長編 #4219の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
二学期の中間試験が全て終了し、ホームルームも済むと、生徒の多くは部室 に走る。 文化祭まで残すところ、およそ二週間。文化系のクラブは、展示ないしは出 し物など、何らかの形で参加する。クラス単位の参加は三年生のときだけだ。 「調理部は何をするの?」 家庭科室まで付き合って歩く純子は、富井に聞いてみた。 「喫茶店!」 「……て言うのかな。軽食屋みたいな感じだって」 横合いから、井口が付け足した。 「じゃあ、チャーハンやスパゲッティとかも出すのね?」 「多分。これからミーティングして決めるから、まだ分からないけれど」 「時間かかる物は、メニューにしないんじゃないのかな」 後ろから言ったのは、のんびり着いて来た相羽。 「電子レンジを持ち込めるとは思えないから、作り置きも難しいだろうしさ。 食べ物はレトルトパックが中心になるだろ、きっと」 「調理部の看板が泣くなぁ」 情けないという風情で、町田が首を振る。が、すぐに気持ちを切り替えたよ うだ。明るい調子で言う。 「ま、一年生の内は、先輩の言うことを聞いておけばいいんだから、精神的に は楽だわ」 「ええー、そうかなあ? 精神的にもしんどいよぉ。気を遣わなきゃいけない じゃない」 富井の反論に、町田以外の女子は揃ってうなずく。 「そう? 南部長を始め、先輩方はみんな気兼ねなく話せる人と思うわ」 「それは、芙美の性格だって」 井口が突っ込むと、笑いの花が咲いた。 「じゃ、頑張ってね。文化祭のときは絶対行くから」 家庭科室前まで来ると、エールを送って純子はきびすを返した。 クラブに所属していない純子にとって、今は暇な日々……でもない。 あの話が急速に現実味を帯びてきていた。 知らされたコマーシャルのパターンは、二つあった。 まだ完全に公にはできないためだろう、細かな絵コンテはなく、十五秒間ス ポットの大まかな流れが文章のみで綴ってある。 一つ目−−side.Aと銘打たれていた。 <清涼缶飲料『ハート』 TVCM side.A 予定案 夕陽を浴びているストリートバスケットのコート。 そのフェンスの外にたたずむ少女のシルエット(全身)。 ※衣装は学校の制服を予定 元気よく駆け出す少女、シルエット。 うなじ、手、足首、胸元、肩、口元等、アップのカットを連続。 静止画面。立ち止まった少女(胸から下の絵)。 左手にはハートの缶。 飲む(口元のみの絵)。 夕陽の方へ振り返ると同時に、右手で目を覆う(手の平を外に向けて)。 顔へズームイン。 口元アップ。 声に出さずに、「ふ た り で の み た い」という口の形。 重ねてテロップ、「ふ た り で の み た い」、一文字ずつ。 向き直り、再び駆け出す少女。 カメラが引くと、辺りは一面の雪景色。 重ねてテロップ、商品名。 ※BGM、歌のあるなし、未定 > 以上であった。 読み終わって、純子は母に目線を向ける。 「これって、ひょっとして……」 「純子も気が付いた?」 困ったような笑みを見せる母に、純子も苦笑を返した。 「うん、多分。これって、女の子の顔が一度も出て来ないんじゃないのかな」 「そうみたいなのよねえ。こういう映像なら、誰でもいいんじゃないのかしら」 「……でも、顔が出ないのって、結構いいかも。有名になりたくてやってるわ けじゃないんだから」 「それはそうでしょうけど、顔が出ないのはねえ。残念だわ」 楽しみが減ったとでも言いたげな母親。 (私になるかどうかも分からないのに、そんな心配しなくていいのに) 呆れながらも、純子は再び用紙に目を落とした。 <清涼缶飲料『ハート』 TVCM side.B 予定案 森の中、日光が差し込んでくる。 切り株に腰掛け、うずくまる少年。 ※衣装は黒い革ジャンを予定 小鳥のさえずりに、少年、顔を起こす。 眠たげな、うつろな目。 満月のカット。 身体の影から、ハートを取り上げる少年。 満月のカット。明滅して、太陽(もしくは金環食)のカットに。 立ち上がる少年。足下には握りつぶされた缶。 缶を拾い、手の中で一度放り、受け止める。 少年の正面からの絵。 声に出さずに、「あ い つ と の み た い」という口の形。 重ねてテロップ、「あ い つ と の み た い」、一文字ずつ。 髪を手櫛で梳き、歩き出す少年。 カメラが引くと、そこは都会。 重ねてテロップ、商品名。 ※BGM、歌のあるなし、未定 > 今度は首を傾げる純子。 「少年てあるけど、どういうことなんだろ?」 「さあ……。多分、男の子のバージョンと女の子のバージョンがあって、純子 が関係しているのは最初の−−Aの方だけってことじゃないの?」 「そうだよね、普通」 純子自身そう考えていたことを、母親の賛同を得て確信を深める。そして改 めて一枚目に見入った。 「テストって、どんなことするんだろうね」 「母さんにも分からないわ」 膝の上で手を組んだまま 首を小刻みに水平方向へ振る母親。 今度の日曜日、簡単な演技のテストをするから出て来てくれと言われている。 (最終的な判断を下すための材料にするって言ってたけれど、オーディション みたいなものかしら) そう考えると納得が行く。 (だけど、それじゃあ、私なんか勝ち目あるはずない。他の子達はきっと、ど こかの劇団やモデル事務所に入ってて、きちんとしたレッスンを受けてて……。 比べられるの、嫌だな) 比べられるのなら、自分も一通りレッスンを受けてからにしてほしい。そん な思いがちょっぴり起きる。 (まあいいか。他の人はみんな、それだけ必死だってこと。私なんか気楽だも んね。何だか張り合いがないわ) 「ねえ、お母さん」 「なぁに?」 純子のおねだり口調を敏感に察したのか、母親はわざとっぽい猫なで声で応 じてきた。 「もしも私が選ばれたら、何かご褒美、くれる?」 「ご褒美ねえ。正直言って、選ばれるとは思えないんだけど」 「そ、それは私も同じ。でも、何か目標がないと」 「そうね。いいわ。何がいいかな……そう、冬休み、旅行に行くのはどう?」 「旅行? 私が行きたいところ、選ばせてくれる?」 「もちろん。だけど、多分、外国は無理よ。お父さんの都合を考えたら、国内 が限度」 「それぐらい分かってるわよ。じゃあ、お正月、スキーに行きたいな、私。場 所は近くていいからさ」 「お正月にスキー……また疲れそうなことを言うわ、この子ったら」 早くも疲れた様子で言う母親。 「いいでしょ?」 「お正月にスキーねえ……ちょっと難しいかしら……。どこかに一泊旅行じゃ いけないかな」 絶対にスキー!と言いたいのは山々だったが、それほどまでの自信もないの で、腰砕けになる。 「……それでもいい」 「そ。じゃ、頑張って、選ばれてみなさい」 「えへへ、どうなるか分かんないけど、精一杯やるわ」 言って、気持ちも新たに書類に目を通す純子。 そんな娘に、母は皮肉の効いた調子で言った。 「勉強もそれぐらいの意気で、ずっと続けてもらいたいものね」 試験が終わって気が抜けそうなところ、しっかり釘を刺されてしまった。 同じ年頃の子が一人もいないので、純子の不安は限りなく高まっていた。 「第二駅ビルの十一階……間違いないわ」 事前に手渡されたメモを見て、声に出して確かめる。 日曜日。演技テストの日だ。 てっきり、何十人もの女の子が集まっていると信じていたのに、まるっきり 当てが外れてしまった。 エレベーターを十一階で降り、そこからどこへ行けばいいのか分からないの で、ぽつねんと立ち尽くす。 (日にちを間違えたわけでもないし……どうなってるの?) 慣れないおめかしをしているせいもあって、落ち着かない。純子は白のベレ ー帽を直した。 ふと気付くと、エレベーターを出たところに椅子が並んでいる。気を落ち着 かせようと、腰掛ける純子。 (ふう。やっぱり、相羽君のお母さんに着いてきてもらった方がよかったかな ……凄く不安) 二日前に電話があって、そんな申し出を相羽の母からしてもらったのだが、 結局断っていた。 (だめよ。おばさんの仕事を邪魔しちゃ。だから断って一人で来たんでしょ) 自分に言い聞かせ、ぶるぶると首を振る。 そうしていると突然、目の前の部屋のドアがこちら側に開いた。 びくっとして顔を上げ、動きを止める純子。 「何だ、来てるじゃない」 隙間から上半身だけ覗かせたパーマネントの女性が言った。最初、厳しい顔 つきだったのが、一転してにこにこ顔になっている。 「涼原純子ちゃんでしょ?」 「はい」 「さ、入って」 扉の向こうに消える女性を追って、純子は飛び跳ねるようにして椅子から離 れた。 「し、失礼します……」 <会議室>のプレートがある大きくて重い緋色のドアを引っ張り、室内の様 子を窺いつつ、身体を滑り込ませる。帽子の鍔がドアに当たって、ずり落ちそ うになったのには慌てた。 会議室と言うだけあって、部屋は広々としていた。ただし、椅子や机は、フ ロアーの半分ぐらいしかない。 真っ昼間なのに、蛍光灯が煌々とともっていた。見ると、窓は全てブライン ドが下ろされている。 この場にいるのは純子と先ほどの女性の他、白髪が見事な年輩の女性に紫が かったサングラスをかけた年齢のよく分からない男の人、色が白くて額の広い 若い男性。これだけだった。 「じゃ、早速。あ、帽子は取ってね」 言われて一層慌てる。 「あ、あの」 「うん? 何?」 「わ、私しか来ていませんけど……始めちゃうんでしょうか? 他の子……」 「これでいいのよ。あなた一人を見るために、私達は集まったんだから」 「ええっ?」 話が違う、と思った。 候補の中から一人に絞るためのテストだと、確かそういう話だったのに。 (もしかして、他の人はみんな辞退した、なんて……あるわけない) 唖然とした純子が仁王立ちしていると、その背をそっと押された。 「とにかく、座って」 「あの」 促されるまま座りながら、純子は質問をした。 「本当にここは、『ハート』のコマーシャルの……」 「そう。私はCFプロダクション『Hibik』のプロデューサーをやってる 市川よ。よろしくね」 「は、初めまして。よろしくお願いしますっ」 名刺を出しかねない勢いに気圧される純子。 (こ、こんなことなら、お母さんに着いてきてもらえばよかった!) −−つづく
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE