長編 #4312の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「それは構いませんけど………」 純子はそう応えてくれたが、相羽のほうはまだ納得行かない顔をしていた。 「それから愛美ちゃん、君はやっぱり帰りなさい」 「そんな………私も探します」 駿は訴えるようにする愛美の肩をつかむ。 「お父さんのそばにいてあげるべきだ。それにぼくとマリア、それから涼原さん と相羽くんとの二手に分かれて、連絡役が必要だろ?」 「え………ええ……でも」 愛美が何を言いたいのかは分かっている。愛美の部屋に電話はなく、連絡役は 務まらないと言うのだろう。 「えっと、北原さんのところに電話出来ればいいんだが………番号が分からない。 ぼくの部屋の電話の音、愛美ちゃんの部屋で聞こえるかな」 「ええ」 愛美が頷く。 「よし、じゃあそうだな………二時間経ったら必ず電話を入れるから。相羽くん たちは適当に探して見つからなければ、帰ってくれ。愛美ちゃん、二人には君か ら連絡をしてあげてくれ」 「………はい」 「もしその時までに、良太くんたちを見つけられなかったら、警察に届けるから」 その言葉に、相羽も初めて頷いてくれた。 「駿、早く早く!」 改札口の前でマリアが呼んでいる。 「それじゃあ、頼んだよ」 愛美たちに手を振り、駿はマリアの元へと急いだ。 改札をくぐったのはいいが、どのホームに向かえばいいのか分からない。駅員 も他の乗客への対応に追われ、良太たちがどちらに行ったかまでは見届けていな かった。 しかしここに突っ立っていても埒があかない。駿は山勘に頼ってホームに向か おうとするが、腕をつかんでいたマリアが抵抗した。 「そっちじゃないの」 そう言ってマリアは、別のホームへ駿を連れて行こうとする。 「良太くんたちの行き先が、分かるのかい? マリア」 「まだ少し、残っているの。良太くんと美璃佳ちゃんの色が」 また色の話か。 なんとも根拠に乏しい理由ではあったが、駿の山勘とてたいした違いはない。 いやむしろマリアの言葉には、理屈では測れない説得力があるように感じられた。 他に頼るものもない。ここはマリアの言に従うことにした。 「どこまで乗っていけばいい?」 ホームに立った駿は、マリアに訊ねてみる。 超能力、第六感。小説家を志していた駿だったが、そんな類のものを信じては いない。所詮漫画や映画で、物語に神秘性を持たせるための便利な道具に過ぎな い。そう考えていたはずの駿が、いまはマリアの不思議な力に頼ろうとしている。 虫のいい話だと、自分でも思った。 だが期待は適えられなかった。 マリアは、ふるふると首を振る。 「そこまでは、分からない……あ」 悲しそうな目で言った。 駿は思わず漏れそうになるため息を、ぐっと飲み込んだ。マリアは一度として、 自らの口で超能力を持っているなどと言ったことはない。勝手に駿が、頼りにし ていただけなのだ。 次発の電車が来るまで、まだ少し時間があった。駿はマリアをその場で待たせ、 売店へと向かう。あるいは販売員が良太たちを見掛けていないか、訊くために。 だがあまり期待の持てる答えは得られなかった。 確かに幼い兄妹らしき子どもは見掛けたと言うが、それは一組でなかった。ま して保護者が近くにいない兄妹は記憶にないそうだ。もっとも他人からの目では、 そばに無関係な大人が立っていても、それが保護者のように見えただろう。さら には絶対的に目印になると思われた人形を抱えた子どもも、販売員は覚えていな かった。 ラッシュ時、いやそうでなくても駅に適当な数の利用客があれば、売店から離 れている場所に立っている子どもの姿に販売員が気がつかなくても不思議ではな い。 けれどまた、良太たちがこのホームから電車に乗ったという確証も得ることは 出来ない。 一時はマリアの言葉を信じた駿だったが、疑いの気持ちが強くなり始める。仮 にこのホームであったとしても、どこまで電車に乗って行ったのか分からなけれ ば、何も分からないのと同じである。まさか一駅毎に降りて、駅員や売店の人間 に訊いて回るのか。そんなことをしていては、いつまで経っても良太たちを見つ けることなど出来はしないだろう。 ふいに目の前が暗くなったような気がした。気のせいではなかった。空を見上 げてみると、太陽に厚い雲が掛かったところだった。 これからしばらくは、陽の光を見ることは出来そうにない。それどころか、ひ と雨来るかも知れない。 間もなく電車が到着することを、アナウンスが告げた。 我ながら優柔不断であると思いつつ、このまま電車に乗っていいものか。乗っ たとしてもその後どうするべきなのか決めかねていた。 決断を間違えれば、いやまだ警察に届けていないことで、既に間違っているの かも知れない。取り返しのつかない事態になりそうで恐かった。何としても良太 たちを自分の手で見つけ出してやらねばと思う反面、心の中に逃げがあることも 否定できなかった。あてにしてはいけないと思いつつ、相談相手を求めマリアの 元へと戻る。 「マリア………」 マリアから三メートルほど手前。駿の足は止まる。 そこから近寄れない。近寄ってはいけないような気がした。 胸で両手を合わせ、何かに祈るようにしているマリア。その周りには光が射し ていた。いや、実際には空は曇ってどこからも光などは射していない。しかし駿 には、マリアの周囲だけが光に包まれているように見えたのだ。 初めてマリアと出逢った時のことを思い出す。 裸で駿の腕の中に倒れ込んで来た姿ではなく、その直前。あれは夢であるとし て、忘れようとしていた記憶。 優しい光に包まれ、静かに空から降りてくるマリアの姿。 『ばかな………あれは夢なんだ』 駿は軽く頭を振り、それを否定する。 神だの仏だの天使だの、それは人の空想の産物に過ぎない。人の手でどうにも ならないことに対し、人の力を越えた存在を創ることで精神的に救いを求めよう としているだけだ。駿は無神論者であった。 すうっと手を伸ばし、マリアに声を掛けようとする。が、声が出ない。否定し ながらも、いまのマリアの姿に神々しさを感じる自分がいる。 ふと、組まれていたマリアの手が崩れる。 光は消え、いつもの、いや良太たちのことを心配して少し曇った顔のマリアが 振り返った。 マリアと視線が交わった瞬間、駿の目頭が熱くなる。理由など分からない。迷 子になっていた子どもが、ようやく母と巡り会えた瞬間がこうなのではないだろ うか。駿はマリアがマリアであることに、安堵を覚えていたのだ。 「電車がきたよ」 マリアの口から漏れた言葉は、神の声を聞く巫女のお告げではない。ごく普通 の言葉でであった。 「駿、電車がきたよ」 「えっ、ああ」 同じ言葉を繰り返されて、ようやく駿は我に返った。電車がホームに入ってく る。マリアに見とれていた駿は、そのことにも気づかないでいたのだ。 「乗るんでしょ?」 またマリアは駿の腕をつかむ。 駿には神や天使に腕をつかまれた経験などないが、マリアの手から伝わってく るのは、確かな人の温もりだった。 「いや、でも………どこで降りたらいいか、分からない」 電車のドアが開く。 乗り込むことに、駿はまだ逡巡していた。 「だいじょうぶ。見えてきたの!」 嬉しそうに言うマリアに引きずられて、駿は電車へと乗せられた。 「見えてきたって?」 「良太くんと美璃佳ちゃんのいろ」 また色の話か。 けれどそれを信じてもいいと、駿は思った。 それは先ほどの、他に頼るものがないのだからと言う気持ちとは違っていた。 マリアの言葉に従えば良太たちに会える。それを動かしようのない事実として、 受け入れていた。 確かに良太たちは、こちらのホームへ上がった。ほんのわずかではあったが、 残されていた良太たちの色を見つけることが出来たので、間違いはないだろう。 ところが駿と一緒にホームへ上がると、マリアはその色を見失ってしまった。 