長編 #4313の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
だがマリアには、そんなことを詮索するつもりも余裕もない。いまマリアが求 めているのは、良太たちを探し出す手段だけ。記憶に残されている限りでは初め ての、仲間との遭遇に喜んでいる場合でもない。 『ねえ、あなた』 マリアは、もう一人のマリアに呼びかけてみる。ママが応えてくれないのなら、 この子に頼ってみようと。 『あなたじゃないよ。私はマリア………あなたもマリアだけど』 もう一人のマリアが、けらけらと笑う。 『ああっ、分かった。マリアでしょう? マナミのオトウサンが死んだって、泣 いてたのは』 笑うのを止め、もう一人のマリアは慈しむような声で言った。 このマリアには、マリアの心が届いていたらしい。それならば、とマリアは思 う。 『ねえ、マリア。マリアに力を貸して』 『力を貸す? なんで? マリアには、マムがいないの?』 『ううん………ちょっと、けんかしちゃったの。それでね、この星のお友だちが いなくなって、探しているのに、ママは手伝ってくれないの。早く見つけてあげ ないと、大変なことになっちゃうかも知れないのに………』 『オトモダチってなに?』 『大事な人のことだよ』 『調査対象として?』 『ううん、違う』 『もしかすると、オトモダチが大変なことになると、悲しいのかな。マナミのオ トウサンが死んだときみたいに』 『………うん』 マリアは愛美の父親が死んでしまった時のことを思いだした。とても心が痛い。 もっとマリアが一生懸命頼んでいたら、ママが何とかしてくれたかも知れない。 そう思うと、とても苦しかった。だから、良太たちは絶対に見つけなければなら ない。 その想いは、もう一人のマリアにも伝わったようだった。 『分かった、手伝ってあげる』 『ほんと?』 『うん、でもマリアのマムはいま忙しいから………マリアの力しか、貸せないよ』 『出来るの? そんなこと』 『分かんないよ。だってマリア、マリアに力を貸してあげるなんて、初めてだも ん』 『そうだね………マリアも、マリアの力を借りるなんて、初めてだもの』 『じゃあ、いくよ。いい?』 『うん』 マリアは意識を集中させる。もう一人のマリアへと。 身体がぽかぽかと、暖かくなってくる。 周りの人の話し声。 向こうのビルの屋上で休む鳥の声。 風の吹く音。 遠くで水の流れる音。 その一つ一つが明瞭な形となって、マリアの耳、いや意識に飛び込んでくる。 数え切れないほどの情報全てを、マリアは個別に判断することが出来た。 『すごい、すごいよ、マリア。マリアってこんなに力があるの!』 思わずマリアは、感嘆の声を上げてしまう。 ママから力を借りた時さえ、これほどの感覚は得られない。 『ううん。マリアだって、こんな力はないよ。不思議………不思議』 もう一人のマリアも驚いていた。 『とにかく、ありがとう。見える、見えるよ』 マリアは目を見開いた。 微かだった色が、濃くなっている。 周囲全ての色がマリアの目に飛び込んで来たが、その中から迷うことなく良太 と美璃佳のものを探し出すことが出来た。 『ありがとう、マリア。あれ………?』 お礼を言おうとしたマリアだったが、いつの間にかもう一人のマリアの声は消 えていた。送られていた力と一緒に。 けれどその余韻は、充分にマリアの中に残っている。これならきっと、良太た ちを探すことが出来る。 顔を上げるとホームに入ってくる電車と、売店から戻って来た駿の姿が見えた。 駿は惚けたように、口を半開きにしている。 「電車がきたよ」 マリアが言葉を投げかけても、駿はまだ夢をみているような顔でマリアを見て いた。 「駿、電車がきたよ」 「えっ、ああ」 同じ言葉を繰り返して、ようやく駿はマリアに応えてくれた。 「乗るんでしょ?」 マリアは、駿の腕をつかんだ。 力の影響なのだろう。厚いコートを通してだが、駿の確かな温もりが感じられ た。 