長編 #4179の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
その短時間に、シスタレス補給基地はその機能を完全に破壊されていた。 ルバンスからイスフェル中尉ひきいるエアガレー小隊が到着したとき、すでに基 地からは理不尽な破壊者たちの姿は完全に消えうせていたのであった。 「いるわね」 と樹陰から顔をのぞかせながらアミーナ姫は不満そうに口にした。 「いるんだ」 仏頂面でハッサンがうなずく。 奇怪な形にけずりだされた芸術建築とも、破壊された石の建造物ともとれぬ、異 様な姿でそそりたつ塔群にかこまれた広場のなか。たしかにその一隊は駐屯してい た。 武装した運搬車輌が五台。 装甲車が七台。 ほかに、広場のあちこちに天幕がひろげられ、要所要所にきっちりと見張りの兵 が立っている。むろんきびきびとした動作で、周囲に走らせる視線にも油断は見ら れない。 「なかなか精強で、士気もたかそうだぜ」 うんざりした口調でハッサンはいい、 「そのようね。ハンサムがおおいわ」 真顔でアミーナ姫も、おかしな具合に同意する。 あえて反論はとなえず、なおも観察の視線をおくろうとする姫をむりやり樹陰に ひきずりこんでハッサンは、ひそひそ声で皮肉げに問いかけた。 「これでもまだ、遺跡にかくれようって寸法かい?」 対して姫君は、 「むりでしょうね――と、いってほしいところなんでしょうけど」にやりと笑った。 「そのとおりよ」 「おい、姫さん、おまえね――」 と抗議しかけるハッサンのぶあついくちびるの前に、ついと姫君はひとさし指を つきだした。 きょとんとする巨漢にふたたび不敵に笑いかけ、 「いいたいことはわかります。でも、わたくしにだって公算のひとつやふたつはあ るのよ。ききなさい」 むきだしにされていたハッサンの目が、姫の言葉につうとすぼめられた。 「よし。きこうじゃないか」 身をのりだすハッサンの耳に、姫君は快心の笑みをうかべつつささやきはじめる。 みしり、と草がなる音がした。 発掘隊が残していった天幕を担当していた歩哨は、ぎくりとして音源に視線をむ ける。 ぬりこめたような暗闇は、たちならぶ樹木の効果か奥にいくほど深く底なしにな っているように見えた。 くちびるを真一文字にひきむすびつつ、赤外線スコープをひきおろす。 すぐに、熱源がうごめいているのを発見した。 大きさからすると人間ではなさそうだ。だが、それでも用心のために歩哨は足も との小石をひろい、誰何しながら熱源むけてほうりなげた。 短い咆哮とともに小動物らしき影がしげみからとびだし、森の奥の闇にむけてか け去っていった。 ほっと息をつき、スコープを頭上にさしあげる。 瞬間、口もとを巨大なものにおおわれていた。 パニックに悲鳴があがるよりはやく、後頭部に衝撃をうけて歩哨は昏倒した。 くずおれるからだを地面に横たえ、ハッサンは無造作な足どりで歩をすすめる。 無造作だが、油断はない。 無人の天幕をくぐって、すばやい動作で内部にその巨体をすべりこませる。 そのまま数刻――。 いくつかの物品を手にして、ふたたびあらわれた巨体が俊敏に闇のなかにのまれ ていった。 夜の闇よりもなお濃い不気味な黒色にぬりこめられた、異様にねじ曲がった外観 をていする遺跡の一角。 腕ぐみをして見守るハッサンを背後にアミーナは、ゆっくりと、注意深く視線を 走らせながらおこなっていた観察をふいにやめ、奇怪な応突のきざまれた壁に、つ、 と耳をよせた。 華奢な手で異様な感触の壁にかるくこぶしをうちつけながら、じっと耳をすます。 先刻からいくどとなくくりかえしてきた動作だった。 背後の駐屯地に異状はないか、鋭敏に気をむけながらもハッサンは、腕をくんで 仁王立ちになったまま、しんぼう強く姫君の行動を見守っていた。催促の言葉はい くどとなくのみこんできた。真剣な表情で成算はある、と主張するアミーナ姫を全 面的に信頼することに決めていたのだった。 それにしても、とハッサンは、不気味にそそり立つ遺跡の異容をながめあげつつ、 ひとりひそかにかんがえる。このゆがみきった無惨さはどうだ、と。 