳の母親。 アパートの前に停められた外車は、前に見たものと違う。その後ろには軽トラ ック。女は若い作業員を指示して、自分の部屋の荷物を軽トラックへ運び込ませ ていた。 「あんた、何してるんだ?」 女の元に歩み寄った駿の声も、つい荒くなってしまう。 「あら、あんた隣の」 特に驚いた様子もなく、女は駿に一瞥をくれた。 「見て分かんないの。私の荷物を運び出してんの。こんなシケたぼろアパート、 出ていくことに決めたのよ」 「駿、知ってる人?」 険悪な雰囲気の駿に対し、どこかのんびりとした感じのマリアが話し掛けて来 た。 「誰よ、この間延びした女。あんたの彼女? あら」 ようやく女は、マリアの後ろに隠れるようにしていた、自分の子どもたちに気 がついた。せめてここで、母親らしく優しい言葉の一つも掛けてやれば、良太た ちも救われたかも知れない。だが、女の口から優しい言葉が出てくることはなか った。 「ちょっとちょっと、なんでこいつらが、まだいるわけ?」 あまりにも予想外の言葉。 それは駿を唖然とさせるばかりではなかった。 美璃佳は破けてしまうのではないかと思われるほど、ぎゅっとマリアのコート の裾を握りしめていた。むごすぎる実の母親の言葉に、堪えきれなくなった涙を 一杯に浮かべて。けれど声を上げて泣くことはしない。母親の前で泣くことを恐 れているかのように、懸命に声を押し殺している。わずかに漏れてくる嗚咽が、 声に出して泣くより辛い美璃佳の心を感じさせた。 良太は固く唇を結び、母親を睨み付けている。その形相は幼い子どものもので はない。実の母親を見るものではない。 憎い怨敵を睨み据える目だ。良太のような子どもが、そんな目を出来るものな のか。駿は衝撃を受けると同時に、母親にそんな目を向けるようになってしまっ た良太の心を思うと、辛く切ない気持ちにさせられた。 「あんたもあんたよ」 そんな子どもたちの表情を意にも介さず、わめき散らす女は駿に矛先を向けた。 「とっとと、こいつらを施設に入れるとかしてくれないわけ? ったく………鬱 陶しいガキなんだから」 女に自分の子どもに対する思いやりは、微塵も感じられない。 良太があんなに激しい目をするのも、美璃佳とここを逃げだそうとした気持ち も、いまさらだがよく理解出来る。 「………どうして、そんなことが言える」 「はあ?」 「どうして、そんなことが言えるんだ! あんたがいない間に、この子たちは死 に掛けたんだぞ!」 「なんだ、そんなこと」 女はあっさりと言ってのける。全く驚きもしないで。 「なんの騒ぎだい」 停まっていた外車から、恰幅のいい男が現れた。前にアパートに現れたヤクザ 者とは違う。あのヤクザは、麻薬に関わっていたという話だから、警察に捕まっ たのだろうか。男は、次の愛人という訳か。 「ああん、なんでもないの。ちょっと変な人が、訳の分からないことを言ってる だけ」 甘ったるい猫なで声で、女は男に応えた。それから再度駿に向き直ると、人を 馬鹿にしきった口調で話し続けた。 「でも生きてるじゃない。残念ねぇ………本当に死んでくれたら、私も重荷がな くなってラッキーだったのにさあ。 ああ、そうだ。あんた、なんかこいつらと仲良くしてるみたいじゃない? よ かったらもらってよ。のしをつけてプレゼントするからさあ」
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE