長編 #4263の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
21 1時間ほど仮眠を取った後、由希は県警の笹谷刑事に電話を入れた。今のとこ ろ由希は祐子の行方を探していることになっている。その芝居を続けるためであ ったが、警察の動きを把握するためでもあった。 『いえ、まだ何も手がかりはありません。一人の目撃者もいないんですよ』 「そうですか。もう少し探してみますわ」 『お願いします。彼女が本当に麻薬取引に首をつっこんでいたとなると、その絡 みでトラブルに巻き込まれたのかもしれません。こちらはその線でも捜査を続け ているところです』 「朝倉さんはそんなことをする子ではありませんわ。成績も優秀だし、お金に困 っているようなこともないんですから」 『それはどうだかわかりませんよ。ドラッグ・ユーザーの最年少記録は毎年更新 されていますからな。もちろん数も。昨年度、覚醒剤取締法違反で検挙された、 中学生以下の数は273人。ところが、今年は1月だけでそれを超えているんで す。大人が売っているだけじゃない。子供たちの中に売人がいるんです』 「だからといって、朝倉さんがそうだとは限らないじゃありませんか!」 『先生が生徒さんを信じたい気持ちはわかりますがね』 「とにかく捜索を急いで下さい」 『100人以上を動員していますよ。では、また連絡します』 「ええ、お願いします」 由希は通話を終えた後、克也に向かって言った。 「そろそろ仕上げに入るわよ。こっちのことは気付かれていないけど、時間が経 てば経つほど危険になってくるから。妹の方はどう?」 「おとなしくしてるよ」 大声で叫んでいるつもりなのに、もはやかすれ声しか出ていなかった。それで も祐子は叫ぶのをやめようとしなかった。それだけが狂気を押しとどめておく手 段だったのだ。無数のゴキブリが身体を這い回るという嫌悪と恐怖は、何度も祐 子から理性を奪い去りそうになっていた。 ドアが開く音が聞こえた。祐子は必死で叫んだ。 「助けて!助けて!」 それに答えるように、シューと何かの気体が噴出される音が聞こえ、身体に霧 状の液体がかかるのを感じた。ツンとくる匂いが鼻を刺す。だが、それより重要 なことは、ゴキブリたちが一斉に逃げ出したことだった。 「お仲間とお楽しみのところ悪いけどね。あなたに見てもらいたいものがあるの よ」 虫の群から解放されて、一気にぐったりしてしまった祐子は答える気力もなか った。誰かが近づき、祐子の拘束を順番に解いていった。目隠しが取られ、祐子 はおそるおそる目を開いた。室内の照明は最小限に落としてあったが、それでも 闇に慣れた瞳は光を見ただけでまぶたを閉じてしまった。まばたきをするように 小刻みにまぶたを開閉していると、なんとか視力が戻ってきて、腕組みをして祐 子を見つめている由希の姿が見えるようになった。 「まだ元気そうね」 祐子は答えなかったが、憎悪をこめて由希を睨んだ。 「じゃあいらっしゃい」 後ろから一人の男が、祐子の背中をこづいた。祐子は自分が裸であることに気 付いたが、今更局部を隠す気にもなれなかった。 由希は堂々と祐子に背中を向けて、廊下を歩いていった。何度も飛びかかって 首を絞めてやりたい衝動に駆られた祐子だったが、自分が肉体的にも精神的にも 消耗し切っていることはわかっていた。逆にはり倒されて、無様に床にうずくま るのが落ちだろう。それぐらいなら、舌を噛みきった方がましだった。 到着したのは、最初に入ったミラールームのある部屋だった。克也をはじめ、 何人かの男がそこにいる。ミラールームの中は照明が消されていて、何も見えな かった。 祐子が少し驚いたことに、榊と大野川もそこにいた。二人とも椅子に縛り付け られ、さるぐつわを噛まされている。祐子が部屋に入ると、二人は揃って動揺し た顔になった。 「今度は少しギャラリーを変えてみたわ」由希が微笑んだ。 「やるならさっさとしなさいよ」祐子は自分でも虚勢とわかる声で言った。「別 に今さらどうってことないわ」 「何か勘違いしているようね。私はあなたに見てもらいたいものがある、と言っ たのよ。あなたを見てもらいたいなんて言っていないわ」 「何わけのわかんないこと言ってるのよ。気違い女!」 「そういう差別用語はいけないって学校で習わなかったの?」由希は気を悪くし た様子も見せずに言った。「まあ座りなさいな」 祐子は意地を張って立っていたが、克也ともう一人の男が祐子を椅子に座らせ た。両手を後ろに回し手錠をかけた上、頑丈なロープで身体を椅子に固定する。 「はい、いいわよ」 由希が誰かに合図を送ると、ミラールームに照明が入った。ベッドの上を一目 見て、祐子は悲鳴のような声で叫んだ。 「亜紀!」 口にタオルをかまされ、両手をベッドの支柱に固定された亜紀が横たわってい た。目もタオルを巻かれている。 「亜紀に何をしたの!」 「何もしていないわよ。まだね」 「あんた、まさか……」 「そう。これからするのよ。あなたはそこでよく見ているといいわね」由希はミ ラールームの方を向いた。「最初の人、はじめて」 立っていた男の一人が、Tシャツを脱ぎ捨てながらミラールームの中に入って いった。 「いやああ!嘘つき!私をやったら妹は無事に返すって言ったのに!」 「亜紀ちゃんを解放するなんて一言も言っていないわ。あなたが勝手に身代わり を申し出ただけじゃない」 「お願い、やめて!」 「ほら、始まったわよ」由希はミラールームを指した。 男が身動き取れない亜紀の服を引き裂き、たちまちのうちに全裸にした。少し 胸をいじった後、両脚を大きく開かせた。 「いや!お願い!許して」祐子は涙を流しながら哀願した。「私をかわりにやっ て!」 「ダメよ。しっかり見ないと」 由希の手が、祐子の顔をつかんで、無理矢理前を向けさせた。 「目を閉じたら、あの子を殺すわよ。死ぬ前にあなたの顔をたっぷり見せてから ね。見なさい!」 言葉と同時に、祐子の頬が鳴った。祐子は叫んだ。 「いやあああ!」 祐子は見た。すでに男は亜紀の中に挿入していた。亜紀の細い腰を抱えて、前 後に振り回すようなピストン運動を始めている。亜紀の顔の大部分がタオルで覆 われているため、浮かべているであろう苦悶の表情を見ずに済むことだけが、せ めてもの救いだった。 「あ、ああ」祐子は自分が犯されているように呻いた。「あ、あき……」 悲鳴をあげることもできず、抵抗らしい抵抗もできず、ボロ布のように犯され る亜紀を見ているうちに、祐子は次第に自分が壊れていくのを自覚していた。自 覚していながらどうすることもできない。むしろ自分の精神を崩壊の方へ押し進 めることによって、亜紀を守れなかった贖罪を果たしているともいえた。 二人が一緒に過ごした日数はそれほど多くはないが、亜紀が持つある種の純粋 さは、祐子が秘かに羨望している資質だった。祐子がそれで亜紀を憎んだり妬ん だりしたことはない。めぐみへの仕打ちでもわかるように、祐子は自分が手に入 れることができないものならば、いっそ破壊してしまいたい、という厄介な独占 欲を持っていた。それを治そうとはしなかったし、治さなくてはならないと思い さえしなかった。むしろ自分が生まれ持った特権であるかのように、それを行使 して後悔しないことがほとんどだった。しかし、亜紀にだけは、雪で作られた花 を扱うような、慎重な態度で接していた。祐子は亜紀の中に、あり得たかもしれ ない自分を見いだしていたのかもしれない。 その貴重な宝石のような亜紀が、汚されている。祐子の全人生が粉々に破壊さ れたに等しかった。精神が傷つかない方がおかしい。 もちろん亜紀に対する暴行だけが原因ではない。連続して行われた祐子自身に 対する拷問によって、祐子の精神は静かにゆっくりと崩壊していったにちがいな い。もっともそれは臨界点を超えてはいなかったから、時間をかければ元に戻っ ただろうが。 