長編 #4175の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
を多数そなえた連合宇宙軍や、精強さをもって全銀河に知られる神聖銀河帝国軍に は比すべくもないが、それでもこれほど星系奥ふかくまで侵入を許すなど、通常の 状態ではありえないことだ。やはり革命の余波がここにもおよんでいるらしい。 「迂回するんですか?」 シェリルの問いかけに、老軍人は首を左右にふった。 「正面突破だ。この基地を掌握しているパシャ将軍は革命政権を承認してはいない。 五分五分だが、こちらと正面きってことをかまえはせんだろう。こちらがひかんと 見れば、むこうが尻に帆かけるさ」 「そうならなかったら?」 好奇心をその顔にありありとためて、ビショップがぶっそうな問いかけをした。 シェリルはあきれ顔でちらりとふりかえったが、かえってきた満面の微笑に、ため 息をついてみせただけであえてなにもいわなかった。 そしてさらにぶっそうなことに、将軍はにやりと不敵に笑ってこうこたえたので ある。 「もちろんひく気はない。この船はザカスのくされ高速戦艦とはいっても、わが連 合宇宙軍のほこる整備班が手を加えた特製の戦艦だぞ。駆逐艦ごとき、真正面から くらわせて、一瞬のうちに灼きはらってくれるわ」 肉食獣がほほえんでみせれば、こういう顔になるだろう。ビショップはほほえみ 返すだけでコメントはさしひかえた。シェリルにいたっては、ため息をおしころし つつそっぽに視線をおよがせている。 そんなふたりの乗客の反応にはまるで気づいたふうもなく、嬉々としたようすで 老将軍は「第一級戦闘配置」を全艦に通達する。 ほどもなく、接近しつつある敵艦から通信が入った。 艦名および所属を質してくるのへ、ルステム中将は「こちら武装商船バルンギヤ、 バストラルへの輸入品を積載している。通行の許可をくだされたし」とあからさま なでたらめをならべてかえす。 もともとが数年前に終息したタルドア戦役のおりに、特殊工作部がひそかに拿捕 したザカス軍の高速戦艦をベースに偽装を加えた船である。 所属不明にはしてあるものの、武装にかんしてはもうしわけ程度の偽装しかほど こされていない。レーダーのたぐいはもちろん無力化されているが、この距離なら 索敵機をつかわなくとも光学観測だけで、接近してくるのがザカス製の高速戦艦だ と特定できるだろう。「武装商船」などというごまかしが通用するとは、まず考え られなかった。 案の定、敵艦は臨検を宣告してきた。 拒否する旨がつたえられると、つづいて入ってきたのは「投降か死か」との問い かけである。 通信手からそれをきいて、ルステム中将はにやりとくちびるをゆがめてみせた。 「選択は死だ、と返信しろ。おまえらの死だとな」 ぶっそうな要求に異議ひとつとなえず通信手は手順どおりに返信する。おそらく この将軍はいつでもこの調子なのだろう。 「どうだ、特殊工作部」と、将軍はいかめしい真顔にもどって問いかけてきた。 「さぞおそろしかろう」 「そんなことはありません」 やや憤然としたおももちでシェリルがそうこたえるのと同時に、 「もちろん、こわくてしかたがありません」 と微笑みながらビショップがうなずいてみせた。 にがりきったシェリルにむけてビショップは笑みをその美貌にはりつけたまま小 首をかしげてみせる。今度もシェリルはため息をついただけだった。 わっはっはと将軍は厳粛面を破顔させた。 特殊工作部、ひらたくいえば非合法活動、とくに破壊活動などを専門におこなう、 いわば軍内における暗部中の暗部たる位置に属する部課である。そのうえ六課とく れば、その特殊工作部にさえおさまりきらないような、軍内でもきわめつけのはみ だし者をおしこめるために設けられた、魔窟のような場所なのだ。 そのようなところでありながら、各地で通常ではかんがえられないような目ざま しいはたらきをしてのけている部署でもある。とうぜん、得体の知れない、怪物め いたイメージを他部署にあたえている。 そのイメージとのギャップを見せられたことで安堵した、というのがその笑いの 正体の一部であろう。 もちろんルステムにしても、いくつもの戦をのりこえてきた名将中の名将である。 ビショップのとぼけた反応が本音であるととったわけではあるまい。 やがて、リミットの一時間がすぎた。 先刻とほぼおなじやりとりがくりかえされたあと、不気味なほどの静寂がおとず れた。 その静寂の底からわきあがるようにして―― 「くるぞ」 気負うでもなく、静かに将軍が告げた。 かぶせるように、 「敵駆逐艦にエネルギー反応」索敵手が、するどく報告をよこした。「光子弾です。 弾着まで三十二秒」 「回避」 「回避!」 将軍の簡潔な命令に、うてばひびくように復唱がかさなり――ビショップたちを のせた高速戦艦がゆっくりと横にすべりはじめた。 「第二波、斉射。五隻同時です」 「弾幕をはれ」 「弾幕をはります」 第一撃がとどかないうちに、一連のやりとりがかわされた。 それから、数秒の、胸の痛くなりそうな沈黙がおとずれ―― 衝撃が艦橋をふるわせた。 「第一撃、艦左舷に被弾」すぐに副長の報告があがった。「被害、軽微」 間をおかず、前方監視スクリーンに光の花が五つ、大きくひらいた。 「第二撃、弾幕に着弾。本艦に被害なし」 「そのまま、前進」 「そのまま前進!」 補助シートのなかで、シェリルがいごこち悪そうに身をもがかせた。ちらりとビ ショップを見やり、おそるおそる、といったふうに将軍に問いかける。 「あのー、反撃はしないんですか?」 うむ、と将軍はうなずいた。 つづく言葉を待ったが、それっきりだ。 しかたがないので、シェリルはかさねてきいた。 「だいじょうぶなんでしょうか」 うむ、と再度、将軍はふかぶかとうなずいてみせる。 それっきり。 信じられない、とでもいいたげにシェリルは目をまるくした。 苦笑しながらビショップが助け船をだす。 「威力からしてたいしたことはなさそうだよ。駆逐艦程度に搭載された光子弾なら、 直撃されてもこの距離ならたいしたダメージはないんじゃないかな。警戒すべきは、 レールガンか中性子ビーム、それに近距離戦のミサイルだと思うよ」 無言で将軍がいかめしくうなずいてみせる。 なおも懸念がはれないのか、眉間にしわをよせたままながらもシェリルは「ふう ん……」とつぶやいてだまりこんだ。 ビショップの予言どおり、何発かの着弾がその後もあったが、いずれも被害は軽 微と報告された。 ほんとうかしらとうたがわしげにシェリルがながめやるのを尻目に、索敵担当が さらに告げる。 「まもなくビームの射程内に入ります」 うむ、とうなずき、将軍はひとりごとのように口にした。 「パシャ将軍とやら、革命軍には味方するいわれもなかろうに、ずいぶんと律儀に 職務を遂行する」 「見あげたものですね」 さわやかに微笑みながらビショップがいうのへ、うむ、と短くうなずいてみせる。 どうやら本気らしい。 そのまま将軍は艦長席の背もたれにふかく身をあずけて目をとじた。 修行僧が瞑想しているかのごときおもむきがある。 だが、そのようすが安心感をよびおこすような状況でもなかった。 「ちょっと。だいじょうぶなのかな」 シェリルが半身をのりだしてビショップの耳にささやきかけた。 「もちろん」と、さわやかな微笑をその美貌にうかばせつつ、ビショップはふかぶ かとうなずいてみせてから、つけ加える。「おそらくね」 だー、とシェリルが天をあおいだ、つぎの瞬間―― 「全速前進!」 獅子の咆哮のような声音とともに、ルステム将軍が命令を発した。 「全速前進!」 操舵手が叫ぶと同時に、戦艦尾部で巨大な高速エンジンがいっせいに火を噴いた。 いきなりおそってきたGに、シェリルは不意打ちをくらって横顔をシートにうも れさせた。姿勢をただそうとして――おそろしいスピードで激化する加速に果たせ ず、頬をシートにおしつけたままのなさけない顔でうったえるようにしてビショッ プにうめき声を投げかける。 ビショップも後頭部をシートにおしつけられたまま、爆笑を必死にこらえていた。 