長編 #4190の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
た。 姫君も泣きじゃくりながら、いいのです、といった。 「ばらばらになるまで、抱きしめなさい。これは命令です」 と。 ちぇっ、と、ハッサンは涙をぼろぼろ流したまま破顔し――いわれたとおり、力 いっぱいアミーナを抱きしめた。 そうして、ずいぶんとながいあいだふたりは、涙を流しながら抱きあっていた。 クラウナッフは無情なり――と、ビショップならつぶやいたことだろう。 時の神は容赦なく、ふたりの上にも別離の息吹をなげかける。 かたわらにひかえて、見ないふりをしてそっぽを見あげていた本国からの使者が、 おほん、おほんとわざとらしいせきばらいをしてみせた。 それでもなおしばらくのあいだ、ふたりは気の毒な初老の従者など存在しないか のごとく抱きしめあったままだったが―― やがて、ハッサンから身をひいた。 「時間だよ。……アミーナ」 いとおしげに――狂おしく、恋人の名を呼ぶ。 この場だけの、まぼろしのような恋人の名を。 アミーナはかなしげにうつむいたまま、のろのろとした動作でハッサンから身を はなした。 それでも離れがたいようすで、大男の無骨な顔を涙にうるんだ瞳で見つめあげる。 ハッサンはかなしげに視線をそらし――それから、満面に笑みをおしあげてアミ ーナを見つめなおした。 「また、会えるさ。どこかでな。そしたら、また抱きあげてそこらじゅうをかけず りまわってやるよ。あんたが、もうおろしてくれと泣きをいれるまで、な」 いって、ウインクをしてみせた。 ひげ面のゴリラがしてみせる、泣き顔のウインクであった。 泣き笑いの表情でアミーナはハッサンを見あげ―― とびつくようにして、大男の首ったまにかじりついた。 むさぼるように、くちびるをおしつける。 目をしろくろさせていたハッサンも、やがてそれにこたえた。 さすがにぼうぜんと見やりながら通りすぎていく職員たちも、そしてあちゃーと かたわらで天をあおいでいる初老の従者の存在も完全にわすれはてて、ふたりはそ うやってながいあいだ、おたがいのくちびるの感触に埋没していた。 そして唐突に―― 「さよなら」 ひきはがすようにアミーナがハッサンの巨体からとびおり、そのまま目がしらを おさえてくるりと背中をむけ、走りだした。 ふりかえりもせず、あっというまに姫君はシャフトのむこうに消えた。 あわててあとを追う従者の姿など目にも入らぬように、ハッサンはアミーナが消 えていった通廊の彼方に、いつまでも視線をくぎづけていた。 やがて、静かに連絡シャフトがシャトルから切りはなされ――強化ガラスにしき られたむこうがわで、しずしずと音もなく恒星船がすべりでていった。 ならんだ展望窓のどこかに姫の姿が見えないかと、むさぼるような視線をハッサ ンはシャトルにむけていたが――ついにその姿が虚空にのみこまれてしまうまで、 大男のはかない望みがはたされることはなかった。 そしてそのままながいあいだ、ハッサンは魂がぬけた者のようにして、ただそこ にたたずんでいた。 やがて――ちぇっ、と力なくつぶやいて、そのグローブみたいな手の甲で頬の涙 をぐりぐりとぬぐい、くるりとドックに背をむける。 曲がり角を曲がったところで――ビショップ、そしてシェリルの姿を見つけた。 シェリルがからかうような笑顔をうかべている。 「ちくしょう」てれ笑いをうかべながらハッサンは毒づいた。「見てやがったのか。 おまえら、わるい趣味してやがる」 「ぼくはやめようといったんだけどね。シェリルが」 すずしい顔をしていうビショップの頭をごちんとシェリルがこぶしでたたく。 「なんだい、ひとのせいにしちゃってさ」 「それだけじゃないよ。分の悪い賭までむりやりさせられてしまってね。おかげで、 とんだ散財だ」 「なんでえ、分の悪い賭、てなあ」 ぐすん、と鼻をすすりあげながらハッサンがきく。 と、ふたたびシェリルがにっとからかうような笑みをうかべた。 「ハッサン、あんたとアミーナ姫とが、わかれのキスをするのかって、賭けてたの」 「軍の施設とはいえ、不特定多数の視線があつまる場所だ」情けなげな顔をしてビ ショップが補足する。「いくら破天荒な姫君とはいえ、すこしはかんがえるんじゃ ないだろうかと、期待したんだけどね」 「ばかやろう。何が破天荒だ」さらにぐすりと鼻をならし、ハッサンはバン! と ビショップの背中を思いきりどやしつけた。「まったくおまえのいうとおりだぜ。 あの姫さん、人目なんざかけらも気にしやがらねえんだ、ちくしょう」 叫ぶような口調でいって、ぱんぱんと、盛大な音をたてさせながら自分の頬を何 度も、何度もはった。 ビショップもシェリルも、しばらくのあいだ無言で、そんなハッサンの姿を見つ めていた。 が、やがてシェリルが、その手のひらでいきおいよくハッサンの巨大な尻をはた いてみせた。 「よーし。今夜はあたしのおごりでい。朝まで痛飲しようぜい」 威勢よくいいはなつ。 そいつぁいいや、と腹の底からしぼりだすような大声でハッサンは同意し、おお げさにせきこんでみせるビショップの背中をさらに二発三発とどつきまわして、豪 快に笑った。 ビショップもシェリルも、大男の目がしらにふたたびうかんだ涙についてはなに もいわず――三人は快活に笑いあいながらつれだって、酒保へとその足をむけたの だった。 紅の鋼騎兵――完
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