長編 #4189の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「アミーナ」 ハッサンは名前を呼び、少女の肩にかけた手のひらに力をこめて、華奢なからだ をぐいと抱きよせた。 そして、くちびるをゆっくりとよせていく。 そしてそれが、ひとつに重ねあわされる寸前―― 「ああ……こほん、こほん。おとりこみ中、失礼」 突如わりこんできた第三者の声に、ふたりはバネじかけのように飛びはなれなが ら視線をむけた。 三メートルほどの大きさの、ナイフのように鋭利なノーズの深紅の機体がふたり の前に停止していた。 ひらいたガルウイングのなかから、少年のような美貌が決まりわるげに微笑みな がらふたりを見つめかえしている。 「ビショップ!」 ハッサンは叫びながらかけよった。アミーナもあわててあとを追う。 「ビショップ、このやろう、おそかったじゃねえか!」 「そのおかげだったのかい?」晴れやかな微笑を投げかけながら、ビショップはい った。「お姫さまとびっくりするくらい親密になれたのは」 ぎょっと飛びあがって、そろって顔を赤くしながらハッサンとアミーナはたがい を見つめあい―― ごまかすようにしてハッサンが叫んだ。 「それどろこじゃねえんだビショップ。いいか、よくきけ。この遺跡はもうすぐ爆 発する」ちらりとナグワルのコクピットに視線をやり「単座だな、その機体は。お れの乗りこむ余地はとてもありそうにねえが、姫さんだけなら充分運べるだろう。 姫さんつれて、急いで逃げろ!」 ぐいと、姫君のからだをナグワルのコクピットにむけておしこんだ。 「な……いけません! だれがそんなバカげた解決策を命じたのです? わたくし はおまえといっしょでなければ、ここをうごきません! 押すのをやめなさい、こ の無礼者! これは命令ですよ」 「うるせえ。命令だろうがなんだろうが、意地でもおれはおまえを生きのびさせる ぞ、このやろう。いいからとっとと乗って、もう一度お陽さまの光をおがんできや がれ、この、あばれ姫めが」 「あばれ姫とはなんという! それはおまえがいやがるわたくしをむりやり押しこ もうとしているからでしょうが! えい、このばかもの、おまえにはわたくしの気 持ちがわからないのですか!」 「おめえこそ、このおれの気持ちがわからねえのか、このばか姫が。いいからとっ とと生きのびろってんだ。わ。こら、かみつくんじゃねえ、いたい。いたいったら」 「あのー……たびたび失礼」 もみあうふたりをぼうぜんと見やりながら、ビショップがふたたびやんわりとわ りこんできた。 じろりと視線をむける凸凹コンビに、お、と身をのけぞらせつつ、 「解決策、ありそうなんだけど」 「なにい?」 と異口同音に、ふたりは目をむきながらビショップにつめよった。 最後の一機をようやく地にしずめおえて遺跡の前までたどりついたシェリルは、 矢つぎ早に飛びでてくるナグワルとエアガレーの姿に目をむいた。 「まだいたか、この」 と闘志まんまんで砲塔をむけるが―― ビショップのナグワルはともかくとして、エアガレーまでが、攻撃態勢に入った シェリルのナグワルを無視するようにすりぬけて、ものすごいいきおいで疾走して いった。 ぼうぜんとリアヴュウのなかの、一目散にすっとんでいくナグワルとエアガレー のうしろ姿をながめやる。 リン、とコール音が鳴るのにこたえると、すずしげなビショップの笑顔が映しだ された。 『やあ、シェリル。くわしいことを話しているひまはないんだけれど、はやいとこ その遺跡からはなれたほうがいいと思うよ』 口にしている内容とはうらはらに、顔つきも口調もふだんのビショップとなんら かわらず、かけらほどの緊張感も感じられない。 「あん? 何いってんのよ、あんた」 いぶかしげにききかえすシェリルに、ディスプレイのなかのビショップは平然と した口調でつづけた。 『爆発するんだ。その遺跡』 「ええ……? ええええええええええっ?」 すっとんきょうな声をあげざま、シェリルはあわててナグワルを回頭させた。 たちならぶ樹木をうちたおすほどのいきおいで急発進し、肝のひえるような曲芸 走行で樹林をかけぬける。 あっというまに、エアガレーもビショップのナグワルも追いこしていた。 『へえ。さすがにすごい操縦技術だね。今度マンツーマンでコーチしてもらえるか な』 こういう状況なのにあくまですずしげなビショップにむけ、シェリルはあきれは てながら力なくこたえた。 