長編 #4153の修正
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四章 紫紺の反逆者 「聖炎破<セインバール>!」 ソウの声と共に、黄金の炎をあげた光の矢が、道をふさいでいた巨岩を粉砕した。 「ソウ……お前、何か荒っぽくなってないか?」 スカイが、やや呆れたような眼差しで無表情な青年を見上げる。 「さあ……」 「ねー、こっちの方が暗いよ」 プリシアが二人に向かって大声を上げる。 銀の鈴を振るように、木霊が幾つも反響した。 「二人とも早くおいでよ!」 濃紺の岩の間、水晶の花がぼんやりと光を放ち、真っ白のワンピースを着たプリシ アの姿を浮かび上がらせている。 あどけない顔は、期待と興味ではちきれそうで、薄暗い地下道で少女自身が発光し ているのではないかとスカイに錯覚させそうになる。 三人は、林の中に隠されていた扉から、リュウサの元へと向かっていた。 地下に続いていた道は、水晶の花が咲き乱れる美しい洞窟へと通じていたが、進む につれ光源は少なくなっていった。 「要するに、それだけリュウサに近くなってるんじゃないか?」 スカイの意見に、ソウも頷いた。 「リュウサの意識は今閉じられている……暗くなっているのはその眠りを覚まさない ためかもしれない」 「じゃ、暗い方に行けばリュウサに会えるんだね!」 そして、三人は闇の深い方へと進んでいた。 水晶の花の明かりは、ぼんやりとしていたが、その淡さが周囲を幻想的に見せてい た。 地面は固くなめらかで、裸足で歩いていても、不快感は微塵も感じられない。 ひたひたという足音が、洞窟の中に響いている。 先頭を歩くのは、空色の少年。真ん中にプリシアを挟み、後ろを蒼い青年が守って いた。 「もうすぐ、リュウサのところにつくかな?」 プリシアが、前を歩いているスカイに問いかける。 少年は、振り返って大きく頷いた。 「ああ、オレにもようやくリュウサの気配を空気に感じられるようになってきた。近 づいてるよ」 「よかった!」 プリシアがほっとしたように笑う。 スカイがそれに応えるように微笑み返す。 微笑を誘うような二人の様子を見ていたソウは、不意に眼差しを鋭くした。 前方を照らす淡い水晶の花の光。その光がわずかに影に浸食されていた。 漆黒の影を持つのは、リュウサを除けばあと一人きりの筈。 「スカイ!」 少年は即座に頷き、プリシアの手を引いてソウの背後に回り込む。 ――冷たき炎の主よ、無と有の境を定めしものよ、我が血に依りてその力を示したま え…… ソウが古代語を操り始める。 それに唱和するかのように、前方から古代語の詠唱が響いてくる。 ――血の流れを司る者よ、破壊と再生の母よ、我と汝の力もて、ここに裁きをもたら さん…… 詠唱が終わったのはほぼ同時だった。 「白炎楯<ミグレイン>!」 ソウが手をかざすと純白の炎が三人の前に広がる。三人を庇うように広がった炎の 盾は、水晶とは比較にならない光を放つ。 その光が、前方に立っている人物を浮かび上がらせる。 十三、四歳の少年だった。 少し長い前髪に、目が隠れている。骨張った体つきも、プリシアより頭半分高い身 長も、そして何より光を弾く漆黒の髪が、探し求めている少年に酷似しているた。 「リュウサ!?」 プリシアが思わず声をあげる。 少年の方に歩き出そうとした刹那、スカイがプリシアの肩をギュッと握った。 「リュウサじゃない!」 スカイの声に、少年は薄い笑いを浮かべる。 「紅蓮帯牙<アグ・リーヴン>」 呟くような声で、少年は片手を振った。 真紅に輝く炎の帯が、空気中に出現する。 プリシアが両手を広げたほどの幅を持つ炎は、ソウの作り出した炎の盾を包み込む ようにからみつく。 「きゃ!」 プリシアの真上で紅蓮が弾けた。だが、弾けた炎を白い炎が受け止める。 純白の炎と真紅の炎は、互いを消滅させていく。 互いの術者に被害はないが、このまま行けば防御の側に分がありそうだった。 リュウサによく似た少年が、パチンと指を弾いた。真紅の炎がその形を変え、猫科 の猛獣を思わせる姿になる。 しなやかな身体が、純白の盾に躍りかかる。 鋭い爪と牙が、盾の最も薄くなった部分を確実に引き裂いていく。 声も出ないプリシアの肩を、スカイが引き寄せる。 純白の盾が大きく引き裂かれた刹那、ソウが次の呪文を唱えた。 「炎消網<フォレスト>!」 青年の両手から、光る網が出現する。 霧のように薄く広がった網は、紅蓮の獣をしっかりと捕らえる。 網の消滅と共に、獣もまた消え去った。 だが、大きな呪文を立て続けに二つ唱えたため、ソウはかなり疲労していた。