たぶん電車に乗ったことで、良太たちの残して行った色が途絶えてしまったの だ。マリア自身はまだ知らぬことだが、それは車に乗った犯人の匂いを追跡出来 ない、警察犬の嗅覚に似ている。 「ここで待ってて。売店の人が、良太くんたちを見掛けているかも知れない。聞 いて来るよ」 そう言い残して、駿はマリアを残し売店へと向かった。 駿を待つ間、マリアは懸命に良太と美璃佳の色を探す。改札を抜けた時に見た 色が、気に懸かって仕方ない。美璃佳の色には問題なかった。いつもと同じ色。 けれど良太の色には、とても嫌なものが混じっているような気がする。 もともとの色が、もうかなり薄い状態でしか残されていなかったため、はっき りと見て取れた訳ではない。マリアの気のせいだったのかも知れない。 それならそれでいいのだが、不安は拭いきれない。マリアは自分の勘が、よく 当たることを知っていた。これまで降り立った惑星で、その勘が幾度となくマリ アの危機を救ってきている。ママに訊いてみたことはないが、それもマリアに備 えられた特別な力なのかも知れない。 「ママ………」 思わず呟く。 自分でも気づかぬうちに、マリアは両手を合わせていた。 「ママ………」 もう一度、ママを呼ぶ。今度は意識的に。 ママの力を借りれば、良太たちを探すことも容易いはず。もうママと話すこと はないと思っていたマリアだが、いま一度頼りたい。良太と美璃佳のために。 だがママは応えてくれるだろうか。 力を貸してしれるだろうか。 愛美の父親の時のように、また拒まれてしまうのだろうか。 『ママ!』 さらに強く、心の中でママを呼んでみる。 しかし応えは返らない。 マリアの声が届いていないのか。いや、そんなはずはない。トラブルの直後な らいざ知らず、一旦回復した通信が再度途切れてしまうことは考えられない。 それならば、なぜママは応えてくれないのだろう。 初めてママに逆らったマリアを、怒っているのだろうか。 マリアはママに見捨てられてしまったのだろうか。 『お願い、ママ。応えて!』 これで応えてくれなければ、もう諦めよう。 しばらく待ってみたが、やはりママからの応答が来ることはなかった。諦めて、 合わせた手を解こうとしたとき。 『誰か………私を呼んだ?』 女性の声が返って来た。けれどママの声ではない。どこかで聞いたことのある ような声だったが、マリアには思いだせない。 『えっ………あなた、誰? ママじゃない………』 マリアはその正体不明の声に、質問を質問で返す。 『あなたこそ、誰? どうしてマムじゃないのに、私の心に語りかけることが出 来るの?』 『私は、マリアよ。あなたは?』 マリアは名乗り、相手の返事を待った。しばらくの間を開けて、相手が応える。 『私も………マリアよ』 驚いたような、相手の声。 だがマリアもまた驚いた。 いったい、どういうことなのだろう。マリアとママの間でしか交わせないはず の、心での会話に飛び込んできた者がいる。そしてそれは、自らをマリアと名乗 っている。 こんなことは、長くママと旅を経験したが、いままでに一度もなかった。 まさか……… 『もしかしてあなたは、私と同じ………』 二人の声が重なった。もう一人のマリアも、同じことを考えたらしい。 考えられるとしたら。広い宇宙のどこかにいるという、マリアの仲間。ママに 管理されて記憶には残されていないが、マリアと同じ星で生まれて、同じように 旅をしている仲間。 『すごい、すごい、すごい!』 もう一人のマリアが、歓喜の声を上げた。 『私とママと、二人きりじゃなかったんだね。他にもいたんだ………あ、でも変 ね。他の人が調べている星に、どうして接近してるんだろう? マムも知らなか ったのかな?』 それはマリアにも疑問だった。本当にただの偶然なのか、それとも何かマリア の知らない理由があるのか。
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