長編 #4203の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
これは、「呼び名〜勇敢な恋の詩4th〜」に加筆、訂正した話です。(上)に関して は、実はあんまり変わっていませんが、一応訂正が入っています。(永山さん、誤字等 ありがとうございました) ------------------------------------------------------------------------------ 九月と共にあっと言う間に文化祭も終わり、退屈な授業が続く日々が来た。 至る所で、欠伸をしながら過ぎ去った日を惜しむ姿が見られる。 でも僕は、学校に来るのが楽しみだった。十月に入ってから全ての放課後、図 書室に通い詰めているのだ。 理由はただ一つ、紫野……佐和子先輩に会うためである。 彼女は、少しずつ変わってきていた。前よりずっとよく笑うし、話をしてくれ る。 それは良いのだが、僕以外の男どもも彼女の良さを認識しだしたようで、これ はなかなかやっかいだ。彼女の良さが分かる男が多いのは嬉しいけれど、ライバ ルの数は、少ない方がいいに決まっている。 おまけに、文化祭で妙な幼なじみの男まで出てきてしまった。「水沢浩」と名 乗った一つ年上の男は、「佐和子ちゃん」と彼女を呼んでのけたのである。 そこで、僕は一つ目標を定めた。十月中に、「佐和子」とはいかなくとも、せ めて「佐和子先輩」と呼ぶことを心に決めたのである。 放課後、退屈な授業も終わり、勇んで教室を出ようとした僕は、背後から視線 を感じて振り向いた。 「夏生っ! 空条夏生っ聞いてるのかっ」 僕の真後ろで、仁王立ちをしていたのは、見知ったクラスメイトであった。 ふわふわした髪を高い位置でポニーテールにして、すっきりまとめている。グ レーのセーターの裾で、プリーツスカートが揺れていた。 夏の合宿で日焼けした顔には、怒っていると太字で書いてある。 なぜか片手に持っているモップが、意味なく怖い。 可愛い顔立ちだが、結構いい性格をしていることを、僕はわずか半年にして悟 っていた。何だか、文化祭が終わってから前にもまして怒りっぽいように見える のは、はたして僕の気のせいだろうか。 「栗林か……」 思わず、逃げ腰になる。 何となく、言われることの予想はついた。 「栗林か、じゃなーい」 びしっ、とモップを突きつけて栗林早紀は言い放った。 「毎日毎日午後練遅れて! 同じクラスの私が、どれだけ肩身がせまい思いをし てると思ってるのよ!」 「……さぼってるわけじゃ、ねーぞ」 「んなの、当たり前でしょ! ちょっとは九浄先輩を見習いなさいよ!」 「九浄先輩、ね」 僕は、ふーっとため息をついた。 九浄先輩、僕の所属する如月高校男子バレー部エース。 部員を上手くまとめ上げ、実力もしっかりしている。人当たりも良いし、教え 方もうまいので、僕も九浄先輩にはお世話になっていた。「くじょう」と「くう じょう」という似た名字のためか、僕が一番最初に名前を覚えた先輩でもある。 いわゆる爽やか系、の顔立ちで、結構女生徒の人気は高いらしい。 そして、目の前の栗林は、どうやら九浄先輩が目当てでマネージャー志願した ようだった。 「名字は似てるんだから! あんたが遅れてたら九浄先輩に悪いと思わない?」 思わない、と思ったが、口に出したらモップを振り上げられそうな気がする。 「まったく、あんたのせいで私の印象まで悪くなったらどうしてくれるのよ!」 「栗林の印象なんてもう悪くなりよう……」 言いかけ、僕はさーっと青ざめた。 「な・ん・で・すってぇ! マネージャー様に向かって、よく言ったわね!」 栗林の目が、すわっている。 僕は、思わず後ずさった。 「待てーっ!」 栗林がモップを振りかざす、僕は一目散に逃げ出していた。 図書室には、独特の空気がただよっている。 少しほこりっぽい、古い本のにおい。 カウンターの中に、図書カードの整理をしている佐和子先輩の姿があった。 白いシャツに、紺色のベスト。全然手を加えられていない、そのままの制服が、 綺麗に編まれたお下げとよく似合っていた。ちょっと堅すぎる印象もあるけれど、 真面目で清潔そうな感じがする。 「空条君」 佐和子先輩が、わずかに唇の端をあげる。そうすると、張りつめたかたい空気 が和らいで、ずいぶん柔らかな表情になる。 その顔を見ただけで、幸せな気分になってくる。 我ながらげんきんだな、と思うが仕方ない。今日こそ「佐和子先輩」と呼びか けよう、と心の中でにぎり拳を固めた僕は、真っ直ぐにカウンターに近寄った。 「さ……」 「あ、そこのボールペンとってくれる?」 言いかけた瞬間、機先をせいされた。わざとではないのだろうけど、何となく 勢いをそがれて、僕は苦笑いを浮かべながらカウンターの端に転がっていたボー ルペンを手に取った。 「はい」 「ありがとう」 カードの整理をする手を止めて、佐和子先輩が微笑む。 「紫野先輩、今日も当番?」 カウンターに片手をついて小声で問いかけると、彼女は小さく頷いた。 