「いや、でも………どこで降りたらいいか、分からない」 どこからか、空気の漏れるような音がして、電車のドアが開く。 立ち尽くす駿の腕を強く引いて、マリアは電車に乗り込んだ。 「だいじょうぶ。見えてきたの!」 嬉しさを抑えきれず、微笑みながらマリアは言った。 「見えてきたって?」 「良太くんと美璃佳ちゃんのいろ」 少し驚いたような顔をしてから、駿はすぐにマリアへと微笑んでくれた。 純子は自分もまだしばらく、美璃佳たちを探すと言う愛美を説得して家に帰ら せた。愛美は何度も振り返ったが、どうにか家の方向にと消えて行った。 「じゃあ、手分けして探そうよ。私は、西口の方に行ってみる」 相羽にそう言い残して、純子は走りだそうとした。 「ちょっと待って! 無理だよ」 そんな声を後ろから掛けられて、急停止した純子は、そのまま前へと転びそう になる。 「何よ。何が無理だって言うの」 この緊急時に何を言い出すのかと思い、純子の口調は少しばかり荒くなってし まう。 「だって、ぼくはその良太くんも美璃佳ちゃんも、顔を知らない」 「あら。そうだった………」 純子はその場で、コントよろしく転ける真似をした。 「人手が多くて、困ることはないと思ったんだけど。かと言って、役に立つわけ でもなかったのね」 「反論はしないけど。ちょっと、その言い方は酷い」 少し不機嫌そうに、相羽が抗議する。 「あっ………ごめんなさい」 さすがに言い過ぎたと感じ、純子は頭を下げた。思えば、相羽に一緒に来てく れと言ったのは、純子の方だった。 「えっと、それじゃあどうしよう。私と一緒に探す?」 「ああ、そうしよう。子どもたちの特徴を聞いて、ぼくも一人で探しに行っても いいんだけど………」 「うーんと、男の子………良太くんは五歳か六歳くらいなんだけど、ちょっとし か顔を見てないから、良く憶えてないの。美璃佳ちゃんは四歳かな。髪の毛をこ んな風にしてて………」 純子は手を自分の頭の両サイドに持って行き、それぞれで髪を握って見せる。 「それで、自分の身長より少し小さいくらいの、お人形を持っているの」 「………確かに人形は目印になりそうだけど。一緒に探したほうが、よさそうだ」 軽く両肩を竦めて見せると、相羽は純子を追い抜いて歩き出した。 「何よ、それ」 暗に自分の説明が分かり難いことを指摘された純子も、相羽に並んで歩く。 「説明してくれた涼原さんには悪いけど、特徴が大雑把過ぎるよ。例えば……… ほら、あれはその美璃佳ちゃんかい?」 相羽が指をさす。その先に、美璃佳と同じような髪型をした女の子と男の子が いた。母親らしい女性が一緒なので、美璃佳たちでないことは確かだが、念のた め純子は顔を確認してみる。やはり違った。 「違うわ」 「だろ? 小さな男の子と女の子の兄妹って言うのは、別に珍しくない。もし何 かの理由で、その人形を手放していたり、たまたま同じようなものを持ってる女 の子がいたら、ぼくには区別出来ないよ」 駅を出た二人は、近くのゲームセンターを覗いて見たが、そこに美璃佳たちの 姿を見ることはなかった。 その後本屋、オモチャ屋、バーガーショップと回ったが、全て無駄足であった。 「ねえ、相羽くん得意の推理で、美璃佳ちゃんたちの居所って、分からないかな」 ふと思いついて、純子は言ってみる。以前相羽はその機転を利かせて、小学校 近くの幼稚園で起きた誘拐事件を解決したことがある。 「何か推理の材料があるかい?」 「材料?」 「推理って言うのは、錬金術とは違うんだよ。無から有を生み出せはしない」 「もう。言い方が、遠回しだわ。もっと分かりやすく言ってよ」 二人は再び駅の前に来ていた。どちらが誘うでもなく、駅前広場に設置された プラスチックの椅子へと腰を下ろす。 「つまりさ。ぼくは、良太と美璃佳という兄妹がいなくなった、ってことしか知 らない。これだけの情報なら、新聞で知らない人たちの身に起きた事件を読むの と変わらない。いや、新聞記事から得られる情報の方が、よっぽど多いよ」 相羽の言うことももっともだと、純子は思った。 「実は私も、美璃佳ちゃんとはまだ二回しか会ってないから………情報って言っ ても、大したことは知らないのよね。それでもいいなら、話すけど」 相羽は少しの時間、顎に手を充てながら、何かを考えていた。 「人から見れば些細な、取るに足らないような情報が、大きな手がかりなること もあり得る。でも、正直に言わせてもらえば、涼原さんから話を聞いても役に立 たないと思う。 あ、誤解しないで。涼原さんに期待していない、って意味じゃないんだ。家出 人捜索と、推理小説に出てくるような事件とは訳が違う。情報より、どれだけそ の探すべき本人のことを知っているか、に懸かってくるんだ。さっきの人、藤井 さんって言ったっけ。ぼくたちよりその美璃佳ちゃんたちのことを知っている人 が、心当たりを探しても見つけられないでいる。たぶん、ぼくが少しばかりの情 報を得たところで、居場所を推理出来るとは思えない。あとは、人手………さっ きぼくが藤井さんに薦めたように、警察に連絡して、その組織力に頼るのがベス トなんだ。 それにね、ぼくだって推理が得意ってほどじゃないよ。前に誘拐未遂のあった ときは偶然、うまく行ったけど」 言っていることは、純子にも理解できた。けれど美璃佳たちの家出に、気づけ ず責任の一端を感じていた純子は、ほんの少しでも可能性があるのならそれに賭 けてみたかった。 「うん、分かる。でも、話してみるね」 それから純子は、まず最初に美璃佳と知り合った経緯を説明した。迷子の美璃 佳を見つけて、アパートに送り届けるまでを思いだせる限り詳しく話す。もちろ んアパートの前で、どこが美璃佳の部屋なのか分からず立ち往生してしまったこ と、そこで愛美と会って聞いた話も。 「そうか………あの藤井さんは、美璃佳ちゃんたちの父親って訳じゃないんだ」 「ええ、どうしてあの人が美璃佳ちゃんたちの面倒を見るようになったのか、詳 しくは知らないけど」 「どうりで父親にしては、少し若すぎると思った。子どもたちを『くん』や 『ちゃん』を付けて呼んでたし」 相羽は空を見上げながら言った。 つられるようにして、純子も顔を上げる。どんよりとした雲が空一面を覆い、 意味もなく不安な気持ちを煽るような気がした。 「いまの話で、何か分かったこと、ある?」 してはいけないと思いながらも、やはり期待をしてしまう。純子は高さの感じ られない空から視線を落とし、相羽の顔を見つめた。 「ごめん。やっぱり無理だよ」 責任がある訳ではないのだが、申し訳なさそうに相羽は言った。 「あ、やだ……気にしないでよ。私が勝手に話しただけだから」 「それにしても、だ」 空を見上げていた相羽の視線が、突然純子へと振られた。相羽の顔に目を向け ていた純子と、まともに見つめ合うことになる。純子は驚いたが、先に視線を逸 らしたのは相羽の方だった。 「そ……その、美璃佳ちゃんたちの母親って、どうしているんだ? 涼原さんの 話だと、迷子になった日から、いや、それ以前から藤井さんに子どもたちを預け たままみたいだ。それに今日も藤井さんや西崎さんたちは一生懸命に探している ようだけど、その母親は?」 相羽は勢い良く立ち上がって言った。別にどこかへ行こうとしたのではない。 興奮の余り、座ったままではいられない、という様子だった。その手は、強く拳 を握っている。 「さ、さあ………見掛けないし、西崎さんからも聞かなかったわ。もしかすると、 あれからまだ家に帰ってなくて、家出のことを知らないのかも」 どこか怒気の孕まれた相羽の口調に、純子はたじろぎながら答えた。 そんな純子に気がついたのだろう。「ごめん」と純子に詫びて、相羽は握った 拳を解いた。 思えば相羽の家も、母子家庭だった。母一人、子一人で互いに思いやり、助け 合って今日まで来たのだろう。事実、何度か相羽の口からそれらしきことを聞き、 母親と会う機会を得て、その様子は他人である純子にも充分窺い知ることが出来 た。
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