肩で 息をしている青年の前に、スカイが躍り出る。 「サイ! いい加減目を覚ませよ!」 スカイがたまりかねたように叫んだ。 叫びは反響し、どこか悲しげな響きの木霊と化した。 「サイ……?」 プリシアが、誰に問うでもなく呟く。 「リュウサじゃないの?」 漆黒の髪を持つ少年は、にこやかと言ってもいい表情で告げる。 「ボクは、確かにサイだ……でも同時にリュウサでもあるんだよ」 炎の消え去った洞窟で、ぼんやりとした光が少年の顔を照らす。 リュウサと全く同じ顔。 ただ一つ違っていたのは、その瞳の色。 優しさを宿した闇の色ではなく、少年の瞳は見るものを幻に誘い込むような紫紺だ った。 「ボクだけが、リュウサの過去を全て知ってる。リュウサが忘れた……心の奥に隠し た思いまで、全て知ってる。だから、ボクはリュウサ自身でもあるんだ」 夢見るような眼差しで、サイは微笑む。 その微笑は、リュウサと似ているようで、どこかが違った。 「リュウサの『現実』の過去は、嫌なことばかりだ。だったらどうして『現実』なん かに戻らなきゃならない? ここにいれば、リュウサは安心して眠っていられる」 サイは、じっと彼を見つめている少女の水色の瞳に視線を合わせる。 「プリシア、君が来てくれて嬉しいよ。さっきはごめんね、君を傷つける気はなかっ たんだけど、横の二人が邪魔だったんだ。君はずっとここにいればいいよ」 「ずっと、ここに?」 「プリシア! サイの言うことなんか聞かなくていい。こいつ、夢魔に惑わされてお かしくなってるんだ」 サイは、軽蔑しきった仕草で肩をすくめた。 「君は何にも分かってないんだな……まあしょうがないか、元々リュウサの夢みたい な存在だもんね。恐怖のなんたるかを知らない存在が、ボクを理解できないのは無理 もない。君に分かるか? マッチほどの炎をともしただけで、両親から怯え、嫌悪の 視線を向けられたボクの気持ちが」 「夢魔に踊らされて過去に捕らわれてる奴が、でかい口叩くじゃないか!」 「魔法一つ使えない存在が、いくら吠えても何とも感じないね」 それに、とサイはスカイを見下す目つきをする。 「夢魔なんかにボクは踊らされていない。その証拠に、夢魔はもういないんだから」 「夢魔が、いない?」 「まさか……」 青年の呟きに、サイはにっこり笑う。 「ソウは、スカイよりはバカじゃないみたいだね」 サイの台詞を無視して、ソウは言葉を継いだ。 「お前は、夢魔と、いやそれだけでなくリュウサとも同化したのか?」 紫紺の瞳が、ゆっくりと頷く。 「嘘だろ!?」 スカイが、驚愕の声をあげた。 「嘘なわけないだろ。その証拠にボクの髪はリュウサの色じゃないか……二人を吸収 したときに変化したんだ」 「……確かに、リュウサから別れたばかりのお前の髪は、瞳と同じ色をしていたな」 「髪だけじゃない、ボクはリュウサと代わってみせる」 「なに言ってるんだ、サイ!?」 「リュウサはどうせボクの中に閉じこもっている。現実に帰ることはもうないんだか ら、ボクがリュウサと名乗ったってかまわないはずだ」 「リュウサ、もう帰ってこないの?」 プリシアが、泣きそうな声をあげた。 サイが、困ったように苦笑する。 「そんな顔をしなくていいんだプリシア。ボクはずっと君のそばにいる……この世界 で、二人で暮らそう。二人きりで」 「な、バカなこと……」 スカイが何か反論しようとしたが、その前にサイは呪文を紡いでいた。 「紅涙霧<ルヴィティアレス>」 紅い霧が、スカイを、ソウを包み込む。 詠唱はすんでいたとはいえ、一度の詠唱でここまで間隔をあけて新たに呪文を発動 できるとは、ソウも予想していなかったのだろう。 「…………っ」 ソウが、地面に膝を着く。体の自由が利かなくなっていた。 「プリシア……逃げろ」 しびれる口を動かして、スカイが告げる。少年は既に地面に倒れ込んでいた。 「二人とも、ボクがリュウサになるのに、協力してもらうよ」 サイが、にっこりと微笑む。 プリシアの目の前で、倒れているソウとスカイの身体が透けていく。 透けた身体は、淡く発光していた。 スカイは空色に、ソウは、蒼く。 透けていくのではなく、霧のように薄れているのだと気がついたのは、水色と蒼の 光がサイの身体に吸い込まれたときだった。 スカイも、そしてソウも、完全に消滅していた。 「ソウ、スカイ!」 プリシアの悲鳴が洞窟に響き、硝子が砕け散るように幾つもの木霊を生み出した。
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