「じゃ、俺邪魔にならないように、そこの机で何か読んでるわ」 「うん、そうしてくれる?」 柔らかな声が、耳に滑り込む。 囁かれる度、ドキドキする。 手を伸ばせば……いや、あともう少し顔を近づければ、彼女に触れられる距離。 でも、「紫野先輩」と言うよび名のかべも越えていないのに、実際に手を伸ば せるわけがない。 僕は、何となく後ろ髪を引かれる思いで、カウンターから手を離した。 佐和子先輩の見える位置に陣どり、適当に選んだ文庫本を開く。 文庫本と、佐和子先輩を交互に眺めていたが、僕はだんだん意識がぼんやりし ていった。静かな図書室で、暖かな陽射しを浴びていると、否が応でも睡魔がお そってくる。……ここ一週間の、部活の遅刻はこれが原因だと分かっているのだ が、眠気には逆らえない。 僕が、完全につっぷしかけたとき、聞き覚えのある声が、耳に入ってきた。 「紫野さん、図書委員だったんだ」 重いまぶたをこすって声のした方に視線を向ける。 なにやら長身の男が、カウンターに向かって話しかけている。 「この間の文化祭、水沢にあったんだって? 何か連絡あった?」 水沢……? 僕の頭は、ようやく働きだしていた。 カウンターの中にいるのは、佐和子先輩。男の問いかけに、小声で何か答えて いるが、台詞の中身は聞こえてこない。 「へえ、そうなんだ。でも、紫野さんと水沢が知り合いなんてね」 水沢、聞き覚えのある名前だ……頭のすみで、何かが警報を鳴らしている。佐 和子先輩が、困ったような、それでいてどこか嬉しそうな顔をしている。 「筒井筒の仲って、笑ってたけど?」 つついづつ……ついこの間、古典でならった気がする……幼なじみっていう意 味で、幼なじみ…… 不意に、柔和な男の顔が浮かんできた。 「水沢!?」 僕は、思わずすっとんきょうな声をあげて立ち上がっていた。 佐和子先輩が、驚いて持っていた本を落とす。 その本を拾い上げ、長身の男が振り返る。 整った顔立ち。癖のない前髪が、わずかに額にこぼれている。 「空条、こんな所で何してるんだ?」 僕は、とっさに何も言葉が出てこなかった。 佐和子先輩に話しかけていたのは、栗林早紀が憧れている、バレー部キャプテ ン、九浄雅俊先輩だった。 両腕に、紫のあざが広がっている。 さらに、肘はすりむいたのか血がにじんでいた。 そこにかなり思いっきり、ガーゼを押しつけられた。消毒液がじわっとにじみ 出る。 「くーっ、しみるぅ」 「男でしょ、我慢しなさい!」 栗林が、それでもちょっと優しくガーゼを当ててくれた。 体育館に残っているのは、僕と栗林しかいない。 さっきまでは、九浄先輩もいたのだが、栗林が大丈夫ですから、と帰ってもら っていた。 一週間午後練に遅れた罰で、サーブ五十本を受けた僕は、正直立つのもめんど くさい程疲れていた。 「まったく、バカなんだから!」 「……分かってるよ、でも、九浄先輩のサーブきっついんだぜ」 「だれが、ケガしたこといってんのよ! 毎日放課後、図書室通いやってたんで すって!?」 「うん」 「……バカじゃないの! せっかくこの私が、あんたは補修だとか、色々言い訳 しといてやったのに、バカ正直に話しちゃって!」 「うん、ありがとう」 そのことを九浄先輩に聞いたときは、本当に驚いた。 それまで遅刻の理由を問いただされないのが、正直不思議ではあったのだが、 まさか、栗林が僕のことを庇っていてくれたとは。……最近怒られてばかりだっ たし、てっきり嫌われたと思っていたのに。 でも、僕は正直に理由を話した。佐和子先輩の見ている前で、あからさまなウ ソはつけなかったし、つきたくなかった。好きな女の子の前で、みっともない姿 をさらすのもかっこわるいけど、ずるい自分を見せるよりはずっとましだと思っ たのだ。 僕がお礼を言うと、栗林は一瞬目を見開いた。 「その、色々悪かったよ。今日も、俺がいなけりゃ九浄先輩と一緒に帰れたかも しれないのにな」 「え……」 「あ、ごめん隠してた? 栗林、九浄先輩のこと好きなんだろ?」 栗林の頬が真っ赤になる。 そうやってみると、やっぱり栗林は可愛い顔をしていた。 クラスの男子が騒ぐのが、ちょっと理解できた。 「わ、私は別に、そんなんじゃないわよっ」 吐きすてるような口調は、真っ赤な頬と矛盾している。相当意地っ張りらしい な、と僕は思った。 「まーたまた、隠さなくってもいいって、俺、協力してやろうか?」 冗談っぽく持ちかけたが、突然栗林はバタン、と救急箱を閉めた。 「私、帰る!」 「え、でもけっこう暗いぜ? ちょっと待てよ、俺、送るから」 「いいわよ! あんたなんかに送ってもらいたくない!」 言うが早いが、栗林はあっと言う間に体育館を出ていった。 僕は、呆然としてその背中を見送っていた。ふと自分の腕を見ると、消毒液の しみ込んだガーゼがぶらぶら揺れていた。 僕は、ガーゼをはがしながら、ため息をついた。 「善意で、言ったんだけどなあ」 ……女心は理解できん。僕は、疲れた身体を引きずり起こして、帰宅の準備を 始めた。
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