そして今、亜紀の悲惨な姿を目にした祐子の精神は、あっけなく限界点を超え、 さらに最奥の暗い混沌の領域へと進みつつあった。 男が亜紀の中に射精して離れると、休む間もなく次の男が服を脱いだ。ぐった りしている亜紀の身体をうつ伏せにすると、いきなり後ろから挿入する。 祐子はその光景もあまさず見つめた。 瞳から生彩が消えている。果てしない苦悶がそこにあった。 二人目が終わると、間をおかずに三人目が交替した。 全てが終わったとき、祐子は宙の一点を焦点の定まらない瞳で見つめていた。 「朝倉さん?」 由希がそっと呼びかけたが、祐子は答えなかった。肩をつかんで軽く揺さぶっ ても、ぼんやりと見つめ返すだけで、由希が誰なのか理解しているようではなか った。 「いい感じね」 由希はつぶやいた。そして、今度はもう少し大きな声で祐子の名前を呼んだ。 「朝倉さん!」 祐子はびくっと首をめぐらせた。瞳に光が戻った。 「お前、人間じゃないわ」その声からは、闘争心も敵対心も消えていた。「亜紀 が何をしたっていうのよ。どうしてあそこまでひどいことをされなきゃいけない のよ」 「その言葉は、固有名詞を除いてあなたに返すわ。加代が何をしたっていうの? ただ、あなたの気に障っただけで、加代は自殺するはめになったのよ。後に残さ れた人間の気持ちがわかったでしょう?」 「うるさい」 「可哀想な亜紀ちゃんね。たまたまあなたがお姉さんだったばっかりに、こんな 目に遭わされて。処女だったそうよ。本当は好きな人と結ばれたかったでしょう にね。聞こえなかったかもしれないけどね、レイプしている男はみんな囁いてい たのよ。お前がこんな目に遭うのは、朝倉祐子のせいだ、ってね。亜紀ちゃんが あなたを許してくれると思う?たぶん、一生恨まれるでしょうね。時間が身体の 傷を癒しても、心に残った傷だけは絶対消えないから」 「うるさい、うるさいわよ!」祐子は耳を手で覆って、首を振った。「お前なん か死ねばいいのよ」 「あいにく私はまだ当分は死ぬ予定はないわ。死ぬのはあなたの方よ」 「そう」それほど驚きもせずに、祐子は由希を見つめた。「やっぱり私を殺すつ もりなのね」 「さあてどうしましょうねえ」 「殺すならさっさとやれば」 「いいわよ。じゃあ、ご希望に沿いましょうか」 由希は部屋の隅に歩いていくと、何かを持って戻ってきた。 「これが何だかわかる?」 祐子の目の前に置かれたのは、金属製の小さな缶だった。「ロングライフクー ラント」という商品名が表面にグリーンの文字で印刷してある。 「バイク用の冷却液よ。飲んだら確実に死ぬけど、それよりもっと大事なことは 死ぬまでにものすごく苦しむこと」 「これを飲めって言うの?」 由希は答えずに、缶の隣にグラスを二つ置いた。 「どうしてグラスが2つあるんだ、って思っているでしょう?」 あらかじめ用意してあったらしいペットボトルが取り出され、中身がグラスに 注がれた。青緑のどろどろした液体である。 「野菜汁......俗に言う青汁ね。これはあまり美味とは言えないけど、健康に害 はないわ」 由希の手が冷却液の缶をつかみ、慎重にキャップが外された。片方のコップの 上で缶を傾けると、透明なグリーンの液体がとろとろと垂れた。 冷却液はほとんど透明なので、すでにグラスを半分ほど満たしている野菜汁に 混ざっても全く見分けがつかなくなった。多少量が増えただけである。由希は、 少ない方のグラスに、少し野菜汁を足して、量を同じにした。そして二つのグラ スを身体で隠し、しばらくカチャカチャと音を立てた後、祐子の前に戻した。 「さあ選んで」 「何よ、これ」祐子はかろうじて鼻で笑い飛ばすだけの力を振り絞った。「自分 の手を汚すのがいやなわけ?だから、私に選ばせようというわけ?毒が入ってい ない方を選んだら帰してくれるわけなの?」 「わかってないわね」由希は静かに答えた。「あなたが選んだグラスの中身を飲 むのは亜紀ちゃんよ」
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