アミーナの説明によると、エル・エマド文化圏に発見されるラルシザーク文明遺 跡の多くは、こことおなじように材質不明の、異様に焼けただれた破壊の爪痕もな まなましいものであるという。 建造物のほかに用途不明の大小さまざまな物品も数多く出土し、また“礼拝堂” と仮称される特有の建造物に多くみられる文字も、ある程度の部分までは解読がす すんでいる、とのことだが――にもかかわらず他の先史文明以上に、このラルシザ ーク文明はなぞにみちている。 そもそも広範な恒星間にわたって分布していることからしてかなりの文明程度を 実現していたはずなのだが、地球人に理解できるような機械文明の痕跡はほとんど 発見されてさえいない。 エル・エマド圏交流・発展のもととなった“次元扉”の存在が恒星間移動方法の 一端を明示してはいるものの、ほかに移動手段はなかったのか、またそもそもどの ようにして次元扉を各惑星間に開設したのかなど、解明すべき課題はあまりにも多 すぎる。 その一方で、多数の遺跡・遺品が破壊の牙をふかぶかとうちこまれていることも 手伝って、研究は遅々としてすすまない、というのが現状であるらしい。 そういった未知そのものの代名詞である遺跡を前にしては、学究の徒とはいえ研 究の一端についているアミーナ姫にハッサンがはさむべき口などない、といったと ころが正直なところではある。 とはいえ、おそらくは入口めいたものをさがしているのだろうとの推測はたつも のの、あまりにも悠長な捜索姿勢にかきたてられる焦慮をおさえこんでただじっと 待っている、というのはさすがにハッサンにとっても拷問に近い苦痛であった。 そんなハッサンの心中にはまるで気づくふうもなく、すでに夢中になっている感 のあるアミーナ姫はまたもやため息をつきつつ壁から耳をはなし、注意深い観察を ともなった壁めぐりを再開する。 そろそろまずいな、と予感したハッサンの不安をつくようにして―― 駐留地の方角で、叫び声がひびきわたった。 10 叫んでいる内容まではききとれないが、昏倒している歩哨が交替の者に発見され たのであろう。 ち、と舌をうちながらハッサンはアミーナに視線を走らせる。 ふたたび、壁の一角に耳をおしつけてコンコンやっているところだった。 うー、とうめき、警告はやめにした。駐屯地方向のさわぎはいよいよ拡大しはじ めている。いくらなんでもその騒音が耳にはいっていない、ということはなかろう し、姫君のがんこさからして、いさめればいさめるほど意固地になるのは目に見え ているのだ。 いざとなったら――といってもそれはもうすぐにせまってはいるのだが――有無 をもいわさずひっかかえて一目散、という算段をたてて、ハッサンは腹をくくった。 お上品かつ情け容赦のない罵倒をうけることは必至だったがそれはどうにもさけ ようがないリスクであった。 革命軍の追跡よりはその姫の罵倒を想像してハッサンは、ふうう、と底なしの重 いため息をつき―― 「なにをため息などついているのです?」 だしぬけに問いかけられて、巨漢はわっとのけぞった。 「ちょっと、なにが、わっですか。失礼な」 ふくれっつらをして腰に両の手をあて、かわいらしく憤怒の表情をあげる姫君に、 ハッサンはぽりぽりと頭をかきながら、 「いやいや、なんでもねえよ」 逃げ腰で弁明した。 そして、背後から複数の足音がおこるのを耳にしてあわてて口にする。 「姫さんよ、限界だ。逃げるぜ」 「わかっています」なおも仏頂面のまま姫はそういい、それから――にやりと笑っ てみせた。「逃げ道の確保はわたくしにまかせろ、といったでしょう? そんなに 信用がならないのですか?」 揶揄の口調とともに、ひとさし指でちょんとハッサンの腹をつついてみせた。 「お、おい」再度腰をひき、それでもハッサンはむいた目に期待をこめて問いかけ る。「見つかったのかよ」 見つかったのか、と問うてから、そもそも姫君がなにをさがしていたのかさえ知 らなかったという事実を思い出しておもわず首をかしげた。 そんなハッサンの手を、アミーナはその華奢な手でぐいとつかんでひいた。 「こっちです。ついてきなさい。装備をわすれずに」 ずんずん進む。 