それを見てシェリルの面貌が剣呑にかわる。あわててビショップは笑いをのみこん だ。 「次元振動ミサイル、連続発射用意」 「次元振動ミサイル、連続発射用意」 そのあいだにも吠えるような将軍の命令とそれに対して間髪入れずにかえされる 復唱はつづけられていた。 「目標、敵駆逐艦隊」 「目標、敵駆逐艦隊」 「射程内に入り次第、発射」 「射程内に入り次第、発射します」 「各員、耐衝撃体勢をとれ」 「加速する前にいってほしいわよ、もう」 頬をシートにうもれさせたまま、シェリルが泣き言を口にした。ビショップはふ たたび笑いをこらえるのに苦労する。 「射程内に入ります」 「次元振動ミサイル、発射」 いかめしい声音が、野太く命令を発した。 同時に、ごん、とするどい衝撃が艦内を走りぬけ―― 「次元振動ミサイル、発射しました」 あわく発光する物体が、スクリーンに映しだされた敵艦にむけてすべるように遠 ざかった。 迎撃用の光子弾が敵艦首から放出される。 まばゆい光球に発光体が吸いこまれていき―― ぱぱぱぱぱと、ストロボ光のような閃光が矢つぎ早に虚空にひらめきわたった。 「弾幕にはばまれたの?」 ぱくぱくと口をうごかしながら問いかけるシェリルに、ビショップは首を左右に ふろうとしてGにはばまれ、しかたがないので苦労して声を発した。 「いいや。突破したはずだよ」 言葉どおり―― ひらめきわたった閃光のはるか前方で、とつぜん巨大な爆光がつづけざまに三つ、 ぐわりと拡大した。 「次元振動ミサイル、敵駆逐艦三隻に命中。大破」 索敵手の報告がほこらしげに艦橋内にひびきわたった。 次元振動ミサイル――文字どおり、進路前方の空間を次元的に振動させながら飛 翔するミサイルである。弾幕をはじめとするあらゆる物理的障害は次元振動にはば まれて崩壊を余儀なくされ、エネルギー兵器による迎撃も強制的に歪曲された空間 にねじ曲げられて正確な射撃は不可能。 事実上この兵器の前進をはばめるものは、おなじ原理により振動フィールドを相 殺してしまうアンチ次元振動ミサイルのみなのだ。 「のこる二隻は?」 副長が問いかけるのへ、こたえがかえる。 「回避したもよう。急速に接近します」 「そのまま、全速前進」 ふたたび静かな声にもどって、それでもきっぱりとした口調でルステム中将がい った。 「敵駆逐艦にエネルギー反応……インパルス・キャノンです!」 瞬時、艦内に騒然とした雰囲気が走りぬけた。 インパルス・キャノンとは、バラド・インパルス効果を利用して敵艦内部に直接 衝撃をたたきこむ、近接艦隊戦における最強の武器だ。パワーフィールドのたぐい をふくめた、いかなる装甲をもってしても防御不能である。射程距離がきょくたん に短く、大量のエネルギーを消費するために戦略的にはほとんど役にたつことはな いので、通常の駆逐艦程度には装備されていないはずの兵器なのだが、バストラル には、おそろしく攻撃的かつ自殺的な設計思想をもった造船業者が存在するらしい。 「ブースター用意」 対して――老将はおちついた声音で命令をくだした。 けっして声を荒げたわけではなかった。にもかかわらず、どちらかというと静か なひびきさえあるその命令は、しみとおるようにして艦橋のすみずみにまでひびき わたった。 「ブースター、用意」 こたえた操舵手の声音はややうわずっていたが、それでもパネル上をはしる操作 の手はおちついているようだ。 ひゅー、とそのようすを見ながら口笛をふいたのは――シェリルである。むろん、 頬はシートにおしつけたままだ。 さらに将軍はいった。 「砲撃手、ブースター全開の瞬間、次元振動ミサイルを可能なかぎり敵艦にたたき こめ。号令はかけん。セットしておけ」 「了解しました」 返答に将軍は大きくうなずき、さらにつづけて呼びかける。 「操舵手」 呼びかけと同時に、操舵手席におだやかな視線をむけた。 ふりかえる操舵手に、老軍人はふかぶかとひとつ、うなずいてみせる。
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