「生きていられりゃね」 『だいじょうぶさ』いってビショップは微笑んだ。『ぼくたちは、運がいいんだ』 あまりの能天気さに、シェリルはぼうぜんとしてしまったが――その言葉どおり、 四人は運がいいらしかった。 ルバンストラ遺跡、およびその南西に位置する未調査遺跡がすさまじい閃光をあ げて大爆発をおこし、そのあいだに横たわる広大な森林地帯が湖をもふくめて大陥 没に見まわれる、という未曾有の大災害の報をうけ、ルバンス駐留中の革命軍はア ミーナ姫とその救出者の去就にその思いをむけた。 シスタレス砂漠に降下したまま放棄された機体は、大気圏上昇性能はもっていな いことが確認されている。そのためにルバンス郊外に位置する民間シャトル発着場 に大部隊をさしむけ、シスタレス補給基地を強襲したなぞの機体の襲撃にそなえて いたのであるが――遺跡崩壊の報をうけて一部では、警戒体制を解除してはどうか との意見も、でたことはでた。 それでも襲撃者、およびアミーナ姫の生死が確認されるまではと、いささか士気 の低下はみられたものの発着場の防備にさしあたり変更は加えられなかったのだが ――攻撃は思わぬ場所で実行された。 未調査遺跡のさらに西方に隣接するバシャル軍事基地に、エアガレー一台をふく む三機の襲撃者が乱入、基地内をさんざん撹乱した上で待機状態にあったシャトル を強奪し、まんまと脱出に成功してしまった、というのである。 遺跡および森林地帯の災害翌日の、未明のことであった。 面子をつぶされた革命軍上層部はいささかヒステリックな調子で追撃・捕獲の命 令を発し、軌道上軍事基地から三機の迎撃機が発進。 同時に、救出者たちを宙輸してきたと思われる高速戦艦を捜索していた、戦艦を ふくむ捜索隊も同域に急行、万が一救出者およびアミーナ姫が高速戦艦との合流に 成功し、高速戦艦の拿捕が不可能と思われる事態にいたった場合は撃沈もやむなし、 との命令がくだされた。 捜索船団が同域に到着する直前、潜伏中の高速戦艦がスペクトル・ジャマーを解 除して周回軌道上に出現、シャトルは即刻収容された、との報告が入る。 革命軍上層部は、捜索船団に撃破の命令を発した。 「パトロール艇・三、駆逐艦・五、高速戦艦・二、戦艦・二。いずれも臨戦態勢に 入るもようです」 索敵手の報告をきいてルステム中将は無言のまま、重々しくうなずいてみせた。 「敵戦艦、エネルギー反応、光子弾が発射されました」 間をおかぬように、つづいて報告があがる。 「回避」 将軍は短く命令をくだし、数十秒後、弾着があった。被害は軽微。 「あのー、ぶじに逃げられるんでしょうか」補助シートに居心地わるげに腰をおろ しながらシェリルが、心配そうに問いかけた。「高速戦艦まで追尾に加わっている んでしょ? だいじょうぶなんですか? わたしにはとても、逃げきれるようには 思えないんですけれど」 老将軍はあいかわらず厳粛な顔つきをしたまま、うむ、とうなずいてそれっきり。 わざとやっているのかもしれないな、とシェリルが疑心暗鬼を抱きはじめたとき、 ようやく老将は口をひらいた。 「リミットをこの時間に設定した理由は、いったいなぜだと思っていた?」 はあ? と、いきなりの質問にシェリルは目をまるくしてかたわらのビショップ たちを見やった。 ビショップはもちろん、ハッサンも、そしてアミーナ姫までもが、首を左右にふ りながらおおげさな動作で肩をすくめてみせる。 しかたがないので、ため息とともにシェリルは返答した。 「燃料や兵糧の残量、ではないんですか?」 「それもないことはないが、まだ多少の余裕はある。それよりは、脱出のときのタ イミングをかんがえていたのだ。巨大質量の近くではオーヴァードライヴを敢行す ることはできない。超空間航行システムが巨大重力の影響をうけて、精密にはたら かなくなってしまうからだ。そのことはむろん、知っているな」 「ええ、もちろん」ばかにされたとでもかんがえたのか、ちょっとむっとした顔を しながらシェリルはうなずいてみせる。「だから恒星系内でのオーヴァードライヴ は不可能とされているんでしょう?」 「すこしちがう」いって、はじめて将軍はにやりと笑ってみせる。「恒星系内での オーヴァードライヴは、不可能なのではなく禁止されている、という点だ。いいか ? 