そのあいだにも、背後からの足音とときおり交わされる号令や注意をうながす会 話などはどんどん近づいてくる。 「おい、見つかっちまうぞ」 「あわててはいけません」 おろおろしはじめるハッサンをなだめながら、こともあろうにアミーナはふたた び遺跡の壁に耳をあててコンコンやりだした。 「おい――」 この期におよんで何してるんだ、と抗議しかけるのを制するように、耳をおしつ けたままの姫君は半身でハッサンを見あげて、にやりと笑う。 「オープン・セサミ」 芝居がかった声音で宣言するようにいい―― がこ、と、華奢な指先がおす壁が音をあげた。 「……秘密の扉かよ」 ささやき声に感嘆をのせる。 回転扉のようにゆっくりとひらく岩扉を背に、アミーナ姫は得意満面でうなずい てみせた。 「厳密には、秘密でもなんでもないのでしょうけれどね。破壊されて形状がゆがん でしまったために、開口部を発見するのが困難になっていたということかもしれま せん。さ、入りなさい」 いいつつ、先導するようにアミーナは扉をくぐる。大型車両が一両は軽く通りぬ けられるほどの大きさがあった。扉というよりは、門といったところだろうか。 ハッサンがアミーナのあとを追って内部にすべりこみ、回転式の岩門が重い音と ともにふたたびとじられたとき、いれかわりのようにしげみをかきわけて捜索隊が 出現した。 「まさに間一髪ってやつだな」 岩一枚へだてて遠ざかっていく軍靴のひびきを耳にしながら、ハッサンは大きく 息をついていた。 ぱきりと硬質の音がするとともに、発光スティックがあわいかがやきをふたりの 眼前に供給しはじめた。 長身のハッサンが頭上にかかげる。 眼前に、ななめに下降する天井。 足もとには、ごくちいさなおどり場につづいて階段が下方にむけてつらなってい る。 「地下か」 つぶやくようにハッサンはいい、うなずきながらアミーナがこたえる。 「思ったとおりだわ。ラルシザーク遺跡はよく地下大迷宮を擁しているの。たいて いの場合、それはべつの遺跡と通底しているから、ここが通過できれば革命軍には まるで予想できない場所にたどりつけるかもしれないのよ」 「なるほどね」と、すなおに感心しながらハッサンはいう。「それがあったから、 遺跡にいこうと強硬に主張していたわけだな」 「そのとおりです。わたくしの先見性に感謝なさい」 真顔でいいはなち、天幕に用意されていた発光スティックをかざしながら階段を くだりはじめる。オマール教授は遺跡の形状をみて最初から地下大迷宮が存在する と推測し、そのための装備を用意していたのである。 いまになってみれば、革命勃発の報をうけて撤収する際に装備品のほとんどを現 地に残していかなければならなかった状況がさいわいしてもいた。 階段をおりる。 「だいたい、ふつうの階段とおなじくらいのサイズだな」 「ラルシザーク人は人間型(ヒューマノイド・タイプ)の異星人であったといわれているのよ」 講義口調で得意げにアミーナがいう。「“礼拝堂”などに残されている人物像はデ フォルメされた絵だといわれているから、あまりあてにはならないというひともい るけれど、目がふたつ、口がひとつに手足が二本ずつ、髪の毛も描かれているから、 おそらくは身長などだけでなくその形態もわたくしたち地球人とほとんどかわらな いのではないか、というのが通説なの。人類とラルシザーク人とはおなじ系統に属 していると主張する学者だっているのよ」 「なるほどねえ」 またもやハッサンはすなおに感心する。そんな大男のようすをみて、アミーナは くすぐったそうに笑ってみせた。 通常の感覚からすれば5フロア分も下降したころ、床があらわれた。 スティックをかざしてみると、意外なほどに天井が高い。連合的感覚からすれば、 三階分ほどの吹き抜けに近い雰囲気だった。横はばもほぼそれとおなじくらいのス パンをもって、壁がそそりたっている。 足をふみだすと、足もとの砂利が音をたててとんだ。 壁の一端にふれてみる。外の遺跡の壁とおなじく、焼けただれたような黒で不規 則にでこぼこしている。
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