単純にかんがえて、恒星系内でもっともはやく重力圏の呪縛から逃れるために はどの方向にむかえばいいとされている?」 「それは、恒星系の回転面に対して垂直の方向です。その方向なら、進行方向に惑 星のような巨大重力を発するものはありませんから」 「そのとおりだが、その方向にもわずかながら欠点がある。つまり恒星系の回転面 に存在する、すべての恒星および惑星等の重力の影響を等分に背後からうける、と いう点だ。ところが、どこの恒星でもおなじだが、その恒星の周囲を回転する各惑 星の公転周期は、それぞれちがっているために、つねに惑星がおなじ配置にいると はかぎらんのだ。つまり――」 「あ……そういうことか」 と、はじめて得心がいったようにシェリルはポンと手をうった。 「そのとおりだ。現在、われわれが進行していく方向には惑星は存在しない。公転 周期のくみあわせで、恒星をふくめたすべてのバストラル系の巨大質量の天体が、 現在はバストラルIVの背後にある。もっともそれもあと数時間でくずれて、ここか ら見るとバストラルをふくめた三つの惑星が横一線にならぶ配置になってしまうが な」 「なるほど、それがリミットか」 とビショップも納得顔でうなずいた。 「そういうことだ。もっとも、微妙なタイミングだ。逃げきれるかどうかは、予断 を許さないところだがな」 むずかしげな顔をして腕組みをする。 「だいじょうぶですよ」 対して微笑みながらビショップが、自信ありげにうなずいてみせた。 それを見てシェリルも破顔した。笑いながらあとのセリフをつづける。 「あたしたち、運がいいもんねっ」 言葉どおり、限界ぎりぎりの場面で運命の女神は逃亡者たちに微笑みかけた。 エピローグ 「ありがとう、ハッサン」 連合セントラル、連合宇宙軍ストラシア駐留基地であるステーションの一角。 アミーナ姫ご還送のために特別に就航することになった、恒星間シャトルへの乗 降シャフトの前。 強化ガラスのむこうにうかぶ、ドックに係留されたシャトルの姿を背景に、基地 職員たちが不規則に、無数にいきかっている場所であった。 姫君は大男にむけてさびしげに微笑んでみせながら、ありがとう、と口にしたの である。 「おいおい、姫さんがお礼かよ。なんだか背筋がむずがゆくなってきちまうな」 ハッサンは、しずみがちな気持ちをあえてもりたてるように、軽口をたたいた。 対して姫は、さびしげな微笑をかえしただけで、無言のままうつむいた。 それを見てハッサンの顔が、一瞬泣き顔のようにゆがむ。 すぐに、むりやりおしあげた笑顔を満面にはりつけ、快活にいった。 「なんでえ。調子狂うじゃねえか。いつものように、無礼者とか野蛮人とかいって みたらどうなんだ。ん?」 にっこりと笑いながら、うつむく姫の顔をのぞきこんだ。 ひげ面のゴリラが微笑んでいるようなこっけいな顔をちらりと見あげ、姫は泣き 笑いの表情をうかべる。 「ばか、姫。泣くんじゃねえよ。ぶじに故郷に帰れるんじゃねえか。泣くんじゃね え」 「そう。故郷に帰れるのよ」姫はふるえる声音でそういって――ついに、涙が堰を きってあふれだした。「そしてもう、二度とおまえと会うことができなくなるのだ わ。王家のものとして、格式ばったきゅうくつな宮廷で、お人形のように微笑んで いなければならない毎日が待っているのよ。もう、おまえの腕に抱かれて走ること なんて、二度とできやしない」 そういって、泣きながらハッサンの巨体に抱きついてきた。 四囲をいきかう軍職員たちが、ちらりと視線を投げかけてはそれをひきはがすよ うにして通りすぎていく。 しばらくためらっていたハッサンも、ついに姫君を抱きかえした。 「ばか。二度と会えなくなるなんて、そんなことをいうんじゃねえよ。この世のな かにはな、絶対に不可能なんてことは、存在しないんだ」 いいながらハッサン自身が、自分の言葉を単なるおためごかしにすぎないと、痛 切に感じていたのだった。 「ばか」と、泣きじゃくりながら姫はこたえる。「もっとつよく抱きなさい、とい ったはずでしょう。わたくしがこわれてしまうくらい、つよく抱きしめなさい、と」 「ばかやろう。おれだっていったぞ。おれが力いっぱいおまえを抱きしめたら、ほ んとうにおまえはばらばらになっちまう、ってな」 いつのまにか、大男の無骨な面にも大粒の涙がぽろぽろぽろぽろと流れ落ちてい
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